【2121】 △ 小津 安二郎 (原作:ジェームス槇)「非常線の女 (1933/04 松竹蒲田) ★★★

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小津安二郎の戦前の「暗黒街もの」無声映画。木に竹を接いだような和洋混淆の印象。水久保澄子がいい。

非常線の女 vhs.jpg『非常線の女』.jpg 非常線の女 水久保澄子.jpg
水久保澄子(1916-没年不明)

非常線の女 [VHS]」/田中絹代

非常線の女1.jpg 時子(田中絹代)は昼間は会社事務員として働いているが、私生活ではチンピラの襄二(岡譲二)と一緒に暮らしている。元ボクサーの襄二はケンカに強く、数人の子分がいる。学生・宏(三井秀夫)もその仲間に加わるが、宏の姉・和子(水久保澄子)は襄二を訪ね、弟を元に戻すように哀願する。襄二は宏を姉の元に帰す一方、和子に惹かれる。それを知った時子は和子を脅そうとするが、逆に彼女の弟を思う純情に打たれ、自分や襄二も堅気になろうと決心する。襄二も同意するが、宏が窃盗を働き襄二はそれを庇うため最後の一仕事をやることに。襄二と時子は時子の会社の社長から金を盗み、宏にその金を与える。警察から逃れようとしながらも、時子は襄二に自首を勧めるが、聞き入れられないため彼を撃つ―(左は映画スチール写真(田中絹代/岡譲二))。

非常線の女 dvd.jpg非常線の女 タイトル.png 「その夜の妻」('30年)などの流れを組む、小津安二郎の戦前の「暗黒街もの」で、「ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の「暗黒街」('27年)やウィリアム・A・ウェルマン監督の「暗黒街の女」('28年)など、影響を受けている作品については諸説ありますが、元の作品を観る機会がないので個人的にはよく分かりません。

あの頃映画 松竹DVDコレクション 「その夜の妻/非常線の女」
 因みに、同年の作品で「キネ旬」のベストテンで1位となった「出来ごころ」('33年)は、キング・ヴィダー監督の「チャンプ」('31年)(フランコ・ゼフィレッリ監督により'79年にリメイクされた)の影響を受け、翌年の「キネ旬」ベストテン1位作品「浮草物語」('34年)は、アメリカ映画「煩悩」('28年)を下敷きにしているそうですが、共に純日本風の舞台設定で、内容的にも日本的な人情話に仕上がっています。

非常線の女 田中絹代.jpg非常線の女 岡譲二.jpg それに対し、この「非常線の女」は、洋風ハードボイルドの仕様を倣っており、「日本版フィルムノワールの傑作」と推す人も多いようです。田中絹代も背中を露わにしたイブニングドレスやトレンチコートなど洋装で出ていますが、やはり和服のイメージが強いせいか、観ていてどうも違和感があったりして.... 

「非常線の女」 田中絹代.jpg田中絹代/岡 譲二

 用心棒稼業の岡譲二はともかく、田中絹代の童顔は情婦っぽくもなく、やや無理がある感じです(あんなぼーっとした感じで拳銃ぶっ放して旨く脚に命中するものかな)。ストーリーも、外見は「暗黒街もの」でありながら、主人公の二人が共に和子の純情にほだされてしまうという辺りは多分に日本的で、木に竹を接いだような和洋混淆の印象があります。
      
水久保澄子1935aug.jpg水久保澄子 2.jpg水久保澄子.jpg 出演者の中では、この主人公の男女二人がともに惹かれてしまう和子を演じた水久保澄子(1916-没年不明)の清楚な美しさが良く、田中絹代以上に目を引くでしょうか。

水久保澄子

[左]1935(昭和10)年:雑誌「日の出八月號附録:映画レビュー夏姿寫眞帖」

映画論叢 水久保澄子.jpg 水久保澄子は、その後の私生活では、突然自殺未遂事件を起こしたり、フィリピン人と国際結婚したら実はこれが結婚詐欺のようなもので、現地で奴隷のような扱いを受けた末に日本へ逃げ戻ったりと、かなり暴走・逸脱気味の人生だったようで、結局映画会社から見放されて銀幕から姿を消し(戦時下の上海のホテルで妖艶な姿に変身している彼女を見かけたとの証言もある)、最後は各地のダンスホールでダンサーをしながら、世間上は完全に「消息不明」になったという―この作品を観ていても、そんな人生を辿る女性にはとても見えず、人の運命とは分からないものだなあという気がします。

 「出来ごころ」で"寅さん"的小市民を撮った小津安二郎が、同じ年にこんな「暗黒街もの」も撮っていたのかという意外感はありますが、無声映画でありながらカット割りが頻繁に行われているのは小津作品らしいと言えるかも。但し、ストーリー展開のテンポの緩さも小津らしく、こうした作品の割には洋画のような緊迫感に乏しい印象も受けます(100分は長い気がするが、オリジナルは120分)。そのくせ、カットタイトルの字幕によるセリフ・ト書きが少なく、展開が分かりにくい場面もありました(カットされているせいか)。公開当時この映画を観た人がそうであったように、弁士付きで鑑賞して丁度良い作品なのかもしれません(なかなかその機会が無いが)。

非常線の女 4.jpg 岡譲二(1902-1970)は、コロムビア・レコードの宣伝部長を辞めて26歳で役者に転じた人(26歳で部長かあ)。映画の中でビクターの"ニッパー犬"が画面にもセリフにも出てきますが、これ、宣伝タイアップか何かなのか。 小津がこれをシーンの切り替わる際などに上手く使っているのは確かなように思います。

三井弘次『非常線の女』(1933年).png「非常線の女」●制作年:1933年●監督:小津安二郎●脚色:池田忠雄●原案:ゼームス槇(小津安二郎)●撮影:茂原英朗●時間:100分(120分)●出演:田中絹代/岡譲二/水久保澄子/三井秀夫(弘次)/高山義郎/逢初夢子.●公開:1933/04●配給:松竹蒲田(評価:★★★)
三井秀夫(弘次)

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