【1881】 ◎ ジム・コリンズ/モートン・ハンセン (牧野 洋:訳) 『ビジョナリー・カンパニー4―自分の意志で偉大になる』 (2012/09 日経BP社) ★★★★☆

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不確実性の時代に高成長を遂げた企業及びリーダーの特質を、実証的に検証。
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 ビジョナリー・カンパニー1.jpg ビジョナリー・カンパニー2.jpg ビジョナリー・カンパニー3.jpgビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる』['12年]  『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』['95年] 『ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則』['01年]『ビジョナリーカンパニー3 衰退の5段階』['10年]
    
ジム・コリンズ(Jim Collins).jpg ビジョナリー・カンパニーシリーズの第4弾となる本書(原題:"Great by Choice: Uncertainty, Chaos, and Luck--Why Some Thrive Despite Them All"、2011)では、「経営規模が脆弱な状況でスタートし」、「不安定な環境下で目覚ましい成長を遂げ、偉大な企業となった」事例を調査対象として選抜しています。

ジム・コリンズ(Jim Collins)元スタンフォード大学経営大学院教授

モートン・ハンセンMorten_Hansen.jpg そして、それらの企業が業界の株価指数を少なくとも10倍以上も上回る株価パフォーマンスを示していることから、それらを「10X(10倍)型企業」と命名し、一方、同じ環境下で、かつては優位にありながら「偉大になれなかった企業」(衰退した企業)を「比較対象企業」として挙げ、両者を歴史分析することによって、「10X倍型企業」および「10X型リーダー」の特質とは何かを分析してします。

モートン・ハンセン(Morten Hansen)UCBerkeleyおよびINSEAD教授。ボストンコンサルティング出身。

 高成長企業とダメになってしまった企業の比較歴史分析という点では、『ビジョナリー・カンパニー―時代を超える生存の法則』('95年/日経BP社)、『ビジョナリー・カンパニー2-飛躍の法則』('01年/日経BP社)などと同じですが、高成長や卓越さといった視点に加えて、置かれた環境の厳しさを指標に加えて事例を選んでいるのが本書の特徴です(衰退した企業をも調査対象としている点では、『ビジョナリー・カンパニー3-衰退の5段階』('10年/日経BP社)とも同じ)。

 例えば航空業界であれば、サウスウェスト航空(10X倍型企業)とPSA(比較対象企業)を、コンピュータ業界ではマイクロソフト(10X倍型企業)とアップル(比較対象企業)を取り上げ、歴史データをもとにリーダーのとった経営戦略の推移から対比するなどし、そのほかにフトウェア、バイオ、半導体、保険、医療機器の各業界から「10X型企業」と「比較対象企業」をそれぞれ1社ずつ選んで対比させています(アップルは、調査対象期間の関係で「比較対象企業」とされているが、スティーブ・ジョブズの復帰後の彼の行動は、「10X型リーダー」のそれとして解説されている)。

 それらの企業研究から、10X型リーダーの特徴的行動パターンとして、「狂信的規律」「実証的創造力」「建設的パラノイア」の三つを抽出し、それぞれを「二十マイル行進」「銃撃に続いて大砲発射」「死線を避けるリーダーシップ」というキー・フレーズのもとに解説しています。

 「二十マイル行進(狂信的規律)」においてはリスクマネジメントと持続的改善活動の重要性を説き、「銃撃に続いて大砲発射(実証的創造力)」では、具体性のある創造力の重要性、「死線を避けるリーダーシップ(建設的パラノイア)」では、最大限の準備を怠らないことの大切さを説いています。

 そうした中で、例えば「大混乱する世界で成功するリーダーは大胆であり、進んでリスクを取るビジョナリー」であるといった"神話"に対し、現実には、未来を予測できるビジョナリーではなく、「何が有効なのか」「なぜ有効なのか」を確認し、実証的なデータに基づいて前に進んだのであって、比較対象企業のリーダーよりリスク志向でも大胆でもなく、またビジョナリーでも創造的でもない。より規律があり、より実証主義的であり、よりパラノイア(妄想的)なのである―といったように、従来の"神話"を幾つも覆している点も興味部深いです。

