【1975】 △ アンディ・ウィルソン 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第15話)/魔術の殺人」 (09年/英・米) (2012/03 NHK-BSプレミアム) ★★★

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それなりに面白かったけれど、改変の意図がよく分からなかったりする。

魔術の殺人.jpg 第15話「魔術の殺人」1.jpg 第15話「魔術の殺人」3.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX4

THEY DO IT WITH MIRRORS title.pngミス・マープル 魔術の殺人01.jpg ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は、友人のルース・ヴァン・リドック(ジョーン・コリンズ)から、青少年更正施設を運営するルイス・セロコールド(ブライアン・コックス)と結婚した妹キャリー・ルイーズ(ペネロープ・ウィルトン)のことが心配だと第15話「魔術の殺人」2.jpg聞かされる。キャリーは最初の夫の遺産で暮らしているが、数週間前に屋敷でEmma Griffiths Malin THEY DO IT WITH MIRRORS.jpg火事があった。ルースに調査を依頼されたミス・マープルは、静養を装ってキャリーのもとを訪れる。彼女を駅に出迎えたのは,キャリーの養女で明朗なジーナ・エルスワース(エンマ・グリフィス・マリン)で、アメリカで結婚した夫ウォルター(ウォリー)・ハッド(エリオット・コーワン)と実ミス・マープル 魔術の殺人02.jpg家へ戻っているのだが、義弟(キャリーの二番目の夫の息子)のスティーヴン・魔術の殺人 インディアン.jpgレスタリック(リーアム・ギャリガン)は彼女に気があるようだ。その他に屋敷には、キャリーの実娘ミルドレッド(サラ・スマート)、施設上がりの秘書の青年エドガー・ローソン(トム・ペイン)、家政婦ジョリー・ベレバー(マキシーネ・ピーケ)らがいた。そこへ、ルイスの共同経営者クリスチャン・ガルブランドセン.jpgクリスチャン・ガルブランドセン(ナイジェル・テリー)が尋ねて来るが、彼はキャリーの最初の夫の長男である。ルイスは施設で予定されている演芸会の練習に余念が無く、その夜もインディアンの酋長に扮装して皆を相手に練習していた。そこへエドガーが拳銃を携えてやって来て、ルイスに恨みがあると言い立て、拳銃を発射、偶然やって来たキャリーの二番目の夫で演劇プロデューサーのジョニー・レスタリック(イアン・オジルビー)に取り押さえられる。その騒ぎの最中に、隣室でクリスチャンが刺殺され、カリー警視(アレックス・ジェニングス)が来訪して捜査を始める―。

魔術の殺人 hpm2.jpg 原作は1952年に発表されたアガサ・クリスティのミス・マープルシリーズの長編第5作で(原題:They Do It with Mirrors)、この映像化作品は2009年制作のグラナダ版のシーズン4(ジュリア・マッケンジー(Julia McKenzie)主演)の第3話(通算第15話、本国放映は米国]2009年、英国2010年))、演出のアンディ・ウィルソンは、当シリーズでは、第1話「書斎の死体」と第3話「パディントン発4時50分」を手掛けています。

 このシーリズ、シーズン4以降は、ノン・マープル物にミス・マープルを登場させて脚色したりしている作品もあり、それだけ原作からの改変も激しいのですが、この映像化作品は元がマープル物とあって、登場人物も、原作では故人のはずの二番目の夫ジョニー・レスタリックが、(殺害されるところまで含め)原作におけるその長男アレックス(スティーヴンの兄)の役割を果たしていた点を除いては原作と比較的符合しており、シリーズの中では改変が少ない方か?

