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ランピオン刑事の女装が効き過ぎて、ドタバタ・コメディに。
DVD(輸入盤)
フランスの大富豪の館で起きた2つの殺人事件の判決が下ろうとしていた。容疑をかけられているクレール・ヴィゾル(レナ・ブレバン)という女性は、館の主である実母エリザベット(フレデリク・ティルモン)と下男の娘である母の付き添い人だったクレマンス(ルー・ドゥ・ラージュ)殺害したとされ、彼女には死刑が宣告される。殺害された二人には、3ヵ月前に「財産が狙われている」との脅迫状が届いており、エリザベットの秘書でクレールの無罪を信じるルイ・セルヴェ(ヤニック・ショワラ)は、古くからの友人でもあるランピオンに助けを求めていた―。
ポワロやミス・マープルに代わって、ラロジエール警視とランピオン刑事のコンビが事件を解決していく「フレンチ・ミステリー」の2010年の作品で、2009年に本国フランスで放送された「ABC殺人事件」「無実はさいなむ」「動く指」「エンドハウスの怪事件」の好評を受けて制作された通算第5話から第8話の内の第6話です(他は、第5話「鳩のなかの猫」、第7話「五匹の子豚」、第8話「満潮に乗って」)。
原作は、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1940年に発表した名探偵ポワロシリーズの一作で(原題:Sad Cypress)、すごく面白いというわけでもないですが、登場人物の心理描写がキメ細やかな作品。特に、婚約者の前に現れた美しい付添人に婚約者を奪われたことから、嫉妬心から自分が本当に彼女を殺したのではないかと思い込んでしまう主人公の心理がよく描けています。
こちらの"フレンチ版"も倒叙スタイルで彼女の裁判から始まる点は原作と同じであり、彼女の無実を信じるランピオン刑事の友人の男性秘書(原作では家付きの医師)に頼まれて、ラロジエール警視とランピオン刑事が調査をしたが、結局、彼女の無実を証明できなかった―彼女は処刑の日を待つしかないのか、といった状況から、事件発生当時に時を遡って話が展開していきます。
クレールの実母は女権推進者で(という話は原作には全く無いのだが)、邸に女権活動家を招いて庭で講演会を開こうとしているという設定になっていて、そこへラロジエール警視の命により、ランピオン刑事が女性活動家に化けて乗り込む(しかも、そこで本物に成り代わってj女権拡張講演をしなければならない)というスゴイ無茶な話で、ラロジエール警視は妻の尻に敷かれているその夫という役回りなのに、邸に早めに来たある女性の後を追いまわすという、いつもながらの猟色漢ぶりを発揮します。
原作がストーリー的にそう複雑ではないためか、女装がばれそうになって慌てるランピオン刑事など、ドタバタのユーモアにウェイトが置かれてしまった感じで、第二の殺人が起きて(原作の毒殺ではなく刺殺になっている)、いきなり仕掛人のラロジエール警視自身に皆の前でその正体を明かされてしまったのはやや気の毒でした(ラロジエール警視が追い回していた件の女性が、「あなたより奥さんの方が好み」と言っていたのはどこまで本気か。女装したランピオン刑事は実は同性愛者であるだけに複雑?)。
でも、クレールの死刑執行が翌日に迫った土壇場になって、ある新聞記事から事件解決への糸口を見出したのはランピオン刑事で、友人である男性秘書への義理も果たす―しかし、裁判所が捜査に協力して犯人逮捕に向けて一芝居打つなんてことは、ちょっと現実には考えられないのでは。
ラスト近くでのクレールと彼女を思い続けてきた男性秘書との会話は切ないのですが、原作ではポワロが「彼女にはあなたが必要だ」と男性を後押しする優しさを珍しく見せるのに、このラロジエール警視の方はそうした役回りが苦手なのかこうした場面には出てこず(むしろここまでランピオン刑事が男性を後押ししている)、最後は二人が別れの言葉を交わす感じになっていて、えーっという印象も。
全体としては、やはりランピオン刑事の女装が効き過ぎて、ドタバタ・コメディ風になっているけれど、こうした展開もフランス風の味付けということなのでしょうか。個人的には今一つノリ切れなかったという感じでした。
「クリスティのフレンチ・ミステリー(第6話)/杉の柩」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ JE NE SUIS PAS COUPABLE(I'm not Guilty)●制作年:2010年●制作国:フランス●本国上映:2010/9/15●監督:エリック・ウォレット●脚本:Thierry Debroux●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Jennifer Decker/Sophie Le Tellier/Patrick Descamps●日本放映:2011/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★)