【2133】 △ 清水 宏 (原作:源 尊彦) 「東京の英雄 (1935/03 松竹蒲田) ★★★

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(義理の関係の)母子もの。「東京の英雄」というタイトルの皮肉こそが最大モチーフか。

「東京の英雄」清水宏 vhs.jpg Tokyo no eiyu 4.jpg
東京の英雄 [VHS]」桑野通子/三井秀男

 根本嘉一(岩田祐吉)とその息子・寛一([子供時代]突貫小僧)、ばあやの3人で暮らしていた根本家に、加代子、秀雄([子供時代]爆弾小僧)の2人の子を連れた春子(吉川満子)が後妻として嫁に来たが、満蒙金鉱事業の投資詐欺事件を起こした嘉一は、家族を捨てて蒸発してしまう。十数年後、残された子供を育てようと、春子は子供達には仕事内容を明かさずにチャブ屋を営んできていたが、寛一(藤井貢)が無事に大学を卒業する時分になって、チャブ屋を営んでいることがこと子供達に知れ、それが原因で娘・加代子(桑野通子)も息子・秀雄(三井秀男)も家出をしてしまう。大学を卒業し新聞社に勤める寛一だけが春子の心支えであった。ある日、チンピラとなった義弟・秀雄が仲間に刺殺される事件に直面した記者・寛一は、瀕死の秀雄から父がまたニセの満蒙金鉱会社を始めたと聞き、父・嘉一に詰め寄ると共にそれを記事にする―。

清水宏 監督.jpg  1935(昭和10)年3月7日公開の清水宏監督の無声(音楽のみのサウンド版)映画で、不況下で、まともな仕事につけなければ男はチンピラに、女は娼婦にでもなるしかない(皆が皆そうだったわけはなかろうが)、そうした社会経済情勢をリアルタイムで反映した作品です(原作者の「源尊彦」は清水のペンネーム)。

清水 宏(1903-1966)

 加代子が家を出たのは、嫁ぎ先に母親の仕事が知られて離縁されたためで、その前に秀Tokyo no eiyu 3.jpg雄も恋人に同じ理由で交際を断られたという経緯があり、自分で母親の仕事を確認しに行って初めて母親がチャブ屋を営んでいることを知るという(十数年も母親の仕事を知らなかったというのがやや不自然だが)―それでグレてチンピラになり、加代子も"街の女"になってしまうというのは、どうかなあ。誰のお蔭でここまで育ててもらえたと思っているのか? 誰のお蔭で大学まで行かせてもらえたと思っているのか?(春子は夫が失踪した時は、この年齢では会社にも就職できないと悩んでいたのに、十数年にはチャブ屋の女将として店を仕切っており、意外と経営の才覚があったのか)。Hideo Mitsui, Mitsuko Yoshikawa, Mitsugu Fujii/Tokyo no eiyu | A Hero of Tokyo (1935)

 事態はだんだん暗い方向に行く中で、藤井貢演じる寛一だけが楽天的で、「コロッケも満足に出来ないうちからうちから結婚は少し早すぎやしないかい」と言っていた義妹・加代子が離縁されて戻って来たら「コロッケを作れるようになってから行けばよかったんだよ」と言い、彼女が家出したら「コロッケの研究にでも行ったんだろう」といった調子です。

Tokyo no eiyu 1.jpgTokyo no eiyu 2.jpg 新聞記者になっても、先輩に言われて松竹歌劇団のスターとかを取材して暢気な印象ですが、「尾張町(銀座)の角によく出没する女がいるらしい」と聞いて所謂"街の女"を取材に行くと、その女の部屋に帰ってきたのが加代子で、彼女は自分も"同業"だと言い放つ―。 Michiko Kuwano

Tokyo no eiyu hujii.jpg 後半になって、独り残された義母に寄り添う寛一と、彼だけが人生の希望の糧であるかのような春子の、両者互いに感極まる姿は、前半で寛一がドライであっただけに感興をそそります。血縁よりも義理の関係の方が本当の親子のようになってくるというのは、小津安二郎の「東京物語」の義父(笠智衆)・義娘(原節子)の関係の裏返しのようで興味深かったです。
Mitsugu Fujii

 しかし、物語の結末は意外なことになります。秀雄が用心棒として雇われたインチキ会社の社長が嘉一だったわけで(懲りない親父だなあ)、嫌気がさして辞めようとした秀雄は仲間に裏切ったと思われて刺されたという、そうした経緯を知った寛一は、実父・嘉一に自決を求める―スゴイね。結局、新聞記事に書いて父の不正を暴くわけですが、自分は正しいことをしたつもりで、スクープ記事の報酬として貰った特償金(ボーナス)を携え、義母・春子の元へ行くと―。

 (義理の関係の)母子の愛情がテーマかと思いますが、結局、誰も幸せにならない話だったなあ。ストーリーがリズム良く展開し、むしろ話が出来過ぎている(偶然が度重なる)わりには、ラストで落とし処が無かったという感じでしょうか。「東京の英雄」というタイトル自体に皮肉が込められていて、その「皮肉」こそが作品の最大のモチーフであったとしか解釈しようのない作品でした。

母を恋はずや 吉川三井.jpg 因みに、吉川満子と三井秀男は、前年の小津安二郎監督の「母を恋はずや」('34年)で既に実の親子の役を演じており、これに母親の継子(義兄)が絡んで、継子(大日方傳)の方がグレるという...こうした複雑な親子関係を扱うのが当時のある種パターンだったのでしょうか。
小津安二郎「母を恋はずや」('34年)
 
東京の英雄 002.jpg東京の英雄 001.jpg「東京の英雄」●制作年:1935年●監督:清水宏●脚本:荒田正男●撮影:野村昊●原作:源尊彦●時間:64分●出演:岩田祐吉/ 吉川満子/藤井貢/桑野通子/三井秀男(宏次)/突貫小僧/市村美津子/爆弾小僧/近衛敏明/出雲八重子/高松栄子/水谷能子/御影公子/高杉早苗/京町みち代/石山龍児/河原侃二/宮島健一/日下部章/谷麗光/加藤精一雄●公開:1935/03●配給:松竹(松竹蒲田)(評価:★★★)

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This page contains a single entry by wada published on 2014年5月17日 00:07.

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