【1899】 ◎ 二宮 孝 『高年齢者雇用時代の人事・賃金管理 (2013/04 経営書院) ★★★★★

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高年齢者雇用時代の人事・賃金制度を考えるに際し、多くの示唆を含んだ本。

1高年齢者雇用時代の人事・賃金管理.png高年齢者雇用時代の人事・賃金管理.jpg 二宮孝.png 二宮 孝 氏(㈱パーソネル・ブレイン)
高年齢者雇用時代の人事・賃金管理』(2013/04 経営書院)

 2013年4月1日の改正高年齢者雇用安定法の施行に合わせて刊行された本で、第1章で改正高年法の内容を解説し、第2章で高年者雇用の社会的背景を、第3章で高年齢社員雇用に向けた企業経営の在り方を説いていますが、第1章はおさらいという感じで、一方、第2章と第3章は、ディーセント・ワーク、ワークライフバランス、ダイバーシティマネジメントといった社会的背景を解説するとともに、企業経営において高年齢者を積極的に活用するにはどういったことに留意すべきかを、人事マネジメント、組織再整備、ワークシェアリング、管理職の労務管理の在り方などの観点から説いていて、著者の視野の広さが感じられ、たいへん啓発される内容でした。

 第4章から第7章までは何れも高年齢者雇用を念頭に置いた制度解説で、社員全体の人事・賃金制度の在り方を具体的に説いており、基本人事制度、評価制度、賃金制度、関連する諸制度の順で解説し、第8章では、高年齢社員雇用の運用方法(「さん」付け運動、カウンセリングマインドの醸成、メンタルヘルス対策、パワーハラスメント対策、働きやすい職場づくり等)を解説、第9章では、安全衛生法や労働契約法、労働者派遣法など関連する法律の解説及び不利益変更への対応や成果主義人事制度に関する判決について解説、最終第10章では、定年延長や65歳までの希望者全員の継続雇用、経過措置を活用した当面対応などタイプ別にみた制度導入方法を纏め、また在職老齢年金との併給を視野に入れた手取り賃金からの個別管理について解説しています。

 著者は人事コンサルタントで社会保険労務士でもあり、法律に関する事柄も含め、これだけ広い観点で高年齢者雇用時代の人事・賃金管理制度の在り方を説いた解説書は少ないかも。但し、総花的にはならず、本書の核となる基本人事制度、評価制度、賃金制度の部分は、かなり具体的に突っ込んで書かれており、また、著者なりの考え方が示されています。

 基本人事制度(等級制度)においては、能力と役割基準によるクラス分けを提唱しており、クラスはブロードバンドで、細かくは級の設定で行う「役割能力等級制度」を提唱しており(これは著者が従来から提唱してきたもの)、更に、「能力等級」と「役割等級」を別建てとするダブルスタンダード型も示すとともに、昇格・昇進(降格・降職)制度の運用についても、丁寧に解説されています。

 評価制度は、成績(業績)評価、勤務態度評価、能力評価の3つを柱とし、また、これとは別に、役割評価の考え方なども示していますが、評価パターンごとに評価シートの具体例が示されていて分かりよいものとなっています。

 賃金制度は、能力給、役割給、業績給を3つの柱とし、諸手当を見直した後にどのようにして基本給制度を再設計するかを具体的に解説していますが、能力給は範囲給の中で定期昇給させ、役割給(役割手当)を責任度に応じて可変的に能力給に付加する方式を提唱する一方、その発展型として、役割給を役割レベルに応じた範囲(ゾーン)でもって設定する、より本格的な役割給制度も示しています。

 その他、賞与制度については、役割と業績に応じたポイント制業績賞与制度を提唱しており、また、管理専門職用の複線型賃金制度や年俸制についても解説されています。

 その他にも参考になる部分は多くありましたが、著者なりの考え方とそれに基づく制度の具体例が分かり易く示されているのが本書の特長であり、また、それがおそらく永年のコンサルティング経験によるものと思われますが、独善ではなく多くの企業で使えるものとなっている点がいいです(第一基本給を役割給とするのが大企業のメジャーな考えというふうに思われているが、実際に、中小企業に限らず大企業でも、著者が提唱しているのとほぼ同タイプの賃金制度を採り入れている企業はある)。

 改正高年法への対応は、大手・中堅企業の大部分は一定の方向性を打ち出し一段落したという印象で、今後は、60歳超の社員との接続において、管理職や一般の社員の処遇の在り方が課題になってくるのではないでしょうか。何も、本書のままに人事・賃金制度を改定する必要はなく、あくまでも自社適合を図るべきですが、そうしたことを考えるにあたって、多くの示唆を含んだ良書であるように思います。

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