【2071】 ○ 奥田 英朗 『家日和 (2007/04 集英社) ★★★☆

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さらっと読めてくすっと笑える様々な「夫婦の位相」。ややもの足りない?

奥田 英朗 『家日和』単行本.jpg家日和』 奥田 英朗 『家日和』 文庫.jpg奥田 英朗 『家日和』2.jpg家日和 (集英社文庫)

 2007(平成19)年度・第20回「柴田錬三郎賞」受賞作。

 初めてのインターネットオークションで落札者から「非常に良い」の評価を受けた喜びから、家にある不用品を次々出品し始め、ついには夫の私物を許可なく出品し始めてしまう主婦を描く「サニーデイ」、会社が倒産しどうしようかと迷う間もなく妻が前の職場に復帰し、専業主夫となった夫の奮闘振りを描く「ここが青山」、妻との別居が決まり、がらんどうと化した部屋を心おきなく自分の趣味に合わせて模様替えする「家においでよ」、内職斡旋会社の担当者が、冴えない中年男から柑橘系の香水を付けた若者に代わり、淫夢を見るようになった主婦を描く「グレープフルーツ・モンスター」、夫が勝手に転職を決める度に、将来への危機感からか仕事の質が格段に上がるイラストレーターを描く「夫とカーテン」、ロハスにハマった妻やその仲間を揶揄するユーモア小説を書いてしまったことを後悔する作家を描く「妻と玄米御飯」の6編を収録。

 この作者の作品はユーモア小説からシリアスなサスペンスまで幅広いですが、これはどちらかと言うとユーモア系に近いといった感じでしょうか。『空中ブランコ』のようなキツい感じのユーモアではなく、その分、オチは弱いけれど、向田邦子の家庭小説の男性版のような印象も受けました。大笑いさせられるというより、くすっと笑える感じでした。

 個人的には、「ここが青山」の何となく自分には「主夫」が向いているのかなと主人公が最後に感じるのが面白かったし、「夫とカーテン」も、妻のイラストの質が夫の仕事の危機的状況と比例して高まり、危機が去ると落ちてしまったというのが面白かったです。「サニーデイ」に象徴されるように、何かをきっかけに日常に変化が生じて、最初はその変化の渦にどんどんハマっていくものの、どこかで踏みとどまるという"マトモな"主人公が多かったかな。そんな中、作品のトーンとしては、「グレープフルーツ・モンスター」がやや他の作品と違った、ドロっと雰囲気だったかな。この淫夢を見る主人公も、現実に不倫するとかはしないわけですが。

 全体としては、さらっと読めた様々な「夫婦の位相」という感じで、上手いなあと思わせる一方で、向田邦子ほどドロっとしたものもなく、ややもの足りなさも感じられました。

<font color=gray>【2010年文庫化[集英社文庫]】

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