【1978】 △ ジョン・ストリックランド 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第18話)/チムニーズ館の秘密」 (10年/英・米) (2012/03 NHK-BSプレミアム) ★★☆

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原作(バトル警視もの)が面白いだけに、原型を留めない改変ぶりはどうしても楽しめなかった。

チムニーズ館の秘密 dvd.jpg 第18話「チムニーズ館の秘密」02.jpg チムニーズ館の秘密 09.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX5

第18話「チムニーズ館の秘密」05.jpg 1932年、チムニーズ館階下で開催された舞踏会の曲に合わせて踊っていたメイドのアグネス(ローラ・オトゥール)は侵入者に気付いて止めようとして殴られ、鉄枠に頭を打って死ぬ。それから23年後の1955年、チムニーズ館所有者のクレモント・ケイタラム卿(エドワード・フォックス)は、政府高官ジョージ・ロマックス議員(アダム・ゴッドリィ)から、オーストリアの鉄鉱石の権利を有するルードウィッヒ伯爵の依頼により、チムニーズ館で取引交渉したいとの申し出を受シャーロット・ソルト1.jpgけていた。一方、ケイタラム卿の娘ヴァージニア・レヴェル(シャーロット・ソルト)は、男に誘拐されそうになったところを通りがかりのアンソニー・ケイド(ジョナス・アームストロング)に救われ、犯人はアンソニーを殴って逃走する。ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は、従妹の娘に当たるヴァージニアの運転でチアンソニー・ヒギンズ.jpgムニーズ館へ。週末に館に集まって来た人々は、ケイタラム卿の上の娘バンドル(デルヴラ・キルワン)、オーストリアの伯爵ルードウィッヒ(アンソニー・ヒギンズ)、社会活動家ブランケンソープ(ルース・ジョーンズ)など。伯爵がチムニーズ買収の話を持ち出すとバンドルは「売り物じゃない」と反発するが、ケイタラム卿は売買契約を受け入れる。同日の真夜中、護衛が誰かに殴られ、客らは警報で起こされるが、館の秘密の通路から銃声が聞こえ、そこでは伯爵がアンソニー・ケイドの腕の青いゼラニウム.jpg中で死んでいた。アンソニーは容疑者として部屋に監禁され、スコットランド・ヤードから主任警視フィンチ(スティーブン・ディラン)が来て調査を進める。全員から話を聞いた後、フィンチはミス・マープルと秘密の通路を現場検証し、伯爵のポケットから暗号文(楽譜)を発見する。アンソニーはチムニーズ館に夜忍んで来るようにという手紙を受け取っており、夜警を殴り倒して秘密の地下通路に入ったが、23時30分頃に館の煙突から煙が出ているのを目撃したという。バンドルとマープルは楽譜の謎を解こうとする。
第18話「チムニーズ館の秘密」06.jpg フィンチとマープルが召使トレッドウェル(ミシェル・コリンズ)に話を聞くと、1923年の夜会の晩にメイド仲間のアグネスが誰かに殺されたのを目撃したと言い、離れの石棺をフィンチとケイタラム卿が開くと、彼女の白骨死体が発見された。楽譜はバンドルが解読し、当時この館でルードウィッヒ伯爵は秘密の恋人に呼び出されたらしい。侯爵のダイイング・メッセージ「ヴァント」はドイツ語の「壁」の意味だとフィンチとマープルは気付く。夕食時にヴァージニアは、ジョージの助手ビル(マシュー・ホーン)に作らせた館の立体模第18話「チムニーズ館の秘密」01.jpg型で銃撃当夜の人々の位置を示すが、それぞれにアリバイがあるようだった。そんな中、皆の気分が急に悪くなり、夕食を中断してそれぞれ部屋に帰る。食中毒らしいが、トレッドウェルは翌朝亡くなり、残された彼女の昔の手紙がかつて楽団員だったルードウィッヒ伯爵への恋文であったことから、マープルは彼女は毒殺されたと推理する。更にマープルは、タイプライターの文字の特徴から、アンソニーを呼び出した手紙の主はビルで、ヴァージニア誘拐未遂は、南アフリカで事業に失敗した友人の金策していたアンソニーと組んだ狂言だったとの告白を彼から引き出す。アンソニーはチムニーズのダイヤをネタに脅迫されていた。彼に裏切られたヴァージニアはロマックスの求愛を受け入れようと決心する―。

