【1950】 ◎ アガサ・クリスティ (桑原千恵子:訳) 『五匹の子豚 (1957/01 ハヤカワ・ミステリ) 《(山本やよい:訳) 『五匹の子豚 (2010/11 早川書房・クリスティー文庫)》 ★★★★☆

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かっちりした構成。ポワロの人間観察の本領がよく発揮された傑作。

ハヤカワ・ポケット・ミステリ クリスティ「五匹の子豚」.jpg五匹の子豚 文庫1.jpg 五匹の子豚 文庫2.jpg新訳(復刻カバー) ハヤカワ・ミステリ文庫 「五匹の子豚」.jpg
ハヤカワ・ポケット・ミステリ(桑原千恵子:訳)/クリスティー文庫(旧訳(桑原千恵子:訳)/新訳(山本やよい:訳(真鍋博カバー絵復刻版))/ハヤカワ・ミステリ文庫(桑原千恵子:訳) 『五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』『五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』『五匹の子豚 (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-21)

Five Little Pigs Pan264.jpgFive Little Pigs - Fontana 309.jpgFive Little Pigs.jpg 16年前に画家である夫エイミアス・クレイルを殺害したとして死刑を宣告され、その1年後に獄中で死亡した母キャロラインの無実を訴える遺書を読んだカーラ・ルマルションは、母が潔白であることを固く信じポアロのもとを訪れる。彼女の話に興味を覚えたポアロは、あたかも「五匹の子豚」の如き5人の関係者との会話を手掛かりに過去へと遡る―。

Pan Books (1953)/Fontana (1959)/HarperCollins UK(2010)

Five Little Pigs1942.jpg 1943年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Five Little Pigs(米:Murder in Retrospect))で、同じ頃に書かれ、作者の遺言により没後に発表された『スリーピング・マーダー』と同じ、所謂"回想の殺人"物です。また、この作品については1960年初演の戯曲版もあり(『殺人をもう一度』)、こちらは『ナイルに死す』の戯曲版などと同様、ポワロが登場しません。『五匹の子豚』は2010年に早川文庫の「クリスティー文庫」で山本やよい氏による新訳が出ましたが、活字も大きくなり読み易いものでした(「クリスティー真鍋博2.jpg文庫」に所収の従来ものは、「ハヤカワ・ポケットミステリ」「ハヤカワ・ミステリ文庫」以来の桑原千恵子訳)。尚、「クリスティー文庫」新訳版のカバーイラストは、「ハヤカワ・ミステリ文庫」の真鍋博のものを復刻させています。

真鍋 博1932-2000/享年68)

五匹の子豚19.jpg カーラがポアロを訪ねて父であるエイミアス・クレイルの死の真相の究明を依頼する前置きがあって、その後が3部構成になっていて、ポアロが、かつて事件が起きた際の関係者に一人ひとり会って話を聞き、更に当時の事を手記に書くよう依頼する第1部、その関係者5人からポアロのもとへ寄せられた当時の状況を回想した手記から成る第2部、ポアロが5人の関係者に一人ずつ最後の質問を行い、最後に全員を集めて謎を解く第3部―となっています。

 再読なので犯人を知りながら読んだのですが、それでも面白かったなあ。最初に読んだ際は、謎解きの面白さ及びラストの展開の意外性と、かっちりした"構成美"に感服しましたが、改めて読むと、登場人物一人ひとりの他者に対する感情や愛憎などの心理的な起伏を見抜くことによって犯人へ至るという、まさにポワロの人間観察の本領がよく発揮されている作品のように思いました。

 クリスティ作品のベスト・ランキングにあまり入ってこないのは、タイトルのせいもあるのかなと。マザー・グースを下敷きにしていても、その歌の通りに殺人が起きる『ポケットにライ麦を』(「6ペンスの唄を唄おう」)や『そして誰もいなくなった』(「10人のインディアン」)と比べると、元歌(「このこぶたは市場にいった」This Little Pig Went to Market)の歌詞との関連が弱いというのもあるかも。元歌の歌詞の一般的な訳詞は次の通り。
 
 このこぶたは 市場にいったよ
 このこぶたは おるすばん
 このこぶたは ローストビーフたべて
 このこぶたには なんにもなし
 このこぶたは ないちゃった
 ウィー ウィー ウィー ウィー ウィー、
 帰る道がわからないよう。

 本書での5人の容疑者が「5匹の子豚」のどれに該当するかは、ポワロが5人を訪問する話の各見出しに(本書による訳での)歌詞の一部がそのまま使われているので一応は判別可能で、それによれば以下の通りになります(山本訳)。

 この子豚はマーケットへ行った → 被害者の親友フィリップ・ブレイク (株取引か何かで儲けた?)
 この子豚は家にいた  → フィリップ・ブレイクの兄メレディス (引き籠りみたいな暮らしぶり?)
 この子豚はロースト・ビーフを食べた → 被害者の元愛人エルサ・グーリア (欲しいものは手に入れる肉食系?)
 この子豚は何も持っていなかった → 元家庭教師のウィリアムズ先生 (今や孤独なオールド・ミス?)
 この子豚は"ウィー、ウィー、ウィー"と鳴く → キャロラインの妹アンジェラ (?????)

 アンジェラが何故「"ウィー、ウィー、ウィー"と鳴く」子豚に該当するのかよく分からないなあ(昔はいたずらっ子だったからか。それとも、彼女だけが姉の無実を信じており、そのために今もその死を悼んでいるからか)。でも、個人的にはこの作品、傑作だと思います。
 「クリスティ作品のベスト・ランキングにあまり入ってこない」と書きましたが、クリスティのディープな読者でこの作品のファンは結構いて、新訳版が出された理由もそこにあるのではないかと思いました。

名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚  00.jpg名探偵ポワロ 五匹の子豚 dvd.jpg名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚_pigs1.jpg名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚ges.jpg「名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚」 (03年/英) ★★★★
                               
 

 

第7話)/五匹の子豚 dvd.jpg五匹の子豚01.jpg五匹の子豚00.jpg「クリスティのフレンチ・ミステリー(第7話)/五匹の子豚」 (11年/仏) ★★★☆ 

【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(桑原千恵子:訳)]/1977年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(桑原千恵子:訳)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(桑原千恵子:訳)]/2010年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(山本やよい:訳)]】

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