2013年6月 Archives

「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT 【2219】 山川 隆一 『労働法の基本

初学者だけでなくベテランにも。まさに「初級入門者から上級の実務担当者まで必携」。

『基礎から学ぶ賃金・賞与・退職金の法律実務』.JPG基礎から学ぶ賃金・賞与・退職金の法律実務.jpg
基礎から学ぶ賃金・賞与・退職金の法律実務』(2013/04 日本法令)

 産労総合研究所の定期刊行誌「賃金事情」に、平成17年4月から平成19年6月までの約2年間にわたって連載された「基礎から学ぶ賃金と法律」を単行本化したものですが、連載が終了してから6年経っているわけで、当然のことながら、その間の労働関連法令の改正、労働契約法の創設などを前提に、専門誌掲載記事の内容を大幅にリニューアルしてあります。

 第1章から第6章までは、賃金の定義や賃金の支払いに係る法的制度をはじめ、賃金の決定や計算、支払い等の実務について分かり易く解説しています。また、第7章では平均賃金、第8章では賞与、第9章では退職金の法律実務をそれぞれ解説しています。

 また、最近の社会経済情勢を背景に、企業が直面する人事労務の問題や、M&Aに伴う賃金の不利益変更の問題など、現場で人事労務の問題に対応している人事パーソンの実務に供するよう、「補章」として、賃金の不利益変更に関する諸問題を取り纏めて解説しています。

『基礎から学ぶ賃金・賞与・退職金の法律実務』 .JPG 法令の条文だけでなく、行政通達や裁判例がふんだんに織り込まれていて(賃金に関する全通達の内のかなりのものが取り上げられているのではないか)、さらに関連するコンサルティング事例なども載っています。

 職場の管理職や一般の従業員にも分かるように心掛けて執筆したとのことで、2色刷りで図説がたいへん多くて分かり易いですが、前述の通り、法律や通達に関してかなり突っ込んで解説しており、更に、年俸制、インセンティブ手当と割増賃金、固定残業代の支払い方などの個々のテーマに関しても、実務上発生する課題に対し、"並みの"実務書には見られない詳細な解説がなされています。

 法律についてある程度突っ込んで書かれた本は少なからずあり(弁護士や大学教授が書き手であることが多い)、また、「残業代」や「不利益変更」などの賃金労務に関するテーマに沿って実務寄りに書かれた指南書的な本もあることはありますが(コンサルファームや社労士が書き手であることが多い)、ここまで法律に関して突っ込んで書かれていて、且つ、そのことをきちんとベースにしつつ実務対応についても踏み込んで書かれている本というのは、実際には殆どないように思われます。

 帯にも「初級入門者から上級の実務担当者まで必携!」とありますが、初学者だけでなく、ベテランの人事パーソンや社労士にとっても専門能力を深めるうえで大いに参考になると思われ、まず通読して("ベテラン"を自負する人ほど、内容の深さにおいて相当の読み応えがあるのではないか)、その後も必要に応じて読み返したり、手引き的な使い方をされることをお勧めします。
 
《読書MEMO》
●目次
第1章 賃金とはなにか
第2章 賃金支払いにかかる規制と保護
第3章 賃金決定の実務
第4章 賃金計算の実務
第5章 賃金支払いの実務
第6章 割増賃金の実務
第7章 平均賃金の実務
第8章 賞与支払いの実務
第9章 退職金支払いの実務
補章 賃金の不利益変更等に関する諸問題

「●人事・賃金制度」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2220】 小柳 勝二郎 『65歳全員雇用に対応する人事・賃金・考課の知識と実務

高年齢者雇用時代の人事・賃金制度を考えるに際し、多くの示唆を含んだ本。

高年齢者雇用時代の人事・賃金管理9.JPG高年齢者雇用時代の人事・賃金管理.jpg 二宮孝.png 二宮 孝 氏(㈱パーソネル・ブレイン)
高年齢者雇用時代の人事・賃金管理』(2013/04 経営書院)

 2013年4月1日の改正高年齢者雇用安定法の施行に合わせて刊行された本で、第1章で改正高年法の内容を解説し、第2章で高年者雇用の社会的背景を、第3章で高年齢社員雇用に向けた企業経営の在り方を説いていますが、第1章はおさらいという感じで、一方、第2章と第3章は、ディーセント・ワーク、ワークライフバランス、ダイバーシティマネジメントといった社会的背景を解説するとともに、企業経営において高年齢者を積極的に活用するにはどういったことに留意すべきかを、人事マネジメント、組織再整備、ワークシェアリング、管理職の労務管理の在り方などの観点から説いていて、著者の視野の広さが感じられ、たいへん啓発される内容でした。

 第4章から第7章までは何れも高年齢者雇用を念頭に置いた制度解説で、社員全体の人事・賃金制度の在り方を具体的に説いており、基本人事制度、評価制度、賃金制度、関連する諸制度の順で解説し、第8章では、高年齢社員雇用の運用方法(「さん」付け運動、カウンセリングマインドの醸成、メンタルヘルス対策、パワーハラスメント対策、働きやすい職場づくり等)を解説、第9章では、安全衛生法や労働契約法、労働者派遣法など関連する法律の解説及び不利益変更への対応や成果主義人事制度に関する判決について解説、最終第10章では、定年延長や65歳までの希望者全員の継続雇用、経過措置を活用した当面対応などタイプ別にみた制度導入方法を纏め、また在職老齢年金との併給を視野に入れた手取り賃金からの個別管理について解説しています。

 著者は人事コンサルタントで社会保険労務士でもあり、法律に関する事柄も含め、これだけ広い観点で高年齢者雇用時代の人事・賃金管理制度の在り方を説いた解説書は少ないかも。但し、総花的にはならず、本書の核となる基本人事制度、評価制度、賃金制度の部分は、かなり具体的に突っ込んで書かれており、また、著者なりの考え方が示されています。

 基本人事制度(等級制度)においては、能力と役割基準によるクラス分けを提唱しており、クラスはブロードバンドで、細かくは級の設定で行う「役割能力等級制度」を提唱しており(これは著者が従来から提唱してきたもの)、更に、「能力等級」と「役割等級」を別建てとするダブルスタンダード型も示すとともに、昇格・昇進(降格・降職)制度の運用についても、丁寧に解説されています。

 評価制度は、成績(業績)評価、勤務態度評価、能力評価の3つを柱とし、また、これとは別に、役割評価の考え方なども示していますが、評価パターンごとに評価シートの具体例が示されていて分かりよいものとなっています。

 賃金制度は、能力給、役割給、業績給を3つの柱とし、諸手当を見直した後にどのようにして基本給制度を再設計するかを具体的に解説していますが、能力給は範囲給の中で定期昇給させ、役割給(役割手当)を責任度に応じて可変的に能力給に付加する方式を提唱する一方、その発展型として、役割給を役割レベルに応じた範囲(ゾーン)でもって設定する、より本格的な役割給制度も示しています。

 その他、賞与制度については、役割と業績に応じたポイント制業績賞与制度を提唱しており、また、管理専門職用の複線型賃金制度や年俸制についても解説されています。

 その他にも参考になる部分は多くありましたが、著者なりの考え方とそれに基づく制度の具体例が分かり易く示されているのが本書の特長であり、また、それがおそらく永年のコンサルティング経験によるものと思われますが、独善ではなく多くの企業で使えるものとなっている点がいいです(第一基本給を役割給とするのが大企業のメジャーな考えというふうに思われているが、実際に、中小企業に限らず大企業でも、著者が提唱しているのとほぼ同タイプの賃金制度を採り入れている企業はある)。

 改正高年法への対応は、大手・中堅企業の大部分は一定の方向性を打ち出し一段落したという印象で、今後は、60歳超の社員との接続において、管理職や一般の社員の処遇の在り方が課題になってくるのではないでしょうか。何も、本書のままに人事・賃金制度を改定する必要はなく、あくまでも自社適合を図るべきですが、そうしたことを考えるにあたって、多くの示唆を含んだ良書であるように思います。

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オーソッドックスで現実的。著者らのノウハウをふんだんに開示している姿勢には好感を持てた。

デフレ時代の「人事評価・賃金制度」.JPGデフレ時代の「人事評価・賃金制度」4.jpg6ヶ月間で人事制度改革が実現できるデフレ時代の「人事評価・賃金制度」の作り方』(2012/08 中央経済社)

 「実質65歳定年時代」を念頭に置いた、比較的オーソッドックスで、かつ中小企業でも導入可能な現実的な「人事評価・賃金制度」の作り方解説書になっているように思いました。

