【1849】 ◎ 河北新報社 『私が見た大津波 (2013/02 岩波書店) ★★★★☆

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「教訓としての大地震は、個々の死と生を記録し、見つめることで初めて意味を持つ」

私が見た大津波.jpg私が見た大津波』(2013/02 岩波書店)

 仙台に本社を置く東北ブロック紙「河北新報」が、東日本大震災の1ヵ月後に連載を開始した「私が見た大津波」を本に纏めたもので、この連載は、大津波で被災した人75人に記者が取材して、言葉だけでは伝わり切らない被災の様子を、スケッチブックと色鉛筆を渡して絵で再現してもらったものです。

私が見た大津波0 .JPG 本になる前後あたりにニュース番組の中でも特集で紹介されていましたが、その中で、生後1ヵ月の五男と自宅で被災し、津波によって玄関から大量の水が入り込み、子どもを抱いた瞬間に居間が水で一杯になり、片手で通気口を掴みながらもう片手でわが子を抱え、あと少しで顔が天井に付く高さまで水位が上がったところで水の勢いが止まって助かったという主婦の体験談が絵と一緒に紹介されていて、スゴイ話だなあと思いました。

 本書でその手記の部分を読むと、水中に浮いた椅子を蹴って水を搔き分けて階段から2階にへ逃げ、乳呑児を連れて避難所へ行っても大変だろうと、2階で子供に母乳を与えつつ、本人は加湿器の水を飲みながら3夜過ごしたそうです(最終的には家族と再会出来たのは良かった。三男や四男も自宅にいたらどうなっただろうか)。

 「校庭の桜の木につかまり逃げ遅れた人がどうなったか」と手記の中で心配していた記事に対し、「逃げ遅れた人」が名乗り出て無事が分かったというのも、テレビに当人が出ていましたが結構なお年寄りでした。本書の中には、67歳の男性の、腰まで水に浸かりながら7時間電柱にしがみついて助かったという手記もあります(こちらは家屋が濁流に流されてくる中で電柱に掴まっている本人の写真入り)。

 多くの人が、家や車が数多く流されていくのを目撃していますが、ある人は「まるで映画の特撮」のようだったと。家同士ぶつかり、土煙とともに破裂音がしているのを目の当たりにしても、あまりに想像を絶する光景で確かに現実感は無いかも。車での避難中に津波に遭った人の手記も多くあり、どれも本当にパニック映画の一場面のようです。

 渋滞していたために車を捨てて逃げたが、逃げる際に津波が10メートル後ろまで迫っていた男性、集落を車で抜けて自分は助かったものの後続の車はなく、数秒のタイミングで自分が助かった最後だったことを知った男性、車が水に浮かんで流されて倉庫の貨物列車にぶつかって止まり、窓から脱出した母と娘、同じく車が川に浮かんだ木の葉のように流され、ドアガラスを蹴破って脱出した男性、沈みかけていた車の前部が急に浮き上がって助かった女性、車が津波の起こした波に乗り、サーフィンをしているような状態になって助かった男性...等々、九死に一生を得た話ばかりですが、それだけに、車で避難する際に犠牲になった人が多くいたことを想像させます。

私が見た大津波2 .JPG 地震の直後に公園、学校などの避難所に避難して、そこで津波に流されて亡くなった人も多くいたのだなあと。それを避難所の建物の上の階にいて目にした人の手記もあり、とてもこの世の出来事とは思えなかった思えなかったのではないでしょうか。絵を描くことで当時の恐ろしさが甦ってくるというのもあるでしょうが、中には絵を描くことによって気持ちが整理された人もいるようです。

 この連載企画は、河北の当時の報道部長が、70年代に出張で訪れた広島の平和記念資料館で見た、原爆の体験を絵で残そうという企画展に想を得て実現させたもので、まえがきには、「東日本大震災はとりあえず、空前の被災規模をまとめた『数字』で語り継がれ、記憶されていくことになるでしょう。しかし、それは大地震を抽象化して全体像をとらえ、整理したに過ぎません。(中略)大地震の現場は被害者の数だけあります。教訓としての大地震は、そうした個々の死と生を記録し、見つめることで初めて意味を持つと考えています」とあります。

 自分自身、「東日本大震災から〇年〇ヵ月」などとニュースで報じられているのを聞いても(あまりに何度も聞き過ぎて?)、どことなく大震災そのものに対する現実味が薄れてきているような気もし、やはり"語り継ぐこと"こそ大事であり、ニュース報道などには無い力を持つものなのだなあと。
 そうした意味でも本書は、犠牲となった多くの人々への思いを今一度馳せる契機になるともに、大地震を抽象化せず、風化させないための貴重な記録でもあり、更には、日頃の防災のあり方や、いざという際に取るべき最善の方法について改めて考させられるものでもありました。

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