【1979】 ○ デビッド・ムーア 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第19話)/青いゼラニウム」 (10年/英・米) (2012/03 NHK-BSプレミアム) ★★★★

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短編集『火曜クラブ』の一話を映像化。原作のことは考えないで、これだけで十分に楽しめる。

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アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX5

青いゼラニウム axn08.jpg青いゼラニウム axn04.jpg  航空会社社長ジョージ・プリチャード(トビー・ステーヴンス)の妻メアリー(シャロン・スモール)は、占いに凝って青い花を恐れていたが、ある朝、メイドのキャロライン(クレア・ラッシュブルック)が食事を持っていくと部屋には鍵が掛かっており、ジョージが扉を突き破って中に入ると、彼女は口から血を吐いて死んでいた。事件は「青いゼラニウム事件」として報じられ、浮気をしていた夫ジョージが逮捕された。半年後に新聞で公判の予告記事を読んだミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は、庭師ジョン(イアン・イースト)の蜂避け薬を混ぜる作業を見て、自分は事件現場に居合わせながら真犯人を突き止められなかったことを悟り、警察を引退したサー・ヘンリー・クリザリング(ドナルド・シンデン)に会って、ジョージは間違って死刑にされようとしていると説明する。
青いゼラニウム axn19.jpg マープルは6ヵ月前、友人のダーモット牧師(ディヴィッド・カルダー)に招かれ向かったリトル・アンブローズ村行きのバスで、エディー・セワード(クリザリング・ジェイソン・ダー)と乗り合わせたことから話す。彼はどもりがちで、アルコール依存症のようだった(後に断酒施設から来たことが判明する)。マープルは教会の寄付活動を手伝いに来たのだが、寄付の目当Claudie Blakley marple.jpgてのプリチャード家は兄弟、姉妹で結婚していた。ジョージは元婚約者フィリッパ(クラウディー・ブレイクリー)を振って、そこへ割り込んだ姉のメアリーと結婚していたが、メアリーがすぐに癇癪を起こすためうんざりしていた。フィリッパはジョージの弟で売れない作家ルイス(ポール・リス)と結婚し、競馬に金を注ぎ込み作品を完成させない夫のために生活苦に陥っていた。ダーモット牧師の姪で、プリチャード家の料理人ヘスター(ジョアンナ・ペイジ)とは、マープルは、彼女が幼い頃に会ったきりの再会だった。
 メアリーは公衆の面前で暴言を吐くなど皆の嫌われ者だったが、夫ジョージの地元ゴルフクラブの会長就任式でも、ダーモットの教会をこき下す。その式典でジョージのティーショットの行方を追った子供らが、エディの溺死体を発見する。メアリーは女占い師に「青い花は死の宣青いゼラニウム axn 医師.jpg告」と脅され発狂寸前で、壁紙のゼラニウムが赤から青になったと大騒ぎして皆をうんざりさせるが、彼画家青いゼラニウム axn.jpg女が亡くなったのはその翌朝だった。彼女は常に薬を飲んでいたが、医師ジョナサン・フレイン(パトリック・バラディ)は「本当は病気じゃない」とニセ薬(水)を与えていた。メアリーが恐慌をきたした夜、壁紙のゼラニウムは青く変色していたため、その壁紙を描いた画家で、ジョージの不倫の恋人ヘイゼル(キャロライン・キャッツ)が疑われる。ヘスターが、ジョージがメアリーの前看護婦スーザン・カーステアーズ(レベッカ・マニング)に、室内でゴルフを教えながらキスしていたと話すのを聞いたヘイゼルはショックを受ける。そのスーザンが絞殺死体で発見され、彼女は妊娠しており、首にはジョージのネクタイが巻かれていた―。

 2010年制作のグラナダ版「ミス・マープル」第5シーズンの第3話(通算第19話)。原作は、1932年に刊行されたアガサ・クリスティ(1890‐1976)の短編集『火曜クラブ』全13話の中の一話(原題:The Blue Geranium)で、「火曜クラブ」とは、マープルの甥で作家のレイモンド・ウェストが彼女の家を借りて主催する、メンバーが過去に遭遇した難事件を披露して皆で謎解きをするという趣向もの。もともと全6話でしたが、単行本化するにあたって7話書き加えられ、「青いゼラニウム」は7話目(つまり、書き加えられた第1話)で、後の長編『書斎の死体』(1942)の舞台となるゴシントン・ホールの持主であるバントリー大佐が披露した話。事件の話そのものの中にはミス・マープルは登場しないわけであって、原作はミス・マープルものでありながら、「非マープルもの」であるとも言えますが、この映像化作品では、最初から事件の中にマープルが居て、但し、その大部分は、6ヵ月前の出来事として彼女の口から語られるという枠組み。因みに、そのマープルの話を聞く元警視総監のサー・ヘンリーもこの「火曜クラブ」のメンバーの一員でしたが、このクラブを通してミス・マープルの抜群の推理力に圧倒され、以降、彼女の有力な支持者となります(この映像化作品では、もう完全にマープル信奉者になり切っている?)。