 1ヵ月目が「現状分析と人事方針を決定する」、2ヵ月目が「職種別の等級制度と人事評価制度を作る」、3ヵ月目が「デフレ対応型・給与制度を作る」、4ヵ月目が「収益強化のための業績連動賞与を作る」、5ヵ月が「退職金と周辺制度改定で人件費を逓減する」、6ヵ月目が「効果的に社員に説明し、新制度を導入する」となっていて、要するに、等級制度・評価制度・給与制度・賞与制度・退職金制度の全てにわたるトータル人事制度の設計であるわけで、「6ヵ月」というのは"最短・最速"期間ということになるかと思います。

 等級制度の作り方において、業種別に解説されているほか、職種別に等級基準を作ることを比較的詳しく解説していて、一方で、職能基準にするか職務基準にするかについては会社ごとに事情が異なるとしていていますが、この辺りはコンサルティングにおける著者らの経験が反映されているのだと思います。

 賃金制度の解説のところで号俸表が出てきて、職能給制度で号俸表を用いると、範囲給のレンジ幅が大きくなったり、上限額に到達してしまう者が多発したりしないかと、その辺りが気になるところですが、これについては、評価点をダイレクトに反映させた洗い替え方式の給与事例を示しています。
これこそまさに「デフレ」対応なのでしょう。しかし、それだとあまりにドラスティックになってしまうので、現実対応を念頭に様々な緩和パターンも示していますが(最終的には所謂「多段階洗い替え」方式になるのか)、号俸表を用いることによってやや複雑になってしまっている印象も受けました。

 実務書なので、テクニカルな部分はある程度突っ込まざるを得ないというのはありますが、全体を通しては、それぞれコンパクトに纏まっていて、概ね分かり易く書かれているように思いました。
更には、例えば「退職金と周辺制度」のところでは、定年再雇用後の賃金制度の見直し例や、契約社員・パート社員の人事制度事例も紹介するなど、至れり尽せりという感じです。

 「評価連動型の役職手当」などといった例も紹介されていますが、全体を通してみた場合、目新しい提案がそうあるというわけでもないものの基本は押さえている感じで、何よりも、事例等を通して著者らのノウハウをふんだんに開示している姿勢には好感を持てました(オーソドックスではあるが、ここまで詳しく解説されているものは少ないかも)。

 制度設計のことを学びたい人にも参考になるかと思いますが、200ページで2,520円(税込)というのは「会社買い」の価格設定ではないでしょうか。著者らの、自らのノウハウをこの1冊に凝縮させたという思いが価格に反映されているのか(それなりに密度は濃いけれど)、それでも本書と同じソフトカバー版の類書に比べると価格がやや高い印象も受けました。

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1冊で法改正のポイントも、制度設計も、企業の対応動向も分かるという点では便利。

改正法対応版 高年齢者処遇の設計と実務8.JPG改正法対応版 高年齢者処遇の設計と実務.jpg改正法対応版 高年齢者処遇 の設計と実務 (労政時報選書)』 (2013/03 労務行政)

 労使協定で定める基準により継続雇用制度の対象となる高年齢者の選別を認める仕組みを廃止した改正高年齢者雇用安定法(平成24年8月成立)の平成25年4月施行に合わせて刊行された解説書です。

 法改正のポイントを纏めた「法律・判例解説・規定例」と、60歳超雇用者の処遇に関する「実務解説」と、企業の対応をアンケート調査した「緊急調査」の、概ね"均等比重"の3部構成で、これ1冊で、法律も制度設計も企業の対応動向も分かるという点では便利です。

 特に、安西法律事務所の渡邉岳・小栗道乃の両弁護士が書いている法律解説の部分はコンパクトに纏まっていて、「改正法における継続雇用に関わるQ&A」が10問ありますが、これは必読箇所という印象で、定年後の雇用と処遇に関する判例解説も、これまた同じく、よく纏まっています。

 一方、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのコンサルタント2人が執筆している「実務解説」も、60歳超の報酬パターンを図に示したり、年金支給開始年齢の繰り延べを踏まえた公的給付の活用と自社賃金の在り方を示したりと、丁寧ではありますが、ややごちゃごちゃした印象でしょうか。公的給付を活用しないパターンなども例示しているのは良いと思いましたが、紙数が足りなくなった印象も...。

 残り3分の1を「緊急調査」と、改正法に関する法律、施行規則、更に行政が出した指針及びQ&Aで費やしていますが、これ1冊で全て事足りるようにしようという意図は感じられるものの、結果的に、やや"専門誌の特集"的な本の作りになったよう気もします(「労政時報」の特集記事における調査とダブっているのでは。まあ、専門誌を購読せず、本書のみ買う人もいるだろうけれど、制度解説にもう少し比重を置いて欲しかった気もする)。全体に総花的と言うか...。その割には(だからこそか)3,900円(税込)はやや高いかな。

 改正法の成立時から年末にかけては、各企業どうやって対応するのだろうという印象でしたが、本書の調査結果にもあるように、改正法施行時期までには大手・中堅企業の大部分は方向性を打ち出したという印象で、今後は、60歳超の社員との接続において、60歳前の中高年社員の処遇の在り方が課題になってくるのではないでしょうか。

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「●スティーブ・ジョブズ」の インデックッスへ

ジョブズのカリスマ的プレゼンの秘密を、フツーの人が共有できるよう具体的に解明している。

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン.jpg   The Presentation Secrets of Steve Jobs.jpg  ガロ.jpg Carmine Gallo
"The Presentation Secrets of Steve Jobs: How to Be Insanely Great in Front of Any Audience"
スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』['10年/日経BP社] 

 '11年10月にスティーブ・ジョブズが56歳で亡くなった際に、ジョブズ関連本がどっと出ましたが、本書は、ジョブズが亡くなる前の年に刊行されたもので(原著"The Presentation Secrets of Steve Jobs"の刊行も'10年)、個人的には久しぶりの読み返しでしたが、大体、ジョブズ本は、ジョブズが亡くなる前に刊行されたものの方が、ジョブズの死に伴って急遽刊行されたものより翻訳がしっかりしているようにも思います。

 本書は、ジョブズのカリスマ的なプレゼンテーションの秘密を具体的に解明したもので、確かに、ビジョンを誰にでも分かる言葉にしてみせ、多くの人が望むところの自らがありたい姿を明確化することで、周囲を巻き込んで大きなうねりを創り出す、カリスマに不可欠な条件をジョブズが携えていたことは、本書を読んでもよく分かりますが、一方で、プレゼンテーションにおいて彼が周到な準備をし、効果的なプレゼンを行うための細心の準備と最大限の努力を怠らなかったこともよく分かりました。

 本書の優れている点は、ただジョブズを礼賛するのではなく、彼のプレゼンの技法を一般論に落とし込んでいるため、ジョブズの評伝と言うよりもプレゼンのテキストとして読めることであり、また、お手本にしているジョブズのプレゼンのやり方が、決められた方針に則って徹底しているものであるために、その分、退屈な教科書に止まらず、インパクトのある啓発を含んだものとなっていることかと思います。

 本書が紹介しているプレゼンテーションのポイントは、ジョブズが実際に行った数々のキーノートをベースにしているとのことで、「ストーリーを作る」(シーン1~7)、「体験を提供する」(シーン8~13)、「仕上げと練習を行う」(シーン14~18)、という"3幕"構成の中で、「人を惹きつける18の法則」(18シーン)について述べられていますが、個人的にも、どれをとっても啓発される要素の多いものでした。

 その中には、なぜあなたのプレゼンテーションを気に掛ける必要があるのかという「一番大事な問いに答える」(シーン2)という根源的な問題から(そのために、聞き手の悩みや喜びのツボは何か、まずは想像力を逞しくして、紙にペンを走らせてみようとある)、「救世主的な目的意識を持つ」(シーン3)といった壮大なもの、「ツィッターのようなヘッドラインを作る」(シーン4)といったテクニカルなものまで含まれていて、更に「ヘッドラインは70文字以下」といった具体的手法にまで落とし込まれていたりします(原著で「140文字以内」とあるのを、訳者の井口耕二氏が日本語換算しており、こうした翻訳も親切)。

 「ロードマップを描く」(シーン5)にある、要点を3点に纏める「3点ルール」や、ジョブズ自身がマッキントッシュ発売の時に用いた(有名な"1984"のプレゼン)「敵役を導入する」(シーン6)、「正義の味方を登場させる」(シーン7)という手法にも、なるほどと思わされるものがありました。

 「禅の心で伝える」(シーン8)では、箇条書きで文字がずらっと並ぶパワーポイントのテンプレートの問題点、余白や画像・写真の効果を説いており、また「『びっくりするほどキレがいい』言葉を使う」(シーン10)では、言葉はシンプルで具体的であることが重要であることを具体例で説明しいて、忘れられないプレゼンにするためには「『うっそー!』な瞬間を演出する」(シーン13)というのも、フツーのプレゼンの教科書には書いていないことではないでしょうか。

