【2097】 △ 黒澤 明 (原作:富田常雄) 「姿三四郎 (1943/03 映画配給社(東宝)) ★★★

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非常に「劇画」っぽい感じ。シーンによっては黒澤の"原点"的雰囲気を醸している。

姿三四郎 ポスター.jpg姿三四郎【期間限定プライス版】.jpg 姿三四郎 1943 すすき野原の決闘.png
姿三四郎【期間限定プライス版】 [DVD]」(79分「短縮版」)

 明治15年、会津から柔術家を目指し上京してきた青年、姿三四郎(藤田進)は門馬三郎(小杉義男)率いる神明活殺流に入門。ところがこの日、門馬らは修道館柔道の矢野正五郎(大河内傳次郎)闇討ちを計画していた。近年めきめきと頭角を現し警視庁の武術指南役の座を争っていた修道館柔道を門馬はいまいましく思っていたのだ。ところが多人数で襲撃したにも関わらず、矢野たった一人に神明活姿三四郎 01.jpg殺流は全滅。その様に驚愕した三四郎はすぐさま矢野に弟子入りを志願した。やがて月日は流れ、三四郎は修道館門下の中でも最強の柔道家に育っていたが、街に出れば小競り合いからケンカを始めてしまう手の付けられない暴れん坊でもあった。そんな三四郎を師匠の矢野は「人間の道というものを分かっていない」と一喝。反発した三四郎は気概を示そうと庭の池にび込み死ぬと豪語するが矢野は取り合わない。兄弟子たちが心配する中意地を張っていた三四郎だが、凍える池の中から見た満月と泥池に咲いた蓮の花の美しさを目の当たりにした時、柔道家として、人間として本当の強さとは何かを悟ったのであった―。(Wikipediaより)

黒澤明.jpg 1943(昭和18)年に公開された黒澤明(1910-1998/享年88)の初監督作品で、当初、全長97分の作品として公開されましたが、公開翌年に電力節約のため1作品の上映時間が80分以下に制限され、関係者の知らないところでフィルムがカットされたとのこと。切断されたフィルムは行方不明となり、戦後1952(昭和27)年に再公開された作品は79分の短縮版で、その後出されたVHS、レーザーディスク、DVDは何れもこの短縮版でした。それが、行方不明になっていたカット部分の一部がソ連崩壊後のロシアで日本人によって発見され(満州にあったフィルムがソ連に資料として持ち去られていた)、2002年に91分の「最長版」DVDが発売されています(まだ6分の逸失部分があるため「完全版」ではない)。

 原作は富田常雄で、姿三四郎は会津藩出身の西郷四郎(NHK大河ドラマ「八重の桜」にも出てきた西郷頼母は養父)、矢野正五郎は嘉納治五郎(講道館柔の創始者)とそれぞれモデルがあり、1886(明治19)年の警視庁武術大会で講道館柔道が柔術諸派に勝ったことにより、講道館柔道が警視庁の正課科目として採用されというのも史実だそうです。

姿三四郎 桧垣.jpg 原作は読んでいませんが、映画の方は黒澤明のスタートがエンタテインメント作品であったことを改めて感じさせるとともに、戦争中によくまあこんな純粋娯楽映画と言ってよい作品を撮ったものだなあと思いました。非常に「劇画」っぽい感じで、この作品を"スポ根"映画と呼ぶ人もいて、三四郎に必殺技「山嵐」によって投げられた門馬が空を舞っていくところなどは、TVドラマ「柔道一直線」みたいでした(門馬はこれにより死んでしまうのだが)。柔術派である良移心当流の檜垣源之助(月形龍之介)の気障なキャラは、近藤正臣が演じた結城真吾に継承されたのか?

姿三四郎 小夜2.jpg ストーリーとしては、姿三四郎と良移心当流師範村井半助の娘・小夜(轟夕起子)とのラブロマンスを絡めてはいるものの、定番過ぎると言うかシンプル過ぎて逆にもの足りないですが(三四郎が試合に向けて特訓練習するシーンなどがカットされ、"気持ちの持ち様"だけでいきなり強くなった印象を与えてしまう)、師匠である山本嘉次郎(1902-1974)の演出を受け継ぎながらも、熊谷久虎(1904-1986)などの演出も参照し、更に泥池に咲いた蓮の花の美しさの見せ方などにおいて独自性を見せている点は興味深いです。とりわけ、ラストの三四郎と檜垣のすすき野原での対決シーンは、後の「用心棒」や「椿三十郎」に繋がる雰囲気を色濃く醸していて、その意味でも"原点"的作品ではあるかと思います。

