【2146】 ○ 清水 宏 「小原庄助さん (1949/11 東宝) ★★★★

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いい話、いいラストだったなあという感じ。大河内傳次郎の名優たる証しである作品。
小原庄助さん dvd2.png 小原庄助さん 裏.jpg 小原庄助さん dvd1.png 小原庄助さん 2.jpg
小原庄助さん [DVD]」「新東宝傑作コレクション 小原庄助さん [DVD]」 大河内傳次郎

小原庄助さん 1.jpg 旧家の当主で朝寝・朝酒・朝湯をたしなむ杉本左平太(大河内傳次郎)は、人々から"小原庄助さん"と呼ばれていた。人の良い左平太は村人から頼まれると断り切れず、自分の財産をどんどん分け小原庄助さん 選挙.jpg与えたため、すでに破産寸前。妻おのぶ(風見章子)は着物を質入れして夫を支える始末。村長選挙への立候補を頼まれた左平太だったが、そんなことにはいっさい興味がないため和尚(清川荘司)を推薦するものの、対立候補である吉田次郎正(日守新一)に頼まれ応援演説をしてしまう。ついに無一文となり、妻にも逃げ出された左平太の家に、若い二人組の泥棒が入った。左平太は二人を投げ飛ばし、酒を勧めるのだった―。

清水 宏 「小原庄助さん」旧家.jpg 清水宏(1903-1966)監督の1949(昭和24)年「新東宝」映画で(配給会社は「東宝」)、静岡県・三島に実在する旧家の屋敷を借りてオールロケで小原庄助さん 大河内.jpg撮った作品。山根貞男氏によれば、リアリズム重視の清水宏監督は、撮影初日にバッチリ化粧してきた大河内傳次郎を厳しく注意し、抵抗する大河内に対し、最初に「朝湯」のシーンを撮って敢えてそのメーキャップを台無しにしたとのことです(よって本作は、ノーメークの大河内傳次郎を観ることが出来る貴重な作品とも言えるのでは)。こうした清水監督の映画作りへのこだわりが、結果的に、チャンバラ映画などでのいつものきりっとした役柄とは全く異なる役柄を演じた大河内傳次郎の、この作品の中での存在感を引き立つものとしていて、ある種の理想的な人物像ではあるが、ともすると現実味が失われそうになりがちな主人公のキャラクター設定に、しっかりしたリアリティを吹き込んでいるように思えました。

小原庄助さん5.jpg 主人公の"小原庄助さん"こと左平太は、村の青年団の野球チームにユニフォームは寄贈するは、婦人会にたくさんのミシンは寄付するは(そのために「文化的な生活を推進する」というマーガレット中田(清川虹子)に乗り込まれて往生する)のお人好しぶりで(それも借金生活にありながら)、人に頼まれて、町に出て闇商売をしているおりつ(宮川玲子)に村に帰るように説得しに行きますがこれは失敗。でも、おりつの情夫(鮎川浩)が実は骨のある男だと分かって意気投合、ダンスホールに入ったらマーガレット先生がいて無理矢理一緒に踊らされた上に、支配人の吉田次郎正まで出てきたのを、この情夫が"ガン飛ばし"して追っ払ってくれます。

小原庄助さん 和尚.jpg 左平太は、先代、先々代と村長だったことから、次期村長の座を狙う次郎正が村長選挙に立候補するつもりか探りに来たのに対し、その気は無いと言ってその応援演説まで引き受けて、一方で村人から村長選に出馬するよう乞われて、和尚を立てるも次郎正が勝利します。左平太のいい加減な応援演説が可笑しかったです(それは次郎正の政策理念の無さをそのまま反映しているのだが)。でも、当選祝賀会に出ることまでは頼まれていないときっぱり断っていたなあ、和尚の落選残宴会の方に出ると言って。結局、選挙違反で次郎正の当選は無効となり、和尚が繰り上げ当選に。人口二千人くらいの村だと、却って買収とかあったりするのでしょうか。

 左平太は、上に立つべき者は家柄ではなく人柄が大事で、自分は家柄で村人から村長選に立つように言われていると自覚しているけれど、実際のところは人柄が村の皆から好かれているようです。でも、本人は、地位も名誉も望まないし、財産すら無意識的に、或いは半ば意識的に放棄しようとしているようであり、最後は全てを失って、侘しさの中にもむしろスッキリしている感じでした。さすがに妻のおのぶが義兄に連れられて実家に帰ってしまった時は寂しそうでしたが、家の品物を競売にかかっているような状況で芸者遊びをしているくらいだから無理もないか。

小原庄助さん 風見.jpg小原庄助さん ラスト.jpg しかし、そうした場におられないという左平太の気持ちも分かる気がすると言っていた妻おのぶは、足代わりの愛用のロバさえ子供達に譲り渡して徒歩で駅に向かう左平太を、最後に追いかけてくる―ああ、いい話、いいラストだったなあという感じ。よく出来た奥さんであり、夫婦の愛情物語でもありました。

 ラストで「始」という字が出て、何も画面に出ないまま「小原庄助さん」の曲が流れるのは、夫婦のこれからをどう暗示しているものか色々な解釈があるでしょう。左平太が無一文となるストーリーの背景には、1947(昭和22)年にGHQの指揮の下で始まった農地改革があることは間違いなく、遅かれ早かれ似たような状況になることは左平太自身も頭の中にあったのではないかという気がします。清水監督は必ずしも彼を"時流に取り残された敗者"としては描いていないように思われました。

 左平太が泥棒二人を投げ飛ばすところの身の動きだけが、黒澤明監督の「姿三四郎」('43年/東宝)の"矢野正五郎"になっているのが楽屋ネタ的に可笑しいですが、山中貞雄監督の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」('35年/日活)のやや戯画化された丹下左膳役と比べてもコミカルの質が異なるし、ましてや同じ黒澤監督の「虎の尾を踏む男達」('45年完成、'52年/東宝)の歌舞伎「勧進帳」そのものの弁慶役と比べるとその演技の違いの大きさは目を瞠るものがあり、やはりこの人、単にスターであるばかりでなく、名優でもあったのだなあと思いました(私見ながら、何を演じてもその人、その役者というのは「スター」か「大根」であり、全く違う役柄をしっかりと演じ分けられるのが「名優」かと...)。
 
小原庄助さん 1949.jpg「小原庄助さん」●制作年:1949年●監督:清水宏●製作:岸松雄/金巻博司●製作会社:新東宝●脚本:清水宏/岸松雄●撮影:鈴木博●音楽:古関裕而●時間:94分●出演:大河内傳次郎/風見章子/飯田蝶子/清川虹子/坪井哲/川部守一/田中春男/清川荘司/杉寛/宮川玲子/鮎川浩/鳥羽陽之助/日守新一/石川 冷 /尾上桃華/高松政雄/倉橋享/今清水甚二/高村洋三/佐川混/加藤欣子/徳大寺君枝/赤坂小梅●公開:1947/11●配給:東宝(評価:★★★★)

1 Comment

風見章子(かざみ・あきこ) 2016年9月28日、95歳で逝去。

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This page contains a single entry by wada published on 2014年6月13日 23:50.

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