 また、「10X倍型企業」には、「具体的で整然とした一貫レシピ」<SMaC(Specific Methodical and Consistent)>があり、「10X型リーダー」は運だけで成功したのではなく、成功する原則を死守したから「偉大」になれたのであって、言い換えれば「自分の意思によって偉大に」なったのであるとしています。

 『ビジョナリー・カンパニー2』で「バスに乗せる人」と「降ろす人」を厳格に決めることが重要であると説いた「まず人選ありき」といった概念をはじめ、これまでのシリーズにあった「ハリネズミの概念」「基本的価値観」「BHAG(不可能なぐらい高い目標)」「カルト的文化」「ストックデールの逆説」「時を告げるのではなく、時計を作る」「衰退の五原則」「弾み車」と言った概念については、前作で十分説明されているとして、本書では意識的に触れていませんが、本書で述べられていることは、それらを具体的な行動レベルに落とし込んだものとも言えます。

 広い意味で「経営書」と言うより「啓蒙書」ですが、著者が師とするドラッカーの著作に倣って、データによる裏付けがきっちりしていて説得力のあるものとなっているうえに、世界で初めて南極点に到達したアムンゼンと、遅れて南極点に到達した後に隊員が全員死亡したスコットの詳細な比較分析例などを用いて、「10X倍型企業」と「比較対象企業」の違いにあてはめながら解説したりするどしているため、読みやすく、また、分かりやすいものとなっています。

 ベンチャー企業の経営者などに人気のあるシリーズですが、この不確実性の時代においては、どういった企業の経営者が読んでも啓発される要素がある本であると思われ、また、「経営者を支える」経営専門家(役員・経営幹部がそれに該当すると思われるが)にも読んでほしい本である―ということは、とりもなおさず、人事パーソンにも読んでほしい本、ということになります。

『ビジョナリー・カンパニー』
【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)
【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)
【2701】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『マネジメントの名著を読む』 (2015/01 日経文庫)

《読書MEMO》
●崩れ去った神話(31‐33p)
○【神話】大混乱する世界で成功するリーダーは大胆であり、進んでリスクを取るビジョナリー。
【意外な現実】我々の調査対象になった10X型リーダーは、未来を予測できるビジョナリーではない。「何が有効なのか」「なぜ有効なのか」を確認し、実証的なデータに基づいて前に進む。比較対象リーダーよりリスク志向ではなく、大胆でもなく、ビジョナリーでもなく、創造的でもない。より規律があり、より実証主義的であり、よりパラノイア(妄想的)なのである。
○【神話】:刻々と変化し、不確実で混沌とした世界で10X型リーダーが際立つのはイノベーションのおかげ。
【意外な現実】驚いたことに、イノベーションは成功の鍵ではない。確かに10X型企業も多くのイノベーションを起こす。しかし、我々の調査では「10X型企業が比較対象企業よりもイノベーション志向である」という前提を裏付けるデータは出てこなかった。10X型企業が比較対象企業よりもイノベーションで劣るケースさえあった。我々の予想に反し、イノベーションだけでは切り札にならないのだ。より重要なのは、イノベーションをスケールアップさせる能力、すなわち創造力と規律を融合させる能力である。
○【神話】脅威が押し寄せる世界ではスピードが大事。「速攻、そうでなければ即死」ということ。
【意外な現実】環境が急変する世界では、素早い判断と素早い行動が求められるから、「どんなときでも即時・即決・即行動」という哲学を取り入れる、これは破滅を招く効果的な方法だ。10X型リーダーはいつアクセルを踏み、いつ踏んではならないかを理解している。
○【神話】外部環境が根本的に変化したら自分も根本的に変化すべき。
【意外な現実】外部環境が急変しても、10X型企業は比較対象企業ほど変化しない。劇的変化に見舞われて世界が揺れ動いたからと言って、自分自身が劇的変化を遂げる必要はない。
○【神話】10X型成功を達成した偉大な企業は多くの運に恵まれている
【意外な現実】全体として見ると、10X型企業が比較対象企業よりも強運であるとは限らない。幸運だろうが不運だろうが、10X型企業も比較対象企業も共に同じ程度に多くの運に遭遇している。成功の鍵を握っているのは、運に恵まれているかどうかではなく、遭遇した運とどのように向き合うかである。

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