 「存在感の出し方を身につける」(シーン14)、「簡単そうに見せる」(シーン15)、「目的に合った服装をする」(シーン16)などを読むと、ジョブズのプレゼンが天性の才能の導くままに恣意的に行われていたものではなく、精緻な計算のもとに周到な準備を経てなされていたものであることがよく分かり、だからこそ「台本を捨てる」(シーン17)ことが可能であり、またジョブズ自身、プレゼンを「楽しむ」(シーン18)ことが出来たのだなあと。

 とにかく啓発的であると同時に具体的に書かれているので、重要なプレゼンに際して、資料作成に入る前や出来上がった資料の効果をチェックする時、あるいはプレゼンのリハーサルを行う際に改めて一読するといいかも。

 ジョブズの病状が回復の見通しが立ちにくく、彼の新たなプレゼンを聴く機会はそう訪れないかもしれないという状況で書かれた本でもあり(著者自身は本書刊行後の'10年10月に "Back to the Mac"と題した彼の新製品の紹介のプレゼンを聴いたそうだが)、ある意味、彼の"遺産"を、カリスマではないフツーの人が共有化できることを意図した本でもあるように、個人的には思いました。お奨めです。

《読書MEMO》
●人々を惹きつけるプレゼン 18の法則
第1幕 ストーリーを作る
 シーン1 構想はアナログでまとめる
 シーン2 一番大事な問いに答える
 シーン3 救世主的な目的意識を持つ
 シーン4 ツイッターのようなヘッドラインを作る
 シーン5 ロードマップを描く
 シーン6 敵役を導入する
 シーン7 正義の味方を登場させる
第2幕 体験を提供する
 シーン8 禅の心で伝える
 シーン9 数字をドレスアップする
 シーン10 「びっくりするほどキレがいい」言葉を使う
 シーン11 ステージを共有する
 シーン12 小道具を上手に使う
 シーン13 「うっそー!」な瞬間を演出する
第3幕 仕上げと練習を行う
 シーン14 存在感の出し方を身につける
 シーン15 簡単そうに見せる
 シーン16 目的に合った服装をする
 シーン17 台本を捨てる
 シーン18 楽しむ 

「●ビジネス一般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒【2231】 伊藤 洋介 『上司は部下の手柄を奪え、部下は上司にゴマをすれ

先輩が後輩に向けて説教調で自身の成功体験を語るパターンとちょっと似てしまっている。

世界で勝つグローバル人材の条件.jpg世界で勝つグローバル人材の条件』(2013/03 幻冬舎)

 世界最大の金融組織シティ・グループで20年間にわたりグローバル市場を舞台に活躍し、シティのトップ0.1%の経営陣にも選ばれたという著者が、ビジネスパーソンに向けて、弱肉強食のグローバル市場において日本人として活躍するための条件(心得)を説いた本です(著者は現在、国際金融コンサルタント乃至財務アドバイザーとして活躍しているらしい)。

 「持つべき武器は日本人としてのアイデンティティ」とし、「日本人に必要なサムライ魂の鍛え方」とは何かといった具合に、「日本人」の強みを強調している点が類書と比べた際の特徴と言えば特徴。「日本人としてのアイデンティティ」が大事との考え方に異論はないし、中身は読んで元気づけられる要素も多かったけれど、一方で、「自分の頭で考え、自分の言葉で伝え、自分で動く」「賢明であれ」「強靭であれ」「感性豊であれ」といった言葉は、月並みと言えば月並との印象を持ちました。

 自身の経験に裏付けされてのそれらの言葉とみれば、それなりに説得力はないことはないですが、金融市場も、またそこで働く日本人人材の市場も、著者がキャリアの階段を駆け昇っていた頃と今現在では大きく異なっていると思われますし、誰もが著者と同じようなキャリアを歩めるわけでもなく、先輩が後輩に向けて、説教調みたいな感じで自身の成功体験を語るパターンとちょっと似てしまっている印象も受けました(一般論に落とし込む段階で全て精神論になってしまっている)。

世界で通用するリーダーシップ2.jpg戦略人事のビジョン.jpg ビジネス啓蒙書として読む分にはまあまあですが、リーダーシップを学ぶという観点からみれば、こうした個人の成功譚を1つ1つ読むのは、あまり効率が良いことのように思えません(と言いつつ、GEの日本法人社長からノバルディス ファーマの日本法人社長に転じた三谷宏幸氏の 『世界で通用するリーダーシップ』 ('12年/東洋経済新報社) には★★★★☆の評価をつけたのだが、三谷氏は、執筆にあたって「自慢話」にならないよう配慮したとインタビューで語っている。コンサルタントとして独立したわけではないから、余計な自己宣伝は要らないというスタンスで書かれているという意味では、同じくGEからLIXILグループの執行役副社長に転じた八木洋介氏の 『戦略人事のビジョン―制度で縛るな、ストーリーを語れ』 ('12年/光文社新書)についても言える(評価★★★★★))。

 「グローバル人材の条件」というタイトルテーマに沿って本書の内容を振り返ると、逆に「素質」と「環境」で決まるのかなという思いにもさせられなくもなく、キャリア・デザイン支援や人材育成支援も今後の著者の事業ドメインに入っているようなので、その辺りもやや気になりました。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(スチュワート・D・フリードマン)

リーダーシップとWLBの統合。仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の「四面勝利」を目指す。

トータル・リーダーシップ.jpg
Total Leadership.jpg

    
スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman).jpg スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman)
トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」』(2013/04 講談社)/原著

 著者は、ペンシルベニア大学ウォートン・スクール教授で、リーダーシップ開発とワーク・ライフ・バランスに関する第一人者であり、"Integrating Work and Life: The Wharton Resource Guide"(1998年、「仕事と人生の統合」)、"Work and Family - Allies or Enemies? "(ジェフ・グリーンハウスとの共著、2000年、「仕事と家庭は両立するのか」)など、ワーク・ライフ・バランス、リーダーシップ、変革のダイナミズムについての単著や共著が数多くあるそうですが、何れの著書も、人生のあらゆる面においてパフォーマンスを向上させるにはどうすればよいかをテーマとし、職場、家庭、地域社会、自分自身の間に共通する価値を見出すことを説いているようです。

 本書はそうした著者の近著で、米国でベストセラーとなった"Total Leadership: Be a Better Leader, Have a Richer Life"(2008年、「トータル・リーダーシップ:より良いリーダーになり、より良い人生を過ごす」)の翻訳であり、著者が唱えるところの、リーダーシップとワーク・ライフ・バランスを統合させた「トータル・リーダーシップ」の強化ステップやその内容等について、著者がペンシルバニア大学で実際に行っている講義に沿ってテキスト化したものです。

 「トータル・リーダーシップ」の目的は、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の4つの領域における「四面勝利」であり、一般にはレード・オフと思われがちなこれら4領域が実は相互連関しているとの新発見から、新たな人生は始まるとしています。

 本書で示された「トータル・リーダーシップ」の3つのステップは、
  1.自分の価値観に基づくビジョンを抱き(Be Real)
Total Leadership Be a Better Leader Have a Richer Life.png  2.そのビジョンに向けてまわりを巻き込み(Be Whole)
  3.ビジョンの実現に向けて行動する(Be Innovative)
であり、学べる内容は、
  ・自分の価値観を知るための考え方
  ・自分のストーリーを語って人を巻き込む方法、
  ・価値あるゴールやビジョンを生み出す方法
などとなっています。

 仕事、家庭、コミュニティ、自分自身で各「円」を描かせて、その大きさや重なり具合から、その人の人生における比重の置き方や価値観の一致度をみるやりかたは興味深いです。これは、キャリアカウンセリングなどでは以前から用いられている手法ではないかと思いますが、それをリーダーシップ理論にまとめあげているところが画期的と言えるかもしれません。


岡本祐子氏(広島大学教授)の「成人期の発達を規定する2軸・2領域」
アイデンティティ.jpg そうしたリーダーシップとワーク・ライフ・バランスの統合という意味で新しさを感じる一方、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の4つの領域の「調和」という考え方は、日本のキャリア心理学の研究者の中に既にかなり以前から提唱している人がいるように思われます(岡本祐子氏の「アイデンティの螺旋式モデル」など)。ただし、目指すところが「四面勝利」といった具合に、「勝利」を強調しているところが実践的と言うかアメリカ的かもしれません(「自分の夢を磨き上げる力、周りの人を巻き込む力、変化を起こす力を強化する全く新しいメソッド」という言い方は、何となく自己啓発セミナーみたいでもある)。

