【1851】 ◎ 八木 洋介/金井 壽宏 『戦略人事のビジョン―制度で縛るな、ストーリーを語れ』 (2012/05 光文社新書) ★★★★★

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経験に裏打ちされた八木氏の話は、これからの人事のあり方を示して大いに啓発的。

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   八木 洋介.jpg 八木 洋介 氏(LIXILグループ執行役副社長 人事総務・法務担当)
戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ (光文社新書)
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GE.jpg 本書は、「日本GE」でHRリーダーなどを務め、'12年4月に住生活グループ(トステム、INAX、新日軽、東洋エクステリアの各社とLIXILが合併してできた会社。同年7月に社名を「LIXILグループ」に変更)に執行役副社長として転じ、人事・総務・法務を担当している八木洋介氏が、「人事」について語ったものに、「キャリア」「リーダーシップ」の研究者である神戸大学の金井壽宏教授が、章ごとに解説を加えた構成となっています。

 八木氏は、マネジメントには、「現在」を見て、勝つための戦略を立てる《戦略性のマネジメント》と、「過去」を見て、企業における歴史的継続性を重視する《継続性のマネジメント》があるとし、後者が行われている企業は世の中の変化に対して鈍感になりやすく、臨機応変な仕掛けよりも、以前につくった仕組みの温存にこだわりがちであり、そうした企業の人事部門は、前例踏襲を優先し、権限をたてに制度やマニュアルを固守するといった姿勢をとりがちであるとしています。

 そのうえで、いまだに職能資格制度を続けている企業や家族手当や通勤手当を払っている企業が多くあることなどを挙げ、多くの日本企業の人事部門は《継続性のマネジメント》に縛られていているとしています。

 では、《戦略性のマネジメント》とは何かいうと、「こうやって勝つ」という戦略ストーリーを分かりやすい言葉で語ることで、社員のやる気を最大化し、生産性を上げることであって、これこそが人事の役割であるとしています。

『戦略人事のビジョンのビジョン』.JPG 制度は権限を生み出し、人事制度ができれば人事部に権限が生まれ、人事担当者はル―ルや権限に基づいて仕事しがちになるとし、戦略人事における最大の課題は制度を固守することではなく、マネジジャーやリーダーの育成であるとしています。

 そのためには、人事担当者も自らリーダーシップを発揮していくことを求められるとし、人事担当者にとってのリーダーシップとは、権限ではなく見識を持ち、正しいことを正しく主張することであり、この場合の正しいこととは、ストーリー化した戦略であり、企業が業績を上げて成長していくための大きな絵(ビッグピクチャー)であり、あるいは世の中の変化に合わせて会社に起こすべき変革の道筋であるとしています。

 GEは「勝ちの定義」がはっきりしている会社であり、GEにおける「勝ちの定義」とは、「グロース(成長)とリターン(利益)」の追求であって(「雇用を守ること」は含まれていない)、その戦略にはストーリー性があり、社員に納得感のあるものであると。

 面白いと思ったのは、GEは「建前の会社」だとしていて、従来の日本企業の以心伝心、お互いの本音を探り合うようなコミュニケーションスタイルではグローバル化には対応しきれず、むしろ本音を封印し、社員が「建前で働く」会社にすることが、会社のグローバル化を成功に導くとしている点です。

 また、GEはオリンピックで金メダルを狙うアスリート集団のような企業だとして、GEがどのような人材を集め、どんなやり方で社員を評価しているのかを紹介するとともに、会社はさしずめ集団で行う"狩り"の場であって、但し、ライオンだって四六時中狩りをしているわけではないのだから、人間もしっかり休養をとらなければならないとも。

 ここまで経験に裏打ちされたわかりやすい論旨となっており、更に中盤においては自らが歩んできたキャリアのストーリーを語るなどしていて、八木氏自身が社員のやる気を引き出すためにどのようなことをしてきたかが具体的に語られています。

 そのうえで、リーダーを育てるにはどうすればよいかということについて、GEのリーダー育成法を解説しながら、それを参照しつつ自らが考案した、リーダー候補者たちに「自分の軸」を明確化してもらうことに重点を置いた日本発のリーダー育成プログラムを紹介しています。

 最後に、競争に勝ち抜くことを目的とする「強い会社」という概念と、自社の使命や価値観を追求し、社会に対して存在意義を示せる「よい会社」という概念は融合できるとし、日本企業が「強くて、よい会社」になっていくためには、まず、それぞれの企業が社会に対してもたらす真の付加価値をもう一度見定め、それを前面に打ち出していく必要があるとし、更に、「強くて、よい会社」をつくっていくために人事担当者が果たすべき役割や、そうした人事のプロには「人のプロ」であることが資質として求められるとしています。

 全体を通して、GEにおける自らの経験をもとに、実務者の視点から分かりやすく説かれており、一方で、日本企業のこれからの人事のあり方や人材育成の考え方の方向性に多くの示唆を与える内容となっています。
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 実は本書刊行とほぼ同じ時期に、八木氏がパネラーを務めたディスカションを聴講しましたが、そこでも八木氏は、「世界からものを見る vs.日本からもの見る」「建前によるマネジメント vs.本音によるマネジメント」「戦略性 vs.継続性」「強い会社 vs.よい会社」という4つの視点から、本書で書かれてることを一貫して強調していました。

 「権限は人事で握らず、全てラインマネジャーに渡せ」「権限ではなく見識、ルールではなくイクセプション」「"狩り"をするために休ませる」「綺麗事を言って実行する」「世界で一番難しい問題を解決する会社」..etc. 刺激的なフレーズが八木氏の口からポンポン飛び出し、ああ、こんなエネルギッシュな人が外資の人事責任者をやるのだなあと、大いに触発されました。

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