2014年4月 Archives

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運命を別つ旧女友達。及川道子の"淪落の女"ぶりに注目。伴奏付きで観たいメロドラマ作品。

港の日本娘 1933.jpg
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 港の日本娘 娼館.jpg
港の日本娘 [VHS]」井上雪子/及川道子  「港の日本娘」 江川宇禮雄/及川道子

港の日本娘 v.jpg 横浜居留地跡の女学校に通う砂子(及川道子)とドラ(井上雪子)は大の仲良し。砂子にヘンリー(江川宇禮雄)というボーイフレンドができてからも、ドラは砂子のことを気にかけてくれている。そんな中、ヘンリーが新しい恋人・シェルダン耀子(澤蘭子)のもとに行ってしまった砂子は、嫉妬に駆られて耀子を拳銃で撃ってしまう。歳月が流れ、長崎、神戸と港町をわたりながら、水商売をしていた砂子が再び横浜に帰ってくることになった。今やヘンリーはドラと結婚して幸福な家庭を築いている。孤独な砂子をヘンリーとドラの夫婦は温かく迎えるが、なかなか昔のような関係には戻らない。砂子の情人である売れない画家の三浦(斎藤達雄)の悪戯のせいで、その関係は更に複雑に―。

 清水宏監督の1933(昭和8年)サイレント作品で、横浜・神戸の旧居留地が舞台背景である上に、主演の及川道子はともかく、江川宇礼雄(本名ウィリー・メラー、後に江川ウレオ。ドイツ人と日本人のハーフ)、井上雪子(オランダ人と日本人のハーフ)といった役者陣で、かなりバタ臭い印象もあります。昔の乙女が今や娼婦になっていてかつての恋人と再会するというのはマービン・ルロイの「哀愁」('40年)みたいですが、この「港の日本娘」の方が7年早い作品です(但し、「哀愁」は1931年作品のリメイク)。

港の日本娘 女学生時代 スチール.jpg港の日本娘 女学生時代.jpg 恋敵のシェルダン耀子を銃で撃ってしまったことで砂子の人生は暗転していったようですが、「その後どうなったかは、日記にでも聞いてみなさい」とのト書きが出て、途中の過程はスッパリ飛ばして、場面が切り替わったら砂子は神戸の居留地で娼婦になっています。横浜に戻っても同様で、一緒に横浜に来たマスミ(逢初夢子)は、「足抜け」すると砂子に言いに来た直後に警察に連行されてしまうし(「足抜け」と言うより何かの犯罪に関与して逃亡を図ったわけか)、何やかやあって妙子の八方塞がりのような状況がますます浮き彫りになります。

「港の日本娘」(1933)スチール写真
                              
港の日本娘」01.jpg 横浜で妙子は自分を訪ねて来たヘンリーと再会、妙子もヘンリーとドラを訪ね、その幸せそうな家庭を見て複雑な心境に。一方、三浦が(アパートで洗濯やアイロン掛けをしていて、居候と言うより殆どヒモ状況)、隣に越して来た女性が職を探していると港の日本娘」02.jpg言っていたその女性は、医者にも見捨てられた病に冒されているとのことで、妙子が会ってみると何とそれはあの●●だった―。その淪落ぶりは妙子以上で、「こんな雨の晩に世間から見捨てられて一人ぼっちで死んでいくなんて随分惨めね」と。この辺りが、この作品のクラ清水宏監督作品 第一集_.jpgさの「底」でしょうか。しかし、妙子は彼女から真面目に生きれば世間はいつか許してくれるといった啓示を受けて、三浦を連れて横浜を去ることに(どこへ向かうんだろう?)。

清水宏監督作品 第一集 ~山あいの風景~ [DVD]
「按摩と女」「有りがたうさん」「簪(かんざし)」の3作品+特典ディスクに「港の日本娘」収録

及川道子1.jpg 妙子を演じた及川道子(1911-1938/享年26)は、早逝したこともあってか「永遠の処女」などと呼ばれることもある女優ですが、この作品では、清楚なセーラー服姿と高島田を結った淪落の女の両方を見ることができ、清水宏監督の初期作品に多く出演しながら、そのフィルムが殆ど現存していなかったりすることからも、本作は貴重な映像作品と言えるかもしれません(特に後半の港の日本娘 神戸.jpg港の日本娘 蘭.jpg淪落ぶりに注目)。因みに、シェルダン耀子を演じた澤蘭子(宝塚歌劇団出身の"純粋"日本人)は2003年に99歳で逝去、ドラ役の井上雪子(こちらは役柄通りハーフ)は2012年に97歳で逝去しています。 及川道子(1911-1938/享年26)・逢初夢子(1915-消息不明)/澤蘭子(1903-2003/享年99)

 小津安二郎の初期作品では欠かせない斎藤達雄(1902-1968/享年65)が、人の良さそうな売れない画家を演じて、三浦とどちらが妙子の夫っぽく見えるか張り合うなど軽妙な味を出していますが(この作品で唯一のコメディコント的シーン港の日本娘 齋藤.jpg港の日本娘  江川.jpg)、斎藤達雄は小津安二郎の「生れてはみたけれど」('32年)でサラリーマン家庭の父親を演じた翌年の作品なのだなあと(役作りで前作より若く見える)。ヘンリーを演じた江川宇禮雄(1902-1970/享年68)も、同じくこの作品の前年に小津安二郎監督の「青春の夢いまいづこ」('32年)に主演で出ています。

斎藤達雄(1902-1968/享年65)/江川宇禮雄(1902-1970/享年68)

小津安二郎 江川宇礼雄 (エガワ・ウレオ).jpg 江川宇禮雄(本名:江川ウレオ、ウィリー・メラー)は、小津作品「大学は出たけれど」('29年)の高田稔(1899-1977)、「東京の合唱(コーラス)」('31年)の岡田時彦(1903-1934)などとも交友のあった人で、戦後も小津安二郎監督の「彼岸花」('58年/松竹)に佐分利信の同窓会で北竜二、笠智衆らと共に同窓生役で出演したりしていますが、個人的にリアルタイムで見たのは「ウルトラQ」('66年)の「一の谷博士」役でした。

 この映画、隣に越してきたのが偶然にも因縁の女性だったとか、出来過ぎた話の部分もありますが、後半から終盤にかけての展開は目が離せないといった感じで、人生に対する肯定で終わるラストも、それまでの落ち込んだ雰囲気を一気に盛り返して、この監督らしい作品だなあと思いました。

港の日本娘 横浜.jpg港の日本娘 背景1.jpg 基本的にはメロドラマかと思いますが、最初の展開が分かりづらいのと、プロセスにおいて話が結構暗かったかなあ。純粋にサイレント(音無し)で観るにはややキツイ面もあります(公開時には活弁に加え、テーマソングや野口雨情作詞の挿入歌が流された)。最近都内や横浜などで行なわれている上映会では(この作品は横浜・神戸という日本の代表的な港町の昭和初期の様子がよく窺える)、大方の場合に弁士による活弁やライブの音楽伴奏が付くようで、そうした「巨匠たちのサイレント映画時代」.jpg港の日本娘 出航.jpg環境で観ることが出来ればより堪能出来る作品のように思いました。そうした機会が訪れる期待と映像のレア度を加味して星半分ぐらいオマケしました。伴奏付き(出来れば活弁バージョンで)DVD化して欲しい(●2018年に神保町シアターでピアノ生演奏(小林弘人氏)付きで観ることができた。音楽の効果は絶大で、ある種の思考回路を遮断してしまうのか、運命に流される主人公の生き方がどうのこうのと言うより、メロドラマとして完成されているとの思いを強くさせられた。シーンの変わり目に風景や小物の映像を入れて余韻を持たせるテクニックが効いていることに改めて気づいた)

「巨匠たちのサイレント映画時代」神保町シアター2012・1/4~13

「港の日本娘 [VHS].jpg「港の日本娘」●制作年:1933年●監督:清水宏●脚本:陶山密●撮影:佐々木太郎●原作:北林透馬●時間:72分●出演:及川道子/井上雪子/江川宇禮雄/澤蘭子/逢初夢子/斎藤達雄/南條康雄●公開:1933/06●配給:松竹蒲田●最初に観た場所(ピアノ伴奏付きで):神田・神保町シアター(18-12-22)(評価:★★★★)

港の日本娘 [VHS]

神保町シアター 2007(平成19)年7月14日オープン
I神保町シアター.JPG

I神保町シアター1.JPG I港の日本娘2.JPG I港の日本娘5.JPG 特集上映「生誕115年記念 清水宏と小津安二郎」.jpg

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バーナビーの従兄弟ジョン・バーナビーが前フリ的登場。スプラッター・モードだが観光気分も。

第75話「ギヨームの剣」dvd.jpg 第75話「ギヨームの剣」dvd2.jpg バーナビー警部(第75話)/ギヨームの剣 バーナビー.jpg  The Sword of Guillaume 3.jpg
Midsomer Murders : Season 13, Episode 1 Sword of Guillaume (ギヨームの剣)

バーナビー警部(第75話)/ギヨームの剣 1.jpg第75話「ギヨームの剣」被害者1.jpg 長年関係が途絶えていた2つの町、コーストンとブライトン。コーストンがブライトンの土地の購入を検討中ということもあって、2つの町の友好関係を築く目的の旅行が計画されるが、裏には個人利益を狙う人々がいた。そして、ツアーの最中、参加者の一人ダルグリーシュがお化け屋敷列車で首を切り落とされた姿で見つかる―。

Hugh Dalgleish(Tim McInnerny)

バーナビー警部(第75話)/ギヨームの剣 3.jpg第75話「ギヨームの剣」被害者2.jpg バス旅行ツアーにバーナビーが参加するという設定は、アガサ・クリスティの『復讐の女神』を想起させ、そして、その行った先で殺人事件が起きるというのも同じだなあと(クリスティ作品へのオマージュであることは間違いない?)。殺害されそうな人物は大体予測がつきましたが、それにしても生首がゴロンとは。そして、次なる殺人も生首状態で発覚、被害者は、ツアー中にバーナビーに秋波を送り続けていたジェニー・ラッセル。スプラッター・モード全開といったところでしょうか。

Jenny Russell (Lucy Cohu)
バーナビー警部(第75話)/ギヨームの剣 ジョン.jpg シーズン13の第1話にあたりますが、トム・バーナビー警部の従兄弟のジョン・バーナビー警部(ニール・ダジョン Neil Dudgeon)がブライトン署の刑事として登場。シーズン14、第82話から主役交代することになるわけですが、その前フリでしょうか(ということは従兄弟ジョン・バーナビーはコーストンからブライトンへ転勤してくるのか)。「バーナビー警部」と呼ばれて2人とも同時に反応するところが可笑しいです(一番笑ったのは、牧師が神の存在に疑念を抱いて悩んでいる時に"奇跡"が起きた場面だったのだが。蝋燭の上に偶々物が落ちて火がついただけなのだが、当の牧師は思わずひれ伏していた)。

