「●ひ 東野 圭吾」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2138】 東野 圭吾 『夢幻花(むげんばな)』
やや出来過ぎた話もあるけれど、ファンタジーと割り切れば楽しめ、ほろっとさせられもした。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(2012/03 角川書店)「ナミヤ雑貨店の奇蹟」2017年映画化(監督:廣木隆一/出演:山田涼介・尾野真千子・西田敏行/主題歌:山下達郎)
2012(平成24)年・第7回「中央公論文芸賞」受賞作。
コソ泥をして逃亡中の敦也・翔太・幸平は突然盗んだ車が動かなくなり、仕方なく以前翔太が見つけた廃屋「ナミヤ雑貨店」に逃げ込み夜が明けるのを待つことに。三人が店を物色していると、突然シャッターにある郵便口に手紙が投げ込まれ、そこには月のウサギと名乗る者からの悩み相談が書かれていた。店に残っていた雑誌によると、ナミヤ雑貨店はかつて店主が投函された相談に一生懸命答えてくれる事で有名だった。敦也は放っておこうというが、翔太と幸平は返事を書く事を決意する―(第1章「回答は牛乳箱に」)。
タイムスリップをモチーフにした連作スタイルの作品で、第1章 の「回答は牛乳箱に」で、廃屋となっている「ナミヤ雑貨店」及びそこにある牛乳箱を介在した、主人公たちと過去の人物との、悩み相談の手紙とその回答の遣り取り―という、この連作を貫く構図が示されます。
作者自身の談によれば、最初にこの"システム"を思いついて、次に、なぜ「悩み相談」のようなことがそこで行われているかを考え、その上で、「人生の岐路に立った時に人はどうすべきか」ということを年頭に置きつつ、各物語の世界を構築していったとのことです。
以下、「夜更けにハーモニカを」「シビックで朝まで」「黙祷はビートルズで」「空の上から祈りを」と続き、『新参者』('09年/講談社)もそうでしたが、各章で独立した話をもってきながらも、章と章のストーリーや登場人物の関係のさせ方が上手いなあと思いました(その絡ませ方の妙は『新参者』以上かも)。
ファンタジー系はあまり自分には向いていない気もしていますが、この作品については、割にスンナリ入り込めて思いの外に楽しめ、「夜更けにハーモニカを」とか「黙祷はビートルズで」の最後の方あたりは、結構ほろっとさせられもしました。
ちょっと出来過ぎた話もあるけれど、ファンタジーだと割り切って読めば、あとは突っ掛かることなく読めたという印象。最後、自分たちが助けた女性を、そうと知らずに縛り上げてしまったのはご愛嬌でしょうか。
映画「レット・イット・ビー」('70年/英)の海賊版って、何だかありそうな気がしてくるね。
【2014年文庫化[角川文庫]】
2017年映画化
「ナミヤ雑貨店の奇蹟」('07年/松竹)
監督:廣木隆一
出演:山田涼介/西田敏行/尾野真千子/村上虹郎/寛一郎/林遣都/成海璃子/門脇麦/萩原聖人/小林薫/吉行和子
主題歌:山下達郎「REBORN」