【2148】 ○ バスター・キートン/ジョン・G・ブライストン 「荒武者キートン (キートンの激流危機一髪!/Our Hospitality)」 (23年/米) (1924/12 国際映画社) ★★★★

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キートン初の60分超作品だが傑作。プロットの巧みさに加え、ラスト15分のアクションは神業。

荒武者キートン dvdd2.jpg 荒武者キートン dvd1.jpg 荒武者キートン dvd4.jpg OUR HOSPITALITY 1923 6.jpg
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荒武者キートン ポスター.jpg 1810年、隣同士のキャンフィールドとマッケイ家の相克は、遂に当主同士の相撃ちで倒れるという悲劇を生んだ。争いのむなしさを儚んだマッケイ夫人は幼い息子ウィリーを連れNYの伯母を頼った。が、キャンフィールドの弟は子々孫々までの復讐を誓うのだった。それから10数年が経ち、既に母を亡くした成長したウィリー(バスター・キートン)の許に父の遺産相続の報せ。彼は田舎の豪華な邸宅を思い浮かべ、即座に故郷への旅を決意。伯母から、くれぐれもキャンフィールドに気をつけろ、と言い聞かされて、長距離特急の旅客となる―(allcinema ONLINE)。
Aramusha Keaton (1923)
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 1923年11月に本国で公開されたキートンがキートン・プロで作った初めての60分を超える作品で、「IMDb」による日本での一般公開は1925(大正14)年12月、「映画 MOVIE-FAN」も同年12月となっていますが、丁度1年前の'24(大正13)年12月にすでに上映されていた記録もあり(『昭和外国映画史』毎日新聞社)、そうなるとキートンが監督した中で最初の長編作品「キートンの恋愛三代記」('23年、日本公開'25年3月)より数か月早い日本公開だったことになります。DVDの販売元のIVCの口上にも「キートンの長編第1作は「キートンの恋愛三代記」(1923)だが、日本公開はこちらが先になり、キネマ旬報の娯楽的優秀映画のベストテンの8位に選ばれた」とあり、実際第2回(1925年度)キネマ旬報ベストテンにランクインしているので1924年公開というのが正しいことになるようです(キネ旬ベストテンは第1回と第2回だけ外国映画のみが対象で、芸術的映画と娯楽的映画に分けてベストテンを発表していた)。過去に「キートンの激流危機一髪!」の邦題で公開されたこともありますが、1979年12月にリバイバル上映された際は「荒武者キートン」の方を使っています。

OUR HOSPITALITY 1923 自転車.jpg荒武者キートン 0.jpg 導入部分の、1810年にマッケイ家の父親とキャンフィールド家の若者が撃ち合いで共に死んでしまい、マッケイ家の母親が息子ウィリーを連れて南部からNYに引っ越すまでは、コメディと言うより普通のドラマという感じであり、それが約20年後に話が飛んで、キートンが変てこな自転車に乗って登場するところからコメディ映画らしくなりますが、キャンフィールド家とマッケイ家の確執を描いた冒頭のシリアスなムードが、後半のロミオとジュリエット的な話の展開に効果を及ぼしているように思います。

OUR HOSPITALITY 1923 キシャ83.jpg ウィリー(キートン)は家を継ぐための南部への里帰りの途中、美しい娘と列車に乗り合わせる―「列車」といっても、"特急"というのは名ばかりの、遊園地にあるような機関車に、馬車2台を繋いで客車としたような極めて初期のもので、矢鱈あちこちにうねりや歪みのある線路our_hospitality_train.jpgをのんびり走行し、ウィリーの飼い犬が結局目的地までついてきてしまうような超スロースピードのシロモノです。しかも、途中のレールポイントで客車は機関車とはぐれたうえに、線路から外れて地面の上を走っている始末。前半部分は、この「列車」が主役と言ってもよく、3年後に作られる「大列車強盗(将軍)」('26年)の萌芽が見られます。

