【1944】 ○ アガサ・クリスティ (大門一男:訳) 『パディントン発4時50分 (1960/12 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★

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細部に?もあるが、全体としてはやはり傑作。事件の行方と併せヒロインの恋の行方も気になる。

4:50 from Paddington3.jpgパディントン発4時50分 (1960年)2.gifパディントン発4時50分 ハヤカワ文庫.jpg  パディントン発4時50分 クリスティー文庫.jpg
パディントン発4時50分 (1976年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『パディントン発4時50分 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
4.50 from Paddington (Elt Reader2012)(ペーパーバック)『パディントン発4時50分 (1960年) (世界ミステリシリーズ)

4:50 From Paddington - Fontana.jpg マクギリカディ夫人は、ミス・マープルに会いにいくため乗り込んだパディントン発4時50分の列車の窓から、たまたま並走する別の列車内で一人の男性が女性の首を絞めていた殺人現場を目撃する。マクギリカディ夫人はマープルの助言を得て警察に通報するが、警察は、犯人も被害者も発見することができない。マクギリカディ夫人の言葉を信じたミス・マープルは、犯人は車外に死体を放り投げたと確信し、その地点は列車が速度を緩めて走るカーブであろうと推理、才能豊かな女性ルーシー・アイレスバロウを雇って、路線で該当する場所に建つブラック・ハンプトンのラザフォード・ホールと言われるクラッケンソープ邸に、彼女を家政婦として送り込む―。
Fontana版(1960)

 1957年に刊行されたアガサ・クリスティのミス・マープルシリーズの長編第7作(原題:4:50 from Paddington、米 What Mrs. McGillicuddy Saw!)です。

 クラッケンソープ家には、当主のルーザー・クラッケンソープをはじめ、妻のマルティーヌ、次男で画家のセドリック、三男で会社重役のハロルド、四男で詐欺師のアルフレッド、長女のエマ、次女のエディス、その夫のブライアン・イーストリイ、その息子のアレグサンダーなどがいて、クラッケンソープ家の主治医のクインパーなども出てきますが、それぞれ怪しげな連中ばっかし、という感じ。

 犯人は最初から殺害現場を目撃されてしまっているため、「大胆なトリック」とかそうした類のものは出てくる余地は無いものの、それでも、ルーシー・アイレスバロウの果敢な冒険から始まって、被害者の遺体の発見、連続殺人へと続く展開は飽きさせず、加えて、ルーシーとクラッケンソープ家の人々の関わりを描いたサブ・ストーリーがそれに絡み、ルーシーの選ぶ相手は誰になるのかという楽しみもある作品。

4:50 from Paddington.jpg 結局、事件の謎を解くのはミス・マープルですが、この作品では現場の捜査はルーシー・アイレスバロウに任せ、自分は安楽椅子探偵的な位置づけになっていて、プロット的に見て不満があるとすれば、マープルはマープルでその間いろいろ調べたのでしょうが、読者に示された情報だけでは犯人を探し当てることは難しいということでしょうか(犯行動機に至っては不可能)。

 それと、マクギリカディ夫人が犯人の顔を見ていないのに犯人が判ってしまうというのもやや腑に落ちず、ミス・マープルが蓋然性に基づく"面通し"をしたのは、理屈よりも彼女なら判るという信念が根拠になっている印象。これはある種の賭けではなかったかと。

 このように細かいところで若干納得がいかない部分もありましたが、全体の構成としてはよく出来ていて、やはり傑作の類と言えるのではないでしょうか。

4:50 from Paddington2.jpg ミス・マープルの依頼をその旺盛な好奇心から請けたルーシー・アイルズバロウが、この作品の言わば"ヒロイン"でしょう。オックスフォード大学数学科を優秀な成績で卒業、将来を嘱望されながらも、家事労働の世界に入り、家政婦として英国中に名が知られるまでになり、3年くらい先まで予約を入れることも可能であるにも関わらず、余暇を楽しむために長期の予定は入れないでいる―という設定が興味深く、今で言えば、「カリスマ主婦マーサ・スチュワート」とか「スーパー主婦・栗原はるみ」みたいなものか?

