【1977】 ○ アンディ・ヘイ 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第17話)/蒼ざめた馬」 (10年/英・米) (2012/03 NHK-BSプレミアム) ★★★☆

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1978】「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第18話)/チムニーズ館の秘密 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ  「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

原作はノン・シリーズもの。犯人の意外性が高い原作の特徴を活かしているが、原作の弱点も反映。

蒼ざめた馬 DVD.jpg  THE PALE HORSE AGATHA CHRISTIE`S MARPLE.jpg  ミス・マープル 蒼ざめた馬 title.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX5

第17話「蒼ざめた馬」08.jpg 霧深い夜、瀕死のディビス夫人(エリザベス・ライダー)を訪ねたゴーマン神父(ニコラス・パーソンズ)は、夫人から邪悪な計画の犠牲者たちの名前を伝えられ、その名前リストを封筒に入れてミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)宛に投函するが、その直後に何者かに襲われ撲殺される。封書は翌朝マープルの許に届き、新聞で神父の死を知ったマープルは警察に捜査を依頼するが、ルジューン警視(ニール・ピアソン)と監察医のケリガン(ジェイソン・メレルズ)はリストにあまり関心を示さない。故ディビス夫人の宿を訪問したマープルは、ディビス夫人の靴の中から神父のメモと同じ名前の書かれたホテル「蒼ざめた馬」の便箋を見つける。宿の女主人コピンズ夫人(リンダ・バロン)によれば、ディビス夫人は何かに怯えていたと言い、宿泊人で会計士のポール・オズボーン(JJ・フィールド)は、神父撲殺事件当夜に現場付近で目撃した頬に傷のある男のことを語ってくれた。
 ルジューン警視はリストにあった珍しい名前ヘスケス・デュボワ宅に電話をし、資産家の彼女が6ヵ月前に亡くなっていることを知る。電話に出たのは、デュボワの甥の民俗学者マーク・イースターブルック(ジョナサン・ケイク)で、警視の空軍時代の知人だった。マークは最初の妻が事故死して悲嘆にくれていた際に励ましてくれた、名付け親でもある夫人の死の真相を探り始め、警視らも、リストに名のある人達は皆最近死んでいるのではないかと疑い始める。

蒼ざめた馬 1997 3老婆.jpgPauline Collins as Thyrza Grey/Holly Valance as Kanga
第17話「蒼ざめた馬」03.jpg第17話「蒼ざめた馬」04.jpg 一方、ミス・マープルは、ハンプシャーの小村マッチディーピングにある小さなホテル「蒼ざめた馬」を訪れ、経営者のサーザ・グレイ(ポーリーン・コリンズ、受付のシビル・スタンフォーディス(スーザン・リン第17話「蒼ざめた馬」02.jpgチ)、料理人ベラ・エリス(ジェニー・ギャロウェイ)らに挨拶される。「蒼い馬亭」の客は、家事で家が焼けたコッタム大佐(トム・ワード)とその妻カンガ(ホリー・ヴァランス、ポリオの後遺症で車椅子生活で頬に傷のあるヴェナブルズ(ナイジェル・プラナー)。マープルは大佐の家政婦リディア・ハースネット(サラ・アレクサンダー)やマーク・イースターブルック、友人トマシーナ・タッカートンの死を悲しむジンジャー・コリガン(エイミー・マンソン)らと会う。
 翌日、サーザが黒魔術による死についてミス・マープルらに熱っぽく言及している際に、客室からリディアの叫び声が聞こえ、コッタム大佐が寝室で死んでいるのが発見される。解剖の結果、大佐の死は性的興奮剤によるものだった。マープルは毒がスパニッシュ・フライを粉にしたものだと推理、自分が日頃使うクリームの瓶の置き方の違いから殺人者の接近を感じたマープルは、資格を剥奪された弁護士ブラッドリー(ビル・パターソン)を訪ね、彼が死の請負業の金銭授受に関わっていると推理する―。

蒼ざめた馬 アガサ・クリスティ ハヤカワ文庫 2ー.jpgアガサ・クリスティー・コレクション 蒼ざめた馬2.jpg 2010年制作のグラナダ版「ミス・マープル」第5シーズンの第1話(通算第17話)で(本国放映は英国2010年、米国2011年)。原作は、1961年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:The Pale Horse)、ポアロもマープルも登場しないノン・シリーズもの。映像化作品としては、1997年制作のTV版「アガサ・クリスティ/青ざめた馬」 が先行してあります(VHS販売時のタイトルは「魔女の館殺人事件」)。

