【2023】 ○ 朝井 リョウ 『何者 (2012/11 新潮社) ★★★★ (△ 三田 誠広 『僕って何 (1977/07 河出書房新社 ★★★)

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朝井 リョウ 『何者』.jpg 朝井 リョウ 『何者』1.jpg 朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』.jpg 三田誠広『僕って何』.jpg 0僕って何 (1980年) (河出文庫).jpg
何者』(2012/11 新潮社)/映画タイアップカバー['16年]桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)』 三田誠広『僕って何 (1977年)』(カバーイラスト:山藤章二/デザイン:粟津潔)『僕って何 (1980年) (河出文庫)

現代若者気質を反映して上手い。現実の彼らとTwitter上での彼らが表裏になっている。。

 自分が勝手に名付けた「5人の物語」3冊シリーズの2冊目(他は、窪美澄の『ふがいない僕は空を見た』と村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』)。2012(平成24)年下半期・第148回「直木賞」受賞作。直木賞初の平成生まれの受賞者であり、男性受賞者としては史上最年少の23歳での受賞(戦後の受賞者としても、山田詠美の28歳、平岩弓枝の27歳より若い最年少)。

 就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良の5人。学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺...自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす―。(Amazon.comより)

 冒頭に主要登場人物のTwitterのアカウントのプロフィールがあって(「烏丸ギンジ」も入れると「6人の物語」だが)、作中でも、現実の彼らと、Twitter上での彼らが表裏になっているのが面白く、更に、Twitterにおいても、表のアカウントと裏のアカウントを使い分けたりしているのがいたりして、今の若者ってご苦労さんだなあという気も。

 現代若者気質をストレートに反映しているようで、上手いと思ったし、面白い、と言うより、たいへん興味深く読めました(当の若者からすれば、みんながみんなこうとは限らないのに、この5人に現代若者気質が集約されていると思われるのはたまらん、という声もあるかもしれないが)。

 こうした二重構造、三重構造の自分がいて、更に、就活のために目一杯「自分探し」していて、分裂症にならないかとこっちが気を揉んでしまいそうですが、そんな中、主人公である拓人の視線が比較的クールでしょうか。クールだから就職が決まらないと言うのもあるけれど、みんな「何者」になろうとしているのかという疑問が湧いてくることには共感を覚えました(でも、結局、強く「自分」を持っていたのは、最初はやや無定見に見えた女子2人だった)。

 昔の芥川賞受賞作で、同じくワセダを舞台にした、三田誠広の『僕って何』('77年/河出書房新社)は、かつて"学園紛争"時代、肩肘張ってイズムを主張する男性像が主流の中、軟弱で世間知らずなゆえに"何となく"流されるかのようにあるセクトに入ってしまった大学生だった主人公の述懐話でしたが、雑誌「文藝」に掲載された時から話題になっていて、皆こぞって読んだでいたような記憶があるけれども(「文藝春秋」に転載後かもしれないが、何れにせよ単行本になる前から読まれていた)、モラトリアム型の若者を描いている点ではこの2つの作品は似ています(タイトルも似ている)。

 時代は変われど昔も今も、学生は「自分」を探し求めて彷徨するのでしょうか。新卒学生の就職難の今の時代をリアルタイムで描写し、更に、他者との関係性の今風のスタイルをリアルに描いているという点では、こちらの方が上かも。出てくるのはモラトリアム型の若者にに偏っている気もしますが、まあ、類は友を呼ぶということなのでしょう。

 小説すばる新人賞を受賞した『桐島、部活やめるってよ』('10年/集英社)(これも"5人"の高校生の物語)の背景テーマが「スクールカースト」だったとすれば、こちらは「就職氷河期」がそれにあたるとも言え、結構、社会派かも。

 それにしても、自分に近い年齢の登場人物たちを、よく冷静に対象化して書き分けることが出来るなあと感心。何だかこの人、「若者身の上相談」でもやりそうだなあと思ったら、もう既にそうした類の本を書いていました(まあ、芥川賞作家である中上健次だって村上龍だって、その類の本を書いているけれどね)。

映画 何者4.jpg映画 何者M.jpg2016年映画化「何者」(東宝)

2016年10月15日(土)全国東宝系ロードショー
出演:佐藤 健/有村架純/二階堂ふみ/菅田将暉/岡田将生/山田孝之
原作:朝井リョウ『何者』(新潮文庫刊)
監督・脚本:三浦大輔


『何者』...【2016年文庫化[新潮文庫]】

『僕って何』...【1980年文庫化・2008年改版[河出文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2013年10月 5日 16:15.

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