【1990】 ○ キャロライン・グレアム (宮脇裕子:訳) 『空白の一章―バーナビー主任警部』 (2010/09 論創社) ★★★★

「●海外サスペンス・読み物」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1487】 グラント・ジャーキンス『いたって明解な殺人
「○海外サスペンス・読み物【発表・刊行順】」の インデックッスへ

ドラマ以上にフーダニット(犯人探し)がじっくり堪能できる原作。

Written in Blood Caroline Graham.jpg空白の一章2.JPG 空白の一章.jpg CAROLINE GRAHAM.gif 血ぬられた秀作 dvd.jpg
"Written in Blood: The 4th Inspector Barnaby Mystery"『空白の一章―バーナビー主任警部』Caroline Graham「バーナビー警部~血ぬられた秀作[DVD]

Written in Blood.jpg アマチュア作家サークルのメンバー、ジェラルド・ハドリーが自宅で惨殺された。殺害される直前、ジェラルドが緊張しているのを他のメンバーは不審に思っていた。その夜、サークルがゲストに招いたプロ作家マックス・ジェニングズと関係があるのか......。捜査が進展するにつれ、被害者ジェラルドの素性を誰も知らないことがわかる。一方、疑惑の人、ジェニングズは事件後に旅立ったまま、行方がわからない。ロンドン郊外の架空の州ミッドサマーを舞台に、バーナビー主任警部と相棒のトロイ刑事が、錯綜する人間関係に挑む―。

 バーナビー警部とトロイ部長刑事のコンビが活躍するTVドラマシリーズ「バーナビー警部」の原作者である英国のキャロライン・グレアム(Caroline Graham、1931-)の「バーナビー主任警部」シリーズの1994年に発表された第4作(原題:Written in Blood)で、作者はシリーズ第1作『蘭の告発』(1987)で注目を集め、1997年からイギリスのITVでの放映が開始、2012年までに92話が放映されています。

Written in Blood (Chief Inspector Barnaby Series #4) Audiobook

 「92話」というとスゴイ数ですが、原作そのものは7作しかなく、翻訳されているのは第1作『蘭の告発』、第2作『うつろな男の死』とこの第4作『空白の一章』のみです。グレアムは、舞台女優やフリーランスのジャーナリストなどの職業を経て作家となり、最初はロマンス小説や児童書などを書いていて、「バーナビー主任警部」シリーズの第1作を発表したのが56歳の時、2004年にシリーズ第7作を発表した時点で73歳になっていますから、今後は「新作」を望むというより、「新訳」を望むということになりそうです。

 本書は単行本で500ぺージ以上ある大作ですが、翻訳がこなれていて読み易い上に、ストーリーの展開が巧みで引き込まれ、ほぼ一気に読めます。
 映像化作品の方は、シリーズ第4話として1998年に英国で放映され、日本では2002年に「小説は血のささやき」としてNHK-BS2で放映され、ミステリチャンネルで再放映された際に「血ぬられた秀作」というタイトルとなり、それがDVDのタイトルにもなっています。

 多くの人物が登場するにも関わらず、人物描写の書き分けが丁寧で、犯人当ての醍醐味も十分楽しめます。本来は、映像化作品を観る前に原作を愉しみたいところですが、ドラマ版が日本で初放映されて10年以上たってやっと翻訳が出されているわけで、殆どの人がドラマの方に先に触れることにならざるを得ないのは致し方ないところでしょうか(自分もその一人)。

 ドラマと比べると、ジェラルド・ハドリーが殺害される前にプロ作家マックス・ジェニングズと二人きりにしないでくれと懇願した相手が違っていたり、ドラマにおける、マックス・ジェニングズの作家になる前の職業が精神科医であって、精神分析を通してジェラルド・ハドリーの過去の秘密を知るといった経緯が、ドラマ版のオリジナルであったことが分かりますが、何よりも大きな違いは、ドラマで殺害されるマックス・ジェニングズが原作では殺されないという点で、そのため、マックス・ジェニングズ自身の口から過去の出来事の経緯が語られるという点ではないでしょうか。

Written in Blood (1998).jpg とは言え、ドラマは原作のストーリー展開をほぼ活かしていたように思われ、但し、時間的制約もあって、その重厚さにおいてやはり原作にはかなわないといった印象もあり、そのために、第二の殺人を強引にもってきたのではないでしょうか。今風のテンポの速いサスペンスに慣れた読者には、原作はやや話がゆったりし過ぎているように感じられるというのもあるのかもしれませんが、個人的にはやはり原作の方が上。

 ドラマのラストにあったヒッチコックの「サイコ」ばりのエピソードは原作通りだったのだなあ。原作もドラマもこれからという人は、先に原作を読んでフーダニット(犯人探し)をじっくり堪能した上で、ドラマで改変を愉しむという順番の方をお勧めします。 「バーナビー警部(第2話)/血ぬられた秀作」 (98年/英) ★★★☆

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1