【1980】 ○ トム・シャンクランド 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第20話)/鏡は横にひび割れて」 (10年/英・米) (2012/03 NHK-BSプレミアム) ★★★★

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意外と原作に忠実。観終わった後で、犯人の死は自殺か他殺か、解釈議論に花が咲きそう。
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アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX5

鏡は横にひび割れて 10.jpg鏡は横にひび割れて02.jpg ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は友人のドリー・バントリー(ジョアンナ・ラムレイ/左)と一緒に女優マリア・グレッグ(リンゼイ・ダンカン/右)の主演映画「マリー・アントワネット」を鑑賞し、王妃が息子を奪われる場面に涙する。そのマリア・グレッグは、ゴシントン・ホールをドリーから買い取って村の住人になったばかりで、二人は邸に招かれるが、帰り道ミス・マープルは暴走する車鏡は横にひび割れて05.jpgに煽られて転んで足首を捻挫し、傍にいたヘザー・バドコック(キャロリーネ・クエンティン)に介抱してもらうことになる。よって、後日、マリア・グレッグが映画監督で彼女の5番目の夫ジェィソン・ラッド(ナイジェル・ハーマンと共にゴシントン・ホールで開いたお披露目の慈善パーティには、邸の前所有者であるドリーだけが出席するが、パーティ大いに賑わい、グレッグの4番目鏡は横にひび割れて03.jpgの夫で芸能ゴシップ記者のヴィンセント・ホグ(マーティン・ジャーヴィスが愛人で女優のローラ・ブルースター(ハンナ・ワディンガムまで連れてやってくる(彼女はジェイソンの元愛人)。その時、グレッグの昔からの熱狂的ファンで、戦時中に病気をおして彼女に会いに行ったことがあるヘザー・バドコックが、その話をグレッグに一方的に話したあと、何者かが抗うつ剤のカーモで規定の6倍の量入れたダイキリを飲んで死んでしまう。ドリーは、ヘザー・バドコックがグレッグに一方的にお喋りしていた時、グレッグの表情は、テニスンの詩にあるシャロット姫のような"鏡が横にひびわれた"表情をしていたとミス・マープルに話す。鏡は横にひび割れて04.jpgヒューイット警部(ヒュー・ボネヴィルと若いティドラー巡査部長(サミュエル・バーネットが事件捜査にあたるが、ティドラーもグレッグのファン。一方、ヒューイット警部は、警視総監からミス・マープルに話を聞くことを勧められていた。
鏡は横にひび割れて04.jpg マープルの捻挫を治療した医師ヘイドック(ニール・ステューク)の話では、ヘザーがダイキリのグラスをこぼしてグレッグの服を濡らし、グレッグは自分のグラスをヘザーに渡したという。そうすると、これはグレッグの命を狙った犯行だったのか。パーティ会場では、写真家のマーゴット・ベンス(シャーロット・ライリーが写真を撮っていたが、ドリーとそのスタジオを訪ねたマープルは、グレッグのこわばった表情が写った問題の写真を見つけるとともに、彼女が、グレッグが3番目の夫との間でも子どもができないでいた時に養子になったものの、直後にグレッグが妊娠するや相手にされなくなったという過去があることを知る。そのグレッグが生んだ息子には重度の障害があり、彼女は以来、情緒不安定を繰り返しているのだった―。

鏡は横にひび割れてクリスティー文庫.jpg 2010年制作のグラナダ版「ミス・マープル」第5シーズンの第4話(通算第20話)で(本国放映は米国2010年、英国2011年、)。原作は、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1962年、72歳で発表した作品で(原題"The Mirror Crack'd from Side to Side")、個人的にはミス・マープルのシリーズの中でも傑作だと思います。先行するBBCのジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズでは最後に作られていますが(1992年、第12話)、こちらのジュリア・マッケンジー主演のものも、当シリーズでは今のところ('13年現在)最近作に位置しています。

 ジョーン・ヒクソン版はかなり原作に忠実に作られていますが、ジュリア・マッケンジー版は改変の多いものも目立ち、どうなるのかなあと思っていたら、いきなりミス・マープルが足を挫いてパーティに出てこない! このまま、安楽椅子探偵のスタイルでいくのかと思いきや、後の流れは意外と原作に忠実であり、原作が傑作であるだけにほっとした感じも(このシリーズ、非マープルものの原作にマープルが出てくると改変が激しく、元がマープルものであればそうでもないという傾向か)。

Joanna Lumley and Julia McKenzie.jpg ゴシントン・ホールはシリーズ第1話「書斎の死体」(2004年)の舞台でもありますが、ドリー・バントリーを同じくジョアンナ・ラムレイが演じていて、マープルの方はジェラルディン・マクイーワンからジュリア・マッケンジーに交代しているのに、この人は変わらないなあ。元ボンドガールだけあって、マリア・グレッグ役のリンゼイ・ダンカンよりむしろ派手かも。

Joanna Lumley and Julia McKenzie

 ジェイソン・ラッドの元愛人が今は妻グレッグの4番クリスタル殺人事件45.jpg目の夫の愛人で、元恋人がグレッグの秘書で(今も恋人)、映画監督ってそんなにモテるのかなあ。ハリウッド女優をイギリスに連れてきて「クレオパトラ」を撮ることもないだろう、同原作の映画版「クリスタル殺人事件」('80年)のエリザベス・テイラーに懸けたのか?

 このシリーズ、毎回刑事が変わるけれど、この回の、片手に手袋を嵌めた「ヒューイット警部」もなかなかよかったね。ミス・マープルに子供の頃に自分の母親が亡くなっ時の話を語ったり、女優のローラ・ブルースターに聞き込み中に彼女からセクシーポーズを見せつけられてたじたじとなったり、マリア・グレッグに夢中で捜査に身の入らないティドラー巡査部長に活を入れたりと、結構細かいところで見せ場がありました。

 細部はともかく、全体としては原作の持ち味を損ねていない佳作となっていますが、この作品の主人公とも言える犯人は、最後は自殺だったのか、それとも夫が全ての幕引きをしたのか―原作並びにジョーン・ヒクソン版では、夫による他殺の線が色濃いですが、この映像化作品では、夫が早くから全てを察していたという点では同じですが、グレッグが重度障害の息子を訪ねる場面などがあり、自殺とも他殺ともとれる終わり方をしています(どちらかと言うと自殺っぽい)。これはこれで、"余韻"と言うより"推理の余地"を残す終わり方であって、見方によっては犯人に寄り添っているとも言えます。観終わった後で、一体どっちだ、との解釈の議論に花が咲きそうで、こういうのもありかなあと。

鏡は横にひび割れて03.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第18話)/鏡は横にひび割れて」●原題:THE MIRROR CRACK'D FROM SIDE TO SIDE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 5●制作年:2010年(本国放映[米国]2010年(5/23)/[英国]2011年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:トム・シャンクランド●脚本:ケヴィン・エリオット●撮影:シンダース・フォーショウ●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「鏡は横にひび割れて」●時間:89分●出演:ジュリア・マッケンジー/ジョアンナ・ラムレイ/リンゼイ・ダンカン/ナイジェル・ハーマン/マーティン・ジャーヴィス/ハンナ・ワディンガム/ヴィクトリア・スマーフィット/ブレナン・ブラウン/シャーロット・ライリー/ロイス・ジョーンズ/キャロライン・クエンティン/ウィル・ヤング/ミッシェル・ドトリス/ニール・ステューク/ヒュー・ボネヴィル/サミュエル・バーネット●日本放送:2012/03/29●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★★)

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