姿三四郎 1943 志村喬.jpg姿三四郎 1943 志村喬・藤田進.jpg 良移心当流師範・村井半助を演じるのは志村喬。檜垣にロートル扱いされ、警視庁武術大会での三四郎との試合の前半部分は何だか2人でダンスを踊っているみたいだったけれど、三四郎に投げられて半ばダウン状態のところへ娘・小夜の声が被姿三四郎 1943 大河内.jpgって再度立ち上がろうとするところはさすがに痛々しかった...。

 この作品に出演した大河内傳次郎(左)、志村喬、藤田進とも、勧進帳をベースにした戦争末期の黒澤作品「虎の尾を踏む男達」('45年)、京大事件をモチーフにした終戦翌年の黒澤作品「わが青春に悔なし」('46年)にも3人揃って出演することになります。

藤田進.jpg藤田進 とがし.jpg藤田進 加藤隼戦闘隊 - コピー.jpg 藤田進(1912-1990)は撮影所の録音係から俳優になった人。山本嘉次郎監督の「加藤隼戦闘隊」('44年)にも加藤健夫中佐役で主演、「虎の尾を踏む男達」では富樫左衛門を演じています。50年代以降では、「地球防衛軍」('57年)、「モスラ対ゴジラ」('64年)、「宇宙大怪獣ドゴラ」('64年)といった東宝特撮映画に自衛隊の現場の指揮官役でよく出ていたほか、TⅤ番組「ウルトラセブン」でも地球防衛軍長官役で出演していました。

 終戦の翌月に完成した「虎の姿三四郎 三四郎.jpg尾を踏む男達」はGHQの検閲で内容に封建的な部分があるということで当時一般公開されず、この「姿三四郎」が戦後再公開されたのと同じ1952年に初めて劇場公開されています。作られた当時に公開されなかったのは不幸ですが、「完全版」が無いのも不幸と言えます。因みに、「最長版」は2002年発売の姿三四郎 1943 dvd 黒.jpg姿三四郎 1943 dvd 赤ラベル.pngDVD BOXSETに特典映像としてあるのみのようで、その後に発売されたDVDもブルーレイも79分の短縮版のままであるのはどうしてなのか(2010年に黒澤明生誕100年記念として日本映画専門チャンネルで「最長版」がテレビ初放映、同年に池袋・新文芸坐でも「最長版」が上映された)。

姿三四郎 [DVD]」(79分「短縮版」)
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藤田進と轟夕起子/志村喬と藤田進
姿三四郎 藤田進と轟夕起子.jpg姿三四郎 志村喬藤田進.jpg「姿三四郎」●制作年:1943年●監督・脚本:黒澤明●企画:松崎啓次●撮影:三村明●音楽:鈴木静一●時間:79分(97分)●出演:大河内傳次郎/藤田進/轟夕起子/花井蘭子/月形龍之介/志村喬/青山杉作/菅井一郎/小杉義男/高堂国典/瀬川路三轟 夕起子1937.jpgSayo_and_sugata.jpg郎/河野秋武/清川荘司/三田国夫/中村彰/坂内永三郎/山室耕●公開:1943/03●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(10-09-11)●配給:映画配給社(東宝)(評価:★★★)

轟夕起子/藤田進


轟夕起子(1937(昭和12)年:雑誌「映画之友」八月号)
   

       
                                                                 
柔道一直線 dvd.jpg柔道一直線.jpg「柔道一直線」●監督:小林恒夫/富田義治/折田至/奥中惇夫/田口勝彦/山田稔/近藤一美●企画:平山亨/斉藤頼照/橋本洋二●脚本:佐々木守/上原正三/雪室俊一/高橋辰雄/細川すみ●音楽:みぞかみひでお●原作:梶原一騎●出演:桜木健一/高松英郎/牧冬吉/吉沢京子/青木和子/藤江喜幸/名古屋章/岸田森/近藤正臣●放映:1969/06~1971/04(全92回)●放送局:TBS
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松田優作(柔道部員の一人)当時19歳
「柔道一直線」松田.jpg 
                            

