【1840】 ○ 高野 潤 『カラー版 マチュピチュ―天空の聖殿』 (2009/07 中公新書) ★★★★

「●インカ・マヤ・アステカ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1846】 青山 和夫 『マヤ文明
「●地誌・紀行」の インデックッスへ 「●写真集」の インデックッスへ 「●中公新書」の インデックッスへ

写真の構成は「岩波版」より上か。よりマチュピチュにフィーチャーした内容。

マチュピチュ 天空の聖殿.jpgカラー版 マチュピチュ―天空の聖殿 (中公新書)』['09年] カラー版 インカ帝国―大街道を行く.jpgカラー版 インカ帝国―大街道を行く (中公新書)』['13年]

マチュピチュ 天空の聖殿 01.jpg 30年間の間に30回以上にわたってマチュピチュに通ったという著者による写文集で、インカの始祖誕生伝説、山岳インカ道、マチュピチュをはじめとする数々の神殿や儀礼石、周辺の山や谷、花、ハイラム・ビンガムの発見以前の歴史などが豊富な写真と文で紹介されています。

インカを歩く.jpg 著者の前著『カラー版 インカを歩く』('01年/岩波新書)では、世界遺産である「天空の都市」マチュピチュや、インカ道のチョケキラウという「パノラマ都市」を紹介するとともに、古い年代の遺跡が眠る北ペルーペルーや、南部のインカ帝国の首都があったクスコ周辺、更にはもっとアンデスを下った地域まで紹介していました。

カラー版 インカを歩く (岩波新書)』['01年]

 本書『カラー版 マチュピチュ―天空の聖殿』は、『カラー版アマゾンの森と川を行く』('08年/中公新書)、そして今年刊行された『カラー版 インカ帝国―大街道を行く』('13年/中公新書)の中公新書3部作の一冊という位置づけ(?)のためか、他書と同様に旅行記の形をとりながらもよりマチュピチュにフィーチャーした内容となっており、マチュピチュに繋がる山岳地のインカ道を歩み、その道程にある遺跡の数々を紹介しながら、マチュピチュの都市そのものへと話が進んでいく形をとっています。

 同じく写文集である柳谷杞一郎氏の『マチュピチュ―写真でわかる謎への旅』('00年/雷鳥社)によれば、マチュピチュの建造目的には、アマゾンの反抗部族に対する備えとしての要塞都市、特別な宗教施設、皇帝に仕える女性たちを住まわせる後宮、避暑のための別荘地的王宮、等々の諸説あるようですが、どの説もそれだけでは説明しきれない部分があるとのことです。

マチュピチュ 天空の聖殿 03.jpg 本書も、同じような見解を取りつつも、マチュピチュがどのような性格を持つ城であったのか、インカは何を求めて建設したのかを改めて考察するとともに、そこで実際にどのような生活があったのかを探っていて、とりわけ個人的には、様々な遺跡にそれぞれ宗教的・祭祀的意味合いがあったことを強く印象づけられました。

 マチュピチュがインカにとってどのような存在であったかをインカの世界観や死生観、自然観などと結びつけて語る著者の語り口は、前著同様に第一級の文章となっており、更に、写真の美しさ、壮大さは岩波版を上回るものであって、著者のフォト・ライブラリーの更なる充実ぶりを窺わせます(そもそも"カラー版"は、「岩波新書」より「中公新書」の方が"一日の長"があるのか。写真の配置や構成がダイナミック)。

 巻頭のクスコからマチュピチュへ至る折り返しカラー地図などからもそうした印象を受けましたが、ただ、折角2種類折り込んだ通常版とレリーフ版の地図が縮小サイズがさほど変わらず、マチュピチュ付近がごちゃごちゃした感じになっているのがやや残念。

マチュピチュの空撮写真(本書より)

 インカの人々の生活や文化、宗教を実地的に深く探る一方で、最後の皇帝アタワルパの悲劇や王族トゥパク・アマルの叛乱といったその滅亡の歴史については、前著との重複を避けるためか、必要な範囲内での解説にとどめているため(ある意味、概略は周知であることを前提とした"上級編"とも言える)、紀行ガイドとして読めば本書だけも十分ですが、歴史的経緯も知りたければ、他書と併せ読むことをお勧めします。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1