【2032】 ○ ダン・ゼフ 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第9話)/バートラム・ホテルにて」 (07年/英) (2010/03 NHK-BS2) ★★★★

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完全に原作とは別の「推理ドラマ」として、立派に成り立ってしまっている。

バートラム・ホテルにて dvd.jpg 第9話/バートラム・ホテルにて 02.jpg 第9話/バートラム・ホテルにて 01.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX3

第9話/バートラム・ホテルにて title.jpg第9話/バートラム・ホテルにて 04.jpg 少女時代の訪れたことがある憧れのバートラム・ホテルを60年ぶりに訪れ宿泊することになったミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)は、伯父リチャード卿の遺言状読み上げに来た友人セリーナ・ヘイジー(フランチェスカ・アニス、"トミーとタペンスシリーズ"でタペンス役を演じていた女優)と出会う。ホテルには女性冒険家のベス・セジウィック(ポリー・ウォーカー)が訪れ、彼女が育児放棄した娘第9話/バートラム・ホテルにて 05.jpgエルヴィラ(エミリー・ビーチャム)とその友人ブリジット(メアリー・ナイ)も泊りに来ていた。その他にも、ペニフェザー神父(チャールズ・ケイ)、ドイツの帽子屋ムッティ(ダニー・ウェッブ)、双子のジャックとジュール(ニコラス・バーンズ)、レーサーのマリノフスキー(エド・ストッパード)らが客としていた。そんな中、ホテル屋上でメイドのティリー(ハンナ・スペアリット)が絞殺され、バード警部補(スティーブン・マンガ第9話/バートラム・ホテルにて メイド.jpg)が捜査に乗り出す。ティリーの同僚メイド、ジェーン・クーパー(マルティン・マッカッチャオン)とミス・マープルは、同じファーストネームということで意気投合し、バード警部補も頭が良くて行動力のあるジェーンに惹かれるとともに、鋭い観察眼を持ったミス・マープルも頼りにするようになる―。

第9話/バートラム・ホテルにて 03.gif メイド絞殺事件の翌日、ホテルの123号室で湯船から溢れた湯が下の階に洩れてレストランが停電し、客がラウンジに移動すると外で銃声がして、ベスを庇ったとみられるドアマンのミッキー・ゴーマン(ヴィンセント・リーガン)が撃たれて死ぬ。ミッキー・ゴーマンはベスの前の夫であり、彼が庇ったと思われたのはベスではなくエルヴィラだった。彼女はすぐにピストルを狙撃犯がいる2階の部屋に向けて撃つが、バード警部補が部屋に駆けつけると、部屋は無人でライフルが窓辺に置かれ、しかも内側から鍵が掛かっていた。ミス・マープルは、ベスが血の色で書かれた脅迫状を受け取っていたことを、偶然掴んでいた―。

バートラム・ホテルにて クリスティー文庫.jpg 2007年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年に作られたシーズン3全4話の内の第1話(通算第9話)であり(他3話は「無実はさいなむ」「ゼロ時間へ」「復讐の女神」)、日本ではNHK‐BS2で2010年3月23日に初放映。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1964年に発表された作品(原題:At Bertram's Hotel)。

 BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズの「バートラム・ホテルにて」(1987)が、古色蒼然としたホテルの重厚感をかなり高いレベルで映像化していたのに対し、こちらは、ホールでルイ・アームストロング(1901-1971、シェントン・ディクソンン)が演奏し、アメリア・ウォーカー(架空の人物? 演じているのはソウル・シンガーのミーシャ・パリス)がジャズを歌う設定で盛り上げています。

ミス・マープル(第9話)バートラム・ホテルにて.jpg ストーリーの方は、BBC版がほぼ原作に忠実であったのに対し、こちらは、原型をとどめないほどに改変されていて、もうここまで変えてしまうとこれはこれで楽しむしかないかと思いつつ(「えーっ」と何度も声を上げながら)観てましたが、観終えてみれば、十分楽しめてしまったようにも思います。逆に感心してしまいました。