 トム・バーナビーを演じるジョン・ネトルズの降板が決まった後、後継主役候補として、ナサニエル・パーカー、ルパート・ペンリー=ジョーンズ、ジェイソン・アイザックス、ブラッドリー・ウォルシュ、フィリップ・グレニスターなど錚々たる名前が挙がっていましたが、ニール・ダジョンに決定。まあ、そう悪い選択ではなかったように思います。
DCI John Barnaby (Neil Dudgeon)
バーナビー警部(第75話)/ギヨームの剣 牧師.jpg
 いつもながらに人間関係が錯綜していて、最初の内はとても犯人の見当などつきそうにもなかったけれど、脇役と思われた人物が被介護者を抱きかかえて階段を楽々と上っていく場面で、ああ、もしかして...と。背後関係や動機はかなり後の方にならないと分からなかったのですが、牧師がゲイだったとはね。「第34話/炎の惨劇」でも牧師と副牧師がホモ関係というのがありましたが。
                       Rev Giles Shawcross (Mark Gatiss)
バーナビー警部(第75話)/ギヨームの剣 2.jpg しかし、女当主マチルダ、子孫を残すためにそこまでやるのかあ。事件解決後は「可哀そうな○○○○」の一言で済ませてしまって(まあ、自分の計画を潰した一方で、自分の代わりに復讐してくれたのも○○○○だったとも言えるが)、そそくさとバーナビーを追い返した感じ。そんな中、当主の息子である被介護人リチャードのバーナビーに向けた目線が気になります。
Lady Matilda William (Janet Suzman)

The Sword of Guillaume 2.jpg それにしても、バーナビーの部下ジョーンズ巡査部長とスティーブンス巡査の若い2人の職場恋愛はなかなか進展しないなあ。バーナビーの居ぬ間に携帯電話持っているから大丈夫と水辺でのランチを洒落込んだら、上司バーナビーからその携帯に殺人事件発生の急報が入り、「何故アヒルの声が聞こえるんだ」と言われて冷や汗をかく始末。

The Sword of Guillaume Landscape.jpg コーストンが架空の町であるのに対し、ブライトンは実在の観光地で、実業家や有名芸能人などが引退後に暮らす地としても人気の場所。いつもの長閑な田園風景とはまた一味違った、風光明媚な海沿いの光景や垢抜けた街並みがちょっとした観光気分で楽しめるエピソードでもありました。

バーナビー警部(第75話)/ギヨームの剣 sfx.jpg「バーナビー警部(第75話)/ギヨームの剣」●原題:MIDSOMER MURDERS:SWORD OF GUILLAUME●制作年:2010年●制作国:イギリス●本国上映:2010/02/10●監督:レニー・ライ●製作:ブライアン・トゥルー=メイ●脚本:マイケル・エイトケンス●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ジェイソン・ヒューズ/ジェーン・ワイマーク/バリー・ジャクソン/カースティ・ディロン/ニール・ダジョン●日本放映:2013/10/04●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

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笑いをきめ細かく揃えたコメディ。脚本も巧みだが、一部"キャラクター過剰"が引っ掛かった。

大学の若旦那 vhs.jpg大学の若旦那vhs1933  .JPG  大学の若旦那 01.jpg
大学の若旦那 [VHS]」    The Boss's Son at College (1933)(中央:藤井貢)

「大学の若旦那」02.jpg 醤油問屋「丸藤」の若旦那・藤井実(藤井貢)は大学ラグビー部の花形選手だが、半玉芸達・星千代(光川京子)との仲が公になり退部させられる。ラグビー嫌いの父親(武田春郎)はこれで息子も商売に身が入ると喜ぶが、藤井の方は、今度はラグビー部の後輩・北村(三井秀男)の姉でレビューガールのたき子(逢初(あいぞめ)夢子)に入れ 込んでレビューに足しげく通うようになる。そうした藤井をよそにチームは猛練習を続けていたが、大事な試合を目前にして、どうしても試合に勝つために藤井を復部させることを決める―。

大學の若旦那 (1933年1.jpg 清水宏(1903-1966/享年63)監督の1933年作品で、サイレント・サウンド版(BGMの他に応援団の手拍子などの効果音が入る)。原作者の「源尊彦」は清水のペンネームであり、この人、小津安二郎監督の「大学は出たけれど」('29年)の原作も書いています。若旦那「藤井実」役の藤井貢(1909-1979/享年70)は慶應義塾大学ラグビー部出身、ラグビー日本代表として初のキャップにもなった人で、ケガで'31年に引退、'32年に松竹蒲田に入り、この作品及びその後の「大学の若旦那」01.jpg同シリーズ作でスターダムに。

[左]光川京子(星千代)・藤井貢(若旦那・藤井実)/[右]大山健二(柔道部主将兼応援団長・堀部)

 このシリーズは後の加山雄三の「若大将シリーズ」の原型となりますが、加山雄三の父・上原謙のデビュー作は、清水宏監督の「若旦那・春爛漫」('35年/松竹蒲田)です(学生達の1人として出演)。息子・加山雄三の「若大将シリーズ」の方にはアメリカンラグビー部(今で言うアメフト)の話はあったけれども(「エレキの若大将」('65年/東宝))、ラグビーの話は無かったように思います。因みに「若大将シリーズ」が始まった1961年頃の大学進学率(男子)は15%くらい。この「若旦那シリーズ」の頃の大学進学率は数%でしょうか。一応、当時の大学生はエリートであるわけです。

 芸者屋で藤井らと鉢合わせする藤井映画論叢 水久保澄子.jpgの叔父役の坂本武(簾髪の鬘(カツラ)を被大学の若旦那 03.jpgっての出演)や、藤井の妹の婿で気の弱そうな若原役の斎藤達雄、ラグビー部員役の日守新一など、小津安二郎の初期作品の常連が脇を固め、笠智衆もその他大勢のラグビー部員の中の一人としてノンクレジットで出ています(笠智衆は、清水宏監督の「花形選手」('37年)では佐野周二とライバルの大学陸上選手の役で出ている)。

 女優陣では、藤井の2人の妹のうち、嫁に行った上の妹みな子を坪内美子(1915-1985)、下逢初 夢子2.jpgの妹みや子を、後に転落・流転の道を歩む水久保澄子4.jpgことになる"伝説のアイドル女優"水久保澄子(1916-没年不明)が演じています(この映画におけるもう一人のアイドル、レビューガールを演じた逢初夢子(1915-消息不明)の方はベルリンオリンピック水泳金メダリストの遊佐正憲と結婚したが、現況は不明)。
逢初(あいぞめ)夢子(上)/水久保澄子(右)

光川京子(星千代)/水久保澄子(みや子)(「大学の若旦那」スチール写真)
水久保澄子(みや子)
大學の若旦那 (1933年).jpg 星千代が藤井の練習ぶりを見たいと言うので、妹のみや子からセーラー服を宴会芸用と偽って借り出し、クルマの中で着替えさせ、女学生らしい歩き方も指南。ところが、星千代を連れてきた練習場に偶々みや子が通りかかり慌てて星千代を隠そうする―といったドタバタ・コメディ調の場面もあれば、藤井が芸者屋へ通うために、糸に繋いだカブトムシを使って帳場の金銭籠から紙幣を釣り上げるというコントみたいな場面もあったりし、更に芸者屋の女中が応援団を暴力団と勘違いしたり(柔道部主将で応援団長の堀部役の大山健二、当時29歳であるにしても角帽を被っているのに間違えられるかなあ)、星千代がセーラー服姿で大学に来て人前で藤井のことを思わず「若旦那」と呼んでしまう(まさに「大学の若旦那」)といったちょっと笑える場面等々、大・中・小の笑いをきめ細かく揃えたという印象です。

 更にきめ細かいのは脚本。藤井の父・五兵衛 は店の番頭忠一(徳大寺伸)をみや子の婿にしたいと思っているが、忠一は星千代のことを想っており、また、嫁に行ったみな子は、若原の様子から察するに夫婦仲がイマイチのよう。義弟とは言え、年長者の相談に乗ってやる藤井ですが、芸者に入れ込んでいる彼の姿を見て、憤慨して帰ってしまう―でも、調子よく義兄弟の契りを交わして、芸者遊びの道に彼を引き摺り込んだ張本人は藤井自身なんだけど。

大学の若旦那(逢初(あいぞめ)夢子).jpg 藤井を巡る女性たちだけでなく、こうした複数の男女の関係性をテンポ良く織り交ぜて巧みですが、一方で、ちょっとやり過ぎではないかと思われる場面も目立ったかなあ。星千代に兄と別れるように迫るみな子、たき子を「藤井をダメにしやがって」と平手打ちする彼女の弟・北村、等々(藤井と彼を崇拝する北村との関係はややホモセクシュアルな感じもあるが、北村が藤井を巡って妹に嫉妬したというのは穿った見方か)。

逢初夢子(たき子)

 こうした"キャラクター過剰"の極めつけは、星千代と付き合っていて、たき子が目の前に現れるとさっさとそちらに乗り換える藤井の"無節操"でしょうか。まあ、星千代とは最初から遊びの付き合いだったフシもありますが、たき子にも去られて、試合のスポ根ドラマ的な大逆転勝利で祝勝ムードに沸くロッカールームで、シャワーに紛らせながら涙にむせぶ場面も、それほど心には響いてきませんでした。街を歩いていて女性たちに囲まれ、芸者にサインをせがまれるわけだから(扇子に横文字でサインしてる)、元々気質的には学生またはフツー人と言うよりも芸能人に近いのかも。

 小津安二郎の「学生ロマンス 若き日」('29年、脚本:伏見晁)と比べてみると面白いかも(共に学生が角帽を被っていることから、モデルはどちらも早稲田大学か)。こうした作品のお手本はロイドの「人気者」('25年)やキートンの「カレッジ・ライフ」('27年)なのでしょう(小津安二郎も清水宏も熱烈なアメリカ映画のファンだった)。ほのぼのとした雰囲気が楽しめる佳作だと思いますが、コメディとはやや外れた"キャラクター過剰"(星千代やたき子がその犠牲となっている)に対して星半分減点しました。

「大学の若旦那」の撮影より(前右が藤井貢 、前左が逢初夢子、後列は松竹歌劇団メンバー)
「大学の若旦那」の撮影より.jpg

大学の若旦那 タイトル.jpg「大学の若旦那」●制作年:1933年●監督:清水宏●脚本:荒田正男●撮影:青木勇/佐々木太郎●原作:源尊彦●時間:86分●出演:藤井貢/武田春aizomeyamagatafujii1935aug.jpg逢初夢子.jpg郎/坪内美子/水久保澄子/坂本武/斎藤達雄/徳大寺伸/光川京子/若水絹子/大山健二/日守新一/山口勇/三井秀男/逢初夢子/吉川満子/笠智衆(ノンクレジット)●公開:1933/11●配給:松竹蒲田(評価:★★★☆)
逢初夢子(1935(昭和10)年:雑誌「日の出八月號附録:映画レビュー夏姿寫眞帖」)

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小津安二郎の戦前の「暗黒街もの」無声映画。木に竹を接いだような和洋混淆の印象。水久保澄子がいい。

非常線の女 vhs.jpg『非常線の女』.jpg 非常線の女 水久保澄子.jpg
水久保澄子(1916-没年不明)

