【1879】 ○ 鈴木 剛 『解雇最前線―PIP(業績改善計画)襲来』 (2012/11 旬報社) ★★★☆

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自分が会社からやらされていることが、実はパワハラであるとの認識が無い人こそが読むべき本。

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解雇最前線 PIP襲来』(2012/11 旬報社)東京管理職ユニオン 鈴木剛・書記長

 東京管理職ユニオンの書記長による本で、企業が従業員を退職に追い込むために用いるようになった、解雇・リストラの新手法 PIP(業績改善計画=パフォーマンス・インプルーブメント・プラン)について書かれています。
Performance Improvement Plan.jpg PIPは、従来の整理解雇、退職勧奨を伴う普通解雇とは異なり、業務命令として、または「あなたのためだから」と思いやりのあるふりをして、達成不可能なノルマや無意味な課題を与え、自主的な退職に追い込んでいくやり方で、従来型の退職勧奨はせず、「業績改善計画」の未達成を理由に、本人に退職届を書かせる方向へ持っていく、或いは、精神的・肉体的に追い詰め、休職→退職へと持っていくやり方です。

 以前からこうしたことは一部企業で行われていたのではないかと思いますが、アメリカ企業にも「PIP」という同様のプログラムを用いている例が少なからずあり、最近とみに目立つようになった日本国内でのこうしたケースに「PIP」という言葉を当て嵌め、「業績改善計画」と "直訳"したような印象でしょうか。

 実際、外資系企業などでは、"米国生まれ"の「PIP」のプログラムを入れているところもあるかと思いますが、今日本企業で行われているこうしたやり方のすべてが「PIP」に準拠しているとは思われず、サブタイトルの"襲来"という言葉にはやや違和感を覚えました。

 但し、こうした手法の中身自体は日米でそう変わるものではなく、本書ではそのパターンとして、「過大な課題を課す手口」「過小な課題を課す手口」「キャリアコンサルタント会社を使う手口」があることを紹介しています。このやり方はパワハラの一種であると言え、これによってうつ病などの精神疾患に陥る労働者が増えており、更に、復職しようとしても会社側からの拒否に遭うケースも多いとのことです。

 最後に、PIPは今の日本の縮図であり、雇用問題と私生活上の問題が「複雑骨折」状態で絡み合っていて、この問題を解決するには、法律家・医師との連携や労働組合の活用を通して、社会包括的な対応が求められるとしています。

 PIPのような労働現場で行われていることを、労働問題として認識している人は少なからずいると思いますが、問題の一つは、労働者側の当事者として、「業績改善計画」の名のもとに、自分が会社からやらされていることが、実はパワハラであり、法違反の可能性が高いものである(少なくとも適法と言えるものではない)ということ自体が今一つ分かっていない人がいることだろうなあ(そうした人に限って、目標が達成できないのは自分の頑張りが足りないからだと本気で悩んだりする)。

 そうした人こそが最も読むべき本ではないかと思いますが、その割には、分かり易くしたつもりのタイトルが、意外と分かりにくいものであるかも。

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