【1973】 ○ チャールズ・パーマー 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第13話)/ポケットにライ麦を」 (09年/英・米) (2012/03 NHK-BSプレミアム) ★★★★

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ジュリア・マッケンジー初登場版は、意外と原作に忠実だった。

ミス・マープル ポケットにライ麦を dvd.jpg 第13話「ポケットにライ麦を」01.jpg 第13話「ポケットにライ麦を」04.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX4」      Julia McKenzie/Helen Baxendale

第13話「ポケットにライ麦を」03.jpg第13話「ポケットにライ麦を」05.jpg 朝の投資信託会社内で社長秘書のグロブナー(ラウラ・ハドック)が社長のレックス・フォテスキュー(ケネス・クランハム)にお茶を持って行くと、お茶を飲んだ社長は苦しみ出してじき亡くなる。ニール警視(マシュー・マックファディンとビリングスリィ巡査部長(ポール・ブルーク)の調べにより、自宅での朝の紅茶に毒物のタキシンが入れられたと考えられたが、社長の上着のポケットにライ麦が詰め込まれていたことの意味は解らない。
第13話「ポケットにライ麦を」07.jpg第13話「ポケットにライ麦を」06.jpg フォテスキュー家には、レックスの若い後妻アデール(アンナ・マデリー)、長男のパーシヴァル(ベン・マイルズ)、パーシヴァルの妻で元看護婦のジェニファー(リズ・ホワイト)、娘のエレーヌ(ハッティー・モラハン家政婦のメアリー・ダヴ(ヘレン・バクセンデール、執事のクランプ(ケン・キャンベル)とその妻で料理人の(ウェンディ・リチャード)、ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)が教育した養護施設出身の小間使いグラディス(ローズ・ハインニー)がいて、アデールにはヴィヴィアン・デュボア(ジョセフ・ビーティー)という若い男の愛人がいた。

第13話「ポケットにライ麦を」5.jpg ちょうど翌日、放蕩のため家を追い出されていたパーシヴァルの弟ランスロット(ルパート・グレイヴズが、父に呼ばれたからと妻パット(ルーシー・コフ)と共にアフリカのケニアから戻ってくる。そのランスが帰還した日に、アデールが飲んだ紅茶に入っていた青酸カリのために亡くなる。そして同じ夜、小間使いのグラデイスが洗濯場で絞殺死体で発見され、鼻を洗濯バサミで挟まれていた。自分が仕込んだグラディスが亡くなったことで、ミス・マープルは、ニール警視とピックフォード巡査部長(ラルフ・リトル)による事件捜査に協力を申し出る。ミス・マープルは、事件の経緯が執事クランプの口ずさんだマザーグースの歌と符合していることに気づき、歌の中に出てくるクロツグミ(ブラックバード)のことで家人に聴いてみるようニール警視に示唆すると、クロツグミの死骸がレックス・フォテスキューの机の引き出しに入れられていた事件が何か月か前にあったことと、アフリカのクロツグミ鉱山を共同経営していたマッケンジーという男がアフリカの地でレックスに置き去りされる形で横死し、彼には妻との間に息子と娘がいたらしいことがわかる。ミス・マープルがサナトリウムいるマッケンジーの妻を訪ねると、息子は戦死し、娘はいないと言うが、ミス・マープルは、娘のルビー・マッケンジーが偽名を使って復讐のためにフォーテスキュー家に潜入していると推理、ニール警視は、しっかり者だがどことなく冷たい感じの家政婦メアリー・ダヴがルビーではないかと疑うが―。

第13話「ポケットにライ麦を」02.jpg 2008年制作のグラナダ版第4シーズン第1話(通算第13話)で(本国放映は2009年)、第3シーズンまでミス・マープル役を務めたジェラルディン・マクイーワン(Geraldine McEwan、1932‐)が退き、この第4シーズン第1話からジュリア・マッケンジー(Julia McKenzie、1941-)がミス・マープルを演じています(吹替版の声の担当は藤田弓子)。

ポケットにライ麦を ハヤカワ文庫.jpg 原作『ポケットにライ麦を』は1953年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で、グラナダ版の映像化作品は原作の独自の改変が目立つものが多いのですが、このチャールズ・パーマー演出、ケヴィン・エリオット脚本の映像化作品は、原作にほぼ忠実に作られています。

