【1936】 ◎ アガサ・クリスティ (赤嶺弥生:訳) 『チムニーズ館の秘密 (1955/04 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★☆

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"冒険ミステリ"と割り切ってリアリティを求めない方が楽しめる傑作。

ハヤカワ・ミステリ  チムニーズ館の秘密.jpg チムニーズ館の秘密 ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg チムニーズ館の秘密 創元推理.jpg チムニーズ荘の秘密 クリスティ.JPG チムニーズ館の秘密 クリスティー文庫.jpg
ハヤカワ・ポケット・ミステリ/『チムニーズ館の秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』/『チムニーズ荘の秘密 (創元推理文庫 105-29)』/執筆中のクリスティ/『チムニーズ館の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
BBC:Agatha Christie Comic Strip/Bodley Head版2種
The Secret of Chimneys comic strip.jpgBodley Head.jpgチムニーズ館の秘密09.jpg 旅行会社の社員として南アフリカで旅行案内人を務めるアンソニー・ケイドは、再会した友人のジェイムズ・マグラスから「おいしい話」を持ちかけられる。ジェイムズは以前、町で見かけた喧嘩から老人を救い出したが、それが大変な富豪であったと判ったのだという。しかし、先ごろその老人チムニーズ荘の秘密.JPGが莫大な財産を残して亡くなり、何故か彼に回顧録らしき原稿を送ってきたという。同封のメモによれば、期日までにロンドンの出版社に持ち込めば千ポンドの報酬を支払うとあるが、ジェイムズはどうしても手が離せない仕事を抱えているらしい。アンソニーはその原稿を持ってイギリスに帰国するが、すぐに怪しげな男たちに狙われ、バルカン半島の小国ヘルツォスロヴァキアに王政復古に絡む、国際的な騒動へと巻き込まれる。一方、ヘルツォスロヴァキアの王子が滞在するチムニーズ館で、深夜に一発の銃声が響き渡る。一体この場所で何が起きてるのか? 自らもチムニーズ館に乗り込むケイドだったが...。

The Secret of Chimneys 01.jpg 1925年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:The Secret of Chimneys)、クリスティの作品の中で『殺人は容易だ』(1939)、『ゼロ時間へ』(1944)など5作あるバトル警視ものの第1作であるとともに、おしどり探偵トミーとタペンスの『秘密機関』(1922)など8作ある冒険ミステリの内の1作。

 スパイ、大泥棒、悪党、冒険に積極的なヒロインと主人公のナイスガイ、更に敏腕刑事と、もう何でもありの感じで、フランスの大泥棒ってルパンみたいだし、国際的なスキャンダルが絡む点などは、ホームズの「ボヘミアの醜聞」みたいな雰囲気も。

 クリスティ自身も楽しんで書いたらしく、たいへん短い期間で書き上げた作品だそうですが、ともすると大味な冒険譚になりがちなところが、ストーリーは精緻で、文庫だと500ページ弱になりますが、途中、飽きさせる要素は殆ど無かったように思います。

Dust-jacket illustration of the first UK edition

The Secret of Chimneys - Pan.jpg 主人公アンソニー・ケイドと共に事件に巻き込まれていくヴァージニア・レヴェルも、ヒロインとしての魅力を十分に備えているし、初登場のバトル警視のヤリ手ぶりもいいです。強いてこの作品の難点を挙げれば、アンソニー・ケイドの視点から物語が描かれているにも関わらず、彼自身が大きな秘密を有していることで、それが最後になって読者に明かされるという点では、善意に解釈すれば"叙述トリック"ですが、見方によっては"後出しジャンケン"の印象も受ける点です。

Pan books (1956)

 但し、そのことを割り引いてもこの作品は面白いです。そう言えば、本作の翌年に発表された『アクロイド殺し』にも"叙述トリック"が用いられていますが、それでも"傑作"との評価が、"掟破り"との批判を超えていて、そうしたことはこの作品についても言えるのではないでしょうか。

THE SECRET OF CHIMNEYS.jpgThe Secret of Chimneys 02.jpg 最初から"冒険ミステリ"と割り切って、あまり現代スミステリの基準でのリアリティを求めない方が、素直に作品を楽しめるかも。個人的にはクリスティ作品の中でも傑作だと思っています。

 モーリス・ルブランの『カリオストロ伯爵夫人』が1924年の刊行、コナン・ドイルの5大短編集のラスト『シャーロック・ホームズの事件簿』が1927年の刊行と、そうした作品がこの作品の発表と前後していることを考えると、それらの作品と相対比較した場合、この作品はむしろ、実際の当時の国際政治情勢を反映させている点でリアリティもあり、また、プロットの巧みさ、複雑さにおいて、後のミステリ作家の作品に引けを取らない"現代ミステリ"であるとも言えるように思います。
THE SECRET OF CHIMNEYS .Pan.1976   
  
チムニーズ館の秘密 dvd.jpg第18話「チムニーズ館の秘密」02.jpgチムニーズ館の秘密 09.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第18話)/チムニーズ館の秘密
」 (10年/英・米) ★★☆  

【1955年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(赤嶺弥生:訳)]/1976年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(高橋豊:訳)]/1976年再文庫化[創元推理文庫(厚木淳:訳『チムニーズ荘の秘密』)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(高橋豊:訳)]】

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