青いゼラニウム axn09.jpg 元が短編であるだけに、かなり話を膨らませていますが、教会での牧師ダーモットのメアリー追悼シーンなどはかなりドタバタ。メアリーにこき下された経験を持つ牧師は、説教の中で「神もメアリーの人生は無駄なものだったと言われるでしょう」なんて言っちゃうし、それに反発するかの如く、フィリパは、メアリーは殺されたのだと(犯人はヘイゼルだと)言う―聖域どころじゃないね。教会でこんなことってあるのかなという気もしますが、犯人は誰かをミスリードさせる上では効を奏していて、以前に原作は読んでいるはずなのに、観ていて誰が真犯人なのか判らなくなってきてしまいました(共犯者もいたのだなあ。どちらかと言えば、こっちの方が主犯っぽいかも)。

青いゼラニウム axn02.jpg 牧師はミス・マープルに、実はフィリパが告発した時刻、ヘイゼルは自分にジョージとの恋愛について告解に来たのだがこのことは守秘義務上話せなかったのだと言いますが、牧師が、フィリッパがメアリーのために作ったスープをつまみ食いして体調がおかしくなった時点でも、フィリパにさほど疑念を抱いていなかったのか。サマーセット警部(ケヴィン・R・マクナリー)はジョージを犯人だと確信して彼を逮捕し、その時点ではミス・マープルも彼が犯人だと(或いは第一容疑者だと)思っていたことになるのかな。「私が間違ったことがありますか」とサー・ヘンリーに言うミス・マープルにしてみれば珍しいチョンボかも。サマーセット警部って、かつて酒で失敗して今地方で燻っているのに(その辺りは全てミス・マープルに見抜かれてしまっている?)、未だにアルコールが手放せない。人間臭いと言えば人間臭い警部だけれど、この事件の解決は彼の功績になるのか気になります。

青いゼラニウム axn05.jpg青いゼラニウム axn 12.jpg ジョージは、始まった公判でエディ、メアリー、スーザンの殺害を認めますが、半年後にして真相に気付いたミス・マープルは、ジョージが愛する女性を守るために罪を被っていると言って、それを聞き驚いたヘンリー卿の急遽の計らいで、開廷中の法廷に駆け込んで証人の立場で謎解きをし、まるで、E・S・ガードナーの「ペリー・メイスン」シリーズみたい。

 壁紙の花の色が変わったのは、本来メアリーの薬のアンモニア塩を予め張ってあったリトマス紙に吹き付けたためで、これは原作通りですが、謎解きには化学の基礎知識も必要なわけだなあ(犯人の方には当然その心得があるが、原作ではマープルも、これは初歩的知識だとしていた)。

ミス・マープル(第19話)/青いゼラニウム00.jpg 今回映像化作品を観て、ああ、そうだったのかと思ったのは、マープルがバスで乗り合わせた、ワーズワースの詩を唱えていたアルコール依存症のエディ・セワードが会いに来た相手は、ヘイゼルだったということ(最初はよく解らなかった)。ジョージとヘイゼルの繋がりは、不幸な結婚をした者同士ということか(フィリッパの結婚も不幸だったわけで、その源はジョージにあるのだが)。犯人はジョージに罪を着せるために、エディを殺したということか。そのジョージは、ヘイゼルが犯人だと思い込んで身代わりになって絞首刑に処せられようとしたわけか。但し、ヘイゼルの方も、ジョージの逮捕に対する抗弁のシーンが無いことからすると、ジョージが自分と結婚するために3人を殺したのではないかと疑ってしまったものと解されます(お互いの誤解。う~ん、原作、こんな複雑な話だった?)。

 細部で突っ込み所はありますが、元が短編だから膨らませるしかないわけであって、その膨らませ方の方向性としては悪くなかったように思います。婚約者から振られて不幸な結婚をした犯人には同情の余地あり? 結局、財産目当てで犯人と共謀した(犯人を脅した)奴が一番悪いということになるね。原作のことは考えないで、これだけで十分に楽しめる作品です。

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第19話)/青いゼラニウム」●原題:THE BLUE GERANIUM, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 5●制作年:2010年●制作国:イギリス・アメリカ●演出:デビッド・ムーア●脚本:スチュワート・ハーコート●撮影:ピーター・グリーンハーフ●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「青いゼラニウム」●時間:89分●出演:ジュリア・マッケンジー/シャロン・スモール/トビー・スティーヴンス/ケヴィン・R・マクナリー/ジョアンナ・ペイジ/クローディー・ブレイクリー/クレア・ラッシュブルック/キャロライン・キャッツ/パトリック・バラディ/ ポール・リス/ドナルド・シンデン/デヴィッド・コールダー●日本放送:2012/03/26●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★★)

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