 彼女は32歳独身の魅力的な女性で、その彼女を巡って「次男セドリック」と「亡くなった次女の夫ブライアン」との恋の鞘当があり、彼女がどちらを選ぶかは作品の中では明かされていませんが、ミス・マープルには読めている様であると。

 この作品のラストの一行のミス・マープルの所作からすると、これが意外な人物ということになるのでは...。事件の伏線と併せて、こちらの方も、伏線を再度辿ってみる楽しみを読者に提供しているように思えました。

ミス・マープル/夜行特急の殺人 dvd.jpg夜行特急の殺人 00.jpg 「ミス・マープル/夜行特急の殺人」 (61年/英) ★★★


 
 
 
 
 


パディントン発4時50分 1987.jpgパディントン発4時50分 07.jpg「ミス・マープル(第9話)/パディントン発4時50分」 (87年/英) ★★★★

 

 
 
 
 
 
パディントン発4時50分.jpg『ミス・マープル』 パディントン発4時50分.jpg 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第3話)/パディントン発4時50分
」 (04年/英) ★★★☆


 
 
 
  
 

奥さまは名探偵/パディントン発dvd.jpg奥さまは名探偵 パディントン発4時50分 03.jpg 「アガサ・クリスティー 奥さまは名探偵 〜パディントン発4時50分〜」 (08年/仏) ★★★☆

 
  
 
 
 
 

【1960年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(大門一男:訳)/1976年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(大門一男:訳)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(松下祥子:訳)]】

《読書MEMO》
パディントン発4時50分~寝台特急殺人事件 dvd.jpgパディントン発4時50分~寝台特急殺人事件01.jpgパディントン発4時50分~寝台特急殺人事件02.jpg●2018年ドラマ化 【感想】 監督は渡瀬恒彦の遺作となった「アガサ・クリスティ そして誰もいなくなった」('17年/テレビ朝日)と同じく和泉聖治(脚本は今回は竹山洋)。ミス・マープルに相当するのが天海祐希演じる警視庁の元刑事・天乃瞳子で、原作では列車の窓から殺人を目撃するの乃パディントン発4時50分~寝台特急殺人事件x.jpgはミス・マープルの友人マクギリカディ夫人だが、それが草笛光子演じる天瞳子の母親が事件の目撃者ということになっている。意外と原作に沿って作られていたが、屋敷に送り込まれるスーパー家政婦ルーシー・アイレスバロウが前田敦子演じる「パディントン発4時50分tv2.jpg中村彩になっていて、その前田敦子がスーパー家政婦に見えないのがやや難点か。草笛光子がミス・マープルに相当する役で、天海祐希が家政婦役だった方が、原作に近い雰囲気になったと思う(このシリーズの'18年版の第2夜放送は「大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~」、'19年には通算第4弾「アガサ・クリスティ 予告殺人」が制作された)。

「パディントン発4時50分~寝台特急殺人事件~」●監督:和泉聖治●プロデューサー:藤本一彦(テレビ朝日)/山形亮介(角川大映スタジオ)●脚本:竹山洋●原作:アガサ・クリスティ●出演:天海祐希/草笛光子/前田敦子/石黒賢/勝村政信/原沙知絵/鈴木浩介/桐山漣/黒谷友香/橋爪功/西田敏行/松本博之/井上肇/嘉門洋子/和泉ちぬ/宮本大誠/松岡恵望子/清水葉月/望月章男/松下結衣子/松浦眞哉/笹岡サスケ/鈴木和弥/かおる/今薫子/橋野純平/永楠あゆ美●放映:2018/03(全1回)●放送局:テレビ朝日

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