【1938】 ◎ アガサ・クリスティ (田村隆一:訳) 『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? (1959/12 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★☆

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フーダニット、ホワイダニットよりハウダニットが白眉を見出せる作品。

Why Didn't They Ask Evans.jpgWhy Didn't They Ask Evans3.jpgなぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? クリスティーb.jpg なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? ハヤカワb.jpg 『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』 1959.jpg
Dust-jacket illustration of the first UK edition/Minotaur Books(2002)/『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? (1981年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』 『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』(ハヤカワ・ミステリ)

The Murder at the Vicarage2.jpg 村の牧師の息子ボビイ・ジョーンズは、トーマス医師と海沿いでゴルフのプレイ中に地面の割れ目に男が倒れているのを発見、トーマスが応援を求める間、男は「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」と言い遺して死ね。ボビイは男のポケットからハンカチを取り出し顔にかけてやるが、その際に美しい女性が写った写真が出てきて、すぐにその写真を元に戻す。牧師館に戻らねばならなかったボビイだが、そこにロジャー・パッシントン-フレンチと名乗る男が通りかり、事情を聞くとボビイの代わりに付き添うことを申し出てくれる。

 死んだ男が持っていた写真から、写真はレオ・ケイマン夫人のもので、死んだ男は夫人の兄のアレックス・プリチャードだと判明。ケイマン夫人が身元を確認、検死審問で事故死の評決が下されて暫くして、今度はボビイがビールに大量のモルヒネを入れられ毒殺されそうになる。ボビイは何とか命を取り留め回復し、幼馴染みの伯爵令嬢レディ・フランシス・ダーウェント(通称フランキー)と事件を追い始めるが、新聞に出た男が持っていたという写真がボビイの見たものとは異なり、彼の不審は決定的となる。

Fontana版カバー(Tom Adams)

WHY DIDN'T THEY ASK EVANS 洋書.jpg フランキーはロジャーの住むパッシントン-フレンチの屋敷の傍で故意に自動車事故を起こし、怪我をして屋敷に担ぎ込まれることでパッシントン-フレンチ家の客となって事件を探るうちに、屋敷の当主ヘンリイがモルヒネ中毒であること、写真の女性が屋敷の近くで麻薬中毒患者の療養所を営んでいるニコルソン博士の妻のモイラであること、死んだ男はアレックス・プリチャードなどではなく探検家のアラン・カーステアズであったことなどが判ってきた。

 そんなある日、ヘンリイの部屋から銃声が聞こえ、鍵を開けて中に入るとヘンリイが死んでいた。状況から自殺と思われたが、ボビイとフランキーは他殺の線も捨てなかった。さらにモイラの行方が行方不明になり、二人はニコルソン博士が怪しいと考え、モイラも監禁乃至殺されているのかもしれないと焦り、別行動で事件を探り出したが、ボビイが何者かに襲われ、続いてフランキーも誘拐される。ボビイとフランキーが監禁され縄で縛られた場所で見たものは―。

WHY DIDN'T THEY ASK EVANS? .Pant.1969

 1934年、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が44歳の時に刊行された作品で(原題:Why Didn't They Ask Evans?)、ポアロやミス・マープルのようなシリーズ・キャラクターが登場しないノン・シリーズ作品ですが、昔読んですごく面白かった印象があり、今回読み直してもやはり面白かったです。

 クリスティ作品でノン・シリーズ作品は10作しかないそうで、その中で『そして誰もいなくなった』に次いで高い評価を得ていることを最近知りましたが(もちろん人によって好みはあり、そう高く評価しない人もいるが)読み直しても面白かったという点では、個人的にはかなり上位にくる作品。ある程度ストーリーが込入っているため、前に読んだのを忘れていて(つい確認の意味で長々とストーリーを書き出してしまった)、新鮮な(?)気持ちで読めた部分が多かったというのもあるかもしれませんが。

Why Didn't They Ask Evans? [1980] [VHS].jpgWHY DIDN'T THEY ASK EVANS 2.jpg 犯人は誰か(フーダニット)ということと、犯行の動機は何か(ホワイダニット)ということの両方のバランスがとれていますが、よく読むと犯人が複数であることは早い段階で明かされており、また、犯行の目的もやっぱり遺産目当てかということで、むしろこの作品での白眉は、ハウダニット(どうやって犯行を成し遂げたか)にあるかもしれません。

 作者の狙いもそこにあったと思われ、「なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」というタイトルそのものが、そのことを端的に表しているように思います。

WHY DIDN'T THEY ASK EVANS? .Pan.1980

「アガサ・クリスティ/なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」 (80年/英) ★★★★

 1980年制作の英国ITV版「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」(フランセスカ・アニス主演)でもその部分がきっちり再現されていましたが、「なぜ、そのメイドに頼まなかったのかしら」と、プリチャードの最期の言葉と全く同じフレーズをフランキーに無意識的に言わせるところが上手いなあと。その言葉の意味の重要性にふと気づいて、それをフランキーに教えるボビイ。オリエント・カフェでのモイラとの対面では、そのフランキーが機転を利かせて...といった具合に、若い二人のコンビネーションも、本作の楽しめる部分です。

、エヴァンズに頼まなかったのか?.jpgミス・マープル なぜエヴァンズに頼まなかったのか01.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第16話)/なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」 (09年/英・米) ★★★☆
謎のエヴァンズ殺人事件.jpg『謎のエヴアンス.png


【1959年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(田村隆一:訳)/1960年文庫化[創元推理文庫)(長沼弘毅:訳『謎のエヴアンス』)]/1981年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳)]/1989年再文庫化[新潮文庫(蕗沢忠枝:訳『謎のエヴァンズ殺人事件』)]/2004年再文庫化[偕成社文庫(茅野美ど里:訳『なぜエヴァンズにいわない?』)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(田村隆一:訳)]】謎のエヴァンズ殺人事件 (新潮文庫)

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