【1886】 ◎ 渡邉 岳 『「雇止めルール」のすべて―改正労働契約法に対応!』 (2012/12 日本法令) ★★★★☆

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数値・類型化によって雇止めを巡る司法の判断を浮き彫りにした点がユニーク。

『「雇止めルール」のすべて』.JPG「雇止めルール」のすべて.jpg
雇止めルールのすべて』['12年/日本法令]

 安西法律事務所所属の渡邉岳弁護士による、雇止め法理を中心に解説した実務書です。三部構成の第1部で、労働契約における期間の意義ならびに裁判所が確立した雇止め法理の内容及び雇止めをめぐる近時の問題を取り上げ、第2部で、平成24年の労働契約法の改正内容と労働契約法における雇止め法理に関する解釈上の諸問題に触れています。

 ここまではテキスト的内容ですが、雇止めに関する裁判例を整理した第3部がたいへん特徴的であり、解雇に関する法理の類推適用の有無の"予測方法"を独自に示したうえで、雇止めをめぐる裁判例を、「解雇に関する法理の類推適用の可否」が決め手となったケースと、「解雇に関する法理を類推適用した結果」がどう判断されたかが決め手となったケースに分け、それぞれ分析しています(この約200例の判例分析が本書全体の後半3分の2を占める)。

 まず、「解雇に関する法理の類推適用の可否」が決め手となった裁判例については、事案ごとに、継続雇用の期待度を、①業務の永続性、②更新回数・継続雇用期間、③正社員の職務、権限ないし責任との同一性、④契約更新手続きの実施、⑤契約における更新条件についての合意の内容、⑥使用者による契約更新を期待させる言動の有無、⑦同様の立場にある者に対する雇止め実績、の7つの要素について±(プラスマイナス)でスコア評価して、「期待指数」の総合スコアを求め、実際の判旨はどうであったのかを示すとともに、それに対する著者のコメントが付されています。

 こうしてみると、「期待指数」がプラスのスコアとなっているものは、裁判においても解雇に関する法理が類推されて、雇用契約の継続への期待に合理性があると判断され、一方、マイナスのスコアのものは、それが否定されて雇用契約の継続への期待に合理性があったとは認められないとされているという傾向がはっきりみられ、著者の「期待指数」の要素設定に一定の合理性・納得性があることを窺わせるものとなっています。

 また、「解雇に関する法理を類推適用した結果」がどう判断されたかが決め手となった裁判例については、事案内容に沿って概ね「合理的期待型」と「実質無期型」に区分し、実際の判旨を紹介するとともに、雇止めによる契約終了が認められなかったものと認められたものに区分しています。
 
 興味深かったのは、裁判所が解雇に関する法理を前提にしたからといって、雇止めによる契約終了は認められないとされたケースばかりでもなく、解雇法理を類推適用しつつ勘案した結果、"やむを得ない事情"が考慮されたり、解雇法理を"厳格に"適用する事案ではないとされたりして、雇止めによる契約終了が認められたケースが、「合理的期待型」「実質無期型」の双方に散見される点でした(考えてみれば、そうした判断もあり得るのは当然といえば当然だが)。

雇止めルールのすべて.JPG ともすると「事案の個別事情に拠る」というのが通念のようになっている雇止めをめぐる紛争及び裁判例ですが、本書は、数値・類型化によって雇止めをめぐる司法の判断を浮き彫りにしてみせたという点でユニークな試みであるとともに、実務において、雇止めの要件が整備されているかどうかをチェックする際の参考になり、また、現実の紛争に直面した際などに、司法の判断を予測する指標ともなる本かと思われます。

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This page contains a single entry by wada published on 2013年6月 2日 17:34.

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