【2029】 △ アガサ・クリスティ (田村隆一:訳) 『シタフォードの秘密 (1956/05 ハヤカワ・ミステリ) ★★★

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クリスティ作品の中では比較的軽めの方か。その分、ややもの足りない。
シタフォードの謎  訳:鮎川信夫.jpg
シタフォードの秘密  ハヤカワ・ミステリ文庫.jpgシタフォードの謎  創元推理文庫2.jpg シタフォードの秘密  クリスティー文庫.jpg シタフォードの秘密  ハヤカワ・ポケット・ミステリ.jpg
シタフォードの秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 1‐81))』『シタフォードの謎 (創元推理文庫 105-22)』『シタフォードの秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』『シタフォードの秘密 (1956年) (世界探偵小説全集)』『シタフォードの謎 (1956年) (世界推理小説全集〈第21〉)

シタフォードの謎  創元推理文庫.jpg ダートムア外れの小村シタフォードにある「シタフォード荘」には客たちが集まっていた。迎えたのは、冬の間この邸を持主である退役軍人トリヴィリアン大佐から借りていたウィリット夫人とその美しい娘ヴァイリットで、客たちは主に邸のコテージに住む隣人たち。降りしきる雪に閉ざされ、下界との行き来不能な状況に置かれた彼らは、退屈しのぎに降霊会に興じるが、その場に現れた霊が、トリヴィリアン大佐が殺害されたという宣告を下す。その時、時刻は5時25分。大佐の友人バーナビー少佐は、6マイル離れた隣町に居る大佐を徒歩で訪ねると言う。2時間半後、少佐は警官と共に大佐が借りている邸の書斎で、後頭部を殴打された彼の死体を見つける。検視官の話では、死亡時刻はあの宣告があった5時半ごろであるという―。
シタフォードの謎 (1965年) (創元推理文庫)』(鮎川信夫:訳)

シタフォードの謎  UK.jpgシタフォードの謎 us.jpg 1931年、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が41歳の時に刊行された作品で(原題:The Sittaford Mystery (米 Murder at Hazelmoor))で、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズもの。オカルトっぽい雰囲気は、後の同じくノン・シリーズ物の『蒼ざめた馬』(1961)などに通じるものがあり、また「降霊会」そのものは、この作品の翌年に発表された『邪悪の家』(1932)にも(この場合はポアロが仕組んだものとして)出てきます。

"Murder at Hazelmoor" Dustjacket illustration of the USA First Edition (Dodd, Mead and Company,1931)

"The Sittaford Mystery" (Christie's original title) Dustjacket illustration of the UK First Edition (Collins Crime Club,1931)

 THE SITTAFORD MYSTERY .Pan rpt.1981.jpg 捜査責任者のナラコット警部は、事件当日近くの旅館に現れて金の無心をしに大佐を訪ねた後、翌朝の列車で去った大佐の甥ジェイムズ・ピアソンを逮捕しますが、この逮捕を不服としたジェイムズの婚約者エミリー・トレファシスが、記者のチャールズ・エンダビーとともに独自の捜査を開始するとともに、ナラコット警部もジェイムズの犯行であるとの見方に疑念を抱き、捜査を続ける―。

THE SITTAFORD MYSTERY .Pan.1981

 個人的には、最初に降霊会をやろうと切り出した人物が怪しく感じられて、誰かとの共犯で犯行を成したのだと思ったりもしましたが、考えてみれば、それ以前にもっと怪しい人物がいた訳か。犯人が○○○を使ったというのはちょっと思いつかないし(松本清張の『点と線』みたいだね)、やや叙述トリック的な要素もありましたが。
 複雑な人物相関が徐々に明らかになり、この中から共犯者と動機を見出そうとしたのですが、蓋を開けてみれば、犯行トリックも単純ならば(実際に大佐が殺害されたのは「5時25分」ではなく、「5時40分」よりちょっと後ぐらいだったことになる)、動機も単純で、しかも、ちょっとミミッチい。ウィリット夫人が邸を借りた本当に理由にはややビックリですが、こうした複雑な人物相関も全てブラフだったということになり、やや拍子抜けの印象も受けました。

 頭の切れるエミリーが、愚かな行動によって自身への容疑を深めてしまう頼りない婚約者ジェイムズと、事件解決に向けて(まるでトミーとタペンスの如く)行動を共にしたしっかり者のエンダビー記者のどちらを最後に選ぶのか、周囲も関心を寄せる中での、大方の予想に反しての彼女の選択が興味深く、まあ、「出来る女性」って意外とこうした選択をするのかも、と思わせるものがありました。

 ポアロやミス・マープルが登場して、実は早くから相当のところまで"お見通し"でしたといった作品ばかりではなく、こうした素人探偵が試行錯誤し解決に向けて壁にぶつかりながら歩みを進めていく作品も悪くないし、一応は、フーダニット(誰が犯人か)、ハウダニット(どうやって犯行を成したか)、ホワイダニット(動機は何か)の全てへの関心を満たした作品でもありまシタフォードの秘密 表紙イラスト.jpgコテージ.jpgすが(「江戸川乱歩が選んだクリスティ作品ベスト8」 に入っている)、動機がやや弱いし、連続殺人事件でもないし、クリスティ作品の中では比較的軽めの方でしょうか。その分、ややもの足りなさの残るものでした。

 「シタフォード荘」のような居住用ではなく、観光用として、日本でもホテルとコテージを組み合わせたリゾート開発がバブル期には盛んに行われ、瀟洒なリゾートホテルよりも丸太造りのコテージの方に泊まった方が楽しかった思い出がありますが、ああいうスタイルも起源は全て英国にあるのだなあと改めて思いました。

ハヤカワ・ミステリ文庫(表紙イラスト・真鍋博)


シタフォードの謎 dvd.jpg第8話シタフォードの謎 01.jpg この作品は、英国ITVで「ミス・マープル」物として翻案され映像化されていますが(2006年、ジェラルディン・マクイーワン、ティモシー・ダルトン主演)、事件関係者はコテージの居住者ではなく、ホテルの客に改変されています。

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第8話)/シタフォードの謎」 (06年/英) ★★★
 
 【1939年単行本[(膳所信太郎:訳『吹雪の山荘』)]/1952年単行本[(田村隆一:訳『山荘の秘密』)]/1956年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(田村隆一:訳『シタフォードの秘密』)]/1939年単行本[(鮎川信夫:訳『シタフォードの謎』)]/1965年文庫化[創元推理文庫((鮎川信夫:訳『シタフォードの謎』)]/1966年文庫化[角川文庫((能島武文:訳『ハーゼルムアの殺人』)]/1985年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳『シタフォードの秘密』)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(田村隆一:訳『シタフォードの秘密』)]】

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This page contains a single entry by wada published on 2013年10月13日 22:01.

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