【2019】 ○ アガサ・クリスティ (深町眞理子:訳) 『親指のうずき (1970/12 ハヤカワ・ミステリ) ★★★☆

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初老ながら溌剌としたタペンス。白眉は、全体の構成よりも、真犯人の意外性に尽きるか。

親指のうずき  ハヤカワ・ポケット・ミステリ.jpg 親指のうずき ミステリ文庫.jpg 親指のうずき クリスティー文庫.jpg
親指のうずき (1970年) (世界ミステリシリーズ)』『親指のうずき (1976年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『親指のうずき (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 トミーとタペンスは、トミーの叔母エイダが余生を送る養老院を訪ねる。その後叔母が亡くなり、2人は遺品を引き取りに行った際、タペンスは叔母の部屋にあった一枚の風景画に描かれている運河の傍の一軒屋に見覚えがあるように思う。その絵は叔母が亡くなる前に、同じ養老院にいたランカスター夫人から譲り受けた物で、そのランカスター夫人は突然養老院を出ていったのだった。タペンスは、何者かによって連れ去られたと思われるランカスター夫人の身を案じてその風景画の場所を一人探し求め、ついにその村を見つけるが、村の人々の話を聞くうちに、村全体を覆う不穏な事実の数々を知る―。

By the Pricking of My Thumbs.jpg 1968年、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が78歳の時に刊行された作品で(原題:By the Pricking of My Thumbs)で、トミー&タペンス・ベレズフォード夫妻シリーズの長編第3作ですが、2人の年齢を合わせても45にもならなかったという『秘密機関』(1922)から46年、『NかMか』(1941)から27年経っていて(その間に短編集『おしどり探偵』(1929)がある)、さすがにトミーもタペンスも年齢を重ねています。       "By the Pricking of My Thumbs"(ペーパーバック・1971)

 トミーとタペンスの子供たちデボラとデリクもすでに結婚しており、実際の月日の流れからしても2人とも60代後半のはずですが(この作品の5年後に発表されたシリーズ最終作品『運命の裏木戸』(1973)では2人とも75歳前後になっているというから、殆ど70近いことになる)、それでもタペンスは冒険心に満ち、その上、よく動き回るなあ。少なくとも60代のイメージではないかも。この作品は、世界中の多くの読者からの「その後、トミーとタペンスはどうしました?今なにをやっています?」という問い合わせに答える形でクリスティが書いたもので、2人とも今もって溌剌としていることを印象づけたかったのかな。

BY THE PRICKLING OF MY THUMBS.jpg 村人たちは、人の良さそうな人もいれば怪しげな人もいるけれど、何れもタペンスの問いになかなかまともな回答を与えず、むしろ、タペンスの動きを監視している風。それでも、タペンスの地道な聞き込みで、背後の闇が浮かび上ろうかとしたところで、タペンス自身が行方不明に。そこで、最初はタペンスの疑念をまともに受けてはいなかったトミーが動きだし、ランカスター夫人誘拐(?)事件だけでなく、それに絡んでいる大規模な組織団による強盗事件、20年前に村で起きた連続少女殺人事件などが浮かび上がってきて、村全体が犯罪及びその隠蔽装置のようなものだったと―。

"BY THE PRICKLING OF MY THUMBS" Fontana 1987

 この作品の3年前に発表された『バートラム・ホテルにて』(1965)の"ホテル版"ならぬ"村版"のような印象もあります。78歳でこんな入り組んだ話を書いているクリスティもスゴイけれど(作者から見れば60代はまだ若いということか)、ただ、大規模な強盗組織を持ち出してきたところで、『バートラム・ホテルにて』同様、ミステリとしては逆にリアリティが希薄になったかも。

ミス・マープル2 親指のうずき dvd.jpgマープル2 親指のうずき2.jpg この作品の白眉は、全体の構成よりも、真犯人の意外性であり、この点に尽きると思います。オリジナリティのあるサイコ・シリアルキラーだったと思います。

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第7話)/親指のうずき」 (06年/英) ★★★

【1970年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(深町眞理子:訳)]/1976年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(深町眞理子:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(深町眞理子:訳)]】

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