非常線の女 [VHS]」/田中絹代

非常線の女1.jpg 時子(田中絹代)は昼間は会社事務員として働いているが、私生活ではチンピラの襄二(岡譲二)と一緒に暮らしている。元ボクサーの襄二はケンカに強く、数人の子分がいる。学生・宏(三井秀夫)もその仲間に加わるが、宏の姉・和子(水久保澄子)は襄二を訪ね、弟を元に戻すように哀願する。襄二は宏を姉の元に帰す一方、和子に惹かれる。それを知った時子は和子を脅そうとするが、逆に彼女の弟を思う純情に打たれ、自分や襄二も堅気になろうと決心する。襄二も同意するが、宏が窃盗を働き襄二はそれを庇うため最後の一仕事をやることに。襄二と時子は時子の会社の社長から金を盗み、宏にその金を与える。警察から逃れようとしながらも、時子は襄二に自首を勧めるが、聞き入れられないため彼を撃つ―(左は映画スチール写真(田中絹代/岡譲二))。

非常線の女 dvd.jpg非常線の女 タイトル.png 「その夜の妻」('30年)などの流れを組む、小津安二郎の戦前の「暗黒街もの」で、「ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の「暗黒街」('27年)やウィリアム・A・ウェルマン監督の「暗黒街の女」('28年)など、影響を受けている作品については諸説ありますが、元の作品を観る機会がないので個人的にはよく分かりません。

あの頃映画 松竹DVDコレクション 「その夜の妻/非常線の女」
 因みに、同年の作品で「キネ旬」のベストテンで1位となった「出来ごころ」('33年)は、キング・ヴィダー監督の「チャンプ」('31年)(フランコ・ゼフィレッリ監督により'79年にリメイクされた)の影響を受け、翌年の「キネ旬」ベストテン1位作品「浮草物語」('34年)は、アメリカ映画「煩悩」('28年)を下敷きにしているそうですが、共に純日本風の舞台設定で、内容的にも日本的な人情話に仕上がっています。

非常線の女 田中絹代.jpg非常線の女 岡譲二.jpg それに対し、この「非常線の女」は、洋風ハードボイルドの仕様を倣っており、「日本版フィルムノワールの傑作」と推す人も多いようです。田中絹代も背中を露わにしたイブニングドレスやトレンチコートなど洋装で出ていますが、やはり和服のイメージが強いせいか、観ていてどうも違和感があったりして.... 

「非常線の女」 田中絹代.jpg田中絹代/岡 譲二

 用心棒稼業の岡譲二はともかく、田中絹代の童顔は情婦っぽくもなく、やや無理がある感じです(あんなぼーっとした感じで拳銃ぶっ放して旨く脚に命中するものかな)。ストーリーも、外見は「暗黒街もの」でありながら、主人公の二人が共に和子の純情にほだされてしまうという辺りは多分に日本的で、木に竹を接いだような和洋混淆の印象があります。
      
水久保澄子1935aug.jpg水久保澄子 2.jpg水久保澄子.jpg 出演者の中では、この主人公の男女二人がともに惹かれてしまう和子を演じた水久保澄子(1916-没年不明)の清楚な美しさが良く、田中絹代以上に目を引くでしょうか。

水久保澄子

[左]1935(昭和10)年:雑誌「日の出八月號附録:映画レビュー夏姿寫眞帖」

映画論叢 水久保澄子.jpg 水久保澄子は、その後の私生活では、突然自殺未遂事件を起こしたり、フィリピン人と国際結婚したら実はこれが結婚詐欺のようなもので、現地で奴隷のような扱いを受けた末に日本へ逃げ戻ったりと、かなり暴走・逸脱気味の人生だったようで、結局映画会社から見放されて銀幕から姿を消し(戦時下の上海のホテルで妖艶な姿に変身している彼女を見かけたとの証言もある)、最後は各地のダンスホールでダンサーをしながら、世間上は完全に「消息不明」になったという―この作品を観ていても、そんな人生を辿る女性にはとても見えず、人の運命とは分からないものだなあという気がします。

 「出来ごころ」で"寅さん"的小市民を撮った小津安二郎が、同じ年にこんな「暗黒街もの」も撮っていたのかという意外感はありますが、無声映画でありながらカット割りが頻繁に行われているのは小津作品らしいと言えるかも。但し、ストーリー展開のテンポの緩さも小津らしく、こうした作品の割には洋画のような緊迫感に乏しい印象も受けます(100分は長い気がするが、オリジナルは120分)。そのくせ、カットタイトルの字幕によるセリフ・ト書きが少なく、展開が分かりにくい場面もありました(カットされているせいか)。公開当時この映画を観た人がそうであったように、弁士付きで鑑賞して丁度良い作品なのかもしれません(なかなかその機会が無いが)。

非常線の女 4.jpg 岡譲二(1902-1970)は、コロムビア・レコードの宣伝部長を辞めて26歳で役者に転じた人(26歳で部長かあ)。映画の中でビクターの"ニッパー犬"が画面にもセリフにも出てきますが、これ、宣伝タイアップか何かなのか。 小津がこれをシーンの切り替わる際などに上手く使っているのは確かなように思います。

三井弘次『非常線の女』(1933年).png「非常線の女」●制作年:1933年●監督:小津安二郎●脚色:池田忠雄●原案:ゼームス槇(小津安二郎)●撮影:茂原英朗●時間:100分(120分)●出演:田中絹代/岡譲二/水久保澄子/三井秀夫(弘次)/高山義郎/逢初夢子.●公開:1933/04●配給:松竹蒲田(評価:★★★)
三井秀夫(弘次)

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「マジンガーZ」に先立つ「搭載型(ガンダム型)ロボット」の走りか。

魔人ガロン.JPG  アトム対ガロン.JPG 魔神ガロン 初版 昭和35年 .jpg  
魔神ガロン (サンデー・コミックス)』 『鉄腕アトム 10 (サンコミックス 340)』 『魔神ガロン1』1960(昭和35)年7月5日刊行 秋田書店(A5判)

冒険王「魔神ガロン」.jpg 1959(昭和34)年から1962(昭和37)年まで雑誌「冒険王」('59年7月号~'62年7月号)に連載された手塚治虫の漫画作品で(テレビアニメ化の候補だったが実現しなかった)、作者はこれを自らが初めて描いた「悪魔的なスター」であるとしています。

 ガロンは宇宙からその部品の塊として落ちてきて、それは異星人が、地球人がそれを組み立てることが出来るかどうかを見ることで地球人の知力を試すとともに、それを平和利用することが出来るかどうかも見るために送り込んだもので、異星人は地球人がガロンを悪用すれば地球を攻撃するという考えです。

 ガロンを動かす鍵となる少年ピック(こちらも宇宙から降ってきて、捨て子だと思って拾った田舎の夫婦に育てられる)、ピックと一緒に育ったケン一少年、ガロンの組み立てを行った俵教授の助手・敷島らが地球の滅亡を防ぐため、ガロンの力を狙う悪人らに立ち向かいます。

『魔神ガロン』.JPG 手塚治虫は、1956(昭和31)に月刊誌「少年」で連載が開始された横山光輝の『鉄人28号』('59年にラジオドラマ化)に刺激を受けてこの作品を構想したようですが、「鉄人28号」がリモコンで動くのに対し(操縦型ロボット)、ガロンはピックがその胸の中に入ることによって"正しく"動くという点が大きな違いです。

 「機動戦士ガンダム」('79年)の「ガンダム」のようなロボットを「搭載型ロボット」と呼びますが(「ガンダム型ロボット」と言ってしまった方が分かり良いかも)、ガロンはその走りとも言えます。「ガンダム」以前の「搭載型ロボット」としては「マジンガーZ」('67年/原作:永井豪)、「MASCHINEN KRIEGER」('68年/原作:SFデザイナー・横山宏)などがあり、「機動戦士ガンダム」も「マジンガーZ」の影響を受けていると思われますが、その「マジンガーZ」の8年前に既に手塚治虫は、今で言う「ガンダム型ロボット」を創り上げていたとも言えるかと思います(ピックはいわばガロンの"良心"のような存在であり、「ガンダム」や『PLUTO』('03年/原作:浦沢直樹)に出てくる「モビルスーツ型ロボット」とはやや異なるかもしれないが)。

魔人ガロン 1.jpg ガロンはピックを求めて彷徨い、たまたま温泉旅行に行ったピック一行と初めて合流、浴衣を着て旅館内を歩くという愉快な場面もありますが(身長サイズは結構テキトーに拡縮している?)、一方でピックとはぐれて勝手に暴走することも結構多く、「鉄人28号」の前半部分の、リモコンが敵に渡ったり、正太郎の手に戻ってきたりすることが繰り返される状況と似ています。

 ある意味、「鉄人28号」などよりもずっと頻繁に暴走し、そうしたこともあってか、ラストではピックと共に大渦に巻き込まれて姿を消してしまうのがちょっと気の毒な気もしました。

 サンデーコミックス版はここまでで終わりですが、そうはならないで話が続いていく展開もあって、続きは手塚治虫漫画全集や文庫で読むことができます。但し、筆致がそれまでのものと明らかに異なることから、手塚治虫本人の筆によるものではないと考えられているようです。

 この「ガロン」は、後に『鉄腕アトム』『マグマ大使』にも登場して、主人公たちを窮地に陥れます。

アトム 対 ガロン編 4[.jpg【アトム 対 ガロン編】.jpg 『鉄腕アトム』の「アトム対ガロン」(1962(昭和37)年)では、冒頭で「スパイダー」なる"落書きキャラクター"が「ガロン」の紹介をし、本編ストーリーの方は、宇宙から部品が落ちてくるのは元ストーリーと同じですが、それが異星人同士の戦争の際の何かの間違いで落ちてきてしまったことになっていて、組み立て終わると雷に通電して甦り大暴れするというもので、ピッピは登場せず、ガロンは終始 "怪物"扱いです(その分、ロボットの哀しみを一身に背負っているとも言える)。
鉄腕アトム 《オリジナル版》 復刻大全集【アトム対ガロン編】』['10年]

 ここではガロンは惑星改造用に作られたロボットという設定で、重力の大きさを変える能力を持っており、アトムは手強い "怪物"ガロンを直接的に倒すのではなく、ガロンをけしかけその能力を発揮させてガロンがいる島の引力を小さくさせ、その結果ガロン自身が宇宙空間まで吹き飛ばされてしまうという「物理学的」結末でした。大渦に巻き込まれた次は、宇宙を彷徨うことになったわけで、ガロンがやや気の毒ですが、破壊されなかっただけマシと見るべきか?
 
