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いろいろ批判や矛盾点はあるかもしれないけれど、「巧いなあ~」と。
『ユリゴコロ』(2012/04 双葉社)「ユリゴコロ」2017年映画化(出演・吉高由里子・松坂桃李・松山ケンイチ)
2011(平成23)年・第14回「大藪春彦賞」受賞作。2012年・第9回「本屋大賞」第6位。
不慮の事故で母親を失い、父親も末期の癌に侵されていることを知った亮介は、実家の押入れで「ユリゴコロ」と名付けられた古びたノートを偶然見つけるが、そこに記されていたのは、殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白だった。創作なのか、或いは事実に基づく手記なのか、そして書いたのは誰なのか。謎のノートは亮介の人生を一変させる驚愕の事実を孕んでいた―。
「本屋大賞」で6位かあ。巧いなあと思いました。途中で先が読めたという人もいるけれど、自分には、話が一旦は一段落したかのように思えた後の、最後の展開は全く予想がつきませんでした。
手記の主が衝動殺人に至る動機が、描写からはよく伝わってこないとか色々と批判はあるかも知れませんが、まあこの辺りはどちらかと言えばホラーサスペンス系で、純文学じゃないんだし、個人的には、「道尾秀介」作品みたいに心理描写に凝らなくてもいいのではと思いました(むしろこの場合、あまり凝らない方がいいのではと)。
主人公・亮介が、この手記は両親のどちらが書いた小説か何かだろうと考えつつ、内容が現在の自分の家族と通じる部分があり、更に、幼い頃に自分の母親が入れ替わってしまったような記憶があるために疑心暗鬼を深め、不安を駆り立てられる心情の描写などは、むしろ簡潔にして巧みと言えるのでは。
一番気になったのは、最初の頃の殺人と最後の方の「必殺仕置人」的(?)な殺人が、あまりに質が異なり、繋がらなさ過ぎるという点で、まあ、そうした幾つかの矛盾点を抱えながらも、力技で「救い」のある結末に持っていき、それでいて「こんなの、ありか」と思わせる前に、「巧いなあ~」と思わせてしまうのは、やはり相当の力量なのかも。
「湊かなえ」作品のように、出てくる人が誰も彼も悪意に満ちているといったこともなく、むしろ"感動物語"と言えるかどうかはともかく、ほっとさせられるような結末になっていて、そうなると今度は、最初に殺された子どもやその親は報われないんじゃないかという見方もあるかも知れませんが、こうしたお話で倫理とか道徳とか言い始めると、楽しめないんだろうなあ。
概ね気持ち良く騙されたということで、星4つ、としたいところですが、やはり、まるで別人格になった人間が、「平然と人を殺せる」という特質だけ保持していることの不自然さから、星半個マイナス。
【2014年文庫化[双葉文庫]】