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労働時間法に関する判例に絞って、コンパクトに纏まっているが...。
『判例の中の労働時間法 実務家のための判例入門』(2013/01 旬報社)
労働判例の中から労働時間法に関するものを抽出して解説したもので、「労働時間」と「休日・休暇」に関する判例を集め1冊で解説したものは過去にもあったように思いますが、「労働時間」に絞ったものは殆ど無かったのではないかと思います。判例を通して、労働時間法制のポイントを理解するというのが本書の狙いです。
労働時間問題を更に「労働時間の概念」「時間外労働・休日労働の労働時間性」「労働時間の適正把握・管理義務と算定」「時間外・休日労働義務の法的根拠」「時間外割増賃金などの基本給組み入れや定額払いの適法性」「管理監督者の労働時間」「事業場外労働のみなし労働時間制」の7つのテーマに分けて扱っているため、関心があるテーマから読み進むこともできます。
全体で167ページと手頃で、紹介されている判例は、メインで解説されているものは最高裁判例を中心とした25例です(但し、高裁・地裁判決も少なからず含まれている)。判例ごとに、【事実の概要】【判旨】【どう読むか】に分かれていて、事実と判旨の部分は「判例時報」などの判例紹介スタイルと似ていると言えば似ています。
そうした裁判例を読み慣れている人には、事実と判旨がよりコンパクトに纏まっているうえに「どう読むか」が書かれているため、判決においてポイントとなった法的ルールが掴みやすい本だと思いますが、判例集を読み付けていない人には、「Y社は」「Ⅹは」といった表現に慣れるまでにやや時間を要すかも(判決文のパターンを把握する訓練にはなる)。
こうしてみると、労働時間法制というのは奥が深いなあと。紹介判例数「25」というのは、むしろ絞り込み過ぎのような気もして、個人的には「あの判例が出ていないのはなぜ?」といた箇所もありました(最高裁判例を優先したとか、特殊ケースを除いたとか、大学教授である執筆者なりの基準はあるのだろうが)。
巻末30ページ以上を労働時間に関する条文・行政解釈の掲載に費やしていて(解説の中で、判例と行政解釈との関係について触れられたりもするので、これはこれで必要なのだろうけれど)、その部分を差し引くと正味130ページ弱であり、もう少し本編のページ数を増やして多くの判例を取り上げても良かったような気もします。