【1960年単行本化[秋田書店]/1968年コミック版[秋田書店・サンデーコミックス]/1982年文庫化[講談社・手塚治虫漫画全集(1997年完結・全5巻)]/1995年文庫化[秋田文庫]/2000年再文庫化[秋田文庫(全3巻)]】

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美しく再現されたカラーページが懐かしい。もしかして「鉄人28号」より強いのではと...。

完全版「鉄のサムソン」.jpg鉄のサムソン1.jpg鉄のサムソン2.jpg鉄のサムソン - 完全版.jpg  横山光輝.jpg 横山光輝(1934-2004/享年69)
鉄のサムソン―完全版』(2010/04 小学館クリエイティブ)

復刻「鉄のサムソン」4巻セット.jpg 1962(昭和37)年から1964(昭和39)年にかけて小学館の学年誌「小学一年生」('62年1月号~'64年8月号)から持ち上がりで「小学四年生」まで連載された横山光輝(1934-2004/享年69)によるロボットSF漫画です。「鉄人28号」から「魔法使いサリー」まで幅広い創作活動をし、「三国志」など中国史モノにも強かった漫画家でした(『三国志』(全60巻)は全巻持っているのだが、なかなか再読できないでいる)。

 この「鉄のサムソン」は1991年に「アップルBOXクリエート」から復刻版(全4巻)が刊行されていたものの、とうに絶版となり入手困難となっていたところ、2010年に「小学館クリエイティブ」から第1部と第2部を復刻し、2冊を一函に収め、複製原画を付録につけた函入りの豪華限定版として刊行されました(同年には『鉄のサムソン』の後連載の『みどりの魔王』も復刻)。

 「完全版」というのは、(雑誌からではなく)原画から"完全再生"したことを指し、元のストーリー自体は「ガイタンクの巻」「第2部:サタン博士の巻」「第3部:海賊ロボットの巻」の通算32回の連載から成っています。

てつのサムソン.jpg 「サムソン」は「鉄人28号」と同様リモコンで少年に操られ、悪と戦う巨大ロボット。なぜその少年「のぼる君」がサムソンを操っているのかというと、近所のマッドサイエンティストから偶々サムソンを譲り受けたということで、完全に少年の個人所有物となっています(因みに「鉄人28号」は、太平洋戦争中に秘密兵器として開発されたものが、戦争が終結して使われずに眠っていたという設定)。まあ、この辺りはかなり緩い状況設定ですが(「鉄腕アトム」の生みの親・天馬博士もマッドサイエンティストと言えばそういうことになる)、動かない時のサムソンは野晒しになっていて何だか寂しそう。個人が格納庫を有するはずもありませんが、メンテナンスは大丈夫なのか? 「小学3年生」1968年8月号(連載第30回) 「てつのサムソン - 横山光輝「光ロボ」と昭和の操縦」より

鉄のサムソン―完全版2.jpg 本書は"完全"と謳うだけに原画から復刻したカラー部分が美しく再現されています。連載時は巻頭にカラーページがあった時と無かった時がありましたが、改めてカラーで見るとほれぼれします(価格も相応に高いけれど)。夕焼け空をびゅーんと飛んでいくサムソンを夢想した子供時代の記憶が甦ってきました。テレビアニメのイメージが浮かぶ「鉄人28号」に対し、こちらは雑誌漫画のイメージで(テレビアニメ化されなかった)、個人的に懐かしい作品です。

 「鉄人28号」の初出は月刊「少年」1956(昭和31)年7月号で、テレビアニメ「鉄人28号」は1963(昭和38)年から1965年まで全83話がフジテレビ系で放送されていますが、そうすると、「鉄のサムソン」の後半部分の連載時期は、「鉄人28号」のアニメ放映の前半部分と重なっていたことになります。「鉄人28号」も強いイメージはありますが、「鉄のサムソン」は自分より遥かに図体のデカい「ガイタンク」と戦って勝ったことで、もしかして「鉄人28号」より強いのではないかと思ったりもしていたことを思い出します。

アニメ 鉄人28号2.jpgアニメ 鉄人28号 1.jpg「鉄人28号」●演出:庵原和夫/渡辺米彦/山本功/若林忠雄/上金史朗/瀬古常時/河内功/松木功●脚本:岡本欣三/大野満男●音楽:越部信義(主題歌:西六郷少年合唱団(一部資料ではデューク・エイセス))●原作:横山光輝●出演(声):高橋和枝/矢田稔/富田耕生/久野四郎/加茂喜久/田畑明彦/安藤敏夫/高津杏子/梅屋かおる/浦野光/安田隆/白石冬美/はせさんじ/森山周一郎/永山一夫/藤本譲/兼本新吾/富山敬/坂本新兵●放映:1963/10~1965/05(全84回)●放送局:フジテレビ

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冷戦時代の裏切り行為に対する壮絶な復讐劇。制服警官から私服刑事になったゲイル。ジョーンズとの関係はどうなる?

バーナビー警部 69「スパイたちの秘密」dvd1.jpgバーナビー警部 69「スパイたちの秘密」dvd2.jpg バーナビー警部 69「スパイたちの秘密」01.jpg
Midsomer Murders: Season 12, Episode 3 Secrets and Spies(スパイたちの秘密)

SECRETS AND SPIES.jpg アレンビー・ハウスの当主フレーザー卿は、かつてMI6に所属し、ベルリンの壁崩壊以前に東ベルリンから西側へ逃亡者を送る作戦を指揮していた。そのチームには彼の息子ニッキーと妻ジェニーも入っていた。しかしフレーザー卿は現在は、自分の棺を用意したり、葬儀のリハーサルをするなどして家族に持て余されていた。フレーザー卿は、生活維持費のために、アレンビー・ハウスバーナビー警部 69「スパイたちの秘密」6.jpgをMI6のセイフ・ハウスとして提供することに了承する。そこへやってきたバーナビー警部 69「スパイたちの秘密」3.jpgラーキンは、フレイザー卿とも息子ニッキーとも反りの合わなかったが、その彼が、クリケットの試合の直後に死体で発見される。死体には、獣に噛まれたような痕があり、羊番のセスは「ミッドサマーの伝説」の復活をマスコミに吹聴する―。

バーナビー警部 69「スパイたちの秘密」4.jpg クリケットの試合が出てくるのは、このシリーズでは「第8話/不実の王(採石場にのろいの叫び)」('99年)以来で、その時はトロイ巡査部長が試合に出ましたが、今度はジョーンズ巡査部長が試合に出ています。一方のバーナビーも、ジョーンズに依頼されて審判をやることになってルールを猛勉強。「主任警部モース」シリーズの「第10話/欺かれた過去」('89年)でもクリケット・シーンがありましたが、モースが試合を見ているだけで、しかもそのうち居眠りしてしまうのとは対照的(一方のモースの部下ルイス巡査部長はプロ級の腕前を見せる)。

バーナビー警部 69「スパイたちの秘密」05.jpg クリケットの試合って、合間に「お茶とお菓子の時間」があるのが普通なのか。バーナビーがその際に妻ジョイスに、クリケットの審判は「神になれる」から楽しいと漏らした背景には、事件の方が情報機関の管轄になって捜査権を奪われてしまったことへの不満があったのでしバーナビー警部 69「スパイたちの秘密」2.jpgょう。そのバーナビーもかつてMI6に所属していたことをジョイスは初めてバーナビーから知らされますが、その彼女が読んでいる本が、John Le Carréのスパイ小説の古典"Tinker Tailor Soldier Spy"(邦題も『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』)で、2011年に「裏切りのサーカス」(英・独・仏合作)として映画化されており、ジョイスは映画化に合わせて原作を読んでいたのかも。

 事件は、冷戦時代の裏切り行為に対する壮絶な復讐劇だったわけで、考えてみれば随分と時間をかけた且つ手の込んだ復讐方法だったように思われますが、推理音痴の自分にとっては犯人の意外性はありました。プロローグをよく注意して見て考えれば、分からないことはないのですが...(妻ジェニー(アリス・クリーグ)の"スゴ技"って何だ?? )。
Alice Krige

バーナビー警部 69「スパイたちの秘密」03.jpg ジョーンズは同僚の女性警官ゲイル・スティーブンス(カースティ・ディロン)が念願叶ってDC(DC DITECTIV Constable=巡査)になったことを自らも喜んでいるけれど(因みにジョーンズ自身は第51話「呼ばれた殺人者」でDCからDS(DS DITECTIV Sergeant=巡査部長)に昇進しており、前々任のトロイはそのDS(番組表記はSgt.)からDI(DI DITECTIV Inspector=警部補)に昇進した。バーナビーは更にその1つ上のDCI(DCI DITECTIV Chief Inspector=警部))、いざ仕事となるとやりにくいのか、彼女を置いてきぼり気味。事件関係者の聞き込みの際に女性学芸員の甘い誘惑に乗らないところ(上)は彼らしいけれど、制服警官から私服刑事になってどんな服を着ればよいか迷っているスティーブンスの相談に対してもつれないです。
バーナビー警部 69「スパイたちの秘密」02.jpg 彼女からチームワークで仕事すべきだと言われ、防犯カメラの映像分析の仕事をさせると、彼女の方がそこから犯人の絞り込みに繋がるヒントを見つけ出し、逆に一歩遅れをとる(スティーブンスはその前には容疑者の情事が映っている場面を見て、男女の付き合いの長いことを断言し、男性らを絶句とさせている(左))―といった具合に、いいコンビと言えばいいコンビだし、お互い頭にくることもあると言えばそうとも言えます。バーナビーの娘カリーの結婚で「娘の恋愛」ネタが無くなった後は、このジョーンズとスティーブンスの「異性の同僚」ネタがしばらく続いており、男女ネタのサイドストーリーで視聴者を惹きつけるのが上手いなあと思いました(スティーブンスは制服姿の印象が強くて、彼女の私服姿を見慣れるのに時間がかかりそう)。

バーナビー警部 69「スパイたちの秘密」ロケ地.jpg「バーナビー警部(第69話)/スパイたちの秘密」●原題:MIDSOMER MURDERS:SECRETS AND SPIES●制作年:2009年●制作国:イギリス●本国上映:2009/06/29●監督:レニー・ライ●製作:ブライアン・トゥルー=メイ●脚本:マイケル・エイトケンス●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ジェイソン・ヒューズ/ジェーン・ワイマーク/バリー・ジャクソン/カースティ・ディロン/アリス・クリーグ●日本放映:2013/01/18●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

The cricket match was filmed at Wormsley Park, former home of Sir Paul Getty, where he built a replica of The Oval cricket ground, Kennington, London.

