【1890】 ○ アンリ・ファィヨール (山本安次郎:訳) 『産業ならびに一般の管理 (1985/06 ダイヤモンド社) 《アンリ・ファヨール (佐々木恒男:訳) (1972/02 未来社)》 ★★★★

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今でも企業研修などで使われる「管理の5機能(4機能)説」を提唱。

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産業ならびに一般の管理 (1985年)』  アンリ・ファヨール(1841-1925/享年84)

 1916年にフランスの「経営学者」アンリ・ファヨール(またはファィヨール、Jule Henri Fayol, 1841-1925)が発表した本で、ファヨールという人は元々は鉱山技師で、実際には学者は学者でも地質学者でしたが、鉱山会社の経営者となって、その実務経験から得た自らの考えを体系的に纏めた本書により、企業経営において「管理」という言葉を初めて使った人物とされています。

 ファヨールは、「経営とは、企業がその裁量下にあるすべての資産から最大限の利益を引き出すよう努めながら、企業をその目的へと導くことである」として、経営に不可欠な基本的機能を
 1.技術活動(生産、製造、加工)
 2.商業活動(購買、販売、交換)
 3.財務活動(資本の調達と管理)
 4.保全活動(財産と従業員の保護)
 5.会計活動(財産目録、貸借対照表、原価、統計など)
 6.管理活動(予測、組織化、命令、調整、統制)
の6つに分類しましたが、彼がこの中で特に重視したのは「管理活動」であり、企業の経営活動にこの管理的活動を組み合わせている会社こそが、経営に成功している会社であると主張しました。

 更に、経営に欠かせないこの管理的活動は、①予測、②組織、③命令、④調整、⑤統制から5つの要素から構成される総合的な活動であるとしましたが、「管理活動とは、組織体の目標に向かって、組織のメンバーの活動を高め且つかつ統合して行く活動であり、統合した活動とするために、①計画、②組織、③指揮、④統制 という管理過程をへて実行される」という言い方もしており、「管理の4機能説」と呼ばれることもあります。

 組織(仕事)運営における「計画(Plan)、実行(Do)、統制(See)」の所謂「PDCサイクル」の概念は産業革命の頃からあったようですが、「管理」という概念の下に「組織」化をこれに組み入れたところが、ファヨールの考え方の、当時としては斬新なポイントであったのではないかと個人的には思います。

 かつて、メーカー企業の初任管理職研修などでは、この「①計画、②組織、③指揮、④統制」というものが1日がかりで徹底的に講義されたりしました。
 例えば「計画」であれば、「(1)計画とは何か」(① 目標、方向、方針、戦略を設定する。② 必要とする資源(人・物・金・情報)を準備する。③ 必要とされる関係者の了解・支持・承認をとりつける。④ 実施段階で予想される障害の対策を検討・準備する)、「(2)計画の意義は」(① 最小限の資源投資努力で最大限の効果を期待する。② 実施上のポジションや進捗状況を把握する。③ 途中の状況の変化に対策を打つ手掛けとする。④ 業績結果を的確に把握し認識する)、「(3)計画の内容は」(① 目的、②目標(売上目標)、③方針、④方法と手順、⑤日程、⑥規則・基準、⑦予算、⑧戦略)、「(4)計画策定のプロセスは」(①問題、目的の明確化、② 代替案の発見・開発、③ 代替案の結果予測、④比較・評価、⑤意思決定)...といった具合に。

 最近の企業研修ではここまで細かくはやっていないかもしれません。経験が未だ少ない内に抽象概念ばかり言っても頭に入らないというのもあるかも(これら要素の不備が、労災事故や企業不祥事に至る原因であったりもし、これはこれで重要なのだが)。
 最近では、「命令」機能の中から「リーダーシップ」と「コミュニケーション」を分離させ「管理の6機能」とし、更に、その「リーダーシップ」「コミュニケーション」にむしろ重点を置いて研修を行う傾向にあるように思われます。

 但し、ファヨールに敬意を表するならば、彼が提唱した、様々な管理の原則―「命令統一の原則」(部下への命令は一人の上司から与えられ、部下からの報告は一人の上司に行うという原則)、「類似業務一括の原則」(同種の仕事は一つの部署に集中しまとめて行うという原則)、「責任と権限の原則」(組織の目標を達成するために、組織を構成する者がそれぞれに責任を分担し、その責任を果たす手段として資源を自由に使える範囲を定めた権利、すなわち権限が付与されなければならないという原則)、「権限委譲の原則」(一部の上位管理者に権限が集中しすぎることで状況対応が遅れ、組織の硬直化、組織メンバーの士気低下を招くことがないように、日常の反復的で定型的な業務はなるべく権限委譲を行い、上位管理者は例外的な事項の処理だけに専念すればよいという原則)、「統制範囲限界の原則」(管理者が管理できる部下の数や地域・時間による管理には限界があり、その限界を超えた管理は不可能であるという原則)、「階層の原則」(組織が大きくなりすぎると、命令の伝達や報告に時間がかかり、組織内の情報伝達が徹底されないため、組織階層はなるべく少なくすべしという原則)―などは、原則としてみれば本質をついており、古びてはいないように思います。

 本書の難点は入手しにくいこと。また、古本市場などで入手可能であっても値が張ることです。国会図書館や、学生の場合は大学の図書館を利用するのがいいかも。

【1958年[風間書房『産業並に一般の管理』(都筑栄:訳)]/1972年2月[未来社(佐々木恒男:訳)]/1985年6月[ダイヤモンド社(山本安次郎:訳)]】

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

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