【2005】 ○ モハメド・オマル・アブディン 『わが盲想 (2013/05 ポプラ社) ★★★★

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盲人スーダン人の自伝的エッセイ。来日奮闘記。著者の半生そのものが"奇跡"みたい。

わが盲想.jpg          モハメド・オマル・アブディン.jpg モハメド・オマル・アブディン氏
わが盲想 (一般書)』(2013/05 ポプラ社)

 盲人のスーダン人である著者(現在35歳)が、15年にわたる日本滞在を、滑らかな日本語とオヤジギャグで綴った自伝的エッセイであり、日本で学び、生活していくにあたっての波瀾に満ちた道のりを描いた奮闘記ですが、楽しく読めました。

 1978年スーダン生まれの著者は、網膜色素変性症でほぼ視力を失い、大学の法学部に籍はあったものの内戦のために大学は閉鎖され、そんな中で日本への留学話、試験に合格すれば日本の盲学校に入り鍼灸の勉強ができるという話を聞いて、日本に興味があったわけでもなければ鍼灸に興味があったわけでもないのに試験を受けて合格、父親の反対を押し切って来日するも、難しすぎる日本語、点字、学科の勉強、日々の暮らしに四苦八苦する―。

 勉学の苦労話はありますが、問題山積の絶望的な状況の中でもどことなく明るいし、ものすごい努力家であることは疑いの余地もないけれど、自らの怠け癖をも率直に披露していて、イスラム教徒でありながら飲酒に一時ハマったとのこと、寿司が大好物で、大の広島カープファン―と、いろいろな面で親しみが感じられました。

 次々と訪れる困難に、この先どうなっていくのかと、読む側をハラハラさせる冒険譚的要素もあり、また、自身の失敗や苦労をギャグ風に描いたり、所々とぼけた味わいもあったりする一方、お世話になった人への感謝の気持ちも常に忘れていない、著者の素敵なキャラクターを感じさせるものとなっています。

 鍼灸を学びに来た著者でしたが、東京外国語大に入学、現在、同大学大学院に在籍とのこと、やはり、母国でもエリート階層なのでしょう。でも、非漢字圏の国から来て、しかも盲人にして、これだけのこなれたエッセイをしたためるというのは、やはり並々ならぬ才能を感じます。ブラインドサッカーの選手としても活躍しており、「たまハッサーズ」のストライカーとして日本選手権で優勝を3回経験しているそうな。めでたく結婚も果たし、娘二人に恵まれ、長女の名前がアヤといい、スーダン語で"奇跡"という意味だそうですが、著者の半生そのものが"奇跡"みたいに感じられました。

 でも、本書を読んで、スゴイ才能だ、"奇跡"だ、ともてはやすだけではしようがないのでしょう。個人的には、こつこつ努力すれば道は開けるという、ありきたりですが元気づけられるメッセージを受け取ったような気がします。

 日本の学生が就職を機にがらっと人格変容してしまう様を、"カルト宗教"に喩えて皮肉っています。著者自身も、著述業に意欲的であるようなので、この先は、外国人及び盲人の"視点"から、日本の文化や社会についてのいいところ、おかしなところを書いていくのかな(ネット上ではすでにいろいろ発信しているみたい)。一通り"自己紹介"を終えて、次はどういった切り口になるのか、第二弾を楽しみにします。

【2015年文庫化[ポプラ文庫]】

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