【1856】 ◎ 三谷 宏幸 『世界で通用するリーダーシップ (2012/01 東洋経済新報社) ★★★★☆

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経験に裏打ちされたリーダーシップ本。外資系企業トップの「キャリアの物語」としても読める。

世界で通用するリーダーシップ.jpg世界で通用するリーダーシップ2.jpg 三谷 宏幸.jpg 三谷 宏幸 氏(ノバルティス ファーマ社長)
世界で通用するリーダーシップ』['12年/東洋経済新報社]

 外資系医薬品会社ノバルディス ファーマの現社長である著者が、グローバルで通用するリーダーシップとは何か、経営にとっていかに人材を育成していくことが重要であるかを語るとともに、とりわけ若い世代に向けて、自分の能力と可能性を信じ、失敗を恐れず挑戦せよと訴えかけた本です。

 著者は、灘高校、東京大学工学部を卒業後、川崎製鉄(現JFEスチール)に入社し、在職中に米国留学を経験した後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、日本ゼネラル・エレクトリック(GE)へ転職、GEの航空機エンジン北アジア地域社長など務めた後に現職にあるとのことで、あまりの華々しい経歴に、読む前から少し引いてしまいそう―。

 しかし、実際に本書を読んでみると、東大受験に一度失敗し、希望していた商社への就職にも失敗するなど、キャリアのスタートからずっと順風満帆に歩んできたわけではなく、それでも常に経営に携わりたいと気持ちを持ち続け、現状に安住せず、自らの洞察力と努力でキャリアを切り拓いてきたことがわかります。

 東京へ出てきたとき、米国留学をしたとき、そして、GEに入って日本法人の社長になったときが人生の大きな転機だったとしていますが、30歳のとき米国留学を希望したのも「早く経営をやってみたい」という思いからであり、BCGからGEへの転職も、経営戦略やセオリーでは語れない「感性」を、「経験」の場を通して磨くことで、自らの経営者としての素質や能力を高めたいとの思いからだったようです。

 とりわけ、GEでのジャック・ウェルチとの出会いは、BCGで多くの経営者を見てきたはずの著者にとっても衝撃的であったようで、そのカリスマ性とエネルギッシュな仕事ぶりや、一方でそれぞれの事業の細かなことまで頭に入っており、社員はもとより日本のビジネスパートーナーの名前を百名以上覚えているという繊細さ、そうしたことからも窺える、仕事の半分以上を「人事」に費やしていたというウェルチの、リーダー育成の方法や考え方などが紹介されています。

 そうした外資系企業の徹底したリーダー人材の育成・鍛錬方法を日本企業のそれと対比的に解説しながらも、類書にありがちな「外資」礼讃に陥ることなく、革新を求める、コンプライアンスをしっかりするといった「外資」的な枠組みと、チームワーク、顧客志向といった「内資」的な枠組みをハイブリッドさせることが、日本に軸をおいた外資系企業の強みに繋がるとしています。

 巻末にリーダーシップに関する名著が紹介されていますが、本文で語られていることは机上論では無く、すべて経験に裏打ちされているため説得力があり、さらに、リーダーシップの本としてだけでなく、外資系企業の日本人トップの「キャリアの物語」としても読め、キャリアの入り口にある人にとっては、たいへん啓発的な本ではないかと思いました。

 併せて、マネジメントの本としても読め、今まさに企業風土の変革やリーダー人材の育成が求められている「内資」のビジネスパーソンが読んでも、得るところはあるのではないかと思われます(個人的には一番には、「キャリアの本」として読んだかもしれない)。
 
 ウェッブでの著者インタビューによれば、執筆にあたって「自慢話」にならないよう配慮したとのこと。その配慮は感じられたものの、それにしてもやはり、外資系企業のトップになる人って、凄いなあという感じ。

《読書MEMO》
●目次
第1章 いつも何かを探していた
第2章 日本と米国、考え方の違い
第3章 経営の理論を学ぶことから実践へ
第4章 企業の成長をドライブする
第5章 外資に勤めるということ
第6章 ジャック・ウェルチに学んだリーダーシップ
第7章 医薬品業界とノバルティス
第8章 これからの日本の役割
●一般的に陥りやすいのは、前年度主義、前例主義なのだ。こうして過去にとらわれて、次の発想ができない。これに対して、欧米諸国は、最初から予定調和も既定路線もない。だから、虚心坦懐に事実を見つめて、何がベストなのかをその時々に考えるという強さを持っている。(43p)
●日本人にとって創造の妨げになるのは横並び意識だ。日本人はともすれば、隣を気にしてまわりと同じ発想をしようとする。ただ、一見安全そうに見える発想は、実は往々にしてリスクを伴うということを意識しておかなければならない。だからこそ意識してポジティブシンキングを心がけて変化を先取りすることが必要だ。(58p)
●人間というのは面白いもので、トレーニングによって自分の能力以上のことができるようになってくる。とりわけGEで学んだのは、「ストレッチ」という考え方である。これは自分の能力より上の目標を自らが設定して、それに挑んでいくやり方である。こうした行動を繰り返すことで、自分の成長に自分で限界を作らず、常に成長を続けていくことができる。(137p)

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