 いやいや、結構細かい部分でも改変があったかも。ルイスがいきなりインディアンの酋長の恰好で出てきたのにはビックリ。原作では普通に皆が居間にいるところに事件が起きて、別に芝居の練習をしていたわけではなかったはず。原作の肝(キモ)である殺人事件の起きた状況をより分かりよいものにするための「舞台」設定だったのでしょうか。でも、根は明朗なジーナを、「暗~いモンロー」風のインディアンの娘に仕上げる必要はあったかなあ(自らの出生の秘密を知ってしまったということか)。

 キャリー・ルイーズが、原作のひ弱な老女から、ごつい感じのお婆さんになっていたりするなどのキャラクター改変も行われていますが、一応、誰が誰だか分からなくなるようなことはありませんでした。但し、原作からして、キャリー・ルイーズ・セロコールドの今の夫ルイス・セロコールドは彼女3番目のジョーン・コリンズ.jpg夫ということで、前夫の子や養女もいたりして、人物相関の複雑さは相当なもの。キャリーの最初の夫の長男クリスチャン・ガルブランドセンがやけに老けているのがややこしいけれど、原作でも、この継子の方が継母のキャリーより2歳年上となっています。原作を読んでいないと人物関係を追うのがややキツイかも。因みに、原作では、彼女の姉ルース・ヴァン・リドックも3回結婚し、3回離婚して、その度に金持ちになっていった女性という設定です(この役を演じているジョーン・コリンズは実生活で5回結婚している)。

Joan Collins

リーアム・ギャリガン(Liam Garrigan)
ミス・マープル 魔術の殺人03.jpg この映像化シリーズの特徴で、若い男女、とりわけヒロインに相当する女性の恋愛の行方をミステリと同じくらいの比重で扱ったりするものが幾つかある中で、この作品はその典型であり、そうなると、エンマ・グリフィス・マリン(Emma Griffiths Malin)演じるジーナにどれぐらい好感が持てるかが、この作品に対する好悪の分かれ目になることもあるかもしれません。彼女は、離れて見ている分にはいいけれど、付き合うとなる(ましてや結婚するとなると)大変そう―という感じかな。

エンマ・グリフィス・マリン(Emma Griffiths Malin)
Emma Griffiths Malin0.jpgEmma Griffiths Malin2.jpg 犯人は原作ではエゴイスティックな殺人鬼という印象でしたが、この作品では、配偶者への思いやりから殺人を犯しているような解釈になっていて、原作ではあと2人若者を殺害していますが、この映像化作品では、あと1人、オジさん(ジョニー・レスタリック)を殺すのみ―と、やや犯人寄りの改変?(犯人に共感的に描くことで、その加害性をうやむやにしてしまうというのは、「パディントン発4時50分」などにも見られたこの演出家の傾向か)

 原作からの改変が激しいと嫌気がさす人も多いかと思いますが、このシリーズ、先行するBBCのジョーン・ヒクソン版が原作に忠実に作られているのと差別化するために、「改変の妙を愉しむ」趣向にしているのではないでしょうか。その意味では本作もそれなりに面白かったけれど、例えばジーナが矢鱈暗かったりしたかと思ったら最後は明るかったりで、改変のトーンに一貫性がないようにも思えました。

Emma Griffiths Malin
Emma Griffiths Malin.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第15話)/魔術の殺人」●原題:THEY DO IT WITH MIRRORS, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 4●制作年:2009年(本国放映[米国]2009年/[英国]2010年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:アンディ・ウィルソン●脚本:ポール・ラトマン●原作:アガサ・クリスティ「魔術の殺人」●時間:93分●出演:ジュリア・マッケンジー/ペネロープ・ウィルトン/ブライアン・コックス/エマ・グリフィス・マリン(Emma Griffiths Malin)/サラ・スマート/マキシン・ピーク/エリオット・コーワン/リアム・ギャリガン/トム・ペイン/イアン・オギルビー/ナイジェル・テリー/ジョーン・コリンズ/ジョーダン・ロング/アレクセイ・セイル/アレックス・ジェニングス/ショーン・ヒューズ●日本放送:2012/03/22●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★)

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