【1920】 △ 吉村 公三郎 「象を喰った連中 (1947/02 松竹大船) ★★★

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ストーリー上の突っ込み所は満載だが、笠智衆らの軽妙な演技が楽しめるコメディ。

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象を喰った連中 [VHS]」                      (下写真中央:日守新一/右:笠智衆)
象を喰った連中02.gif 終戦直後の東京の動物園で、象のシロウが謎の病で死に瀕していが、病理学権威の博士はハワイへ新婚旅行中で、手当に当たっていたのは大学の助手達のみ。飼育係の山下(笠智衆)の願いも虚しくシロウは死に、旅先で報せを受けた博士は、その症状から、象の死因はバビゾ菌であろうと新妻に話して聞かせる。その頃、大学の研究室では、助手の和田(日守新一)や馬場(原保美)らが、好奇心から死んだシロウの肉を焼いて食べていて、知らずにそれを食べたのは、研究室に残っていた渡辺(神田隆)と新婚の野村(安倍徹)、それと、偶然、研究室を訪れ、無理矢理勧められた山下の5人だった。話を聞いた山下の妻は、シャムの地で、同じように死んだ象の肉を食べた地元民が死んだのではなかったかと夫に言い、山下はその事実を思い出し、慌てて研究室に戻って助手達に、自分達はあと30時間で死んでしまうのだと告げる。資料を調べた結果、山下の話が本当らしいと気付いた助手達も真っ青になる―。

象を喰った連中 002.jpg 「暖流」「安城家の舞踏会」の吉村公三郎(1911-2000/享年89)監督が、戦後タイから復員して発表した帰国第1作で、有毒の象肉を食べた人々のドタバタを描いたコメディですが、戦争が終わって間もない頃の作品であるためか、努めて明るいタッチで描こうしている意図が感じられます(吉村公三郎自身が陸軍将校だったこともあり、また戦中は国策映画も撮っていたという経歴が、逆に戦後こうしたノンポリ映画を撮ることに繋がっているのかも)。

 因みに、東京の上野動物園の象が第二次世界大戦中に戦時猛獣処分を受けたことは有名な悲話であり、撮影に使われたのは名古屋・東山動植物園の象です。もともと東山動植物園にはサーカスからやってきた4頭の象がいて、それらの象は殺処分は免れたものの(ライオンなどは東山動植物園でも殺処分された)、食料不足から2頭が衰弱死し、終戦時点では2頭の象しかいませんでしたが、戦争を経験し、元気に生き延びた象は日本中で東山動植物園のこの2頭だけでした。この2頭は、戦後も市民の人気者でした。

 タイトルクレジットで、キャストが、「象を喰った連中」「この人たちを巡る女たち」「象を喰はない連中」...と並ぶところから、遊び心が感じられ、冒頭のシロウの看病シーンでも、笠智衆演じる山下(ちょび髭を生やして喜劇役者風)が、「きっとシロウちゃんは風邪をひいたんだ。だってあんなに鼻水が出ている、アスピリンをやってください。玉子酒はどうだろう」といった具合。

象を喰った連中 003.jpg どうやら残り30時間ばかりの命となったらしい5人は、集まって喧々諤々したり、家族や恋人と最後の出会いをしたりしますが、そうするうちに、何とか解毒用の血清を取り寄せることができる見通しに。ところが、5人分の血清の内1つが輸送中に容器が壊れ、誰か一人は犠牲にならざるを得ない―和田は、その犠牲者を籤引きで決めることを提案し、籤に細工を施し自らその一人となる―。自らの死を待つ和田だが、その時間になっても何にも起きず、あれっ?という感じ。

 死を待つ和田からも、それほど重々しい悲壮感は感じられず、むしろ何となく軽妙で、結末にも、それに呼応するようなドンデン返し。深読みすれば、戦争を生き延びた人びとの「生」の実感が反映されているのかな。戦争を生き延びた象が、作品のヒントになっているのかもしれないなあ。

象を喰った連中02.jpg なぜ5人は病院に収容されないのかとか、4人分の血清を5人で分けることは考えられないのかといったストーリー上の突っ込み所は満載ですが、役者陣に関して言えば、笠智衆(1904-1993/享年88)の軽妙な演技は見ものであり(シロウを可愛がっていた山下が、今自分が食べたのがシロウの肉だったと知った際の反応は、まさにギャグコント風)、実質上の主役である日守新一(1907-1959/享年52)も知的でとぼけた味わいがありました(小日向文世にちょっと似ているなあ)。日守新一は、現役真っ盛りでの死が惜しまれます。
日守新一/笠智衆
日守新一
象を喰った連中 日守.jpg象を喰った連中01.jpg「象を喰った連中」●制作年:1947年●監督:吉村公三郎●製作:小倉武志●脚本:斎藤良輔●撮影:生方敏夫●音楽:万城目正 /仁木他喜雄●時間:84分●出演:日守新一/笠智衆/原保美/神田隆/安部徹/村田知英子/空あけみ/朝霧鏡子/文谷千代子/岡村文子/若水絹子/植田曜子/奈良真養/高松栄子/志賀美彌子/中川健三/遠山文雄/西村青兒/永井達郎/横尾泥海男●公開:1947/02●配給:松竹大船(評価:★★★)

《読書MEMO》
● 桂 千穂 『カルトムービー本当に面白い日本映画 1945→1980』['13年/メディアックス]
IMG_1象を喰った連中.JPG

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