 本書の内容自体も、講義と言うよりワークショップでの実践を開示している部分が主で、そのワークショップには、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の4つの領域において様々な局面にある人々が集い、彼ら(彼女ら)がワークショップを通じてどのように変わっていったかが書かれており、理論よりも、この問題にどう取り組み、それをどう実生活に生かしていくかというプラグマティカルな視点が前面に出されています。

 ワークショップ型のカウンセリングみたいな感じでしょうか(ところによってはセラピーみたいな印象も)。このやり方でのワークショップを運営していくには、相当のファシリテーションやカウンセリング、コーチングのスキルが求められる気がしますし、そうしたものが盛んに行われているアメリカと、そうでもない日本との背景の違いは感じざるを得ません(著者の講義風景をウォートン・スクールのサイトの動画で見ると、この人、プレゼンテーションも上手みたい)。ただ、これからは日本でもこうしたワークショップは少しずつ盛んになっていくように思われ、その意味では参考になる本かも(初読の際の個人的評価は星3つだったが、再読して星4つに修正した)。

 本書は5年前に『ワーク・ライフ・バランスの実践法―仕事も私生活も犠牲にしない』('08年/ダイヤモンド社)として邦訳されていて旧版は絶版になっていますが、今回"復活"。著者の本邦初訳本でもあり、その内容がいきなりこうした実践編であるとうのは特徴的かと思いますが(訳者は、ウォートン校でMBA課程修了し、その間、日本人初の学生自治会長も務めたという長島・大野・常松法律事務所の塩崎彰久弁護士)、先に挙げた日本の学者の論文もあるように、理論部分にはそう新しいものでもないのかも。逆に言えば、日本人にとっても考え方が応用できる部分はかなりあるようには思いましたが、これをメソッドとして、大学の授業の中で展開するところがアメリカ流と言うかウォートン流なのかもしれません(日本の大学は理論に偏ってあまり実践を重視しない傾向があるのでは)。

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MBA教科書の要約版。組織行動論の定番的教科書。これ一冊で組織行動論を概観できるテキスト。

【新版】組織行動のマネジメント.jpg
組織行動のマネジメント 旧.jpg                  Stephen P. Robbins.jpg
組織行動のマネジメント―入門から実践へ』['97年] Stephen P. Robbins

【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ』['09年]

 経営に携わる人、経営を学ぶ人にとっての定番的教科書とされている本書(原題:Essentials of Organizational Behavior)は、MBAの教科にあるOrganizational Behavior(OB=組織行動論)の授業で使われる教科書の要約版であり、訳者もあとがきで書いているように、グローバル・スタンダードなマネジメントの教科書ではあるが、基本的にはアメリカのビジネス価値観に根ざしているものとしています。言い換えれば、「グローバル市場で競争するとき、仮に競争相手がMBAホルダーなら、人と組織のマネジメントはこの教科書で学んでいると想定するほうがよい」としています。

 原著は近年は毎年改版されていて、最新版は第12版(2013年現在)になり、邦訳は、旧版が第5版、新版が第8版を訳していて、改版に翻訳が追いつかない傾向もありますが、組織行動論に関する教科書的な本が日本にはあまりない現況では、(要約版であっても)これ一冊で組織行動論を概観できる貴重なテキストかと思います。

 本書では、組織行動学を、個人的なレベルからグループのレベル、組織システムのレベルへと3つの分析レベルで捉えています。

 第1部で組織行動学とは何かを説いたあと、第2部では組織における個人の問題を扱い、個人の行動の基礎―価値観、態度。認知、学習に目を向け、それから、動機づけの問題と個人の意思決定の問題に移っています。

 第3部ではグループ行動の問題を取り上げ、そのモデルを紹介し、チームの効率を高める方法について考察、更には、コミュニケーションの問題やグループの意思決定について考え、リーダーシップ、権力、政治的な駆け引き、対立、交渉という問題を探っています。

 第4部では、組織の構造、テクノロジー、職務設計がいかに行動に作用するか、組織の公式の業績評価や報酬システムが人々にいかに作用を及ぼすか、組織の独自の文化がいかにそのメンバーの行動を形づくるか、更には、マネジャーが組織の利益のためにどのような組織変革や開発のテクニックを利用して、部下の行動を導くかといった問題を扱っています。

 以上の内、第2部では、主だった動機づけ理論が網羅されているとともに、MBO(目標管理)などへのその応用が述べられ、また、意思決定のスタイルとモデルなども示されており、第3部では、集団行動の基礎、チームとは何か、コミュニケーションの機能とプロセスなどが述べられ、更に、主だったリーダーシップ理論が紹介されるとともに、パワー理論などにも触れ、第4部では、組織構造の定義や類型、組織文化の特性と人材管理の考え方及び方法、組織変革や組織開発のモデルや方法などが示されています。

 本書一冊で、組織行動に関する代表的な理論が、心理学や社会学など様々な学問から得られる知見も織り交ぜながら紹介されており、個人→グループ→組織という各分析レベルと全体プロセスの流れの中でそれらを概観できるようになっている点が、本書の良書たる所以でしょう。

 新訳では、グローバル化、情報化、多様化が当然となっている経営環境で、人と組織をいかにマネジメントするかが重点的に述べられていますが、そのポイントとして「チーム化」と階層の「フラット化」を掲げ(激変する時代の組織でチームを多用するのは、その有機的組織特性が革新を生む源泉となる)、但し、チーム化やフラット化が万能のものではないことも指摘しています。

 組織論を学ぶには、こうした関連項目を系統立ててしっかり押さえてある本に先に目を通してから、リーダーシップ論やモチベーション論などの各論に当たる方が、ばらばらと啓蒙書的なリーダー論に当たるよりは、圧倒的に効率がよいように思います。

 語学に自信がある人は原著の方がお奨め(エッセンシャル版で充分)。ほぼ毎年改訂されているというだけでなく、ふんだんにビジュアライズされていて概念把握がし易くなっています。

 因みに、著者のスティーブン・P・ロビンスは、米国マスターズ陸上殿堂のメンバーであり、個人短距離走で11度の世界タイトルに輝き、米国と世界の年齢別記録を何度も塗り変えているそうな。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)

《読書MEMO》
●目次
1.組織行動論とは何か
2.個人の行動の基礎
3.パーソナリティと感情
4..動機づけの基本的なコンセプト
5.動機づけ:コンセプトから応用へ
6・個人の意思決定
7.集団行動の基礎
8・"チーム"を理解する
9・コミュニケーション
10.リーダーシップと信頼の構築
11.力(パワー)と政治
12.コンフリクトと交渉
13.組織構造の基礎
14.組織文化
15.人材管理の考え方と方法
16.組織変革と組織開発

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2206】 アブラハム・H・マズロー 『完全なる経営

モチベーション理論としての「X理論-Y理論」を提唱。今読んでも示唆に富む名著。

The Human Side Of Enterprise Douglas McGregor.jpg企業の人間的側面1.JPG                ダグラス・マクレガー.png
企業の人間的側面―統合と自己統制による経営』['70年] ダグラス・マクレガー
The Human Side of Enterprise, Annotated Edition McGraw-Hill; 1版 (2005)

McGregor, Theory x and Theory y.jpg 1960年にアメリカの心理学者ダグラス・マクレガー(またはマグレガー、Douglas McGregor、1906-1964)が、発表した著書で(原題:The Human Side Of Enterprise)、モチベーション理論としての「X理論-Y理論」を提唱したことで知られています。

 マクレガーの言う「X理論」とは、「普通の人間は生来仕事が嫌いで、できれば仕事はしたくないと思っている」「仕事が嫌いだから、強制・統制・命令されたり、処罰や脅しを受けなければ働かない」「普通の人間は命令される方が楽で、責任はとらずに済む方がよく、野心はもたず、安全を望む」という人間観に根ざすもので、この場合、命令や強制で管理し、目標が達成できなければ懲罰するといった、「アメとムチ」による経営手法となります。

 これに対し「Y理論」とは、「人間は生まれつき仕事をすることをいとわない。仕事は条件次第で満足の源になる」「進んで働きたいと思う人間には統制や命令は役にたたない」「進んで働く人間は責任も積極的にとるし、創意工夫をして問題を解決する」という人間観に根ざすものであり、この場合、労働者の自主性を尊重する経営手法となります。
 
02 企業の人間的側面.jpg 第1部「経営に関する理論的考察」では、まず、伝統的な科学的管理法に基づく「権限による人の統制」に対する批判が続きますが、こうした命令系統による人の動かし方を、彼は「X理論」によるものであるとしています。これまでの経営者や管理職は、従業員に対して「権限に基づく適切な命令」を与えることが自らの重要な職務であると考えてきた経緯があり、その根底には、よく働く従業員には報酬を与え、怠ける従業員には罰則を与えることで、従業員の労働意欲を高め、仕事へのモチベーションを維持することが出来るという「X理論」の見解があると―。従業員を積極的に働かせて生産性と効率性を高めるには、道具的条件付け的な報酬と罰則の強化子(刺激)が必要であると考えられてきたということです。