Mica Paris,Geraldine McEwan & Francesca Annis

 原作のストーリーは周知のことという前提のもとに、改変の妙を愉しんで下さいという趣旨なのでしょうが、原作を中途半端に改変して、或いは大幅に改変してがっかりさせられるものが多い中、この映像化作品の脚本家は、なかなかの才人ではないかと思わせるものがあり、これはこれで完全に原作とは別の「推理ドラマ」として、立派に成り立ってしまっているように思えました。これしか観たことが無い人には、是非とも原作と読み比べるか(これを観て原作を読んだ気にならないように)、BBC版と観比べて欲しいです(そこでまた、改変の妙が愉しめる。但し、"改変"しているのは、当然のことながら、原作ではなくこっちの方だが)。

 まず、原作ではなかなか殺人事件が起きないのに、こちらはいきなり原作に出てこないメイドが殺され、次にペニフェザー神父がいつ誘拐されるのかと思って観てたら結局誘拐されず、しかも最後に明かされた彼の正体は―。それにレーサーのマリノフスキーや帽子屋が絡んで、ナチス狩りの話だったのかあと驚かされました。

 ホテル全体が犯罪装置のような役割を果たしている点は原作を踏襲しているのかな。犯行のアリバイ作りに利用するというより、盗品の保管場所みたいになっています。ホテルに飾ってあったレンブラントやフェルメールの絵が本物だったというアイデアは秀逸。リチャード卿の遺言で相続の恩恵に与れなかったマープルの友人セリーナの、最後の頼みの綱である宝石が消えた話は、組織的犯行ではなく、双子の"単独"犯行だった? 元々こんな話は原作には無かったわけですが。

 ドアマンのマイケル・ゴーマンも、随分と早めに殺害されたけれど、改変の決定打は、真犯人が原作と異なること! 従って、犯行の手口もぜぇ~んぶ原作と違ってくるのですが、これはこれで全く予想がつかないものであり、なかなか凝っていました。因みに、「原作での真犯人」であるべスは、原作でも娘のエルヴィラを庇いますが、このエルヴィラという小娘、あまりにエゴイスティックで、母親の愛情に応えていない印象を、原作からも受けました。

AT BERTRAM'S HOTEL 2007.jpg第9話/バートラム・ホテルにて 10.jpg 原作で捜査に当たるのはベテランのフレッド・デイビー主任警部でしたが、この映像化作品では、若いバード警部補が、ミス・マープル、メイドのジェーン・クーパーの協力を得て3人で事件の謎を解こうとし、結局、マープル以外の2人は自力では真犯人に辿り着かないのですが、その間、バードとジェーンの距離がぐんぐん狭まってきて(これも原作には無い話なので「えーっ」だったが)、ラストはハッピーエンドに(「あなたが私に何を頼もうとも私の答えはイエスよ」なんてセリフは上手い)。これはこれで爽やかな終わり方だったのではないでしょうか。ミス・マープルは"復讐の女神"ならぬ"縁結びの女神"か。

第9話/バートラム・ホテルにて ホテル.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第9話)/バートラム・ホテルにて」●原題:AT BERTRAM`S HOTEL, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 3●制作年:2007年●制作国:イギリス●演出:ダン・ゼフ●脚本:トム・マクレイ●原作:アガサ・クリスティ「バートラム・ホテルにて」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ビンセント・レーガン/マーク・ヒープ/ エミリー・ビーチャム/メアリー・ナイ/マルティーヌ・マカッチャン/チャールズ・ケイ/エド・ストッパード/ニコラス・バーンズ/ミーシャ・パリス/フランチェスカ・アニス/ピーター・デーヴィソン/スティーブン・マンガン/ハンナ・スピアリット/ポリー・ウォーカー/●日本放送:2010/03/23●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★★)

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