【1976】 ○ ニコラス・レントン 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第16話)/なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」 (09年/英・米) (2012/03 NHK-BSプレミアム) ★★★☆

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最後、スゴかった。改変には目くじらを立てずに観ようと決め込めば、充分に楽しめた。

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アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX4

Miss Marple  Why Didn't They Ask Evans title.jpgWHY DIDN'T THEY ASK EVANS dormer 0.jpg ボビー(ショーン・ビガースタッフ)はゴルフのプレー中に崖の上で瀕死の男を発見する。男は息絶える前に「なぜ、エヴァンズに頼まなかったか?」という言葉を残す。男は事故死とされたが、男の最後の言葉と男が持っていた美女の写真が紛失していることが気になったボビーは、幼馴染みの第16話「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」02.jpg第16話「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」01.jpg令嬢フランキー(ジョージア・モフェット)と母親の友人ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)と共に謎解きを始める。3人は男の持ち物のなかにサベッジ城に印の付いた地図を発見し、ボビーは何者かに命を狙われた矢先で怯えるが、好奇心旺盛なフランキーは単身で城に乗り込み、城の前でクルマ事故を起こしてしまい、サベッジ家の女主人シルヴィア・サヴェィジ(サマンサ・ボンド)の世話になる―。 Georgia Moffett/Sean Biggerstaff

なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? クリスティーb.jpg 2009年制作のグラナダ版第4シーズンの第4話(通算第16話)で(本国放映は米国]2009年、英国2011年)、ミス・マープル役はジュリア・マッケンジー(Julia McKenzie、1941-)で吹替版の声の担当は藤田弓子。原作『なぜエヴァンズに頼まなかったのか』は、1934年の刊行で、ポアロやミス・マープルのようなシリーズ・キャラクターは登場せず、この作品限りのキャラクターが主人公です。

 フランキーが乗り込んだ城では、主人のジャック・サヴェィジは心臓発作で半年前に亡くなっており、女主人シルビア・サヴェィジの外に、毒蛇を飼う病的な青年トム(フレデリー・フォックス)とやや小生意気なその妹ドロシー(ハンナ・マレー)の姉弟、ピアノ教師のロジャー・バッシントン(ラフェ・スポール)がおり、近所には、シルヴィアの主治医アレック・ニコルソン(リック・メイオール)と妻のモイラ(ナタリー・ドーマー)、ジャックのかつての共同経営者で今は庭師のクロード・エヴァンズ(マーク・ウィリアムズ)などが住み、女主人の知己には警視長ピーターズ(ウォーレン・クラーク)も―。

なぜエヴァンズに頼まなかったのか?00.jpg 原作に出てこないミス・マープルがどう事件に絡むのかと思ったら、いきなりフランキーの元家庭教師ということで乗り込んできて(「城」という住いは、いつ誰が来ても滞在する部屋はあるのかと...)、それにボビーがフランキーの運転手に扮してミス・マープルに付いてきて(原作ではこれはフランキーのアイディアとなっている)、淡い恋心を抱く二人が偽の主従関係を演じる中、フランキーはピアノ教師ロジャー・バッシントンに言い寄られ、ボビーはドロシーに追い回されたり、ニコルソン医者の妻モイラと真夜中に思わぬ場面で遭遇したりで、二人の関係の行方はどうなるのかみたいな趣向も。

 犯人はエヴァンズだとかニコルソン医師だとか二人でやり合っているうちに、そのエヴァンズは庭で蛇の毒で殺され、警視長ピーターが捜査に乗り出し、蛇の毒はニコルソン医師から貰ったとのトムの証言をもとに医師を逮捕、ボビーらは医師に監禁されていたモイラを救い出すが―。

 これで一件落着したかに見えますが、この作品の本当の結末はこれからであり、その結末には犯人の過去の怨念が絡んでいてヘビィで、ちょっとおどろおどろしい雰囲気も。原作は、タイトル通り、フーダニット(誰が犯人か)、ホワイダニット(動機は何か)より、ハウダニット(どうやって犯行を成したか)に白眉を見出せる作品ですが、この映像化作品はホワイダニットが結構重いね。