 しかし、マズローの欲求階層説に基づけば、低次元の欲求(生理的欲求や安全の欲求)が十分に満たされた現在(1960年当時)、高次元の欲求(社会的欲求や自我・自己実現欲求)を考慮した理論が求められているのであり、上司から部下への命令統制や企業の階層関係における権限の行使によって、従業員の労働意欲を高め生産効率性を上昇させようとする「X理論」には自ずと限界があり、「通常業務を効率的に処理する」議論から抜け出す必要があるとし、そうした意味で、「人間的側面」を取り込んで、しかも科学的な経営理論を確立することが時代的要請としてあり、それを形にしたものが、彼が提唱する「Y理論」であったわけです。

 先にも述べたように、「人間は本来、怠け者ではなく働き者であり、旺盛な知的好奇心と自己実現欲求を持つので、やりがいのある職場環境(人間関係)と達成目標さえ与えられれば積極的に働く」というのが「Y理論」の考え方であり、マクレガーは、これからの経営理論(組織論・人事管理・企業運営)では、外部から強制的な命令を下して「統制による管理」を行う「Ⅹ理論」の有効性は大きく低下し、内発的な動機付けを重視して「目標による管理」を行うY理論の有効性が段階的に上昇すると主張したわけです。

 そのことは、本書の第2部「Y理論の考察」、第3部「管理者の育成」における、現行の組織理論・管理理論に対する痛烈な批判として具体的に示されており、また、この第2部、第3部では、目標管理、業績評価、給与・昇進の管理、経営環境、ライン・スタッフ関係、リーダーシップ、管理者の育成と教室での管理技法の習得についてなど、人事マネジメント、人材育成に関する様々なテーマを取り上げていて、今日改めて読んでも、大いに示唆に富むものです。

 例えば、「管理者の部下に対する最も適切な役割は、部下の教師、専門的援助者、同僚、コンサルタント」であって、「Y理論」に基づく管理者であれば、「専門家と顧客との関係と同じような関係を、部下や上役や同僚との間で作り上げることができるであろう」としています。

 リーダーシップに関しては、「すべてのリーダーに共通の能力や人柄の基本型は唯一つであるということは全くありえない。リーダーの人柄は重要であるが、人柄として何が不可欠かは状況によって大いに異なる」とし、「まだ設立早々で苦悶している会社に必要なリーダーシップは、大規模で安定している会社の場合とは全く違う」としています。

 管理者の育成については、製品を「製造」するような方法では、管理を「製造」することはできないとし、望めるのは管理者が成長することだけであると―。そして、「目標管理」による方法ほど、それだけで管理者育成を促進する環境を作り出すのに役立つものはないとしています(「農業的」な管理者育成方法が「工業的」な方法よりも望ましい、という表現を用いているのが面白い)。

 「X理論-Y理論」については、発表当初には、労働者にあまりにも高次元の資質を求めすぎているのではないかとの批判もあり(本書の中でも、労働者が高次元欲求を持っている場合においてより有効であるとされているのだが)、その後、対照的な2つのマネジメントスタイルとして「X理論」的な対処と「Y理論」的な対処の両方を考え、細かいことには目をつむり、基本は「Y理論」でいくが、但し、「X理論」的な仕組みは欠かさない―という「修正Y理論」的な考えが、マズローをはじめ多くの研究者から出されるとともに、マクレガー自身も所謂「Z理論」の構築に取り組みましたが、本書刊行の4年後、58歳で亡くなってしまったため、完成を見ることはありませんでした。

 マクレガーは、1906年にミシガン州デトロイトに生まれ、曾祖父はスコットランド長老派の牧師であり、祖父はオハイオで浮浪者のための施設を作っていて、これが慈善事業を行なうマグレガー協会という団体に発展し、ダクラス・マグレガーの父親も1915年にマグレガー協会の理事になっています。彼の家では毎晩礼拝が行なわれ、父親がオルガンをひき、母親が讃美歌を歌い、彼も伴奏をしたり、幼い頃から恵まれない人々に食事や宿を与える仕事の事務を手伝ったりしていたとのことで、マグレガーの「Y理論」は人間に対する深い信頼がベースになっていますが、それは、彼が宗教的で慈善精神の継承された家系に育ったことと結びつくかと思われます。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

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ある意味誤解されているテイラーだが、今読んでも啓発される要素は多い。

科学的管理法  .JPG科学的管理法1.jpg 科学的管理法2.jpg モダン・タイムス [字幕版].jpg
科学的管理法』(上野陽一:訳)['69年] 「モダン・タイムス [VHS]」(カバーイラスト:和田誠
|新訳|科学的管理法』['09年](有賀裕子:訳)

Frederick Winslow Taylor Scientific Management.jpg フレデリック・W・テイラー(Frederick Winslow Taylor, 1856-1915)が1911年に著した有名な本ですが(原題:The Principles of Scientific Management)、1921年の本邦初訳以来、何度か新訳が出されていたものの、1957年の上野陽一(1888-1957)訳(技報社刊)の新訳版が、彼が創始した産業能率大学(当初は短大)の出版部より1969年に刊行され、1983年と1995年に改版された後はずっと絶版となっていて、今回は14年ぶりの新版(40年ぶりの新訳)ということになります(因みに、上野陽一訳はテイラーの他の論文等も収めて579ページあり、それに対し今回の新訳版は175ページ)。

 「科学的管理法」を提唱したテイラーという人は、「人間を機械のごとく扱った」という誤解がつきまといがちな人物でもあります。しかし本書を読むと、彼は、雇用主に「限りない繁栄」をもたらし、併せて、働き手に「最大限の豊さ」を届けるにはどうすればよいかを真剣に考えた人であり、その考えのもとに「科学的管理法」というものを提唱し、実践したことが窺えます。ピーター・ドラッカーはその著書『マネジメント』において、テイラーこそ、仕事を体系的な観察と研究に値するものとしThe Principles of Scientific Management Elite Illustrated Edition.jpgた最初の人だったとし、20世紀初頭の先進国の一般人の生活を大幅に引き上げることになった豊かさの増大は、テイラーの「科学的管理法」のおかげであると高く評価しています。

 あえて仕事のペースを緩めて十分な働きをしないで済ませるのが「怠業」ですが、機械工場の旋盤工からスタートして作業長になったテイラーは、機械工たちの怠業に悩まされ続けていました。そこで彼は、怠業は管理方法や制度の不備が原因であると考え、それを防止するために、①科学的に目標を設定し、②その目標を達成するための作業を要素単位に分析し、③分析結果に基づいて、作業を無駄がなく効率が仕上がるように再編成し、④そこに労働者を配置し、定められた作業を早く正確にやり遂げた場合には、差別的出来高払い性によって割増賃金を支払うことで報いる、というやり方を提唱しました。それが本書のタイトルでもある「科学的管理法」です。

The Principles of Scientific Management Elite Illustrated Edition (English Edition) [Kindle版]

科学的管理法4.JPG ともすると最後の差別的出来高払い制が注目されがちですが(テイラーが最初に提唱したのが差別的出来高払い制であり、この成果によって彼は職長に昇進した)、テイラー自身は出来高制がはらむ危険性にも早くから気づいていました。働き手が、「記録的な成果を上げて、それが出来高制の賃金基準になってはたまらない」という不安から、作業ペースを落とすことが考えられるからです。そのことを防ぐためには、マネジャーと最前線の働き手が密接に連携し、それぞれの役割を分担することが重要であると説いています。この場合のマネジャーの役割とは、作業プランを作成し、実行することです。そのためには、仕事の分析だけでなく、人間観察、人間理解が必要になってくるということが、本書から十分に理解できます。

 本書では、「自主性とインセンティブを柱としたマネジメント」を旧来のマネジメントとしています。テイラー以前のマネジメントは、一人一人の働き手が全力を尽くし、持てる知識や技能を総動員し、創意工夫や善意を十分に発揮するようお膳立てをするのがマネジャーの仕事であるとされていました。つまり、仕事の中身は現場の働き手に任せてマネジャーは介入しないというものです。それに対して「科学的管理法」では、 マネジャーが作業の中身まで深く踏み込み、これまで現場の働き手に任せきりにしてきた仕事の多くをマネジャーが引き取り、自分たちでこなさなくてはいけない―マネジャーは、それまでよりも大きな責任を果たす必要があるということになる―そうすることで、科学的管理法は従来型マネジメントより優れたものになるとしています。

