【1972】 ○ ジョン・ストリックランド 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第4話)/予告殺人」 (05年/英) (2006/12 NHK-BS2) ★★★☆

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登場人物を端折った分、テンポは良くなった? 気になった改変もあるが、ドラマ的にはまずまず成功。

予告殺人.jpg  アガサ・クリスティー ミス・マープル /予告殺人001.jpg A Murder is Announced' (2005).jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープル Vol.4 予告殺人」(DVD)

Agatha Christie's Marple - 'A Murder is Announced' (2005).jpg チッピング・クレグホーンという村の新聞に「殺人のお知らせ」という広告が掲載され、興味をそそられた村人たちは、予告現場の下宿屋リトル・パドックスとへと集まってくる。この下宿屋には、女主人のレティシア(ゾーイ・ワナメイカー)と幼馴染みのドラ(エレーヌ・ペイジ)、はとこの子供パトリック(マシュー・グッド)とジュリア(シエンナ・ギロリー)のシモンズ兄妹と養蜂場で働く女フィリッパ(キーリー・ホーズ)、そしてメイドのヒンチ(フランシス・バーバー)が住んでいた。指定の時刻、突然電灯が消え、強盗が押し入り、銃声が鳴り響く。明かりがついた時、レティシアはケガをし、強盗に入った男は射殺されていた。男が働いていたホテルに宿泊していたミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)は、新聞でこの事件を知る。レティシアは以前、億万長者の秘書をしており、彼の遺産を受け継いだ夫人が亡くなった後に相続人となることになっていた。明日をも知れない状態の夫人よりもレティシアが先に死ねば、ゲドラーの妹の子である双子が相続をすることになるが、双子の行方は分からない―。

予告殺人 ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg 2004年制作のジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年に作られた4話の内の第4話(本国放映は2005年1月、1~3話は2004年12月)。原作『予告殺人』は、1950年発表のクリスティ60歳にしての第50作目の作品。1972年にクリスティ研究家数藤康岸田 今日子ド.jpg雄氏の質問に答えクリスティ自身が挙げた「自作ベスト10」に、ミス・マープルものでは『火曜クラブ』(短篇集)、『動く指』と共に入っています。日本語吹き替えの岸田今日子は、放送4日後の2006年12月17日に他界し、本作が遺作となりました(彼女の茶目っ気があって可愛らしい感じの吹替えをもっと聞きたかった気がする)。

第4話「予告殺人」03.jpg 女主人のレティシアを演じたゾーイ・ワナメイカーはユダヤ系米国人女優ですが、1950年代にハリウハリー・ポッターと賢者の石 フーチ先生.jpgッド・ブラックリストに載ったために英国に渡り、その後長く英国に住んでいたためキングスイングリッシュを話し、ハリー・ポッターシリーズ第1作「ハリー・ポッターと賢者の石」('01年/英)にもフーチ先生役で出演していました。

 犯人が意外だった印象が強く残っている原作でしたが、トリッキーな作品でもあり、また、登場人物もかなり多くて錯綜しているため、映像化する際にどうするのかアガサ・クリスティー ミス・マープル /予告殺人02.jpgなと思ったら、やはり若干登場人物を端折っているみたいです。

 但し、その分テンポが良くなっていて、この原作に関しては、映像化する際にこれはこれでありかなとも思いました。それでも原作を読んでいないと、この"アップテンポ"につていくのは結構キツイかも知れません。因みに、原作に忠実なことで知られるジョーン・ヒクソン主演のBBC版は、この原作の映像化作品(1985年制作の)に関しては3部構成で155分という長さになっています(これでもこのシリーズでいちばん短い方なので、テレビ放映用の短縮版が作られなかった。端折ると話が分からなくなるというのもあったのではないか)。