WHY DIDN'T THEY ASK EVANS dormer2.jpg しかし、それにしても随分と原作と変えちゃったなあ(原作の保守的なファンは許さないだろうね)。原作は、確かに大富豪のジョン・サヴェィジは既に死んでいますが、物語の舞台はバッシントン・フレンチという地元の名家で、こちらの当主ヘンリイ・バッシントン・フレンチは物語の前半まで生きており(彼がモルヒネ中毒)、原作の女主人シルヴィア・サヴェィジに該当するであろうその奥さんシルビア・バッシントン・フレンチはまだ若く(こちらは健全)、ヘンリイ・バッシントンの弟がロジャー・バッシントン・フレンチ。毒蛇を飼う病的な青年も生意気なその妹も登場せず、更には庭師のクロード・エヴァンズも登場することなく、物語の途中で殺されるのはエヴァンズではなく、当主のヘンリイ・バッシントン・フレンチとなっています。
 
 原作では、書き変えられた遺言はジョン・サヴェィジのものとみられ、そこでジョン・サヴェィジの死が終盤怪しくなるわけですが、その点においては、本作でジャック・サヴェィジの死が怪しくなるのと一応は符合するのかも。ただ、犯人の犯行動機は純粋に相続財産狙いで、この映像化作品にあるような、植民地在留時代の父親兄弟を巡る凶行に対する、成人となったその子供たちの復讐―という風にはなっていません(原作では、女は捕まるが、男は海外に逃げおうせる。この点は、原作の方にややもやもやした印象が残る)。

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 それにしても、ナタリー・ドーマー(Natalie Dormer)演じるモイラがどんどん美しくなっていく(原作でも、フランキー自身モイラが自分より美しいことを認めているが)。そして、一番美しく見える時が一番怖いNatalie Dormer as Anne Boleyn.jpg時...。最初のうちは、ジョージア・モフェット(Georgia Moffett)演じるフランキーの明るく活発で、突然「城」を訪ねてそれなりに丁重に扱われる英国風お嬢さんぶりが目を引く一方、モイラの方は、初登場時はやつれた感じでしたが、次第に存在感が逆転していき、最後はスゴかった...。ナタリー・ドーマーって、怖い時が一番美しく見える女優なのか(最近は「THE TUDORS〜背徳の王冠〜」に出ている)。

WHY DIDN'T THEY ASK EVANS dormer 4.jpg 改変の激しさには賛否があるかと思いますが、元がミス・マープルものではないこともあってそれはある程度仕方ないとしても、子供向けにも翻訳されている原作に対して、ある意味"人間の業"を描いており、かなりヘビィな仕上がりかも。但し、あのラストの背中のスネーク・タトゥーはあまりにエロチックで、シリーズのトーンからやや外れていたかもしれません(ちょっとやり過ぎ?)。でも、改変には目くじらを立てずに観ようと決め込めば、「こう来ましたか」という感じで充分に楽しめた作品でした。星3つ半の個人評価は、ある程度原作と切り離してのもので(このシリーズに「原作に忠実であること」を求めても詮無いことなのか)、原作との対比で評価すると星3つ。「ダルジール警視」のウォーレン・クラークがピータース警視長役で出てたけれど、濃いなあ、この人。

ジョージア・モフェット(Georgia Moffett)/ナタリー・ドーマー(Natalie Dormer)
Georgia Moffett.jpgNatalie Dormer.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第16話)/なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」●原題:WHY DIDN'T THEY ASK EVANS?, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 4●制作年:2009年(本国放映[米国]2009年/[英国]2011年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:ニコラス・レントン●脚本:パトリック・バーロウ●原作:アガサ・クリスティ「殺人は容易だ」●時間:93分●出演:ジュリア・マッケンジー/ショーン・ビガースタッwarren clarke.jpgフ/ジョージア・モフェット/ヘレン・レデラー/サマンサ・ボンド/リック・メイオール/レイフ・スポール/マーク・ウィリアムズ/ウォーレン・クラーク/ハンナ・マレー/フレディー・フォックス/ナタリー・ドーマー/リチャード・ブライアーズ/シューアン・モリス/デビッド・ブキャナン●日本放送:2012/03/21●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★☆)

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