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プロット的には秀作だが、バーナビーの"ロック・マニア"ぶりがやや浮き気味。スージー・クワトロが懐かしかった。

バーナビー警部(第55話)/悲憤の刃 dvd.jpg バーナビー警部(第55話)/悲憤の刃 アックスマン.jpg バーナビー警部(第55話)/悲憤の刃 バーナビー1.jpg
Midsomer Murders: Season 10, Episode 4 The Axeman Cometh(悲憤の刃)

バーナビー警部(第55話)/悲憤の刃 感電.png ミッドサマーで野外ロックフェスティバルが開かれることになった。30年ぶりの再結成で注目を集める「ハイヤード・ガン」というバンドも出演予定だったが、このバンドは、メンバーの1人が30年前に事故に遭ったまバーナビー警部(第55話)/悲憤の刃 被害者.jpgま失踪していた。ロック・コンサートが始まり、ボーカルのミミ(スージー・クワトロ)が歌い出しマイクを握った途端、高圧電流が流れ彼女は感電死する。バンドリーダーのゲイリーは警察に、切り裂かれた豚や鳥の死骸を送り付けられる脅迫を受けていたことを明かす。やがて、バンドメンバーのアックスマンのバイクが爆破され、もう一人のメンバーのニッキーは車ごとプールに沈められた死体で見つかる―。

 バーナビーがこれほどのオールド・ロックファンだったなんバーナビー警部(第55話)/悲憤の刃 スージー・クアトロ.jpgて。これまでそんなこと、おくびにも出さなかったのに、今回はやけにはしゃぎ気味。アックスマンへの崇拝ぶりに、ジョーンズ巡査部長も、捜査に偏見が入るのではないかと心配するぐらいで、いつものバーナビーとかなり雰囲気が異なりました(個人的には、久しぶりに見るスージー・クワトロが懐かしかったが、歌い始めたと思ったらいきなり殺されてしまった...)。
Suzi Quatro

バーナビー警部(第55話)/悲憤の刃 カリー.jpg カリーがバンドのマネージャーのサイモンにたまたまイベント会場で足を踏んづけられて、お詫びに楽屋裏に出入りできるチケットを貰ったことから、二人の交際が始まります(サイモン君、ボートハウス暮らしかあ。カリーは誘われて中に入ったところで"OK"ということか)―これが、第60話「結婚狂想曲」で二人は結婚式を挙げることになるわけだから、男女の付き合いとは偶然によって始まるのものだなあと(足を踏んづけなければ二人の結婚は無かった?)。

バーナビー警部(第55話)/悲憤の刃 娘.jpg ストーリーは、随分と手の込んだ復讐劇だったなあという印象です。何のための復讐なのかは最後にならないと明かされませんが、アックスマン愛用のバイクが爆破されたというのは、ミスリードをさせるものでした(疑いを呈したジョーンズ巡査部長、いつもミスリードさせられる役回りなのに、今回は彼の方が侮れなかった。むしろ彼が正鵠を射ていたことの方が決定的なミスリード要因か?)。

バーナビー警部(第55話)/悲憤の刃 プール.jpg 車ごとプールに沈められたメンバーの殺人も、アリバイの作り方が大胆でした("映像の欺瞞"スレスレのところでやっているなあ)。フツー、人妻とベッドにいたことを娘に証言させるかねえ。まあ、それはたまたまそうなったわけだけど。それに、動物の死骸の送り付けによる脅迫も入り混じってややこしい。復讐劇がダブルで進行していたわけか。これはもう、犯人を当てるのは不可能という印象でした(スティーブン・セガール似の執事は禿だったのかあ)。

バーナビー警部(第55話)/悲憤の刃 バーナビー2.jpg ラストは、犯人の動機としては説得力がありましたが、バーナビーはどこで犯人が判ったのか(写真がヒントになったことは間違いないが)それがよく解りませんでした。バーナビーに疑惑を進言しながらも、結局はちんぷんかんぷんのジョーンズ巡査部長に対して、「ここで見ていれば解る」と最後は余裕綽々でしたが。

 プロット的には秀作エピソードと言っていいでしょうか。犯人のキャラクターも、豪放磊落な「表」の陰に繊細な「裏」があったのが意外。ただ、バーナビーのいきなりの"ロック・マニア"ぶりがやや浮いている印象でした。

バーナビー警部(第55話)/悲憤の刃 ロケ地.jpg「バーナビー警部(第55話)/悲憤の刃」●原題:MIDSOMER MURDERS:THE AXEMAN COMETH●制作年:2009年●制作国:イギリス●本国上映:2007/02/02●監督:レニー・ライ●製作:ブライアン・トゥルー=メイ●脚本:マイケル・エイトケンス●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ジェイソン・ヒューズ/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/スージー・クワトロ●日本放映:2011/02/25●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)
Midsomer Murders Locations - Rickmansworth,
Simon takes Cully on his canal boat here in 'The Axeman Cometh'

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分析・評価はスゴイことになっているが...。脇役2人(笠智衆・文谷千代子)の役柄が良かった。

風の中の牝鶏 [DVD].jpg風の中の牝雞 dvd.png  「風の中の牝雞」笠智衆 01.jpg 「風の中の牝雞」文谷千代子 01.jpg
風の中の牝鶏 [DVD]」「あの頃映画 松竹DVDコレクション 風の中の牝雞」笠智衆/文谷千代子

「風の中の牝雞」田中絹代.jpg 雨宮時子(田中絹代)は、夫・修一(佐野周二)が戦争に出征して外地へ赴いているため、健気にミシンを踏んで生計を立てていた。苦しい家計の毎日ではあるが、息子・浩の成長ぶりを夫に見てもらう日を心の支えにした生活であった。ある時、浩が病に倒れ入院して、まとまった金が必要になり、途方に暮れた時子は、いかがわしい安宿で見知らぬ男に身体を売ってしまう...。そして、やっと外地から戻った夫は、留守中の妻の真実を知ることになる―。

 小津安二郎監督による1948年の作品で、小津作品のベストテン・ランキングなどで意外と上位に来ることの多い作品です(特に、コアな小津映画ファンの間で評価が高い?)。

風の中の牝雞 02.jpg 当時は、戦争により外地で捕虜になっていた兵士が徐々に復員していたものの、シベリアなどに抑留されたままの人々も多く、また、国民皆保険制度が未整備だったため、こうした映画のような状況はあったかもしれません。ただ、時子が夫に事実を話したのが良かったのか。黙っていた方がいいよ、旦那が苦しむだけだからと言ってくれた友人(村田知英子)の意見の方が妥当のような気がしますが、まあ、隠し立て出来ない性分というのはあるのだろうなあと。

 むしろ、"過ち"を犯した時子をなかなか許せない修一に、時代を感じる部分もあります(果たして"過ち"と断じて良いものかというのもあるし、"不貞"という言葉さえも微妙)。修一は、日々、時子を非難罵倒し、彼女のとった行動を確認するため自宅から月島の曖昧宿に行き、そこで女将から時子のことを聞き出します。更に、部屋に呼んだ女・房子(文谷千代子)と話すうち、彼女が家族を養うために今の商売をしていると聞いて、女に金だけ渡して外へ出ます。そして、川原の空き地で再び出会った房子に、仕事を探してやるから堅気になれと言い聞かせます。

風の中の牝雞 01.jpg そんなこと、簡単に請け負っていいのかなと思ったら、会社の先輩同僚の佐竹(笠智衆)に相談したわけでした。自分の苛立つ気持ちを打ち明け、更に、見ず知らずの他人の採用のお願いまでして、頼りがいのある先輩なのだなあ、佐竹は。その佐竹が、「その女のことは許せて、奥さんのことは許せないのはおかしい」と修一を諭すのは至極真っ当に思えました。

 結局、頭では時子を許していると自らも分かっていても、感情がそれを許さないというのが修一の心境であり、帰宅すると、許しを請うてすがる時子を突き飛ばしてしまい、彼女は階段から転落する―。最後は、"雨降って地固まる"的な結末にばたばたと持って行った感じでしたが、個人的には、このスタントを使ってまでの「階段落とし」の場面は必要だったのか、やや疑問に思いました(少なくとも小津映画らしくないなあと)。

小津安二郎の芸術 朝日文庫.jpg この作品は、小津安二郎自身も失敗作だったと述懐していて、脚本家として初めて小津と組んだ野田高梧も演出に不満があったらしく、また、世間の評価もあまり高くなかったようです。ところが、映画評論家の佐藤忠男氏が『小津安二郎の芸術』('71年/朝日新聞社)で、これを「敗戦によって日本人が失ったもの」を描き出している作品とし、時子の失われた貞操を、日本人の精神的な純潔性の喪失の象徴と捉え、更には娼婦である房子を「敗戦で娼婦のごときものとなった日本人」の象徴とした上で、「しかしそれでも、空き地で弁当を食べる素朴さは保持しようではないか」(房子が川縁で弁当を食べるシーンがある)というのがこの作品のメッセージだとしたところから、この作品の再評価の機運は高まりました。
完本 小津安二郎の芸術 (朝日文庫)

風の中の牝雞.jpg 米国の批評家ジョーン・メレンは、時子は日本人の生活の優れた点を守るために身を売ったのだとして、この作品は日本人に、その優れた点、つまり占領によって汚されることのない日本人の生活の貴重なものを守るために、新しい社会を受け入れるべきだと語っているとし、その他にも、フランスの映画評論家ユベール・ニオグレの「戦後日本の道徳的雰囲気についての最も素晴しい要約の1つであり、小津作品の中で戦争の時代を締め括った後期作品に先立つ転回点としての作品でもある」との評価もあります。

 時子が曖昧宿に行ったことが、戦前と戦後の価値基準の転換点になっているなんて、何だか「スゴイ分析・評価」になっているなあという感じですが、脚本・演出・カメラなど作品の全体的な完成度からすると、この作品の翌年に作られた「晩春」の方が(小津・野田コンビが反省を踏まえたのか)上位にくるかと思います。

 田中絹代の演技が上手いのは確かですが、この映画で「役」としていいのは、笠智衆演じる主人公の同僚「佐竹」と(笠智衆はこの作品で、棒読みのようなセリフの言い回しを自分の「型」にしてしまったのではないか。生涯"大根"だったと評する人もいるが)、文谷千代子演じる娼婦「房子」で、この2人が修一に宥和する契風の中の牝鶏 笠・佐野.gif「風の中の牝雞」文谷千代子2.jpg機を与えたのは間違いないように思います。自分にとっては「脇役2人の役柄が良かった映画」というのが第一印象になるでしょうか。

[上左]妻の不貞を知って悩む修一(佐野周二・左)の相談に乗り、彼女を許すよう諭す同僚・佐竹(笠智衆・中央)/[上右]「曖昧宿」の窓辺に立って隣の小学校から流れる「夏は来ぬ」の歌声を聞く房子(文谷千代)

Kaze no naka no mendori (1948)
Kaze no naka no mendori  (1948).jpg「風の中の牝雞」●制作年:1947年●監督:村田知英子.jpg小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:83分●出演:田中絹代/佐野周二/村田知英子/笠智衆/坂本武/高松栄子/三井弘次/岡村文子/文谷千代子/水上令子/清水一郎●公開:1948/09●配給:松竹●最初に観た場所:ACTミニシアター(90-08-11)(評価:★★★☆)●併映:「東京の宿」(小津安二郎)
佐野周二/田中絹代

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今は突っ込み所の多さで楽しめるが、当時は50%の高視聴率。特撮に進化が見られる。

ナショナルキッド 1.jpgナショナルキッド vhs.jpg
「ナショナルキッド 第1部 インカ族の来襲」VHS 
ナショナルキッド インカ金星人.jpg 「ナショナルキッド」は、1960(昭和35)年8月から翌年4月まで日本教育テレビ(NET、現テレビ朝日)系で、毎週木曜日の18:15 - 18:45に放送されたナショナルキッド.jpg東映製作の実写番組で、第1部:「インカ族の来襲」(全13回)、第2部:「海底魔王ネルコン」(全9回)、第3部:「地底魔城」(全8回)、第4部:「謎の宇宙少年」(全9回)の全39回が放映され、この第1部:「インカ族の来襲」は'60年8月4日から10月27日まで放送されました。「月光仮面」などと同じく、TV版が先で、漫画はTVでのヒットを受けての漫画化です(「まぼろし探偵」は漫画が先)。
漫画「ナショナルキッド」一峰大二(原作:喜瀬川 実)昭和36年5月 ぼくら付録