 一方で、労働者の殆どがブルーワーカーであった20世紀初頭と現代では労働現場の状況が異なり、また、企業組織と働き手を媒介する要素が専ら「生計維持のため」という経済原理に拠っていたテイラーの時代と、その後に「科学的管理法」を批判するかたちで登場する「人間関係論」に見られるように、仕事への動機づけに様々な社会的要因や個人の価値観が大きく影響すると考えられる現代では、前提条件が異なります。科学的管理法の弱点と言うよりも、そうした、人間の功利的側面ばかりが強調される「経済人モデル」の人間観の限界と言えるでしょう。

 そうしたことを踏まえつつも、一方で、現在の仕事を体系的に捉え、それを改善しようとう気運が、職場マネジャーの中にどれだけいるだろうかということに思いをめぐらせた時、本書で紹介されているテイラーの様々な業務改善施策(彼は"実験"と呼んでいる)とそれに取り組む彼の姿勢は、今読んでも啓発される要素は多いかと思います。

 雇用者に、製品の品質向上と総コストの削減をもたらし、働き手に労働時間の短縮と賃金上昇及び生活の充実をもたらし、職場には労使間協調と働き手同士の間の協働をもたらす―これが、テイラーが「科学的管理法」を通して意図した職場のあり方ではなかったのかと思いました。

 因みにテイラーはもともと知識階層に属していた人で、ハーバード大学の法学部に入学しましたが眼の病気のため、郷里で機械工になった人。晩年は経営コンサルタントとして活躍し、機械学会の代表も務めましたが、本書執筆の4年後に59歳で亡くなっています。

 テーラーの「科学的管理法」を採り入れて、作業の合理化と生産性の向上を成した例として最も有名な企業は「フォード・モーター」です。
    1900年頃のフォード自動車工場           1910年代のフォード自動車工場
フォード1.jpgフォード2.jpg ヘンリー・フォードは、それまでの、シャーシーを固定して同じグループの工員達がそれにエンジンやタイヤなどの部品を順次取り付けるという自動車製造法を一変させ、シャーシーをベルトコンベアに乗せて作業することを発想し、1913年までに完全ベルトコンベア化し(これが現在の自動車工場の所謂"製造ライン"の始まり)、1920年までにはT型フォード(A型から始まって20番目の試作完成品であるためこう呼ばれた)の生産台数を年間100万台超に引き上げ、大量生産による単価の低減により、それまで金持ちの贅沢嗜好品であった自動車を、一般の人々の身近な生活の道具にしたわけです(当時、アメリカのクルマの2台に1台はT型フォードだったとのこと)。ある意味、「働き手に豊さを届ける」というテイラーの理念が現実のものとなった事例でもあります。

フォード3.jpg まだ日本にはトヨタも日産も会社そのものが存在していなかった頃の話ですが、1910年代には東洋紡績がこの「科学的管理法」を採り入れ、倉敷紡績も研究所を設けるなど、当時の日本の主力産業にも大きな影響を与えました。

フォード自動車工場での作業風景

 一方で、フォードの自動車工場ではどのようなことが起きたかと言うと、例えば、クルマの左前輪のネジを締める作業を担当する工員は朝から晩までそのことだけをすることになり、そうした単調さが労働の過酷さとなって退職者が続出したとのことです(こうした事態はテイラーも予測し得なかった?)。会社は儲かっているので、工賃を引き上げることで新たな労働力の供給を賄ってはいましたが、それでも辞める者が続出したため、(ヘンリー・フォードは必ずしも労働者思いの経営者ではなかったようだが)1914年には8時間労働制に踏み切っています(因みに、日本で一番最初に8時間労働制を入れたのは川崎重工の前進の川崎造船所の兵庫工場で1919年のこと)。
 フォード・モーターは、このT型フォードの成功体験があまりに大き過ぎて、成熟した消費者の様々なニーズや好みへの対応について手を打たなかったため、1920年代が終わるころまでには、後発のGM、クライスラーに生産高で抜かれることになってしまいました。「科学的管理法」の"光と影"が反映された事例のようにも思えます。

ホーソン工場の実験.jpg あの有名なウエスタン・エレクトリック社の「ホーソン工場の実験」も、機械組立て作業のための最適な照明の明るさを検証するために行われたことを考えれば、前提として「科学的管理法」の考え方があったと思われますが、作業効率と照明の明るさの相関が得られず、殆ど真っ暗な状態でも作業効率が落ちないチームがあったりした-そのことに関心を持ったハーバード大学のエルトン・メイヨーらが途中から実験に加わり、作業チームのメンバー間のインフォーマルな人間関係の強さが作業結果に影響を及ぼしていることを突き止め、これが「人間関係論」の始まりで、更に「新人間関係論」(テイラー的人間観を"経済人モデル"と規定してその限界を説き、新たな人間観として"社会人モデル"を提唱する)、マクレガーやハーズバーグの近代モチベーション理論へと発展していくわけです。
ウエスタン・エレクトリック社の「ホーソン工場の実験」
  
モダン・タイムス.jpg チャールズ・チャップリンの「モダン・タイムス」('36年/米、チャップリン初のトーキー作品。監督・製作・原作・脚本・音楽の何れもチャップリン)などにも、「科学的管理法」批判ととれなくもない場面がありますが(個人的にはスラップスティック感覚に溢れる「チャップリンの黄金狂時代」('25年/米)の方が若干好みだが、これも傑作)、この映画はこうしたテイラーイズムやフォーディズム批判の風潮の中で作られた作品でもあるのだなあと改めて思います。
    
モダン・タイムス dvd.pngモダン・タイムス2.bmp「モダン・タイムス」●原題:MODERN TIMES●制作年:1936年●制作国:アメリカ●監督・製作・原作・脚本:チャールズ・チャップリン●脚本:ロバート・J・アヴレッチ/ブライアン・デ・パルマ●撮影:ローランド・トセロー/アイラ・モーガン●音楽:チャールズ・チャップリン/アルフレッド・ニューマン●時間:87分●出演:チャールズ・チャップリン/ポーレット・ゴダード/ヘンリー・バーグマン/チェスター・コンクリン●日本公開:1938/02●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:高田馬場パール座 (79-03-06)(評価:★★★★☆)●併映:「チャップリンの黄金狂時代」(チャールズ・チャップリン)
モダン・タイムス [DVD]

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

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今でも企業研修などで使われる「管理の5機能(4機能)説」を提唱。

産業ならびに一般の管理1.jpg産業ならびに一般の管理 (1985年)アンリ・ファヨール2.jpgアンリ・ファヨール(1841-1925/享年84)

 1916年にフランスの「経営学者」アンリ・ファヨール(またはファィヨール、Jule Henri Fayol, 1841-1925)が発表した本で、ファヨールという人は元々は鉱山技師で、実際には学者は学者でも地質学者でしたが、鉱山会社の経営者となって、その実務経験から得た自らの考えを体系的に纏めた本書により、企業経営において「管理」という言葉を初めて使った人物とされています。

 ファヨールは、「経営とは、企業がその裁量下にあるすべての資産から最大限の利益を引き出すよう努めながら、企業をその目的へと導くことである」として、経営に不可欠な基本的機能を
 1.技術活動(生産、製造、加工)
 2.商業活動(購買、販売、交換)
 3.財務活動(資本の調達と管理)
 4.保全活動(財産と従業員の保護)
 5.会計活動(財産目録、貸借対照表、原価、統計など)
 6.管理活動(予測、組織化、命令、調整、統制)
の6つに分類しましたが、彼がこの中で特に重視したのは「管理活動」であり、企業の経営活動にこの管理的活動を組み合わせている会社こそが、経営に成功している会社であると主張しました。

 更に、経営に欠かせないこの管理的活動は、①.予測、②.組織、③命令、④調整、⑤統制から5つの要素から構成される総合的な活動であるとしましたが、「管理活動とは、組織体の目標に向かって、組織のメンバーの活動を高め且つかつ統合して行く活動であり、統合した活動とするために、①計画、②組織、③指揮、④統制 という管理過程をへて実行される」という言い方もしており、「管理の4機能説」と呼ばれることもあります。

 組織(仕事)運営における「計画(Plan)、実行(Do)、統制(See)」の所謂「PDCサイクル」の概念は産業革命の頃からあったようですが、「管理」という概念の下に「組織」化をこれに組み入れたところが、ファヨールの考え方の、当時としては斬新なポイントであったのではないかと個人的には思います。