Julia McKenzie

 ミス・マープルはニール警視に、これはクロツグミ事件を利用した犯罪であり、レックス・フォテスキュー殺しはグラデイスがそうとは知らずにマーマレードに毒を入れたことによるもので、そのグラデイスを利用した真犯人がアデールとグラデイスを殺し、但し、グラデイスは歌の順番と異なりアデールより先に殺されていたとの推理を話します。

 ミス・マープルの話を聞いてもニール警視には真犯人が分からないのも原作と同じ。真犯人の名を聞いてビックリ。納得はしたものの、証拠が無いため、立証するのは貴方の仕事ですよ、頭のいい貴方ならできます、とマープルが励ますところでほぼ終わるのも原作通りで、これが"原作に忠実に作られている"として評価の高いジョーン・ヒクソン主演のBBC版('86年)では、最後、犯人を自動車事故死させてしまっていることを考えると、むしろこちらの方が原作に忠実と言えるかもしれません(このシリーズ、演出・脚本のコンビによって、改変度にかなり差がある)。

 原作に対する評価で、犯人がわざわざ証拠を多く残すようなことをするかとの疑問が付されることもありますが、個人的にはマザーグースを実際のプロットに用いた傑作だと思われ(クリスティ作品にマザーグースの引用は多いが、この作品や『そして誰もいなくなった』のようにそれがプロットに完全に組み込まれているものは少ない)、この映像化作品は、「原作を読む代わり」とするには手頃かも。但し、BBC版もそうでしたが、登場人物のイメージが自分が抱いていたものとやや異なりました。

ヘレン・バクセンデール.jpg 家政婦メアリー・ダヴ役のヘレン・バクセンデールは、悪女ぶりがものすごくキマっていたように思います(原作より存在感が大きい)。パーシヴァルの妻で元看護婦のジェニファー(リズ・ホワイト)は、本来は影がある女性ではないかと思われるですが、ヒステリニックかと思ったら落ち込んだりの情緒不安定で、あまり頭も良さそうでなく、むしろ、レックスの実の娘のエレーヌ(ハッティー・モラハン)の方が魅力的だったかも(原作でも元々影が薄いというのはあるが)。ランスロット(ルパート・グレイヴズ)の妻パット(ルーシー・コフ)も、ちょっと老けた感じだったなあ。あなたはまだ若いんだから...とは言いにくい?

Helen Baxendale

 何よりも、原作の魅力は、嫌な人間ばかりがいる中で最も好人物だと思われた人物が実は―という(ある種、叙述トリックに近いような)点にあるわけですが、それに該当する人物がそう魅力的に描かれておらず、最初から、複数の「犯人であっもおかしくない人物」の内の一人になっているのが難点かな。「眺めのいい部屋」「モーリス」のルパート・グレイヴズは"久しぶり!"という感じだったけれど。

 それでも、原作が個人的には気に入っているものであるだけに、原作に忠実であるは喜ばしいことでした。

ミス・マープルdvd4.jpgアガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX4
ミス・マープル マッケンジー.jpg【収録内容】
全4話収録
 第1巻 『ポケットにライ麦を』
 第2巻 『殺人は容易だ』
 第3巻 『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』
 第4巻 『魔術の殺人』
 主演:ジュリア・マッケンジー(声:藤田弓子)

ミス・マープル マッケンジー2.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第13話)/ポケットにライ麦を」●原題:A POCKETFULL OF RYE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 4●制作年:2008年(米国放映2009年7月5日/英国放映2009年9月6日)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:チャールズ・パーマー●脚本:ケヴィン・エリオット●原作:アガサ・クリスティ「ポケットにライ麦を」●時間:93分●出演:ジュリア・マッケンジー/マシュー・マクファディン/ルパート・グレイヴス/ベン・マイルズ/ルーシー・コウ/ヘレン・バクセンデイ/リズ・ホワイト/アンナ・マデリ/ハティ・モラハン/ラルフ・リトル/ケン・キャンベル/ウェンディ・リチャード/ジョセフ・ビーティー/プルネラ・スケイルズ/ローズ・ハイニー/クリス・ラーキン/ケン・クラナム/エドワード・チューダー・ポール/ローラ・ハドック/ティア・コリンズ●日本放送:2012 /03/19●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★★)

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