【2016】 ○ エドワード・ホール 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第5話)/スリーピング・マーダー」 (06年/英) (2008/06 NHK-BS2) ★★★☆

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継母が実は実母だったという改変もさることながら、一番の改変点は"ハッピーエンド"の中身か。

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アガサ・クリスティーのミス・マープル DVD-BOX 2」 ソフィア・マイルズ/エイダン・マクアードル

ミス・マープル2 スリーピング・マーダー 観劇.jpg インド滞在中に交通事故で妻クレアを亡くしていたケルヴィン・ハリデイ(ジュリアン・ウォダム)の娘で、幼い頃からインドで育ったグエンダ(ソフィア・マイルズ)は、婚約者の会社の部下ヒュー・ホーンビーム(エイダン・マクアードル)とイギリスで新居探しする中、ディルマスのヒルサイド荘に一目惚れして早速契約しリフォームにかかるが、不思議なことにグエンダにはこの邸に既視感があり、更にホールで絞殺される女性の幻影を見る。ホーンビームは知り合いのミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)に電話し、グエンダを喜劇の観劇に連れ出すが、公スリーピング・マーダー09.jpg演中の演劇は喜劇ではなくウェブスター原作『マルフィ公爵夫人』に変わっていて、復讐劇の絞殺シーンに女性の幻影が重なったグエンダは思わず「ヘレン!」と叫ぶ。マープルは,グエンダが幼いころ殺人事件を目撃したと考え、家を手配した弁護士ウォルター・フェーン(ピーター・セラフィノウィッツ)の事務所で邸の1934年当時の持主がグエンダの父親ケルヴィンだったことを突き止めるが、フェーンはそれ以上その事に触れたがらない。マープルは町で探し出した邸の元召使ミセス・パジェット(ウーナ・スタッブス)から、当時、毎夏来ていた旅回りの一座「ファニーボンズ」のことを聞く。クレアの兄で精神分析医のジェイムズ・ケネディ(フィル・デービス)の話から、ケルヴィンは幼いグエンダを連れてイギリスに戻りヒルサイド荘に住んでいたことが分かる。妻ミス・マープル2 スリーピング・マーダー 02.jpgクレアを亡くしていたケルヴィンは、一座の看板歌手ヘレン(アナ・ルイーズ・プロウマン)と婚約したが、ヘレンは結婚式前日に姿を消していた。看板歌手が抜けてファニーボンズが解散した夜のことを次第に関係者は想い出す。一座のメンバーは、ジャッキー・アフリック(マーティン・ケンプ)を中心に、手品師のライオネル(ニコラス・グレイス)、そしてディッキー・アースキン(ポール・マッギャン)とジャネット(ドーン・フレンチ)(2人はその後結婚していた)、更に、当時は垢抜けず誰からも愛されなかったが今や独立して大スターのイーヴィ(サラ・パリッシュ)ら。フェーンの母(ジェラルディン・チャップリン)はヘレン失踪事件に息子が関係していたのではないかと疑っている。定年間近のプライマー警部(ラス・アボット)がマープルに調査の協力をする―。

岸田 今日子ド.jpg 2006年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年に作られたシーズン2全4話の内の第1話(通算第5話)。2008年6月から日本で放映されたこの第2シーズンでは、それまでマープルの吹き替えをしていた岸田今日子が2006年12月に他界したため、声は草笛光子に交替しています。原作『スリーピング・マーダー』は第二次世界大戦中(1943年)に書かれた作品ですが、アガサ・クリスティ(1890‐1976)の遺言により没後の1976年に刊行された作品(原題:Sleeping Murder)です。

ソフィア・マイルズ.jpg グエンダを演じるソフィア・マイルズ(英国の女優だが、この年3本のアメリカ映画に出演している)の魅力で見せる部分が大きい作品でしょうか。その分、そのお嬢様ぶりに対する好悪で、作品に対する好き嫌いも決まってしまうかも(こんな女優中心の見方をしている人ばかりではないと思うが)。

 原作では3人の男性容疑者が浮かび上がりますが、この映像化作品では内1人が女性となっていて、被害者も含め何れも旅芸人の一座に所属していたという設定。更には、後妻のヘレンがなんと交通事故で亡くなっていたはずのクレアと同一人物だったという...(グエンダのお嬢様ぶりと、追想シーンに出てくるヘレンの田舎一座の看板歌手という境遇が、イメージ的にどうしても結びつかないのだが...)。

 継母が実は実母だったという改変もさることながら、一番の改変点は、原作で途中からグエンダと一緒に真相の究明に当たったはずの"優しい婚約者" ジャイルズが、この映像化作品では、部下のホーンビームに「彼女の話を聞くか、聞くふりをする調査員を頼め」と電話で指示したのみで全く登場しない点でしょうか。いつになったら出てくるのかと思っていたけれど、その内にグエンダとホーンビームの距離は狭まり、最後はマープルに励まされてホーンビームがグエンダに跪いて求婚! そうか、あの電話で部下にいい加減な指示した段階で、婚約者はフィアンセよりも仕事の方を優先する男であることが暗示されていたわけかと。

 既に原作はよく知られており、先行するジョーン・ヒクソン版(1987年/BBC)では、家探しの段階からグエンダとジャイルズが共に行動するなど、「トミー&タペンス」の「おしどり探偵」シリーズの若手版風に2人の仲の良さが強調され、また、実に爽やかな2人であったため、このグラナダ版の方は、新味を持たせるために逆方向を狙ったのかな。これはこれで、なかなか面白かったし、「え~っ、婚約者に対する裏切りじゃん」と思う人もいるかもしれないけれど、ホーンビームのグエンダへの想いが抑制的に描かれていてずっと気になっていた分、ラストの改変された"ハッピーエンド"の後味はそう悪くなかったです(マープルは、一途に女性のことを想う男の味方だったわけか)。

SLEEPING MURDER 1.jpg 考えてみれば、原作で若い新婚の2人を暖かく見守っているマープルが、ここでは、ホーンビームを後押しすることで相手の女性の婚約を破棄させる(寝取られ男を一人生み出す)手助けをしているとも言えるけれど、女性を大事にしない男は、たとえ婚約者であろうと女性から見捨てられても当然、という意味では、より現代的な展開を示して見せたと言えるかも。

 さすがに真犯人までは変えていなかったけれど、この原作の映像化作品って、(原作を読んで真犯人を知っているというのもあるかもしれないが)犯人に該当する人物は、いつも出て来るなり何となく怪しいなあ。真犯人は、ヘレンとクレアが同一人物であると判っていたわけか。

ミス・マープル2 スリーピング・マーダー.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第5話)/スリーピング・マーダー」●原題:SLEEPING MURDER, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 2●制作年:2006年●制作国:イギリス●演出:エドワード・ホール●脚本:スティーブン・チャーチェット●原作:アガサ・クリスティ「スリーピング・マーダー」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ラス・アボット/ジェラルディン・チャプリン/フィル・デービス/ドーン・フレンチ/マーティン・ケンプ/エイダン・マクアードル/ポートランスフォーマー ロストエイジ  ソフィア・マイルズ.jpgル・マッギャン/ソフィア・マイルズ/アナ・ルイーズ・プロウマン/ピーター・セラフィノウィッツ/ウーナ・スタッブズ/ジュリアン・ウォダム/サラ・パリッシュ●日本放送:2008/06/23●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

ソフィア・マイルズ in「トランスフォーマー/ロストエイジ」('14年/米)

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