 かつて、メーカー企業の初任管理職研修などでは、この「①計画、②組織、③指揮、④統制」というものが1日がかりで徹底的に講義されたりしました。
 例えば「計画」であれば、「(1)計画とは何か」(① 目標、方向、方針、戦略を設定する。② 必要とする資源(人・物・金・情報)を準備する。③ 必要とされる関係者の了解・支持・承認をとりつける。④ 実施段階で予想される障害の対策を検討・準備する)、「(2)計画の意義は」(① 最小限の資源投資努力で最大限の効果を期待する。② 実施上のポジションや進捗状況を把握する。③ 途中の状況の変化に対策を打つ手掛けとする。④ 業績結果を的確に把握し認識する)、「(3)計画の内容は」(① 目的、②目標(売上目標)、③方針、④方法と手順、⑤日程、⑥規則・基準、⑦予算、⑧戦略)、「(4)計画策定のプロセスは」(①問題、目的の明確化、② 代替案の発見・開発、③ 代替案の結果予測、④比較・評価、⑤意思決定)...といった具合に。

 最近の企業研修ではここまで細かくはやっていないかもしれません。経験が未だ少ない内に抽象概念ばかり言っても頭に入らないというのもあるかも(これら要素の不備が、労災事故や企業不祥事に至る原因であったりもし、これはこれで重要なのだが)。
 最近では、「命令」機能の中から「リーダーシップ」と「コミュニケーション」を分離させ「管理の6機能」とし、更に、その「リーダーシップ」「コミュニケーション」にむしろ重点を置いて研修を行う傾向にあるように思われます。

 但し、ファヨールに敬意を表するならば、彼が提唱した、様々な管理の原則―「命令統一の原則」(部下への命令は一人の上司から与えられ、部下からの報告は一人の上司に行うという原則)、「類似業務一括の原則」(同種の仕事は一つの部署に集中しまとめて行うという原則)、「責任と権限の原則」(組織の目標を達成するために、組織を構成する者がそれぞれに責任を分担し、その責任を果たす手段として資源を自由に使える範囲を定めた権利、すなわち権限が付与されなければならないという原則)、「権限委譲の原則」(一部の上位管理者に権限が集中しすぎることで状況対応が遅れ、組織の硬直化、組織メンバーの士気低下を招くことがないように、日常の反復的で定型的な業務はなるべく権限委譲を行い、上位管理者は例外的な事項の処理だけに専念すればよいという原則)、「統制範囲限界の原則」(管理者が管理できる部下の数や地域・時間による管理には限界があり、その限界を超えた管理は不可能であるという原則)、「階層の原則」(組織が大きくなりすぎると、命令の伝達や報告に時間がかかり、組織内の情報伝達が徹底されないため、組織階層はなるべく少なくすべしという原則)―などは、原則としてみれば本質をついており、古びてはいないように思います。

 本書の難点は入手しにくいこと。また、古本市場などで入手可能であっても値が張ることです。国会図書館や、学生の場合は大学の図書館を利用するのがいいかも。

【1958年[風間書房『産業並に一般の管理』(都筑栄:訳)]/11972年2月[未来社(佐々木恒男:訳)]/1985年6月[ダイヤモンド社(山本安次郎:訳)]】

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒  【1618】 堀田 達也 『人事再考

初めて企業の人事管理を学ぶ人にはぴったりの本。すでに人事にいる人にも参考になる。

マネジメント・テキスト 人事管理入門.png 『マネジメント・テキスト 人事管理入門<第2版>』 (2009/12 日本経済新聞出版社)

 今野浩一郎・学習院大学教授の『正社員消滅時代の人事改革』('12年/日本経済新聞出版社)を読んで、本書を思い出し、久しぶりに通読しました。

 本書は、人事管理は経営管理の一分野であるという視点に立って書かれた、「人事管理の今を知ることができる」標準的なテキストであるとのことで、個人的にも、初めて企業の人事管理を学ぶ人にはぴったりの本と言えるのではないかと思っています。

 本書を出発点にして、より専門的なことを勉強したり、研究したりするための標準的なテキストになればということとともに、これから企業で働く学生にも、現在すでに企業で働いている人にも、人事管理の仕組みを理解するうえで役立つ教科書であって欲しいという著者らの思いから、あまり理論的なことに偏らず、もっぱら企業は何を狙って、そのような仕組みを作り、それがどのように機能しているか、という人事管理の実際とその背景を知ってもらうことを主眼として書かれています。

 「マネジメント・テキスト」シリーズの名の通りに、マネジメントの意識が全編にわたって織り込まれているとも言え、そのため、現在すでに人事部にいる人が読んでも、「人事は何をするところなのか」という原点回帰的な意味で、目を通す価値はあるかと思います。

 初版の刊行は'02年で、その後も人事をめぐる社会や経済環境は変遷を遂げているわけですが、2009年刊行の第2版では、企業の人材活用とワークライフバランス支援に新たに一章を割いたりするとともに、直近の先進企業事例を織り込むなどして、近年の人事のトレンドをより反映させた内容に追補・改定されており、その意味でも、今人事部で仕事している人が読んでも、得られるものはあるのではないかと思われます(改版期間7年はやや長いか。願わくば、もっと短いサイクルで改版して欲しい気もする)。

 同趣旨のテキストとして、今野浩一郎教授の監修による「ビジネス・キャリア検定試験 標準テキスト」(中央職業能力開発協会・編)の『人事・人材開発2級』『人事・人材開発3級』もお薦めです。
 こちらはタイトル通り、中央職業能力開発協会(JAVADA)が年2回実施している公的試験のテキストであり、この試験は同じくJAVADAが行っている「技能検定」のホワイトカラー版のようなもので、公的検定ではあるが国家検定ではないため合格しても「技能士」に類する資格が与えられるわけではありませんが、大企業で若手社員に受験させている企業も多く、学生や若手社員などで既に特定分野試験に合格していれば、就職や希望する部署への配転で有利に働くかもしれません。
 「人事・人材開発」は2級・3級とも、近々テキスト改訂が予定されているとのことで、その際にまた取り上げたいと思います。

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人事管理の現況と課題を俯瞰するテキストとしては良書。改革指針も示されている(但し、タイトルが...)。

正社員消滅時代の人事改革2.JPG正社員消滅時代の人事改革.jpg   今野浩一郎.jpg 今野浩一郎 氏 
正社員消滅時代の人事改革─制約社員を戦力化する仕組みづくり』 (2012/12 日本経済新聞出版社)

 著者は、バブル崩壊以降の20年は、人事管理の分野でも「失われた20年」であったかもしれないとしながらも、伝統的な人事管理に代わる新しい人事管理を構築するための準備期間でもあったとし、本書において、これまでの経験を通して得られた成果を組み合わせて、新しい人事管理のモデルを構想することを試みています。

 伝統的な人事管理に代わる新しいモデルは、経営の進むべき方向からすると成果主義を軸に形成され、時代もおおむねそれに沿って流れているが、一方で、ワークライフバランス、女性活用、パートタイマー問題等、働く側のニーズや事情の変化にどう対応するかが重要な課題として登場してきたとし、そうしたことを踏まえ、本書では、経営のニーズと社員のニーズのそれぞれの観点から、人事管理の方向性を検討しています。

 まず、企業のニーズ面の観点から、経営環境の変化に伴い企業の求める人材や働き方がどのように変わるかを確認し、伝統的人事管理の特徴を整理したうえで、伝統的な人事管理が限界を迎えていることを検証し、さらに社員のニーズの観点からも、労働市場の変化を背景に社員の働くニーズと求める働き方を確認し、こうした変化に伝統的な人事管理では対応できないとしています。

 本書では、女性や高齢社員、派遣社員、パート社員など、働く場所・時間・仕事について何らかの制約をもつ社員を「制約社員」と呼び、多様化する労働市場の中で、どこへでも異動し、長時間労働もいとわない無制約社員は少数派となり、労働者の多数派が制約社員になる傾向は、ますます強まるであろうとしています。

 一方、伝統的な人事管理は、制約社員と無制約社員で異なる人事管理を適用することを基本としてきた、いわば「1国2制度」の人事管理であったとし、そのことを、正社員とパート社員、現役社員と高齢社員、総合職と一般職のそれぞれの従来の人事管理の在り方を対比させることで示しつつ、基幹社員の制約社員化および制約社員の基幹社員化が進行によってその基盤は崩壊しようとしており、これからとるべき方向は「多元型」であり、制約社員を基幹社員として活用することこそが第一に達成すべきことであるとしています。

 そのための人事管理の新たな方向性として、仕事配分・人材配置を交渉化・市場化ベースとすることと、仕事基準の報酬管理に一元化することの2つの改革指針を提示し、前者については目標管理制度、自己申告制度、社内公募制度や教育訓練に落とし込み、後者についてはパート、高齢社員の社員格付け制度の具体例や仕事ベースの賃金制度の方向性を示しています。

 人事管理に関するテキスト的著書などでも知られる著者ですが、本書からは、時代の変化に合わせたそれらテキストの"追補版"的意味合いも感じられ、人事管理を学ぶ人が、その現況と課題を俯瞰する上では、まさにその道の権威による良書だと思います。

