「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1871】 石橋 洋 『判例の中の労働時間法』
「重要判例を読む」というタイトルに相応しく、リーディング・ケースの解説が丁寧。
『新版 労働法重要判例を読む2: 労働基準法・労働契約法関係』
2008年に第1版が刊行されて約5年ぶりの改版。労働法専門の大学教授20数名による重要判例の解説で、全2巻で50の判例は取り上げられていますが、第1巻の総論・労働組合法関係に続き、この第2巻では労働基準法・労働契約法関係の判例を中心に25の判例が纏められています。
実際の章立ては、(1巻から通しての章立て)第6章「賃金」、第7章「労働時間」、第8章「人事異動」、第9章「プライバシー・懲戒」、第10章「労働災害」、第11章「労働契約の終了」となっていて、まさに実務の中核にあたる部分であり、「賃金」で言えば、パートタイム労働者の賃金差別が争われた「丸子警報器事件」、「労働時間」で言えば、労働時間の概念が争点となった「大星ビル管理事件」、「人事異動」で言えば、配転命令の根拠と限界が示された「東亜ペイント事件」など、取り上げられているのは何れも重要判例ばかりです(「丸子警報器事件」など一部を除いては殆どが最高裁判決)。
各判例について、「事実(と下級審判決)」と「判旨」を記したうえで、その後に「解説」(乃至「検討」)がきていて、この「解説」の部分が丁寧であり(まさに「重要判例を読む」というタイトルに相応しい)、類似判例の引用等もよくなされていて、法学部生、法科大学院生のテキストとなるよう意識して書かれていることが窺え、実務担当者が読むも適したものとなっているように思います。
一方で、労働契約法の改正をはじめ、労働者派遣法、高年齢者雇用安定法など労務に大きな影響を及ぼす法律の改正が行われたわけですが、そうした改正法に関する判例はまだ出されていないわけであって、例えば、第11章「労働契約の終了」で取り上げられている判例は、有期契約と雇止めの問題が争われた「日立メディコ事件」など、殆どが昭和のものです。
あくまでも、リーディング・ケースとしての位置づけが定まった判例を扱ったテキストとしての本とみるべきでしょう。ジュリストの『労働判例百選』の単行本版みたいな感じか。こっちの方が『判例100選』などよりは読み易いです。