ナショナルキッド02.jpg ヒーローが普段はそのことを隠して普通人として暮らしているのは、先行のTV番組「月光仮面」('58-'59年)、「まぼろし探偵」('59-'60年)(共にKRT(現TBS))などと同様ですが、月光仮面、まぼろし探偵が日常においては探偵であるのに対し、ナショナルキッドは、物故した世界的権威の科学者・旗博士の孫で、宇宙研究所所長を務めている青年・旗竜作が普段の姿という設定。しかし、実の正体は「3万光年彼方のアンドロメダからやってきたスーパーヒーロー」となっています(ここが、月光仮面、まぼろし探偵があくまでも"人間"であることとの大きな違い)。

ナショナルキッド 4.jpg 第1部の「インカ族の来襲」は、「地球人の無謀な核使用を止めさせるため」として、金星からインカ人が飛来、地球人を全滅させるために暗躍を始める―といった導入で始まりますが、ナショナルキッドは(どういう経緯か、既に第1回から"正義の味方"として大人にも子供にも認知済み)、金星どころか、3万光年彼方のアンドロメダ銀河からやってきたわけです。どこでそれが"旗博士の孫"という血縁関係になるのかよく分かりませんが、とにかく次元を超越する能力を持つということで、「3万光年の旅」に関してはあっという間だったのかも(但し、アンドロメダ銀河は実際には地球から約240万光年の距離に位置し、この辺りはややいい加減)。

 旗竜作が不意に現れた敵を追って草陰に飛び込んだかと思ったら、次の瞬間にはナショナルキッドに変身しているのも"光速技"でしょうか。いつも着替えを持ち歩いているのかと考えるのは"地球人"の野暮な発想なのでしょう。それでも、むしろ地球人としての服の方が"着替え"なのだろうかとか、つい色々考えてしまいます("光速"でズボンを脱ぐナショナルキッド?)。それぐらい、ウルトラマンやウルトラセブンに比べて身近に感じられる"宇宙人"です。

ナショナルキッド 2.jpg こちらが宇宙人ならば相手の金星インカ人も宇宙人であり(そうと言われないと宇宙人に見えない。「俺たちひょうきん族」のデビルマンのモデルか?)、金星インカ人が突然姿を消したり"壁抜け"したりすれば、ナショナルキッドも突然現れ"壁抜け"もこなす―これだけスゴイ能力を持っているのに、互いの格闘シーンは東映時代劇の殺陣みたいで、しかも「刀」ならぬ徒手空拳、「手刀」で相手と戦っているというのが微笑ましいです。互いに銃や火器も使いますが、相手に対する決定打にはならず、やはり毎回、後のナショナル劇場「水戸黄門」('69-'11年)に受け継がれたのではないかと思われるような大立ち回りになります。しかし、1話完結ではないので、金星インカ人たちは「今日は負けた、覚えとれ」と言って去っていく―「覚えとれ」という捨て台詞が、親日、親日本語の度合いの深さを物語っています。普通、宇宙人は使わないよ、こんな台詞―といった具合に、今は「突っ込み所」の多さで楽しめますが、当時は日本中の子供が観ていて視聴率は50%強、あの「鉄腕アトム」を抜いたそうです。

ナショナルキッド 小鳩・志村.jpgナショナルキッド 志村.jpg ナショナルキッドこと旗竜作を演じたのは小嶋一郎(第1、第2部)と巽秀太郎(第3、第4部)で、旗青年の助手・小畑尚子(通称チャコ)を志村妙子(当時16歳)が演じていますが、すでに堂々たる演技ぶりです。その前の「新・七色仮面」の最後の方に出ていた時は、本名の「太地喜和子」でクレジットされていましたが、ここでは太地喜和子ではなく「志村妙子」になっています。

「ナショナルキッド」18.jpg太地喜和子.jpg この「志村妙子」演じる尚子(チャコ)は、その演技力が買われたのか、自ら敵地に潜入したりするような積極的な役回りが次第に多くなり、第2部:「海底魔王ネルコン」(全9回)の第5話「尚子の死刑台」(通算第18話)では、潜入した先で敵に捕らえられ、電気のこぎりで頭から躰を真っ二つに切断されそうになる危機に見舞われたりしています。

志村妙子(太地喜和子)in「「ナショナルキッド」第2部:「海底魔王ネルコン」第5話 「尚子の死刑台」

阿久津克子(山田博士の娘)・本間千代子(水野博士の娘・良子)・野川美子(金星インカ人アウラ)
ナショナルキッド 阿久津・本間.jpgナショナルキッド アウラ.jpg「ナショナルキッド」アウラ.jpg この第1回には、本間千代子(当時15歳)が金星インカ人に洗脳される山田博士の娘役で出ているほか、女優陣では旗青年に力を貸す科学者・水野博士の娘・良子(よしこ)役で阿久津克子(当時19歳)が最初から出ており、更に回が進むと、インカ金星人の隊長アウラ役で野川美子もタイツ姿で出てきます。

室田日出男(航空管制官)/八名信夫(インカ金星人)
ナショナルキッド  室田.jpgナショナルキッド 八名信夫.jpg 男優陣では、室田日出男が航空管制官役でチョイ役出演、八名信夫.jpg八名信夫がインカ金星人の一人に扮しています。八名信夫は、東映フライヤーズ(現:日本ハム)に投手として入団したものの故障で現役を引退して役者に転じた人で、入団した球団の親会社が東映だったのが縁だったのではないかと思われます。

ナショナルキッド フルキャスト.jpg その他にも意外な俳優が出ていたりするようですが、クレジットに名前が殆ど出てこないので知りようがなく、そのことがマニアックなファンの間では探索ネタとなっているようです。

 個人的には、第1回から見られる戦闘機の飛行シーンなどの特撮は、テレビ番組としてはかなり水準が高いように思いました。その年の4月に創設されたばかりだった自衛隊の「ブルーインパルス」のアクロバット飛行の映像を組み入れたりもしているところは、局は異なりますが、「月光仮面」の戦車の走行シーンで、自衛隊の観閲式を映像に撮って織り交ぜたのと同じだなあと思ったけれど、特撮シーンと組み合わせつつ自然に見せている点に技術進化が窺えます。

ナショナルキッド03.jpg '14年現在DVD化されておらず(最初の頃は無かったけれど、途中から「明る~いナショナ~ル」のCMソングが入るようになったのが逆に仇になったのか?)、VHSで観ましたが、衛星放送「東映チャンネル」などでたまに放映されているようです(レア度で星半分オマケ)。

「ナショナルキッド(第1部:「インカ族の来襲」第1話)/謎の円盤来襲」●制作年:1960年●監督:赤坂長義●企画:佐藤正道/野坂和馬●脚本:谷井敬●撮影: 大島国正●音楽:深沢康雄●特撮監督:小池淳●原作:貴瀬川実●出演:小嶋一郎/志村妙子(太地喜和子)/斎藤紫香/阿久津克子/山口勇/宮下安夫/本間千代子/室田日出男●放送局:日本教育テレビ(NET、現テレビ朝日)●放送日:1960/08/04(評価:★★★☆)

ナショナルキッド 「インカ族の来襲」.jpg●「ナショナルキッド」(全4部・39話)放映ラインアップ
第1部:「インカ族の来襲」(1960/08/04~1960/10/27放送、全13回)
「ナショナルキッド」1話ラ.jpg 第1回 謎の円盤来襲
 第2回 ダブルZの恐怖
 第3回 大都会の戦慄
 第4回 恐怖の頭脳改造
 第5回 アヴィカの復讐
 第6回 危うしナショナルキッド
 第7回 ウラトン石の怪火
 第8回 スカウの恐るべき来襲
 第9回 一日だけの休日
 第10回 ベタルニヤSを探せ
 第11回 火焔銃α
 第12回 円盤総攻撃
 第13回 宇宙大戦争
         
第2部:「海底魔王ネルコン」(1960/11/03~1960/12/29放送、全9回)
 第1回 深海観測艇バチスカーフの遭難
ナショナルキッド 「海底魔王ネルコン」.jpg 第2回 怪魚シーラカンスの謎
「第5回 尚子の死刑台.jpg 第3回 真田博士の正体
 第4回 大臣襲撃計画
 第5回 尚子の死刑台
 第6回 旗竜作の危機
 第7回 太平洋標流記
 第8回 呪いの幽霊船
 第9回 海底火山大爆発

第3部:「地底魔城」(1961/01/05~1961/02/23放送、全8回)
 地底魔城 第1回
 地底魔城 第2回
 地底魔城 第3回
 地底魔城 第4回
 地底魔城 第5回
 地底魔城 第6回
 地底魔城 第7回
 地底魔城 第8回

第4部:「謎の宇宙少年」(1961/03/02~1961/04/27放送、全9回)
 謎の宇宙少年 第1回
 謎の宇宙少年 第2回
 謎の宇宙少年 第3回
 謎の宇宙少年 第4回
 謎の宇宙少年 第5回
 謎の宇宙少年 第6回
 謎の宇宙少年 第7回
 謎の宇宙少年 第8回
 謎の宇宙少年 第9回

ナショナルキッド1.jpgナショナルキッド2.jpg「ナショナルキッド」●監督:赤坂長義/小池淳/渡辺成男●脚本:谷井敬/宮川一郎●音楽:深沢康雄●原作:喜瀬川実/海野十三●出演:小嶋一郎/巽ナショナルキッド 出演者.png秀太郎/志村妙子(太地喜和子)/斎藤紫香/福島卓/木村英世/清水徹/岡田みどり/原一夫/亀井明/河合絃司/岩上瑛/山口勇/本間千代子/八名信夫/室田日出男/林宏●放ナショナルキッド  .jpg映:1960/08~1961/04(全39回)●放送局:日本教育テレビ(現テレビ朝日)

「ナショナルキッド」監督・小池淳(じゅん)氏インタビュー「ナショナルキッドうら話」
聞き手:池田憲章氏(フリーライター、編集者、プロデューサー)/花島優子氏

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平均視聴率40%、最高視聴率67.8%。低予算で作られた初期作品のテンポの緩さにレトロ感。

月光仮面 連続テレビ映画.jpg 月光仮面 vhs.jpg 月光仮面 バラダイ王国の秘宝編 dvd.jpg 月光仮面 DVD-BOX3 第2部 バラダイ王国の秘宝.jpg 月光仮面 DVD-BOX3 第2部 バラダイ王国の秘宝-後篇.jpg 
月光仮面 [VHS]」['99年](第二部 バラダイ王国の秘宝篇(全21話)第1話 姿なき殺人/第三部 マンモス・コング篇(全11話)第11話 悪は滅びる/第五部 その復讐に手を出すな篇(全14話) 第14話 天の裁きを収録「月光仮面 バラダイ王国の秘宝編 Disc1 [DVD] TVG-001」['06年]「月光仮面 DVD-BOX2 第2部 バラダイ王国の秘宝-前篇-」「月光仮面 DVD-BOX3 第2部 バラダイ王国の秘宝-後篇-」['08年] 

月光仮面 バラダイ王国の秘宝.jpg 滅亡したバラダイ王国の巨億の財宝の在り処を示す3つの「黄金の鍵」を得るため、王国に敵対したサタン一族の末裔「サタンの爪」が日本在住のアフナリカ・シャバナン殿下宅に押し入って殿下を殺害し、その1つを奪う。鍵の1つは既に「サタンの爪」が持っており、残る1つの在り処も知っているらしい。新聞でも事件は報じられたが、殿下の死は臥せられる。事件現場にいたお手伝いは、サタンの爪を見た恐怖から寝込んでしまい入院、祝探偵事務所の祝十郞(大瀬康一)らは警察と共に彼女から殿下がアルバムを大事にしていたと聞き出し、そのアルバムを調べてみると写真が1枚ない。そこにお手伝いの悲鳴が聞こえ、看護婦が「患者さんが大変です」と駆け込んでくる。祝らが慌てて病室に戻った時にはお手伝いは既に毒殺されていて、看護婦の姿は無かった―。