●黒澤明フィルモグラフィー
公 開 年  作 品 名 (制作(配給)) 脚本 主な出演
1943年  姿三四郎(東宝)黒澤明 大河内傳次郎、藤田進、轟夕起子、花井蘭子、月形龍之介、志村喬
1944年  一番美しく(東宝)黒澤明 志村喬、清川荘司、入江たか子、矢口陽子、萬代峰子
1945年  續姿三四郎(東宝)黒澤明 藤田進、轟夕起子、河野秋武、月形龍之介、大河内伝次郎、清川荘司
1945年  虎の尾を踏む男達(東宝)黒澤明 大河内傳次郎、藤田進、轟夕起子、花井蘭子、月形龍之介、志村喬
1946年  わが青春に悔なし(東宝)久板栄二郎 志村喬、清川荘司、入江たか子、矢口陽子、萬代峰子
1947年  素晴らしき日曜日(東宝)植草圭之助 藤田進、轟夕起子、河野秋武、月形龍之介、大河内伝次郎
1948年  醉いどれ天使(東宝)植草圭之助、黒澤明 志村喬、三船敏郎、木暮実千代、久我美子、山本礼三郎
1949年  静かなる決闘(大映)黒澤明、谷口千吉 三船敏郎、三條美紀、志村喬、千石規子、中北千枝子
1949年  野良犬(新東宝=映画芸術協会)黒澤明、菊島隆三 三船敏郎、志村喬、木村功、山本礼三郎、淡路恵子
1950年  醜聞(松竹=映画芸術協会)黒澤明、菊島隆三 三船敏郎、山口淑子、志村喬、桂木洋子、北林谷栄、千秋実
1950年  羅生門(大映)黒澤明、橋本忍  三船敏郎、京マチ子、志村喬、森雅之、千秋実、上田吉二郎
1951年  白痴(松竹)久板栄二郎、黒澤明 原節子、森雅之、三船敏郎、久我美子、志村喬、千秋実、岸惠子
1952年  生きる(東宝)黒澤明、橋本忍、小国英雄 志村喬、日守新一、千秋実、小田切みき、田中春男、伊藤雄之助
1954年  七人の侍(東宝)黒澤明、橋本忍、小国英雄 志村喬、三船敏郎、木村功、稲葉義男、加東大介、千秋実
1955年  生きものの記録(東宝)橋本忍、小国英雄、黒澤明 三船敏郎、志村喬、青山京子、東郷晴子、千秋実
1957年  蜘蛛巣城(東宝)小国英雄、橋本忍、菊島隆三、黒澤明 三船敏郎、山田五十鈴、志村喬、久保明、千秋実
1957年  どん底(東宝)小国英雄、黒澤明 三船敏郎、山田五十鈴、香川京子、千秋実、上田吉二郎、藤原釜足
1958年  隠し砦の三悪人(東宝)菊島隆三、小国英雄、橋本忍、黒澤明 三船敏郎、千秋実、藤田進、藤原釜足
1960年  悪い奴ほどよく眠る(東宝=黒澤プロ)小国英雄、久板栄二郎、黒澤明、菊島隆三、橋本忍 三船敏郎、香川京子、三橋達也、森雅之、志村喬、西村晃、藤原釜足、加藤武、笠智衆
1961年  用心棒(東宝=黒澤プロ)菊島隆三、黒澤明 三船敏郎、仲代達矢、司葉子、加東大介、山茶花究、河津清三郎、山田五十鈴、東野英治郎
1962年  椿三十郎(東宝=黒澤プロ)菊島隆三、小国英雄、黒澤明 三船敏郎、仲代達矢、小林桂樹、加山雄三、団令子、志村喬、藤原釜足、清水将夫
1963年  天国と地獄(東宝=黒澤プロ)小国英雄、菊島隆三、久板栄二郎、黒澤明 三船敏郎、仲代達矢、香川京子、三橋達也、石山健二郎、木村功、加藤武、志村喬、山崎努
1965年  赤ひげ(東宝=黒澤プロ)井手雅人、小国英雄、菊島隆三、黒澤明 三船敏郎、加山雄三、山崎努、団令子、香川京子、桑野みゆき、二木てるみ
1970年  どですかでん(四騎の会=東宝)黒澤明、小國英雄、橋本忍 頭師佳孝、菅井きん、三波伸介、伴淳三郎、芥川比呂志、奈良岡朋子、加藤和夫
1975年  デルス・ウザーラ(モスフィルム)黒澤明、ユーリー・ナギービン ユーリー・サローミン、マキシム・ムンズーク、シュメイクル・チョクモロフ
1980年  影武者(東宝=黒澤プロ)黒澤明、井手雅人 仲代達矢、山崎努、隆大介、萩原健一、根津甚八、大滝秀治、油井昌由樹、桃井かおり、倍賞美津子 
1985年  乱(グニッチ・フィルム=ヘラルド・エース)黒澤明、井手雅人 仲代達矢、寺尾聰、隆大介、根津甚八、原田美枝子、宮崎美子、野村萬斎、井川比佐志、ピーター
1990年  夢(黒澤プロ)黒澤明 寺尾聰、倍賞美津子、原田美枝子、井川比佐志、いかりや長介、伊崎充則、笠智衆、頭師佳孝、根岸季衣
1991年  八月の狂詩曲(黒澤プロ=フィーチャーフィルムエンタープライズII) 黒澤明 村瀬幸子、吉岡秀隆、大寶智子、茅島成美
1993年  まあだだよ(大映=電通=黒澤プロ)黒澤明 松村達雄、香川京子、井川比佐志、所ジョージ、油井昌由樹、寺尾聰

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This page contains a single entry by wada published on 2014年2月26日 00:10.

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