 原作では、マーク・イースターブルックがジンジャー・コリガンと協力して事件の真相を探ろうとしますが、ミス・マープルシリーズの一つとして作られたこの作品では、ジュリア・マッケンジー演じるミス・マープルが早くから登場して、マークらや警察に先行して「蒼ざめた馬」に乗り込み、ぐいぐい彼らを先導していきます。そして、最後に、関係者に協力を依頼して、「ヴェナブルズは本当は歩けた」「マークはコリガンと大喧嘩の末に喧嘩別れした」などの芝居を仕組んで、殺人犯をトラップにかける―という、まさにミス・マープルの独壇場。

 ミス・マープルシリーズだからこれでいいんだけど、マーク・イースターブルック(ジョナサン・ケイク)の影がやや薄くなったか。ジンジャー・コリガン(エイミー・マンソン)については、原作では、マークを励まして自ら率先して犯人に対する囮になるという積極派であるのに対し、この映像化作品では、やや線細で受動的な印象。ルックス的にも、コッタム大佐の妻カンガ(ホリー・ヴァランス)や、コッタム大佐と不倫関係にあったリディア・ハースネット(サラ・アレクサンダー)の方が印象に残る感じかな。この二人、何となく感じが似ているけれど、原作には無いキャラであり、そもそも原作では「蒼ざめた馬」は宿屋業はもうやってなかったように思います。黒魔術の儀式がそこで行われ、マークが弁護士ブラッドリーを介してそこへ依頼人を装って乗り込むのは原作と同じ。彼の職業は民族学者になっているけれど、原作では歴史学者。ポール・オズボーンは会計士になっているけれど、原作では薬局店主(因みに、「魔女の館殺人事件」では、マークは彫刻家、オズボーンは医師に改変されていた)。

 結局、黒魔術で人を殺しているわけではなく、ある種犯罪ネットワークであるわけですが、その黒幕は誰かというのが焦点で、ヴェナブルズに容疑がかかるのは原作通りですが、原作では彼は謎の美術品蒐集家で、実は銀行強盗の黒幕でもあったというのに対し、この映像化作品にはそうしたことは全く出てきません。そうしたこともあって、全体的に原作のイメージとちょっと違っている印象ですが、一方で、原作の分かりにくい部分を解説的に表現している箇所もあり、原作を読んでから観た方がいい作品です。

 犯人の意外性の度合いが高い原作の特徴をよく活かしていますが、ブラッドリー弁護士やサーザ・グレイの動機は金銭目的であるとして、彼らの元締めである犯人の動機が今一つ掴めないという原作の弱点もそのまま反映されているような印象でしょうか(結局、"サイコ・キラー"だったということか)。

Pauline Collins.jpg忘れられぬ死(2003年)洋DVD.jpg 「蒼ざめた馬」の女主人サーザ・グレイを演じたポーリーン・コリンズ(Pauline Collins)は、「アガサ・クリスティ/忘られぬ死」 ('03年/英)では、探偵役となって事件を解決する側でした(老夫婦"おしどり探偵"の妻の役。かなり夫役のリヴァー・フォード・デイヴィスをこき使っていた)。

Holly Valance Kiss Kiss.jpg また、コッタム大佐の妻カンガを演じたホリー・ヴァランス (Holly Valance)はオーストラリア出身で、モデル、歌手を経て女優になった人です。かつて、ヒット曲"Kiss Kiss"(2002)で一世を風靡し、また、セクシーなプロモーションビデオで話題になりましたが、いつの間にか演技派女優に転身していたのだなあと。

Holly Valance 5.jpg
ホリー・ヴァランス(Holly Valance)
Holly Valance 2011.jpgHolly Valance1.jpg Holly Valance3.jpg 
  
  

アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX5.jpgアガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX5
【収録作品】
 『青いゼラニウム』     脚本:スチュワート・ハーコート、演出:デビッド・ムーア
 『チムニーズ館の秘密』   脚本:ポール・ラトマン、演出:ジョン・ストリックランド
 『蒼ざめた馬』       脚本:ラッセル・ルイス、演出:アンディ・ヘイ
 『鏡は横にひび割れて』   脚本:ケビン・エリオット、演出:トム・シャンクランド

第17話「蒼ざめた馬」01.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第17話)/蒼ざめた馬」●原題:THE PALE HORSE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 5●制作年:2010年(本国放映[英国]2010年/[米国]2011年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:アンディ・ヘイ●脚本:ラッセル・ルイス●原作:アガサ・クリスティ「蒼ざめた馬」●時間:89分●出演:ジュリア・マッケンジー/ニール・ピアソン/エイミー・マンソン/ジョナサン・ケイク/ポーリーン・コリンズ/JJ・フィールド/サラ・アレクサンダー/ジェイソン・メレルズ/スーザン・リンチ/ホリー・ヴァランス/リンダ・バロン/ナイジェル・プレイナー/ビル・パターソン/ジェニー・ギャロウェイ/ニコラス・パーソンズ/エリザベス・ライダー/トム・ウォード●日本放送:2012/03/28●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★☆)

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1