【2113】 ○ 竹邑 類 『呵呵大将:我が友、三島由紀夫 (2013/11 新潮社) ★★★★

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その知らざれざる素顔。三島文学と言うより三島自身に関心がある人にはたいへん興味深い本。

呵呵大将 我が友、三島由紀夫.jpg呵呵大将: 我が友、三島由紀夫』(2013/11 新潮社)三島由紀夫 2.jpg 三島由紀夫(1925-1970)

竹邑類.jpg 昨年('13年)12月11日に脂腺がんのため71歳で亡くなった演出家、振付家の竹邑類(たけむら・るい、1942-2013)による三島由紀夫(1925-1970)との交友録で、'13年11月25日刊行であるため、本書刊行後ひと月もしないうちに著者は亡くなったことになります。三島由紀夫の知らざれざる素顔が窺えて、三島文学と言うより三島由紀夫自身に関心がある人には、たいへん興味深い本ではないでしょうか。

 以前にある作家が、三島由紀夫を偶然レストランで見かけた時のことを書いていましたが、その周囲を寄せ付けないような、他人に隙を見せない張りつめた雰囲気に、「あれを維持するのはさぞ疲れるだろなあ」と思ったといったようなことを書いていました(吉行淳之介だったと思う)。しかし、本書に出てくる三島由紀夫は、子供のように無邪気且つ何事にも好奇心旺盛で、また、「呵呵大笑」に懸けたタイトルの如く、豪放磊落に笑っています。

 著者と三島由紀夫との出会いは、新宿2丁目にあったジャズ喫茶「KIIYO」で、年代はいちいち記されていませんが、著者は二十代そこそこで、三島は三十代後半だったと思われます。「凮月堂」(喫茶店)、「アートシアター新宿文化劇場」(映画館)といった60年代のアンダーグラウンド芸術家の拠点が出てきます。そんな当時の大人の"常識人"の眼から見れば妖しげな場所へ、大作家の三島由紀夫が出没して、若い芸術家の卵たちと交流していたというのが面白いし、また、その様子が愉快に描かれています。

蠍座 右は新宿文化支配人葛井氏、左は三島由紀夫.jpg そうした交流を三島自身も愉しみながら、その一方で、「月」(新潮文庫『花ざかりの森・憂国―自選短編集』所収)や「葡萄パン」(新潮文庫『真夏の死―自選短編集』所収)といった短編作品の素材にもしていて、三島が自ら「新宿ビート族」と名付けたそうした若者たちとの触れ合いには、取材的側面もあったのかもしれません。

「蠍座」前。三島由紀夫と新宿文化支配人・葛井欣士郎

 でも、新宿文化劇場の地下にあったアンダーグラウンド劇場「蠍座」の命名主が三島由紀夫だったということからも窺えるように、そうした当時のサブカルチャー的なものの中に、三島自身、少なからず惹かれるものがあったのかも。三島のサブカルチャーに対する視点と作品の関係については、「戦後〈ユース・サブカルチャーズ〉への一視点 : 三島由紀夫「月」「葡萄パン」論」(中元さおり氏)がウェブで公開されていました。 

 60年代後半は、著者も舞台の仕事が増えて、三島との直接交流の機会は少なくなっていったようですが、連絡は取り合っていたようです。「蠍座」のオープンが'67(昭和42)年、本書の中にある、三島由紀夫が聖セバスチャンに扮して篠山紀信のカメラの被写体となったのが'68(昭和43)年、著者に三島から電話があり、制服がカッコいいから見にこいと言われた「楯の会」も'68年に結成されており、それからしばらくして著者は三島の自決('70(昭和45)年)の報に接することになります。まさに、多くの人々の目の前を、慌ただしく駆け抜けていったのが三島由紀夫だったのだなあと。

淀川長治.jpg 故・淀川長治は、三島由紀夫について、「あの人の持っている赤ちゃん精神。これが多くの人たちに三島さんが愛される最大の理由」だと述べていますが、本書を読んで、淀川長治の炯眼を再認識しました。淀川長治は、三島が当時映画界でしかその名を知られていなかった自分対し、初対面できちんと敬意を持って対応してくれたことに感激したようですが、著者が17歳年上の三島を「我が友」と呼ぶところにも、三島の分け隔てをしない人との付き合い方が窺われます。

 また、著者は三島家と家族ぐるみの付き合いがあり、「家庭の幸福は文学の敵」と標榜していた三島ですが(自分が嫌う太宰治とは、この考え方においては自分も同意見であることを自認していた)、実際には、瑶子夫人との間に非常に良い夫婦関係、信頼関係にあったことが窺えたのも興味深かったです。

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This page contains a single entry by wada published on 2014年4月 5日 22:11.

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