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"夢オチ"を上手く活かす。映像の"魔術"的工夫、アクションの凄さで飽きさせない。
1973(昭和48)年リバイバル時チラシ/「キートンの探偵学入門【字幕版】(淀川長治 名作映画ベスト&ベスト) [VHS]」「キートンの探偵学入門 [DVD]」「Sherlock Jr & Our Hospitality [VHS] [Import]」
映写技師のキートンは、探偵に憧れていて、映写時間外は館内や入り口の掃除もやっている一方、仕事中も「探偵学」の本を読んだりしている。ある日、プレゼントを届けに行った愛する女性(キャサリン・マクガイア)の家で恋敵と張り合うことになるが、そこに女性の父親(ジョー・キートン)の懐中時計の盗難事件が発生、「探偵学」のマニュアルに沿って意気揚々と犯人捜査に乗り出すも、時計を質屋に預けた質札が自分のポケットの中から見つかり、女性の父親に家から追い出されてしまう。恋敵が怪しいと睨んだキートンは、彼を尾行するが、逆に貨物列車に閉じ込められ、何とか抜け出して貨車の屋根を走り、給水塔のノズルに掴まって降りようとするが、大量の水が放出され線路に叩きつけられる。女性は質屋に聞き込みに行き、犯人はキートンの恋敵の男で、キートンは濡れ衣を着せられたことを突き止める。一方の仕事場の映画館に戻ったキートンは、映画上映中に居眠りを始め、その分身が憧れの銀幕の中に入っていく。映画の中の男女はキートンの恋する女性と恋敵に変わっており、恋敵に殴られた彼は客席に飛び出し再び入り込むと、場面は変わっていて...。やがて、愛する女性の家で高級ネックレス盗難事件が発生する。彼は映画の中で"シャーロック2世"となって犯人探しを続け、窃盗団と決死の追走劇を演じる...。目醒めた彼には愛する女性にプロポーズをする勇気がなく、上映中の映画のシーンを真似て求婚すると上手くいきかけるが―。
この「キートンの探偵学入門」は1924年4月に本国公開され、それは丁度前作「荒武者キートン」('23年)の半年後、次作「海底王キートン」('24年)の半年前になります。日本では同じく'24(大正15)年12月に「忍術キートン」のタイトルで公開されており(「荒武者キートン」の本邦初公開と同時期か)、このタイトルは配給元の松竹が「キネマ旬報」などに「探偵第二世」という直訳に近いタイトルで予告広告を出して邦題を一般公募したものだったようです。'73年に「キートンの探偵学入門」のタイトルでリバイバル上映されています。
Keaton no Tantei gaku Nyûmon (1924)
"夢オチ"ですが、主人公のキートンが夢に入っていく箇所は二重露出を使って分かり易くなっています。観客席を映したままキートンが客席と映画の中を行き来するシーンは秀逸。スクリーンの場面は次々と変わり、階段を一歩踏み出した途端に足場が消えて転んだり、いきなりライオンのいるジャングルにいたり、断崖や砂漠だったり、海上の岩礁や雪の野原だったりと、シーンが変わるごとにスクリーンの中で翻弄されるキートンのアクションと映像とのマッチングが巧みです。主人公が映画の中に入っていくアイデアは、ウディ・アレンの「カイロの紫のバラ」('85年/米)でのミア・ファローが映画の中に入っていく設定にヒントを与えたと言われていますが、キートンのこの作品の場合、前半分は現実の話であり、ヒロインが真相に気づいた所でキートンへの疑いは晴れていることになり、それを知らないキートンが夢の中で犯人捜しをするということになります。
夢の中では懐中時計ではなくネックレス盗難事件が起きますが、話が凶悪窃盗団の犯行のように膨らんでいき、恋敵の共犯者となったヒロインの家の執事が、ビリヤードの13番の玉に爆薬を仕込んだり、椅子に座ると斧が降ってくる仕掛けをしたり、ワインに毒を盛ったりしてキートンを亡き者にしようとします。キートンがビリヤードを13番に当てることなく完璧にプレーを続け、最後1個だけ残った13番を外すというシーンがこれまた巧みです。