月光仮面.jpg 「月光仮面」は、KRT(現TBS)と宣弘社が制作し、1958(昭和33)年2月24日から1959(昭和34)7月5日まで放送されたテレビ冒険活劇で、第1部:「どくろ仮面篇」(71話)、第2部:「バラダイ王国の秘宝」(11話)、第3部:「マンモス・コング」(11話)、第4部:「幽霊党の逆襲」(13 話)、第5部:「その復讐に手を出すな」(14話)の全130話から成ります。第1部が放映回数が多く、そのは後減っているのは、第1部は「月金のベルト」で午後6時から10分番組として放映されていたものが第2部から日曜の午後6時からの30分番組となったためです(第3部の途中から午後7時のゴールデン・タイムにスライド)。劇画化もされましたが、あくまでTVの方が先です。
劇画「月光仮面」楠 高治(原作:川内康範)昭和35年7月 少年クラブ

月光仮面 祝十郎.jpg 原作は川内康範(1920-2008/享年88)、月光仮面(配役テロップの出演者のところで"月光仮面 ...?"と出る)の普段の姿である私立探偵・祝十郎は大瀬康一が演じ、その他に、祝探偵事務所の助手・袋五郎八、カボ子を谷幹一、久里千春(資料では日輪マコだが番組クレジットでは久里千春)らが演じています(シーズンによって配役が若干変動した)。

月光仮面  .jpg阿久悠2jpg.jpg 元々、前番組のスポンサーだった武田薬品が番組提供を降りるという話があり、広告代理店である宣弘社(現・電通アドギア)にとっては武田薬品の意向如何によらずその枠は"マストバイ"の状況となり、急遽プロダクションを設立し、番組制作にも乗り出したという経緯で(宣弘社は作詞家・阿久悠(1937-2007/享年70)が1959年の新卒入社から7年間コピーライターとして在籍した会社であり、「月光仮面」を製作していることが志望理由の1つだった)、結局、武田薬品は提供を継続したものの、製作費は超低予算に抑えられました。

月光仮面 大瀬康一.jpg 26歳の若手・船床定男(1932-1972/享年40)の監督への抜擢もそのためで、大瀬康一も当時は大部屋俳優。しかし、蓋を開ければ大人気番組となり、平均視聴率は40%、最高視聴率は67.8%(東京地区)を記録し、当初1クール(3ヵ月)で終わる予定が1年半続くことになりました。高視聴率は続いて「放送時間になると銭湯から子供たちの姿が消える」とまでも言われましたが、月光仮面のマネをして高所から飛び降りて怪我をする子供が相次いだために打ち切られたとのことです(一部では死者も出たとの話も)。大瀬康一は3年後に「隠密剣士」の主役に起用されます。

月光仮面 登場.jpg この第2部の最初あたりは、まだ低予算の影響が残っていて、室内シーンは宣弘社の社長の自宅を使ったりしたそうで、野外シーンもどこかの空き地で撮影したりしている感じで、月光仮面がコンクリート塀の脇から、それまでかくれんぼでもしていたかのように登場するといった緩いテンポ感です。これが第3部の「マンモス・コング」になるとテンポアップし、"身長15メートル"のコングが登場する関係からミニチュアを使った特殊撮影なども行われています(それでも、コングに対する自衛隊の出撃場面などは、自衛隊の観閲式や訓練に便乗して撮影するなどしたという。スタッフには節約癖が身についてしまっていた?)。作品の質としては後の方(第3部以降)がより洗練されているけれど、この第2部あたりのまったり感も悪くないと思います。

サタンの爪.jpg 「サタンの爪」(左写真)の容貌どくろ仮面.jpgは、とにかく顔がデカイという印象で、その上、第1部の「どくろ仮面」(右写真)とあまり変わり映えがしないのが可笑しいです。更に、その「サタンの爪」の名の由来である"爪"は、手袋に"付け爪"を張り付けただけのものに過ぎず、ここまでくると微笑ましい(?)。この「サタンの爪」は、殿下を襲う前に「黄金の鍵」の背景事情を視聴者に丁寧に説明してくれるし、月光仮面と出くわすごとに、お互いに相手を倒す機会であるのに、「いずれ決着をつける時が来るであろう」み川内康範.jpgたいな感じで先延ばししている―でも、これで、視聴者は「次回も観なくては」ということになっていったのだろなあ。川内康範って人は意外と長けたストーリーテラーだったのかもしれません。

川内康範 作詞家、脚本家、作家。(1920-2008/享年88)

 事件の推移を八卦見占いするカボ子にその「占い」の結果をマジで訊く五郎八、勝手に報道規制を敷いてしまう祝十郎(警察のコンサルタント的立場だからいいのか)、逃げた看護婦を(明らかに殺人犯なのに)誰も追わない警察、雨あられのように飛んでくる銃弾がかすりもしない月光仮面―と突っ込みどころ満載です(この"緩さ"にレトロ感が感じられて星半分オマケ)。

 こうなるとフィルムの保存状況が悪くて当初は映像ソフト化が難しいとされていた第1部「どくろ仮面篇」(デジタルリマスターの技術が進んでDVD化された)も観てみたくなりますが、第1部第1話「月光仮面現わる」はマスター・ネガが破棄されてしまって「幻の第1話」となっているとのこと。月光仮面:「バラダイ王国の秘宝」.jpgCSチャンネル「ファミリー劇場」でシリーズが再放映された際に、他話月光仮面第2部 バラダイ王国の秘宝.jpgからのカットや挿絵を組み合わせて、第1話を再現制作し(制作会社は東北新社)、吹き替えは大瀬康一が実際にアフレコを担当しましたが、53年の年月差は大きすぎるように思われ、「幻」は幻のままでいいような気もします。

「月光仮面(第2部:「バラダイ王国の秘宝」第1話)/姿なき殺人」●制作年:1958年●監督:船床定男●企画:小林利雄●脚本:川内康範●音楽:小川寛興●出演:大瀬康一/谷幹一/日吉よしやす/千葉隆三/久里千春/山田のり子/玉島精二/小川純/赤尾関三蔵/オレンジ河野●放送局:KRT(現TBS)●放送日:1958/05/25(評価:★★★☆)
月光仮面第2部 バラダイ王国の秘宝(3枚組) [DVD]」(2016/04)

月光仮面1.jpg月光仮面2.jpg「月光仮面」●演出:船床定男●制作:西村俊一●脚本:川内康範●音楽:小川寛興●原作:川内康範●出演:大瀬康一/谷幹一/布地由紀江/千葉隆三/高塔正康/日吉としやす/山田のり子/武藤英司/大塚周夫/十朱三郎/オレンヂ河野/小川純/高塔正康/久野四郎/河野有紀/小栗一也/高木新平●放映:1958/02~1959/07(全130回)●放送局:KRT(現TBS)

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その知らざれざる素顔。三島文学と言うより三島自身に関心がある人にはたいへん興味深い本。

呵呵大将 我が友、三島由紀夫.jpg呵呵大将: 我が友、三島由紀夫』(2013/11 新潮社)三島由紀夫 2.jpg 三島由紀夫(1925-1970)

竹邑類.jpg 昨年('13年)12月11日に脂腺がんのため71歳で亡くなった演出家、振付家の竹邑類(たけむら・るい、1942-2013)による三島由紀夫(1925-1970)との交友録で、'13年11月25日刊行であるため、本書刊行後ひと月もしないうちに著者は亡くなったことになります。三島由紀夫の知らざれざる素顔が窺えて、三島文学と言うより三島由紀夫自身に関心がある人には、たいへん興味深い本ではないでしょうか。

 以前にある作家が、三島由紀夫を偶然レストランで見かけた時のことを書いていましたが、その周囲を寄せ付けないような、他人に隙を見せない張りつめた雰囲気に、「あれを維持するのはさぞ疲れるだろなあ」と思ったといったようなことを書いていました(吉行淳之介だったと思う)。しかし、本書に出てくる三島由紀夫は、子供のように無邪気且つ何事にも好奇心旺盛で、また、「呵呵大笑」に懸けたタイトルの如く、豪放磊落に笑っています。

 著者と三島由紀夫との出会いは、新宿2丁目にあったジャズ喫茶「KIIYO」で、年代はいちいち記されていませんが、著者は二十代そこそこで、三島は三十代後半だったと思われます。「凮月堂」(喫茶店)、「アートシアター新宿文化劇場」(映画館)といった60年代のアンダーグラウンド芸術家の拠点が出てきます。そんな当時の大人の"常識人"の眼から見れば妖しげな場所へ、大作家の三島由紀夫が出没して、若い芸術家の卵たちと交流していたというのが面白いし、また、その様子が愉快に描かれています。

蠍座 右は新宿文化支配人葛井氏、左は三島由紀夫.jpg そうした交流を三島自身も愉しみながら、その一方で、「月」(新潮文庫『花ざかりの森・憂国―自選短編集』所収)や「葡萄パン」(新潮文庫『真夏の死―自選短編集』所収)といった短編作品の素材にもしていて、三島が自ら「新宿ビート族」と名付けたそうした若者たちとの触れ合いには、取材的側面もあったのかもしれません。

「蠍座」前。三島由紀夫と新宿文化支配人・葛井欣士郎

 でも、新宿文化劇場の地下にあったアンダーグラウンド劇場「蠍座」の命名主が三島由紀夫だったということからも窺えるように、そうした当時のサブカルチャー的なものの中に、三島自身、少なからず惹かれるものがあったのかも。三島のサブカルチャーに対する視点と作品の関係については、「戦後〈ユース・サブカルチャーズ〉への一視点 : 三島由紀夫「月」「葡萄パン」論」(中元さおり氏)がウェブで公開されていました。 

 60年代後半は、著者も舞台の仕事が増えて、三島との直接交流の機会は少なくなっていったようですが、連絡は取り合っていたようです。「蠍座」のオープンが'67(昭和42)年、本書の中にある、三島由紀夫が聖セバスチャンに扮して篠山紀信のカメラの被写体となったのが'68(昭和43)年、著者に三島から電話があり、制服がカッコいいから見にこいと言われた「楯の会」も'68年に結成されており、それからしばらくして著者は三島の自決('70(昭和45)年)の報に接することになります。まさに、多くの人々の目の前を、慌ただしく駆け抜けていったのが三島由紀夫だったのだなあと。

淀川長治.jpg 故・淀川長治は、三島由紀夫について、「あの人の持っている赤ちゃん精神。これが多くの人たちに三島さんが愛される最大の理由」だと述べていますが、本書を読んで、淀川長治の炯眼を再認識しました。淀川長治は、三島が当時映画界でしかその名を知られていなかった自分対し、初対面できちんと敬意を持って対応してくれたことに感激したようですが、著者が17歳年上の三島を「我が友」と呼ぶところにも、三島の分け隔てをしない人との付き合い方が窺われます。