チムニーズ館の秘密 クリスティー文庫.jpg 2010年制作のグラナダ版「ミス・マープル」第5シーズンの第2話(通算第18話)。原作は1925年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:The Secret of Chimneys)で、クリスティの作品の中で『殺人は容易だ』(1939)、『ゼロ時間へ』(1944)など5作あるバトル警視ものの第1作であるとともに、おしどり探偵トミーとタペンスの『秘密機関』(1922)など8作ある冒険ミステリの内の1作です。

 原作は、バルカン半島のある国を巡って王政派と共和政が争っているという政治背景に加え、ルパンのような怪盗まで出てくる冒険譚ですが、時代設定が30年後にずれているということもあってか、ミス・マープルものにしてしまったということもあってか、大幅にスケールダウンしている印象。リアリティ重視が裏目に出ているのではないかなあ。それにしても改変が甚だしいです。

 原作ではヴァージニアはジョージ・ロマックス議員の従妹なのに、この作品ではケイタラム卿の娘で、バンドルの妹ということになっており、ロマックスからは求婚されています。そうすると、アンソニー、ビルと三つ巴の争奪戦かあ。う~ん、美人ではあるけれど、原エドワード・フォックス.jpg作ほどに社交の場を仕切るような超絶的魅力は無いなあ。また、原作では快男児であるはずの主人公のアンソニー・ケイドも、ここではスティーブン・ディラン.jpgチンケな詐欺師みたいな設定になっているし、率先して謎解きをするはずが、伯爵殺しの容疑者として部屋に監禁され、ヴァージニアに助けを求めるという情けない設定。原作で殺害される賓客は、ヘルツォスロヴァキアの王子ミカエルですが、この作品では、オーストリアの伯爵ルードウィッヒで、王族ではない上にかなりのお年寄。「ジヤッカルの日」のエドワード・フォックス演じるケイタラム卿ばかりが矢鱈その存在感が目立ちましたが、これも原作とは違った意味で俗物だった...。フィンチ警視のスティーブン・ディランも悪くは無いけれど、原作のバトル警視はポアロ、ミス・マープルに次ぐキャラだからなあ。ここではミス・マープルの相手役にならざるを得ない。とは言え、これまで多くの部下の刑事がミス・マープルを最初は小馬鹿にして最後は彼女に鼻を明かされてきたのに対し、最初から協調路線で彼女と推理を遣り取りして、共に事件を解決していく様は、これまでの警部連中より一段レベルが高いと言えるでしょう。さすが、スコットランド・ヤードの主任警視。

 原作にある怪盗キング・ヴィクターも政治的ごろつきも謎の探偵もパリ警視庁の刑事も出てこず、チムニーズ館にあると目される消えたダイヤの謎よりも、男女の愛を巡る個人の(端的に言えば"寝取られ男"の)復讐譚になってしまっています。それによって犯人も置き換えられており、殆ど原作の面影を留めないプロットになっています。

 この作品だけ観れば結構面白いのかもしれませんが、先に原作を読んでしまうと、原作が面白いだけに、これらの改変はどうしても楽しめないものでした。元がノン・シリーズ物であるところへミス・マープルが出てくると、どうしてもミス・マープルの出しゃばり感がつきまといますが、こも映像化作品は特にそれを感じてしまいました。

第18話「チムニーズ館の秘密」04.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第18話)/チムニーズ館の秘密」●原題:THE SECRET OF CHIMNEYS, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 5●制作年:2010年●制作国:イギリス・アメリカ●演出:ジョン・ストリックランド●脚本:ポール・ラトマン●原作:アガサ・クリスティ「チムニーズ館の秘密」●時間:89分●出演:ジュリア・マッケンジー/スティシャーロット・ソルト2.jpgーヴン・ディレイン/シャーロット・ソルト/エドワード・フォックス/アダム・ゴドリ/デヴラ・カーワン/マシュー・ホーン/ョナス・アームストロング/ミシェル・コリンズ/ルース・ジョーンズ/アンソニー・ヒギンズ●日本放送:2012/03/27●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★)

シャーロット・ソルト(CHARLOTTE SALT)

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