【2073】 ○ 池井戸 潤 『ロスジェネの逆襲 (2012/06 ダイヤモンド社) ★★★★

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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「半沢直樹(2020年版)」)

M&Aを素材とした分かり易い逆転劇。元々「劇画」を小説にしたような話なのでこれで良しか。

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ロスジェネの逆襲』['12年]/『ロスジェネの逆襲 (文春文庫)』['15年]/『半沢直樹 3 ロスジェネの逆襲 (講談社文庫)』['19年] 「半沢直樹(2020年版)」市川猿之助/堺雅人

 2004年、銀行の系列子会社で業績は鳴かず飛ばずの東京セントラル証券に、IT企業の雄「電脳雑伎集団」の平山社長から、ライバルの「東京スパイラル」を買収したいとの相談があった。アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるチャンスだったが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍が入る。責任を問われて窮地に陥った半沢直樹は、部下の森山雅弘とともに、驚くべき秘策に出る―。

 テレビドラマでお馴染みになった半沢直樹が主人公の物語の『オレたちバブル入行組』('04年/文藝春秋)、『オレたち花のバブル組』('08年/文藝春秋)に続くシリーズ第3作で、「週刊ダイヤモンド」2010年8月7日号から2011年10月1日号にかけて連載されたもの。今回は、半沢は東京中央銀行から東京セントラル証券に企画部長として出向中の身であり、出向元の東京中央銀行に対抗する形で「東京スパイラル」の買収防衛に関与します。

 既に「フォックス」という会社が「東京スパイラル」のホワイトナイトを名乗り出ていましたが、これら全てが「東京スパイラル」買収のために東京中央銀行が練った偽装スキームだった―半沢はそれを見破っただけでなく、「東京スパイラル」の瀬名社長を通じて「フォックス」に逆買収をかける、所謂「倍返し」に出るという、分かり易い逆転劇で、カタルシス効果は大です。

 部下の森山が「東京スパイラル」の瀬名社長と幼馴染だったとか、「フォックス」の海外子会社に「東京スパイラル」が新たなビジネスモデルを展開する上での非常にプラスになるノウハウが隠されていたとか、かなりご都合主義的なところはありますが、元々「劇画」を小説にしたような物語なので、これでいいのではないかと思います。

 ここにきて、ますますエンタテイメントのツボを押さえている感じで、分かり易くて、話の展開に無駄がありません。但し、M&Aにおける比較的常識的な規制等が、あたかも新たに露呈した事実のように描かれているのは、やや違和感もありました。

 特定のモデルは無いように思いましたが、IT企業「電脳雑伎集団」の粉飾決算を半沢が見破るに至って、そう言えば、カバーに六本木ヒルズが描かれていたなあと。

 『オレたちバブル入行組』、『オレたち花のバブル組』と続けて読み、ドラマも観てややお腹一杯という感じで、この作品もドラマ化が決定してからでも読めばいいと思っていましたが、シリーズ4作目『銀翼のイカロス』の連載が「週刊ダイヤモンド」で始まっていることもあって、じゃあ読んじゃおうかという流れでした。

 『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』はほぼリフレイン構造になっていたのに対し、本作はM&Aという新たなモチーフであったために、これはこれで思った以上に楽しめました。

【2015年文庫化[文春文庫]/2019年再文庫化[講談社文庫(『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』)]】

《読書MEMO》 
「半沢直樹」半沢 大和田 伊佐山.jpg「半沢直樹」半沢 伊佐山.jpg「半沢直樹」半沢&大和田.jpg ●2020年ドラマ化(「半沢直樹(2020年版)」)【感想】 2013年版の続編となっており、前半4話が『ロスジェネの逆襲』をもとにしたもので、後半が航空会社を舞台とした『銀翼のイカロス』が原作。『ロスジェネの逆襲』で半沢の敵役となる、かつての大和田常務の子飼いで東京中央銀行・証券営業部長の伊佐山は身長190㎝の大男だったはずだが、身長171㎝の市川猿之助が演じた。ただし、平取(ひらとり)に降格になった大和田常務を演じた香川照之に負けない「顔芸」をみせていた。その原作『ロスジェネの逆襲』にはもう出てこない大和田がドラマ版では再登場して、自分を見限った伊佐山に対して...と原作とはやや違った展開だったが、これはこれで「先は読「半沢直樹」3話.jpgめるけれどプロセスは読めない」という意味でよかったのではないか。尾上松也、片岡愛之助とほかにも歌舞伎役者が出ているが、とりわけ香川照之、市川猿之助「半沢直樹」柄本.jpgの「顔芸」はこうした"劇画"調の「現代の時代劇」的ドラマと相性がいいのかもしれないと思った(片岡愛之助や進政党幹事長役の柄本明も含め「顔芸」合戦の様相を呈していた(笑))。

柄本明(進政党幹事長・箕部啓治)


「半沢直樹」2020.jpg「半沢直樹」●演出:福澤克雄/田中健太/松木彩●脚本:丑尾健太郎●原作:池井戸潤「ロスジェネの逆襲」「銀翼のイカロス」●出演:堺雅人/香川照之/市川猿之助/尾上松也/賀来賢人/及川光博/古田新太/益岡徹/片岡愛之助/上戸彩/今田美桜/池田成志/角田晃広/土田英生/南野陽子/山崎銀之丞/戸次重幸/井川遥/筒井道隆/江口のりこ/柄本明/児嶋一哉/段田安則/柄本明/山西惇/鈴木壮麻/粟根まこと/八十田勇一/大鷹明良/夏目三久/井川遥/石黒賢/木場勝己/北大路欣也(特別出演)●放映:2020/07/19~9/27(全10回)●放送局:TBS    

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