 また、企業に対して、無制約社員=基幹社員とする「1国2制度」を続けるか、「多元型」への転換を検討するかを問うている本とも言え、経営ニーズ、社員ニーズの変化に沿って人事管理や報酬管理の枠組みを見直そうとする際の「思考の補助線」としても有効な本。但し、実務上のテキストになり得るかというと、終盤、ばたばたと詰め込んで、やや中途半端な終わり方をしている印象も受けました。

 学者だから、方向性だけ示して、それ以上は踏み込まない? (テキストとしても、実務書としても、文体が若干堅めで論文調なのも気になった)。但し、各章で内容に呼応する先進企業の事例を紹介するなどの配慮は、一応はなされています。

 むしろ別の点で気になるのは、タイトルの「正社員消滅時代」というのは、ちょっと内容とズレがあるのではないかということで、これも版元の編集者が売らんかなでつけたタイトルなんだろなあ。どこにも、正社員が消滅するなんて書いてないんだよね。「制約社員」という概念及び言葉を定着させたいならば、帯の「『制約社員』を活かす会社になる」の方をメインタイトルにすべきだったでしょう。

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一般向けとしては纏まっているが、人事部目線だと常識の範囲内? タイトルがちょっと...。

非情の常時リストラ.jpg非情の常時リストラ~1.JPG非情の常時リストラ (文春新書 916)

 ソニー2000人、パナソニック3500人、シャープ3000人、NEC2400人―2012年度にリストラを行った大手電機メーカーとその人員削減人数だそうで、ソニーはグループ企業も含めると1万人に及ぶそうです。

 長年にわたり日本企業の人事部を取材してきたジャーナリストで、人事専門誌等ではお馴染みの著者が、日本の雇用・解雇の現況をレポートしたもので、第1章の「『常時リストラ』時代に突入」では、今や企業は競争に打ち勝つためには何時でもリストラを行う心づもりが準備がされていることを示しています。

 実際に企業はどのようにしてリストラを行うのか、最近の情勢を、解雇マニュアルの実態やリストラ計画の発案から発表までの根回し、対象となる社員の選別方法など、事例を交えて伝えており、一般のビジネスパーソンには生々しく感じられるかもしれません。

 但し、企業内で人事に携わっている人から見れば、「希望退職」と併せて退職勧奨を行うのは常套法であり、「希望退職」を募る前にすでに辞めさせたい標的人材は絞られているとか、担当者には、労務トラブルに発展しないようにしつつ面談者をどう退職に導くかが入念に書かれたマニュアルが配られているとかいうのも、まあ、「希望退職」を実施する際の常識と言えば常識かも。

 むしろ、そうしたことがマニュアル化・常態化されているというのが本書の主題なのでしょう。最近では、景気や会社の経営状況に関係なく、新聞の話題にも上らないような小規模のリストラを「常時」少しずつやっているケースなども増えているそうですが、外資系企業などはこの手ものが以前から多いように思います(ある日、何の前触れもなく、個別に耳打ちされるとか...)。

 「追い出し部屋」や「座敷牢」なども今に始まったことではないけれど、確かに解雇規制が厳しいとされる日本企業(外資系企業の日本法人を含む)において発展してきた手法ではあるかも。でも、中小・零細企業では、そんなの面倒とばかり、能力不足や態度不良を理由に簡単に解雇してしまっているけどね。

 第2章「学歴はどこまで有効か」では、「新卒一括採用方式」に崩壊が見られる一方で、学歴不問を掲げながらも実は学歴重視はまだ根強い傾向としてあることなどを、第3章「富裕社員と貧困社員」では、同じ企業に勤める人の給与格差が大きくなってきていることなどを、第4章「選別される社員」では、ポスト不足に伴い"無役社員"が増えてきていることなどを、第5章「解雇規制緩和への流れ」では、安倍政権の下での"産業競争力会議"や"規制改革会議"の動向を踏まえつつ、解雇規制緩和が進むとすれば、それはどのような形で行われ、働く側にとってはどのような影響があるかを見通しています。

 労働市場の現況を踏まえつつ、企業の現場に密着したレポートになっており、そうしたものを概観するにはいいですが、1冊の新書にこれだけ盛り込むと、1つ1つが浅くなって、週刊誌記事を纏め読みしているような印象も(手軽と言えば手軽なのだが)。

溝上 憲文 『非情の常時リストラ』.jpg タイトルの「非情の常時リストラ」に直接呼応しているのは第1章のみでしょうか。これ、編集者がつけたタイトルなんだろなあ。内容を読めば、必ずしも"煽り気味"のタイトルではないということになるのかもしれないけれど、"非情の"はねえ(天知茂の「非情のライセンス」からきているとの説もあるが、あの番組を熱心に見ていた世代というのは、もう定年再雇用期に入っているか、その雇用契約も終わってリタイアしている世代がメインではないか)。

 本書の内容を包括するようなタイトルはなかなかつけるのが難しく、また、それでは本が売れないことからこうした1点に絞ったタイトルになったと思われますが、その分、本書全体の内容との間ではズレがあるようにも思いました(先に読んだ岩崎日出俊氏の『65歳定年制の罠』(ベスト新書)も、読んでみたら"定年起業"がメインテーマだった。最近、こういうことが多い)。

 本書は、労働ジャーナリストらが選ぶ「2013年度日本労働ペンクラブ賞」を受賞しました。

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数値・類型化によって雇止めを巡る司法の判断を浮き彫りにした点がユニーク。

『「雇止めルール」のすべて』.JPG「雇止めルール」のすべて.jpg
雇止めルールのすべて』['12年/日本法令]

 安西法律事務所所属の渡邉岳弁護士による、雇止め法理を中心に解説した実務書です。三部構成の第1部で、労働契約における期間の意義ならびに裁判所が確立した雇止め法理の内容及び雇止めをめぐる近時の問題を取り上げ、第2部で、平成24年の労働契約法の改正内容と労働契約法における雇止め法理に関する解釈上の諸問題に触れています。

 ここまではテキスト的内容ですが、雇止めに関する裁判例を整理した第3部がたいへん特徴的であり、解雇に関する法理の類推適用の有無の"予測方法"を独自に示したうえで、雇止めをめぐる裁判例を、「解雇に関する法理の類推適用の可否」が決め手となったケースと、「解雇に関する法理を類推適用した結果」がどう判断されたかが決め手となったケースに分け、それぞれ分析しています(この約200例の判例分析が本書全体の後半3分の2を占める)。

 まず、「解雇に関する法理の類推適用の可否」が決め手となった裁判例については、事案ごとに、継続雇用の期待度を、①業務の永続性、②更新回数・継続雇用期間、③正社員の職務、権限ないし責任との同一性、④契約更新手続きの実施、⑤契約における更新条件についての合意の内容、⑥使用者による契約更新を期待させる言動の有無、⑦同様の立場にある者に対する雇止め実績、の7つの要素について±(プラスマイナス)でスコア評価して、「期待指数」の総合スコアを求め、実際の判旨はどうであったのかを示すとともに、それに対する著者のコメントが付されています。

 こうしてみると、「期待指数」がプラスのスコアとなっているものは、裁判においても解雇に関する法理が類推されて、雇用契約の継続への期待に合理性があると判断され、一方、マイナスのスコアのものは、それが否定されて雇用契約の継続への期待に合理性があったとは認められないとされているという傾向がはっきりみられ、著者の「期待指数」の要素設定に一定の合理性・納得性があることを窺わせるものとなっています。

 また、「解雇に関する法理を類推適用した結果」がどう判断されたかが決め手となった裁判例については、事案内容に沿って概ね「合理的期待型」と「実質無期型」に区分し、実際の判旨を紹介するとともに、雇止めによる契約終了が認められなかったものと認められたものに区分しています。
 
 興味深かったのは、裁判所が解雇に関する法理を前提にしたからといって、雇止めによる契約終了は認められないとされたケースばかりでもなく、解雇法理を類推適用しつつ勘案した結果、"やむを得ない事情"が考慮されたり、解雇法理を"厳格に"適用する事案ではないとされたりして、雇止めによる契約終了が認められたケースが、「合理的期待型」「実質無期型」の双方に散見される点でした(考えてみれば、そうした判断もあり得るのは当然といえば当然だが)。

雇止めルールのすべて.JPG ともすると「事案の個別事情に拠る」というのが通念のようになっている雇止めをめぐる紛争及び裁判例ですが、本書は、数値・類型化によって雇止めをめぐる司法の判断を浮き彫りにしてみせたという点でユニークな試みであるとともに、実務において、雇止めの要件が整備されているかどうかをチェックする際の参考になり、また、現実の紛争に直面した際などに、司法の判断を予測する指標ともなる本かと思われます。

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