この後も、キートンが敵陣に乗り込む前に窓に女性用の衣装ケースをぶら下げておいて、窓を飛び抜けると服装が女性の衣装に変わる早技や、キートンが路地に追い詰められて壁際に立った仲間が持つ鞄の中に飛び込むというシュールな脱出技など、どうやって撮ったのかと思わせるようなシーンが続きます。更に、キートンがハンドルに飛び乗った警官のバイクが警官を落として暴走、キートンは運転者がいなくなっていることに気づかずにずっとバイクのハンドルに乗っかって爆走していくという、いつもにも増して過激なアクションシーンが続きます。
このように、映像テクニックの工夫もさることながら、生身のアクションも密度が濃くて飽きさせません。給水塔の場面でキートンは水の勢いを誤算し、線路に叩き落とされた際に後頭部を強打して、撮影が数日間中断されたとのこと。実際にはこの時にキートンは首の骨を折っていたにもかかわらず本人は気がつかず、一年半後に偶然に骨折の痕が見つかった時には既に完治していたという逸話があります(数カ月間の間「頭痛が続く」としか本人は自覚がなかったという)。
ラストで、映画のシーンを真似て女性に指輪を渡し軽くキスするところまでは上手くいきますが、映画の方がエピローグで夫婦に双子が生まれ、女性が編み物をし男性が赤ん坊をあやしている場面になると、それ以上先に進むのを逡巡してしまうというのは、キートンの独身主義の表れと言うより(キートンはこの時既に「荒武者キートン」でも共演したナタリー・タルマッジと結婚している)、安定し切ってしまうことへの不安を表象しているのではないでしょうか。
キートン作品のベストテンなどで1位にくることもある作品で、「荒武者キートン」('23年/67分)、「海底王キートン」('24年/59分)より若干短く、ストーリーをシンプルにして、身近な設定ながら"夢オチ"にすることでギャグやアクションに幅を持たせているといった感じです。
"夢オチ"ってがっかりさせられることが結構あったりしますが、この作品は、そうした"お約束事"を観客と共有した上に作られているので納得です。その意味ではこの場合100%の"夢オチ"とは言えないかも。でも観ているうちに夢の中の出来事であるというのを忘れそうになります(と言うより、どこから夢だったか忘れそうになる)。
「ビリヤードの13番の玉」のシーンもそうですが、夢の中でのキートンは実にスマートであり、ある意味、これがキートンの身上なのだと改めて思わされます。最初に観た時の評価は中編ということもあって星4つでしたが、その時はコメディとして愉しむ一方で、映像の「魔術的」工夫や、首の骨を折るまでしたアクションの凄さにまで思いが至ってなかったかもしれなかったです。観直してみると改めてそのレベルの高さが実感され、中編としての相対評価を加味して星半分追加しました。
わずか50分。一度は観ておきたい作品です。
「キートンの探偵学入門(忍術キートン)」●原題:SHERLOCK JR.S●制作年:1924年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン●製作:バスター・キートン/ジョセフ・M・シェンク●脚本:クライド・ブラックマン/ジョン・ハヴェズ/ジョゼフ・ミッチェル●撮影:エルジン・レスレー●時間:50 分●出演:バスター・キートン/キャサリン・マクガイア/ジョー・キートン/ウォード・クレイン●日本公開:1924/12●配給:松竹(評価:★★★★☆)
■Top 10 Buster Keaton Films: Feature-Length(海外サイト)
1. Sherlock, Jr.(キートンの探偵学入門)(1924)
2. The General(キートンの大列車強盗)(1926)
3. Steamboat Bill, Jr.(キートンの蒸気船)(1928)
4. Seven Chances(キートンのセブン・チャンス)(1925)
5. The Cameraman(キートンのカメラマン )(1928)
6. Go West(キートンの西部成金)(1925)
7. Three Ages(キートンの恋愛三代記 )(1923)
8. The Navigator(海底王キートン)(1924)
9. Our Hospitality(荒武者キートン)(1923)
10. College(キートンのカレッジ・ライフ )(1927)