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全体の人物関係図が掴めれば結構面白いが、やや無理があるかなと思った部分も。
『魔術の殺人 (1958年) (世界探偵小説全集)』『魔術の殺人 (1982年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『魔術の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
ミス・マープルはロンドンで米国在住の旧友のルースと親交を温めていた。ルースとキャリイ(キャロライン)の姉妹は、ミス・マープルの女学校時代の親友であり、ルースは最近会った妹の周辺に、明確な根拠は無いが何か嫌な雰囲気を感じたとひどく心配していた。そしてミス・マープルに、彼女の所へ行って調べてほしいと依頼、ミス・マープルは、ルースの言い伝手でキャロラインの住む屋敷に招かれ、潜入捜査を開始する。
「魔術の殺人」(1981年・英国・フォンタナ版)
キャリイ・ルイス・セルコールドの最初の夫エリック・クルブランドセンは、ずば抜けた経営感覚を持ち教育熱心な慈善家で数々の基金を創設したが、若くして亡くなった。キャリーの二番目の夫ジョニー・リスタリックはキャリイの財産を目当てに結婚したが、事故死していた。理想主義者だが身体のひ弱なキャリイは、今は、未成年犯罪者の救済に尽力するルイス・セルコールドと結婚をしており、敷地内の私設少年院の隣で暮らしている。そこには彼女の家族と親戚、多くの非行少年たち、医師や精神病患者の青年がいて、その中にルースを不安にさせた何かがあったのだとミス・マープルも思う。そして数日後、訪れたキャロラインの義理の息子クリスチャン・グルブランドセンが射殺された―。
THEY DO IT WITH MIRRORS Harper.1993
1952年に刊行されたアガサ・クリスティのミス・マープルシリーズの長編第5作で(原題:They Do It with Mirrors、米 Murder with Mirrors)、クリスティ作品の中で必ずしも評価の高い方ではない作品かもしれませんが、全体の人物関係の構図が掴めれば結構面白いのではないかと。
Fontana (1955)
話の中心人物キャリイ・ルイズ・セルコールドが3度結婚していて、彼女の周辺に居たり新たに彼女を訪ねてきた人物として、最初の夫の息子であるキャリイより2歳年上の継子クリスチャン・グルブランドセン、養女ビバの娘ジーナ、その米国人の夫ウォルター・ハッド、最初の夫との間の実の娘ミルドレッド・ストレット、二番目の夫ジョニイ・リスタリックとの間の息子で長男のアレックス・リスタリック、次男のスティーヴン・リスタリック、セルコールド家の使用人で施設上がりのエドガー・ローソン、キャリイの付添人ジュリエット・ベルエヴァー、精神医学者のマヴェリック博士などがおり、このように登場人物が錯綜するため、まず最初に"家系図メモ"を手元で作成する心づもりで読んだ方がいいです(その際にはフルネームでメモった方がいい)。
キャリイ・ルイズの命を狙っている人物がいるらしいという疑惑が浮かぶ中、クリスチャン・グルブランドセンが殺害され、殺された彼以外は全員、その殺害の容疑者になり得るという展開はやはり上手いと思われ、全体としては、ハウダニット(どうやって殺したか)がフーダニット(誰が犯人か)への手掛かりとなる展開。但し、ホワイダニット(なぜ殺したか)が最後に明かされるまで読めないため、ミス・マープルにお付き合いして読者もミスリードされる―といった感じでしょうか。
THEY DO IT WITH MIRRORS .Fontana.1990
個人的にやや無理があるかなと思ったのは、やはり"ハウダニット"の部分。事件当時もさることながら、そこに至るまでの、分裂症気味のエドガー・ローソンの設定で、気分変調を起こしたわけでも暗示にかけられていたわけでもないとすれば、相当な"役者"ということになるけれど、どーなんだろうか? そんなに長期間演技できるのかなあ。この若者、どこまで正常でどこまで異常だったのかよく分からない。ミス・マープルはかなり早くから、何らかの違和感を抱いていたみたいだけど...。
犯人はこの後も、事件の真相に気付きかけた義理の息子と少年院の子を殺害してしまいますが、こうなると単なるエゴイスティックな殺人鬼か。但し、最後は実の息子に殉じるような死に方で、自分の息子だけは愛していた(これもエゴと言えばエゴだが)。こうした暗い展開の中で、最初は暗くいじけていた一人の青年が、最後に明るさを取り戻すのが救いだったかも。
「ミス・マープル(第11話)/魔術の殺人」 (91年/英) ★★★
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第15話)/魔術の殺人」 (09年/英・米) ★★★
【1958年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(田村隆一:訳)/1982年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(田村隆一:訳)]】