 また、著者は三島家と家族ぐるみの付き合いがあり、「家庭の幸福は文学の敵」と標榜していた三島ですが(自分が嫌う太宰治とは、この考え方においては自分も同意見であることを自認していた)、実際には、瑶子夫人との間に非常に良い夫婦関係、信頼関係にあったことが窺えたのも興味深かったです。

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問題提起の鋭さ、描写・技法の巧みさ、余韻の重さなど、ここ数年に刊行されて読んだ小説の中でベストワン作品。
1『沈黙の町で』.jpg『沈黙の町で』 奥田英朗  2.bmp 『沈黙の町で』 奥田英朗.jpg
沈黙の町で』(2013/02 朝日新聞出版)

 中学校の部室棟の屋根に隣接している木の下の側溝で、呉服店の一人息子でその学校の2年生の名倉祐一が、頭部から血を流して死亡しているのが発見される。警察は、事故、自殺の両面で捜査を開始するが、名倉の背中に20数ヶ所の内出血の痕があったことから、いじめにあっていたことが疑われた。警察は、名倉が所属していたテニス部と2年B組を中心に事情聴取を始める。そして、名倉の死もいじめによって校舎の屋根から木へ飛び移ることを強要されたことによるものと推理し、主に名倉をいじめていたとされる、名倉と同じテニス部の14歳の藤田一輝と坂井瑛介を傷害容疑で逮捕し、同じクラスの市川健太と金子修斗を13歳であることから児童相談所へ補導する―。

 2011年5月から2012年7月まで朝日新聞に連載された長編小説で、折しも連載終了月の'12年7月になって、前年10月に滋賀県大津市で発生した中学生自殺事件が、突然マスメディアで連日のように取り上げられる事態となりました。個人的には単行本になってから読みましたが、読んでいる途中から、ここ数年に刊行されて読んだ小説の中では「ベストワン」作品になりそうな予感がし、実際にそうなりました。

 名倉少年の死を巡って動揺する家族たちや学校関係者及び同級生、取り調べ担当の警察や検察官、事件を取材する新聞記者らの心理や行動を丁寧に描き分けていて、とりわけ、「加害者」側、「被害者」側に連なる大人たちが、それぞれ自分たちに都合のいいように「真実」を捏ね繰り上げていく様子(或いは、犯人捜しをする様子)の描かれ方にリアリティがありました。

 逮捕・補導された中学生4人は、大人たちに真相を語らない―と言うより、事件の重さに加え、大人たちの周章狼狽ぶりに更に事の重大さを感じて、語ろうと思っても語れないし、大人たちも、勝手に内心で決めつけ的な憶測をするばかりで、それを公には語ろうとしない―そうした様が「沈黙の町で」というタイトルに表象されています。

 そして、名倉少年の死を巡るこうした動きと交互して、事件前の名倉の周辺の状況が描かれています。但し、そこでも、名倉少年自身は殆ど何も語っておらず、彼を取り巻く状況のみが綴られています。そのため、最初はどうしてこうした描写が入るのかとやや違和感を覚えましたが、実はこの部分が、読者を名倉少年の死の真相に導くプロセスとなっていたわけでした。こうしたフラッシュバック的な手法は同作者の『オリンピックの身代金』でも見られましたが、本作では「ミステリ」における謎解きのような役割を果たしていて、こちらの方がずっと効果的に使われているように思います。

『沈黙の町で』.JPG また、これらを通して徐々に明らかになっていくのは、亡くなった名倉少年が、単純に「可哀そうな」「一方的な」被害者だったという訳ではなく、弱者に対してはいばり(名倉家は裕福な家庭だった)、強者に対してはへつらうといった性格の持ち主であり、更に、母親が昔流産した兄弟を「脳内兄弟」として蘇らせ、彼らと「会話を交わす」妄想癖もあるという、周囲から嫌われたり、気色悪く思われたりする要素を自ら孕んだ少年であったということです。

 一方で、名倉をいじめたグループの「主犯格」とされた健太は、むしろ、名倉のことを気遣ったりもしていて、しかし一方で彼は、グループのリーダーとして名倉をいじめ続ける立場に留まらざるを得ず、一方の名倉も、いじめられることによってその存在を認知されているフシもあって、自らそうした状況から脱しようとはしていないという、名倉と健太やいじめグループとの微妙な関係も浮き彫りになってきます。

 いじめる側は、出来上がった力関係の上に乗っかり、それに流されるような形で慢性的にいじめを続け、いじめられる側も、そうした状況を積極的に脱しようとはせず、むしろ、いじめグループから命令されたことを実行することに専念する(その一方で、平気でいじめグループを裏切ったりもする)という、複雑に入り組み歪んだ構図が丁寧に描かれているのが、従来のいじめを題材とした小説における「加害者」「被害者」という画一的な描かれ方とは大きく異なる点ではないかと思います。

 とりわけ、自身は殆ど何も語っていない名倉少年の、状況を積極的に改善するのではなく"甘受"し、一方で、傍目から見ると平気で人を傷つけたりもしているように見える行動パターンは、いじめの対象になりがちな"発達障害"児童の類型の一つを描いて秀逸であると思われました(本書のどこにも"高機能広汎性発達障害"とか"アスペルガー症候群"といった言葉は出てこないのだが)。いじめられている側が自らは被害を申し出ることなく、周囲からはむしろ問題児視されていたりすることは、現実にも結構ありそうな気がします。

 この作品は、宮部みゆき氏の『ソロモンの偽証』('12年)とよく比較され、巷ではどちらが上かと論じられているようですが、この『沈黙の町で』は「純粋ミステリ」ではないと思います。但し、名倉少年の死の真相が明かされる過程では「ミステリ」の手法を用いていて、非常に重いテーマを扱いながらも、サスペンスフルなエンタテインメント性も内包し、効果的に読む者を惹きつけているように思いました。

 その割には結末に《カタルシス不全》を覚えたという人が意外と多くいるのは、最後まで「純粋ミステリ」に近い読み方をしまったからではないでしょうか。個人的には、読み始めてすぐ「これはミステリではない」と思ったのですが...。或いは、いじめた側がきちんと罰せられていないことに不満を覚えた人も多いようです。これも、元々、そうした意図の下に書かれた作品ではないと思うのですが...。

 学校内でのいじめをモチーフとして点では『ソロモンの偽証』とよく似ていますが(被害者が単に「可哀そうな」被害者とは言い切れない点も似ている)、テーマ的にはどちらかと言うと、吉田修一氏の『悪人』('07年)に近いように思います(これも結構「誤読」されていている作品ではないか。何が「誤読」かという問題はあるが)。"悪人"を探し出して罰することで、起きた事の全てを理解したかのような錯覚に陥る(乃至は"安心感"を得ようとする)というのが「世間」であり「普通の人々」だが、真相は必ずしもそう単純なものではないという点で。

沈黙の町で2.JPG 結末で読者に対して明かされた名倉少年の死の真相は、やがて少年たちが事実と向かい合えるようになった時、彼らの口から語られ、公になることが示唆されているように思われました。しかし、一方で、名倉少年の背中に20数ヶ所あった内出血の痕は、その全てがいじめグループの少年たちによるものではなく、クラス内の女子生徒たちが名倉少年をいたぶったことによるものが多かった―この事実は読者にしか明かされておらず、物語の中では、永遠の闇に葬られることになるのでしょう。鋭い「問題提起」があり、描写や技法の「巧みさ」にも感服させられる一方で、そうしたことを思うと、ますます重苦しい余韻が残る作品でした。

【2016年文庫化[朝日文庫]】

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ただただスッキリしないまま終わったという印象。

『ソロモンの偽証 第Ⅲ部 法廷』.jpg ソロモンの偽証 法廷.jpg  『ソロモンの偽証 bunko.jpg
ソロモンの偽証 第III部 法廷』(2012/10 新潮社)『ソロモンの偽証 全6巻 新潮文庫 [Jan 01, 2014]

ソロモンの偽証_0181.JPG 8月15日。遂に開廷日となり、5日間にわたる裁判が始まった。柏木卓也の家族、警察、不明だった告発状の差出人をはじめとする様々な証人が登場し、事件の謎の解明は二転三転する。同時に、生前の柏木卓也像がどんどん浮き彫りになる。しかし、最後の、あまりにも意外すぎる証人の登場に、法廷は震撼した。この裁判は仕組まれていたのか―。証人の口から明かされる前年のクリスマスイブの知られざる状況とは―(新潮社サイトより)

 丁寧に書かれて分、第Ⅲ部もすらすらとは読めましたが、個人的には、ラストで"おーっ"と唸らされるか、意外とがっくりさせられるか、という期待と懸念の入り交じった気持ちで読み進む中、最後は少なからず後者の方が的中してしまったという印象でした。

 結局、この小説で一番"キャラ立ち"していたのは、本人自身は事件の真相を何も知らない三宅樹里だったかも。『名もなき毒』('06年/幻冬舎)に出てきた、他人を傷つけずにはおれない女性・原田いずみが、事件の本筋には関係ないのに一番目立っていたのを思い出しました。

 その三宅樹里の話を最後まで引っ張ったのは、彼女の偽証が、タイトルの「ソロモンの偽証」を指しているからなのでしょうか。それにしてはソロモンという賢者のイメージからは遠く、どうもスッキリしませんでした。そもそも、なぜ藤野涼子が、ウソだと分かっていて三宅樹里の話を正当化しようとしているのか、或いは、その証言に拠って立とうとしているのかが、自分にはよく分かりませんでした。

 タイトルに絡めたもう一つの読み方としては、大出俊次の弁護人となった他校生・神原和彦が証人の立場で語った話が(結局のところその内容がこの事件の謎解きとなっているわけだが)、それ自体 "偽証"である可能性も考えられるということでしょうか。それにしても、そもそも、最終的にその話をするならば、わざわざ大出俊次の「弁護人」を志願しなくとも、最初から「証人」になればいいのであって、それで大出俊次への容疑は晴れるわけだしなあ。

 深読みすれば、神原和彦が実は犯人で、「殺人」を「未必の故意」にすり替えるために、自らが最初から「証言」することを回避して、検察側に追及させることによって、作為的「真実」に辿り着かせる(ミスリードさせる)方法をとったのでしょうか。但し、必ずしもそうしたことを示唆するような作りにもなっていないし、やはりスッキリしません(むしろ、神原和彦の証言を皆が"素直に"「真実」と受け取った印象)。

 結局、芥川龍之介の「藪の中」(映画「羅生門」の原作)みたいな話だったということになるのかなあ。芥川の原作は、侍、妻、多襄丸の3人の内、誰が真実を語っているのかはまさに"藪の中"のまま終わるのに対し、黒澤明版は、侍(森雅之)、妻(京マチ子)、多襄丸(三船敏郎)の3人の証言の後、原作では冒頭で状況証拠しか語っていない杣売((そまふ)=木樵)(志村喬)を敢えてラストで再登場させて、真相はそうだったのかと思わせるようなことを喋らせているのだけれど(そのことにより古典を《現代的に翻案》し、且つ《原作より面白い作品》に仕上げているのが黒澤明のスゴイ点なのだが)、この『ソロモンの偽証』は、ただただスッキリしないまま終わったという印象でした。

【2014年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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