【1892】 ◎ ダグラス・マグレガー (高橋達男:訳) 『新版 企業の人間的側面―統合と自己統制による経営』 (1970/08 産能大学出版部) 《 [旧版](1966/06 産業能率大学短期大学)》 ★★★★★

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モチベーション理論としての「X理論-Y理論」を提唱。今読んでも示唆に富む名著。

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企業の人間的側面―統合と自己統制による経営』['70年] ダグラス・マクレガー
The Human Side of Enterprise, Annotated Edition McGraw-Hill; 1版 (2005)

McGregor, Theory x and Theory y.jpg 1960年にアメリカの心理学者ダグラス・マクレガー(またはマグレガー、Douglas McGregor、1906-1964)が、発表した著書で(原題:The Human Side Of Enterprise)、モチベーション理論としての「X理論-Y理論」を提唱したことで知られています。

 マクレガーの言う「X理論」とは、「普通の人間は生来仕事が嫌いで、できれば仕事はしたくないと思っている」「仕事が嫌いだから、強制・統制・命令されたり、処罰や脅しを受けなければ働かない」「普通の人間は命令される方が楽で、責任はとらずに済む方がよく、野心はもたず、安全を望む」という人間観に根ざすもので、この場合、命令や強制で管理し、目標が達成できなければ懲罰するといった、「アメとムチ」による経営手法となります。

 これに対し「Y理論」とは、「人間は生まれつき仕事をすることをいとわない。仕事は条件次第で満足の源になる」「進んで働きたいと思う人間には統制や命令は役にたたない」「進んで働く人間は責任も積極的にとるし、創意工夫をして問題を解決する」という人間観に根ざすものであり、この場合、労働者の自主性を尊重する経営手法となります。
 
02 企業の人間的側面.jpg 第1部「経営に関する理論的考察」では、まず、伝統的な科学的管理法に基づく「権限による人の統制」に対する批判が続きますが、こうした命令系統による人の動かし方を、彼は「X理論」によるものであるとしています。これまでの経営者や管理職は、従業員に対して「権限に基づく適切な命令」を与えることが自らの重要な職務であると考えてきた経緯があり、その根底には、よく働く従業員には報酬を与え、怠ける従業員には罰則を与えることで、従業員の労働意欲を高め、仕事へのモチベーションを維持することが出来るという「X理論」の見解があると―。従業員を積極的に働かせて生産性と効率性を高めるには、道具的条件付け的な報酬と罰則の強化子(刺激)が必要であると考えられてきたということです。

 しかし、マズローの欲求階層説に基づけば、低次元の欲求(生理的欲求や安全の欲求)が十分に満たされた現在(1960年当時)、高次元の欲求(社会的欲求や自我・自己実現欲求)を考慮した理論が求められているのであり、上司から部下への命令統制や企業の階層関係における権限の行使によって、従業員の労働意欲を高め生産効率性を上昇させようとする「X理論」には自ずと限界があり、「通常業務を効率的に処理する」議論から抜け出す必要があるとし、そうした意味で、「人間的側面」を取り込んで、しかも科学的な経営理論を確立することが時代的要請としてあり、それを形にしたものが、彼が提唱する「Y理論」であったわけです。

 先にも述べたように、「人間は本来、怠け者ではなく働き者であり、旺盛な知的好奇心と自己実現欲求を持つので、やりがいのある職場環境(人間関係)と達成目標さえ与えられれば積極的に働く」というのが「Y理論」の考え方であり、マクレガーは、これからの経営理論(組織論・人事管理・企業運営)では、外部から強制的な命令を下して「統制による管理」を行う「Ⅹ理論」の有効性は大きく低下し、内発的な動機付けを重視して「目標による管理」を行うY理論の有効性が段階的に上昇すると主張したわけです。

 そのことは、本書の第2部「Y理論の考察」、第3部「管理者の育成」における、現行の組織理論・管理理論に対する痛烈な批判として具体的に示されており、また、この第2部、第3部では、目標管理、業績評価、給与・昇進の管理、経営環境、ライン・スタッフ関係、リーダーシップ、管理者の育成と教室での管理技法の習得についてなど、人事マネジメント、人材育成に関する様々なテーマを取り上げていて、今日改めて読んでも、大いに示唆に富むものです。

 例えば、「管理者の部下に対する最も適切な役割は、部下の教師、専門的援助者、同僚、コンサルタント」であって、「Y理論」に基づく管理者であれば、「専門家と顧客との関係と同じような関係を、部下や上役や同僚との間で作り上げることができるであろう」としています。

 リーダーシップに関しては、「すべてのリーダーに共通の能力や人柄の基本型は唯一つであるということは全くありえない。リーダーの人柄は重要であるが、人柄として何が不可欠かは状況によって大いに異なる」とし、「まだ設立早々で苦悶している会社に必要なリーダーシップは、大規模で安定している会社の場合とは全く違う」としています。

 管理者の育成については、製品を「製造」するような方法では、管理を「製造」することはできないとし、望めるのは管理者が成長することだけであると―。そして、「目標管理」による方法ほど、それだけで管理者育成を促進する環境を作り出すのに役立つものはないとしています(「農業的」な管理者育成方法が「工業的」な方法よりも望ましい、という表現を用いているのが面白い)。

 「X理論-Y理論」については、発表当初には、労働者にあまりにも高次元の資質を求めすぎているのではないかとの批判もあり(本書の中でも、労働者が高次元欲求を持っている場合においてより有効であるとされているのだが)、その後、対照的な2つのマネジメントスタイルとして「X理論」的な対処と「Y理論」的な対処の両方を考え、細かいことには目をつむり、基本は「Y理論」でいくが、但し、「X理論」的な仕組みは欠かさない―という「修正Y理論」的な考えが、マズローをはじめ多くの研究者から出されるとともに、マクレガー自身も所謂「Z理論」の構築に取り組みましたが、本書刊行の4年後、58歳で亡くなってしまったため、完成を見ることはありませんでした。

 マクレガーは、1906年にミシガン州デトロイトに生まれ、曾祖父はスコットランド長老派の牧師であり、祖父はオハイオで浮浪者のための施設を作っていて、これが慈善事業を行なうマグレガー協会という団体に発展し、ダクラス・マグレガーの父親も1915年にマグレガー協会の理事になっています。彼の家では毎晩礼拝が行なわれ、父親がオルガンをひき、母親が讃美歌を歌い、彼も伴奏をしたり、幼い頃から恵まれない人々に食事や宿を与える仕事の事務を手伝ったりしていたとのことで、マグレガーの「Y理論」は人間に対する深い信頼がベースになっていますが、それは、彼が宗教的で慈善精神の継承された家系に育ったことと結びつくかと思われます。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書会》
■2017年03月10日 第3回「人事の名著を読む会」ダグラス・マグレガー 『企業の人間的側面』

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