【1943】 ◎ アガサ・クリスティ (宇野利泰:訳) 『ポケットにライ麦を (1954/12 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★☆

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マザー・グースを下敷きにしたプロットが精緻で面白い。「意外な犯人」だった作品。

『ポケットにライ麦を』 (1954).jpgポケットにライ麦を ハヤカワミステリ.jpgポケットにライ麦を ハヤカワ文庫.jpg ポケットにライ麦を クリスティー文庫.jpg Pocket Full of Rye by Agatha Christie.jpg
『ポケットにライ麦を』(ハヤカワ・ミステリ)『ポケットにライ麦を (1976年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『ポケットにライ麦を (クリスティー文庫)』 ハ―パーコリンズ版
A Pocket Full of Rye - Fontana 0.jpgA Pocket Full of Rye - Fontana 1.jpg 投資信託会社の社長レックス・フォーテスキューが、オフィスで紅茶を飲んだ後に苦しんで死ぬが、彼の上着のポケットにはなぜかライ麦の粒がたくさん入っていた。死因は自宅の庭に植えられているイチイの木から取れる毒による毒殺であり、捜査に当たったニール警部は、自宅での朝食時に毒物を盛られた可能性を調べる。やがて浮気をしていたレックスの若い後妻アデールが死体で見つかり、メイドのグラディスまでも殺される。グラディスを女中として教育したことのあるミス・マープルは、彼女の無念を晴らすために邸へ赴き、3人の殺害のされ方がマザー・グースの歌詞になぞらえられていることを警部に示唆する―。

英国フォンタナ版(1958年/1968年 Cover painting by Tom Adams)

ポケットにライ麦をe.JPG 1953年に刊行されたアガサ・クリスティのミス・マープルシリーズの長編第6作(原題:A Pocket Full of Rye)で、マザー・グースが引用されたクリスティ作品は他にも多くありますが、童謡の歌詞どおりに殺人が起きる"見立て殺人"ものは『そして誰もいなくなった』('39年)と本作だけであるとのことです。

 レックスには、長男パーシヴァル(ヴァル)、次男ランスロット(ランス)、娘エレーヌがおり、何れもレックスの遺産絡みで怪しいのですが、まず誰よりも怪しいのが若い後妻アデールであり、愛人のヴィヴィアン・デュボアとの共犯が当然の如く疑われる―そのアデールがあっさり殺されてしまうことで、血縁者だけでなく家政婦や執事までが容疑者として同じラインに並んでしまい、事件が混迷を極めるという、そうした展開が上手いなあと思いました。

 犯人がわざわざマザー・グースの歌詞の通りに犯行を重ねていくというのがやや凝り過ぎではないかと見る向きもありますが、振り返ってみれば、邸で起きた、自身は関与していないある出来事をカムフラージュのために利用したわけであり、一応の説明はつくのではないかと。プロット的に精緻であるばかりでなく、面白さを増す効果を生んでいます。

 個人的にはニール警部(この人、マープルとポアロの両方と1度ずつ仕事している)と同様、最後ぎりぎりまで犯人が判りませんでしたが、判ってみれば、自分が最初に犯人候補か ら除外した人物でした。と言うか、おしどり探偵「トミー&タペンス」シリーズみたいに、犯人を探り当てる側かと思っていたほど。ニール警部がミス・マープルから犯人を告げられても、当初は全く釈然としなかった気持ちがよく分かります。ミス・マープルの言うように、簡単に人を信じてはいけないということか...。

Sing a song of sixpence
Sing a song of sixpence a pocket full of rye.jpgSing a Song of sixpence, (6ペンスの唄を歌おう)
A pocket full of rye, (ポケットにはライ麦がいっぱい)
Four and twenty blackbirds, (24羽の黒ツグミ)
Baked in a pie. (パイの中で焼き込められた)

when the pie was opened, (パイを開けたらそのときに)
The birds began to sing, (歌い始めた小鳥たち)
Was not that a dainty dish, (なんて見事なこの料理)
To set before the king? (王様いかがなものでしょう?)

The king was in his counting-house, (王様お蔵で)
Counting out his money, (金勘定)
The queen was in the parlour, (女王は広間で)
Eating bread and honey. (パンにはちみつ)

The maid was in the garden, (メイドは庭で)
Hanging out the clothes, (洗濯もの干し)
There came a little blackbird, (黒ツグミが飛んできて)
And snapped off her nose. (メイドの鼻をついばんだ)
 

ミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を  ランス.jpgStacy Dorning.jpgミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を01.jpg 「ミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を」 (86年/英)★★★★
 
  
 
第13話「ポケットにライ麦を」04.jpg第13話「ポケットにライ麦を」03.jpg 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第13話)/ポケットにライ麦を」 (09年/英・米) ★★★★

【1954年新書化・1974年改訳[ハヤカワ・ポケットミステリ(宇野利泰:訳)]/1976 年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(宇野利泰:訳)]/2003 年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(宇野利泰:訳)]】

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