【1964】 ○ トリストラム・パウエル 「アガサ・クリスティ/忘られぬ死」 (03年/英) (2005/12 ハピネット・ピクチャーズ【DVD】) ★★★☆

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ノンシリーズものを「おしどり探偵」 初老版風に改変? 原作と比べて一長一短という感じ。

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忘られぬ死 [DVD]

忘れられぬ死(2003年)洋DVD.jpg 大富豪でサッカーチームのオーナーのジョージ・バートン(ケネス・クラナム)は、チームが勝利した記念に祝賀パーティを開催するが、祝賀会の乾杯で、バートンの妻ローズマリー(レイチェル・シェリー)がグラスに口をつけた途端に倒れて命を落とす。パーティ客にチームの支持者でスポーツ省大臣のスティーヴン・ファラデー(ジェームズ・ウィルビー)とその妻アレクサンドラ(クレア・ホルマン)がいて、スキャンダルを避けたい首相補佐官の命令で、政府の秘密捜査官ジェフリー・リース大佐(オリヴァー・フォード・デイヴィス)とその妻キャサリン(ポーリーン・コリンズ)が捜査を開始することに。リースとキャサリンは、ローズマリーがファラデーと不倫関係にあったこと、さらに中絶をしていたことなどを突き止め、パーティに居合わせたローズマリーの妹アイリス(クロエ・ハウマン)や、姉妹の育ての親であるルシーラ・ドレイク(スーザン・ハンプシャー)、彼女が溺愛する息子のマーク・ドレイク(ジョナサン・ファース)、ジョージの秘書ルース・レシング(リア・ウィリアムズ)らに会い、夫婦間の様子や現場の状況などを聞き出すが、それぞれに容疑があり、真相を掴むことが出来なかった。そんな中、妻の死と不貞に悲しみ怒るとともに、彼女は殺害されたのではないかと疑うジョージは、祝賀パーティを再現することにするが、今度は自身が再現パーティの席上で毒殺される―。

忘られぬ死 ハヤカワ文庫09.jpg 原作は、1945年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:Sparkling Cyanide(泡立つ青酸カリ))、ポアロもマープルも登場しないノン・シリーズもの。1983年に一度「スキャンダル殺人事件」というタイトルで米国でTVドラマ化されていますが、こちらは2003年制作のグラナダTV版です。

 原作はローズマリーの死から1年を経た時点から始まっており、彼女を巡る様々な人々の心理描写が前半部分を占めますが、この映像化作品では、回想シーンとしてではなくリアルタイムで最初のパーティーが開かれており、テレビらしい演出。但し、ローズマリーの誕生会ではなく、サッカーチームが勝った祝賀会になっています。原作のジョージも富豪ですがサッカー成金などではなく、これも現代風の改変と言えます。

 1年後のパーティでも、原作ではジョージがローズマリー役を演じる女優を探していたが結局呼ばなかったことになっているのに対し、この作品では実際に簡単なモデルオーディション(下着審査!)をやって、身代わりをさせいます。

Pauline Collins.jpg 原作で事件の捜査に当たる元陸軍情報部部長のジョニー・レイス大佐が、リース(オリヴァー・フォード・デイヴィス)とキャサリン(ポーリーン・コリンズ)の初老夫婦に置き換わっています。2人は表向きは軍の年金課員と学校教員となっていて、本職は実の娘にさえ秘密にしているという設定ですが、何だかトミーとタペンスの「おしどり探偵」シリーズの"初老版"みたいな感じで(「おしどり探偵」シリーズも最後の「運命の裏木戸」では二人とも75歳になっているのだが)、キャサリンの方が夫のルースの方にあれこれ指示しているコミカルなタッチも似ています(キャサリンの姓はケンドールで、夫婦別姓? それとも離婚した?)。

Pauline Collins

 キャサリンの部下アンディ(ドミニク・クーパー)が、世界中のどこの監視カメラの映像も見られるといった最新のIT技術を駆使して情報集めをしてくれて、キャサリンらにとっては好都合だけれど、その分ややご都合主義な印象も(こうなると、今風と言うより近未来風か)。

Rachel Shelley.jpg 全体としては、冒頭にローズマリー(レイチェル・シェリー)の亡くなるパーティをもってきている分、登場人物の回想で綴る原作よりはテンポは良くなっていますが、原作では、最初のローズマリーの死が自殺なのか他殺なのか今一つはっきりしなかったのに対し、この映像化作品を見るとどうみても他殺という印象で、それでも検死審問で自殺とされてしまうのがやや不自然にも思えました。要するに、誰にも犯行を遂げようがないから(犯人の見当がつかないから)自殺扱いに―ということなのか。

Rachel Shelley

 原作が心理描写が多い割には、事件が起きた際の状況の描写が少なく、この作品はそれを映像化によって丁寧に描写しているように思いました。また、原作では特にルシーラの姉に対する忘れられぬ死(2003年)02.jpg思いや、不倫がばれた青年大臣スティーヴンの焦りなどが丁寧過ぎるぐらい丁寧に描かれている分、読者側からすれば彼らは早くから犯人候補から外れてしまうわけですが、この映像化作品では、物語がさほど進行しないうちは、彼らも"同等に"犯人候補として扱っている印象。カギとなる犯人男女の関係も、原作では早くから示唆されているのに対し、ここでは最後の方になって、監視カメラの密会映像からやっと分かるという、犯人当ての楽しみをより多く残している作りになっているように思いました。

忘れられぬ死(2003年)03.jpg 結局、ルシーラは単身で犯人の家まで行ってしまい、そこで犯人は誰かを知るわけで、そこへ遅ればせに...という結末が、テレビの刑事ドラマの結末みたいで、やや安っぽかったかな。現代風への置き換えはまあまあ上手く味付けされていると思います。原作と比べて一長一短という感じでした。
 
「アガサ・クリスティ/忘られぬ死」」●原題:AGATHA CHRISTIE`S SPARKLING CYANIDE●制作年:2003年●制作国:イギリス●本国放映:2003/10/05●監督:トリストラム・パウエル●製作:スーザン・ハリソン●脚本:ローラ・ラムソン●撮影:ジェームズ・アスピナール●音楽:ジョン・E・キーン●時間:日本放映版96分(完全版189分)●出演:ポーリーン・コリンズ/オリヴァー・フォード・デイヴィス/ケネス・クラナム/ジョナサン・ファース/スーザン・ハンプシャー/クレア・ホルマン/ジェームズ・ウィルビー/リア・ウィリアムズ/レイチェル・シェリー/クロエ・ハウマン●DVD発売:2005/12●発売元:ハピネット・ピクチャーズ(評価:★★★☆)

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