【1880】 ○ 香取 一昭/大川 恒 『俊敏な組織をつくる10のステップ―ホールシステム・アプローチによる新たな場づくり』 (2012/08 ビジネス社) ★★★★

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ホールシステム・アプローチの"思想"と"枠組み"を理解するうえでは良かった。

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俊敏な組織をつくる10のステップ』['12年]『ホールシステム・アプローチ―1000人以上でもとことん話し合える方法』['09年]『ワールド・カフェをやろう!』['11年]

 本書は同じ著者らの前著『決めない会議―たったこれだけで、創造的な場になる10の法則』('09年/ビジネス社)、『ワールド・カフェをやろう!』('09年/日本経済新聞出版社)、『ホールシステム・アプローチ―1000人以上でもとことん話し合える方法』('11年/日本経済新聞出版社)などに続く、「ホールシステム・アプローチ」の入門書です。

 「ホールシステム・アプローチ」とはアメリカ生まれの会議の手法であり(ベースにはピーター・センゲの「学習する組織」の考え方がある)、検討すべき課題に関係するすべての関係者を集めて、共通の課題や目指したい未来などについて話し合う大規模な会話の手法の総称であるとのことですが、今回の本書では、ホールシステム・アプローチを単なる会議の手法として取り上げるのではなく、組織変革プロセスの視点から加筆されています。

The World Café.jpg ホールシステム・アプローチの代表的な手法には、ワールド・カフェやOST(オープンスペース・テクノロジ―)、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリ)、フューチャー・サーチなどがあり、これらの会議の特徴は、無理に結論を出そうとしたり、結果を出すことに最初からこだわらないで、むしろ話し合いの質やプロセスに気を配り、参加者同士の関係の質を向上させることを大切にしているところであり、こうした「決めない会議(決めようとしなくても決まってしまう会議)が今注目されているとのことです。

The World Café(上・イメージイラスト/下・解説図)

ワールドカフェ01.gif 本書によれば、ホールシステム・アプローチによる組織改革においては、組織の階層や部門の違いを超えた密接な社内コミュニケーションを維持し、多様なものの見方や意見を尊重し、自由活発な意見交換がなされ、また、組織が何を実現したいのか。そのために何が必要なのかを全員が共有することを目的とするとのことで、それが、本書のタイトルにある「アジャイル(俊敏)な組織をつくる」ということになります。
 
 本書では、そのためのホールシステム・アプローチによる組織改革プロセス、並びに、ワールド・カフェやOSTといった手法がそのプロセスのどの手法をカバーするかを示すとともに、ホールシステム・アプローチによる変革プロセスを組み立てる際のポイントとなる10の視点を挙げていて、それらについての解説が、実質的な本書の"本編"となっています。

 また、後半は、ホールシステム・アプローチのワークショップを組み入れて組織や地域の変革をプロセスとして展開している企業、自治体、業界、海外の事例が詳しく紹介されており、ワークショップの在り様がイメージしやすくなっています。

 前著から続編的な側面があり、AIやOSTといった用語がいきなり出てきますが、それらについては巻末で解説されているため、この分野が初めての読者は、先にそちらに目を通した方がいいかもしれません。

 ホールシステム・アプローチの"思想"と"枠組み"を理解するうえでは良かたと思います。人事パーソン的な視点からすれば、ファシリテーターとして社内ワークショップを成功させるためのテクニカルなポイントについてもう少しあれば、例えば社内ワークショップの運営を想定した際のイメージが掴みやすかったのではないかという気もしますが、そうなると、一冊の入門書にあまりに多くのことを求め過ぎることになるのかも。

 本書とは別の切り口からホールシステム・アプローチの"思想"を解説するとともに、リーダーシップ研修にホールシステム・アプローチを採り入れた事例なども紹介されている、高間邦男 著『組織を変える「仕掛け」―正解なき時代のリーダーシップとは』(2008年/光文社新書)などを併せて読んでみるのもいいのではないかと思います。

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