荒武者キートン 9.jpg この珍奇な鉄道の旅を通してウィリーと娘は親しくなり、自分の実家が想像していた豪邸とは違ってオンボロの掘立て小屋だったという彼でしたが(空想の中で豪邸が本当にぶっ飛ぶのが可笑しい)、その娘からは自邸に晩餐会に招かれる―しかし、この娘が何と、伯母から「くれ荒武者キートン 1.jpgぐれもキャンフィールドに気をつけろ」と言われていたそのキャンフィールド家の娘であり、ウィリーがマッケイ家の跡取り息子であることに気づいたキャンフィールド家の父親と息子2人は、彼に対して親切を装いながらもその荒武者キートン 2.jpg命を付け狙いますが、「敵(かたき)であっても、自分の家に訪問している間は撃ってはならない」という先祖代々の家訓があって、客OUR HOSPITALITY 1923 8.jpgとしてウィリーが邸内に居る間は、すぐ手の届く所に仇敵がいながらも撃てないでいる―やがて、ウィリーも背景状況と事態の重大さを知ることになり、晩餐会後に彼を外に出そうとするキャンフィールド家の誘いに乗らず、取り敢えず家に居ついて娘の傍に寄り添いながら脱出の機会を窺う、その辺りの両者の駆け引きを飽きさせずに見せます。

 一方で娘はウィリーがマッケイ家の息子だと分かっても彼のことを恋慕しているという、こうしたロミオとジュリエット的なシチュエーションは、「キートンの蒸気船(キートンの船長)」('28年)でも繰り返されます。但しここまでは、プロットはしっかりしているものの、アクション部分でややもの足りないかなとつい思ってしまうのですが、この作品はこのままでは終わりません。ウィリーが女装して邸を脱出してからそれをキャンフィールド家の面々が追走するラスト15分に、崖から急流、そして滝へと驚嘆すべきアクションシーンが詰まっています。

荒武者キートン 川.jpg荒武者キートン 滝.jpg 断崖でのロープアクションは実によく練られているように思いましたが、川に落ちたキートンが激流に呑まれるシーンは、実際にロープが切れて生じたアクシデントだったそうです。但し、激流に流されるシーンだけでも命懸けであると思われるのに、そこからがまた凄く、同じく激流に落ちた娘が滝から落ちるのを、キートンが空中ブランコの曲芸師さながらに受け止めるシーンは、一体どうやって撮ったのか、殆ど奇跡に近いような神業的アクションだったように思います。

バスター・キートン/ナタリー・タルマッジ.jpg キートンの初長編作品でありながら、本作をキートンの最高傑作に推す人も少なからずいるというのも頷けます。ヒロインの娘を演じるのはキートンの当時の妻のナタリー・タルマッジで、冒頭のウィリーの赤ん坊時代はキートン・ジュニア(ナタリーとの間に生まれた赤ん坊)、更に、客車を置き去りにしてしまう間抜けな機関士に扮しているのは、キートンの父親で寄席芸人だったジョー(ジョセフ)・キートンと、キートン・ファミリー総出演の作品であり、この辺りのチームワークの良さも作品のテンポの良さに関係していたのかもしれません。個人的にも、「海底王」「セブンチャンス」「大列車強盗」に先立つ作品でありながら、それらに比肩し得る作品であるように思います。
Buster Keaton and Natalie Talmadge with Junior and Bob

「荒武者キートン(キートンの激流危荒武者キートン dvd3.jpg荒武者キートン 家.jpg機一髪!)」●原題:OUR HOSPITALITY●制作年:1923年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン/ジョン・G・ブリストーン●製作:ジョセフ・M・スケンク/バスター・キートン・プロダクションズ●脚本:クライド・ブラックマン/ジャン・ハベッツ/ジョセフ・ミッチェル●撮影:ユージン・レスリー/ゴードン・ジェニングス●時間:67分●出演:バスター・キートン/ナタリー・タルマッジ/ジョー・ロバーツ/ジョセフ・キートン/ラルフ・ブッシュマン/クレイグ・ワード/モンテ・コリンズ/キティ・ブラッドバリー/バスター・キートン・Jr./アーウィン・コネリー/エドワード・コクソン/ジェームズ・ダフィー●日本公開:1924/12●配給:国際映画社(評価:★★★★)
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「荒武者キートン」チラシ(1973(昭和48)年/有楽シネマ)
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