Keeley Hawes.jpgKeeley Hawes1.jpg 人物構成もさることながら、イースターブルック大佐(ロバート・パフ)が奥さん連れでなく、飲酒癖のために妻に離婚され、過去から逃れるように村に来たことになっているなど(しかも、自分を気遣ってくれる女性に恋したり、その息子とやり合ったり、自ら事件の再現をしてみようと言い出したり、何だか忙しい?)、そうした幾つかのキャラクター改変がされているのがやや気になりました。
 養蜂場で働くフィリッパ役のキーリー・ホーズ(Keely Hawes)も野生児というイメージとはちょっと違ったかな(最初から美人過ぎる?)。しかも、ミス・マープルの友人の娘エイミー(クレア・スキナー)と同性の恋人関係(同性愛者)というアレンジ。
Keeley Hawes(上)/Sienna Guillory(下)

Sienna Guillory.jpg第4話「予告殺人」04.jpg このようにドロドロしている割には、田園風景などを明るく綺麗に撮っているせいか、全体にあまりウェットな感じはしませんでした。

 レティシアのまた従兄妹の妹の方ジュリア・シモンズを演じたシエンナ・ギロリー(Sienna Guillory)なども含め、綺麗どころが何人か出ているというのもあったかも。 

 終わりの方で、メイドのヒンチがなぜレティシアに怒鳴り込んでいったのか分からないという声がありますが、ミス・マープルが犯人に仕掛けた罠であったはずです。その「罠」の範囲が、この映像化作品では分かりにくいかも。

 シリーズ第3話「パディントン発4時50分」と同様、ミス・マープルは原作のように事件の解決の後に謎解きをするのではなく、謎解きと犯人への追及を自らが同時にしていますが、ドラマ的な盛り上がりを考えてのことでしょう。これはこれでまずまず成功しているように思います。BBCのヒクソン版支持者から見ればマープルらしくないということになるのかも(むしろポワロ的)。

第4話「予告殺人」09.jpg ミス・マープルは犯人のことを悪人というよりは気の毒な人と思っているようで、一方で、これは犯人に対する絞首刑の宣告でもあるわけであって、謎解きをするジェラルディン・マクイーワンの目に涙を浮かべたような表情は、彼女の演技の見せ所だったかも(普段はどちらかというと茶目っ気あるミス・マープル像を演じている)。但し、こうしたマープル像もすべて、このシリーズにおける独自解釈の一つということになるかと思います。

 因みに、『パディントン発4時50分』の犯人は2人殺害しているわけですが、原作が発表された1957年に英国で死刑判決を限定する法律が制定されているために、原作では「絞首刑に値する人間がいるとすれば彼だ」という表現によって死刑にならないことが示唆されています。
 
第4話「予告殺人」02.jpg 但し、このジェラルディン・マクイーワン主演のシリーズは、時代設定が1950年代前半を想定しているようで(第1話「書斎の死体」には映画「日の当たる場所」('51年/米)の話が出てきて、第2話「牧師館の殺人」ではミス・マープルの部屋のカレンダーが1951年になっている)、死刑制度は存置されているという前提のもとに作られているようです。「牧師館の殺人」には、犯人が絞首刑になるシーンがあるし、この「予告殺人」においても、「(犯人は)絞首刑になるでしょうね」とミス・マープルに言わせています(自分の秘密を知った人物を3人殺害しているわけだから、現在の日本の量刑相場でみても死刑になる公算は高いのだが、英国の場合、もしも何年か遅い時代設定だったら終身刑だったわけか)。

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第4話)/予告殺人」●原題:A MURDER IS ANNOUNCED, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 1●制作年:2004年(本国放映2005年)●制作国:イギリス●演出:ジョン・ストリックランド●製作:マシュー・リード●脚本:スチュワート・ハーコート●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「予告殺人」●時間:95分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/クリスチャン・コウルソン/シェリー・ルンギ/ロバート・パフ/キーリー・ホーズ/ゾーイ・ワナメイカー/クレア・スキナー/フランシス・バーバー/エレーヌ・ペイジ/マシュー・グッド/シエンナ・ギロリー●日本放送:2006/12/13●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

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